Jeremy Pelt / The Talented Mr. Pelt

Jeremy Pelt(Tp, Flh)
J.D. Allen(Ts)
Danny Grissett(P)
Dwayne Burno(B)
Gerald Cleaver(Ds)
Rec. September 15, 2010, NJ
(High Note HCD7216)

ジェレミー・ペルトの前々作「Jeremy Pelt/November(08年、別頁あり)」や前作「Jeremy Pelt/Men of Honor(10年、別頁あり)」と同一メンバーによる、High Noteからの第二弾。前2作のサウンドはマイルスの黄金クインテット色が濃厚だったのだが、「Men of Honor」から13ヶ月後のレコーディングの本作では、はたしてどんなことをやっているのかが楽しみ。私としては60年代マイルスが大好きなので、できればまたそっち方面の路線の曲があると嬉しいのだが、ペルト自身もそんな感じの音楽をやりたくてこのバンドを結成したと思われるので、これまでと比べてもそんなに大きく変わることはないだろう。問題はHigh Noteからのリリースなので、Max Jazzのときとは違ってヴァン・ゲルダー録音の加工臭が気になるのだが、「Men of Honor」記事を読みなおすと「ちゃんとまともに録れている」と書いてあるので、本作もきっと大丈夫だと思う。

ペルト曲が5曲、アンソニー・ウォンジー(かな?)とマイロン・ウォルデン曲が各1曲、スタンダード系の「In Love Again」で全8曲。
ヴァン・ゲルダー録音でもきっと大丈夫だと思うと書いては見たものの、加工臭については特に気にならないとして、主役のペルトのトランペットを思いっきり左chに寄せている楽器の定位に関しては疑問を感じる。テナーがセンターからちょっと右寄りに定位しているので、ここはどう考えてもトランペットもセンターのちょっと左寄りに定位させるのが常識だと思うんだけどね。おかげで演奏の面白みが上手く伝わってこない。3曲目では定位が変わり、テーマ部分ではペルトもセンター寄りで吹いていて、そうそうこれこれと思って聴いていると、アドリブに入った途端にまた左chに寄ってしまっている。もしかするとあえてアンバランスな感じの定位にすることによって、音的にも60年代の雰囲気を醸し出したかったのかな。でもそういうのは演奏からも充分に滲み出ているバンドなので、それ以上どうこうする必要はなかったのではと思う。
ということで楽器の定位が終始気になってしまうのだが、演奏自体は前作あたりとやっていることはさほど変わらないにしても、モーダル極まりなくて実にカッコいいね。特にそのダークさがなんともたまらない。元来は容赦なくバリバリ吹く人なのに、マイルスを意識して音数を減らしながらクールに決めているペルトが滅茶苦茶カッコいいし(例によってフレーズ自体からはマイルス臭はあまり感じられない)、これまたショーターを意識して吹いている感のあるJ.D.アレンとの相性もバッチリ。またダニー・グリセットはハンコックに、ドウェイン・バーノはカーターに、ジェラルド・クリーヴァーはトニーになりきっていて、まさにマイルスの黄金クインテットの現代版といった感じの演奏を楽しむことができる。コピー的な音楽(サウンド)には否定的な人であっても、決して上辺だけではない、マイルスの黄金クインテットの内面までをもきちんと捉えているように感じられる本サウンドにはそれなりに満足するのではないかな。それでいながら歌ものの6曲目「In Love Again」なんかのように、これぞバラードといった感じの演奏も聴かせてくれるのだから(この曲はテナーが休んでいる関係もあって、ペルトがセンターに定位している)、こんなに嬉しいことはない。前作とは違いバンドのメンバー以外の楽曲も3曲取り上げているわりには他の曲にも上手く溶け込んでいて、結果的にはアルバムとしてもバランスよく仕上がっているね。
本作は演奏面においては文句なしなのだが(ベースやドラムスのソロもあってもよかったかなという気がしないでもないが)、ヴァン・ゲルダーが録音している限りは音的になかなか満足できないので、Max Jazzとはすでに縁を切ったのであれば、できればCriss Crossあたりに移籍してくれることを願っている。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)