Shahin Novrasli / Bayati

Shahin Novrasli(P)
Nathan Peck(B)
Ari Hoenig(Ds)
Rec. January 18-21, 2013, London
(Bee Jazz BEE063)

アリ・ホーニグ買い。これが初聴きのリーダーのシャヒン・ノヴラスリは、Wikipediaによるとアゼルバイジャン出身(1977年生まれ)で、幼少時代にはクラシックのコンテストで優勝。アゼルバイジャン音楽院を卒業した2000年以降は、キース·ジャレット、チック·コリア、ビル·エヴァンス等の影響を受けて本格的にジャズの道を歩んでいるようだ。初リーダー作と思われる本作がロンドンでレコーディングされているということは、現在はイギリスを拠点に活動しているのかもしれない。名前には記憶がないけれど、ベースのネイザン・ペックは「Alex Skolnick Trio/Last Day In Paradise(07年、別頁あり)」に参加しているのが自ブログで見つかった。

ノヴラスリ曲が6曲、ショパンの「Prelude in E Minor」、アゼルバイジャン(かな?)のトラディショナル「Bayati Shiraz」「Elinde Sazin Qurbani」「Baga Girdim Uzume」で全10曲。
ノヴラスリのピアノはジャズ特有のレイドバックを排した、非常にキビキビしたというか、前のめり気味の疾走感のあるフレージングが特徴的。右手の他に、場面によっては左手もかなりの速弾きになっているけれど、この辺はクラシックの高度な奏法にも通じるものがあるのだろう。こういうテクニカルなピアニストは基本的に大好きなのだが、ノヴラスリのプレイにイマイチ入り込めないのは、聴き手を突き放すようなクールさが纏わり付いているから。それに加えて悪く言うと独りよがりのワンマンなプレイをしているので、トリオとしての面白みが思っていたほどは感じられない。それでもかろうじて楽しむことはできるのは、ドラムスがホーニグだからに他ならない。入り込む余地のないピアノを相手に、よくもここまで感性豊かな、かつ直感的なドラミングができるものだと感心するね。また控えめではあるけれど、曲調にバッチリと嵌っているペックのベースにも好感が持てる。アルバムの後半からはノヴラスリのピアノも開放的になってきて、けっこういい感じに仕上がっているけれど(ジャン=ミシェル・ピルクのトリオに近いものがある)、こういうベースとドラムスのこともちゃんと意識しながらのインタープレイ的な演奏を、できれば前半でも欲しかった。楽曲としては速めの4ビートでやっている5曲目「From Mill to Station」、6曲目「Insomnia」、8曲目「Baga Girdim Uzume」、10曲目「Fir & Giz」(ノヴラスリが歌っているのだと思うけど、後半の8ビート部分からは郷土色の豊かなヴォーカルも登場する)が、特に気に入った。
ということでノヴラスリのピアノには全面的に共感できるといったわけではないものの、ホーニグがドラムスのおかげで、それなりに期待を裏切らない演奏が楽しめた。録音もピアノがいくぶん硬質ではあるけれど、この演奏にはよくマッチしている。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)