国産SSの常識を打ち砕く

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 今シーズンのリッタースーパースポーツシーンにおいて、一番の目玉となるZX10R。すでに欧州各国ではファーストテストを終えており、その超進化ぶりに賞賛の声が上がっている。パワーチェックや実走テストにおいて、特にBMWのS1000RRから大きく遅れることとなってしまった国産リッターSS郡だが、これに待ったをかけたのが、カワサキZX10Rである。

 2011年3月。フランスのバイク雑誌、モトジャーナルに掲載されたテスト結果は興味深い。今期アラゴンサーキットでテストデータだが、実測ベンチデータの中でZX10Rはなんと197PSをマークしている。同トルクは11.4kgm(いずれもカウンターシャフト換算値)。そして実測重量は200kgジャストだ。パワーのみならず、車重も非常に軽く仕上がっている。このテストに用意された9台のSSマシンの中で、10Rの次にパワーが出ていた国産モデルはCBRであり、数字は178PSだった。すなわちこれより20馬力弱ほどもパワフルであった、ということになる。凄まじいまでのパワーアップである。

 今回は、いよいよこの東南アジアモデルを、公道を含む日本国内でテストすることになった。大きな進化を果たしたZX10Rの実力は、どれほどのものだろうか。


SSとしての新しい進化軸

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 ファーストインプレッションは「非常に軽くて小さい」ということだった。最近では装備重量で210kgオーバーというのがリッターSSの標準的な数値となっているが、10Rはこれを大幅に下回っている。

 クラッチミートからの走り出しではカワサキエンジン特有の荒々しさはなく、各気筒間における一つ一つの爆発が実に丁寧にコントロールされている印象を受ける。モーターに近いパルス感であり、市街地を5000rpm以下で走る際には猛々しさもまったく感じられない。

 高速域への移行もまた、非常にスムースなものだった。このクラスとしては驚異的ともいえる回転域、15000rpmオーバーまで刻まれたデジタルタコメーターはアクセルワークひとつで面白いように跳ね上がっていくが、ここでも電気的ともいえるほどなんのストレスもなく加速していく。今回テストしたのは東南アジア仕様であり、カタログ値では最大馬力が151PS、同トルクが10.8kgmと、数字的にはフルパワーモデルよりもかなりトーンダウンしているが、しかし実走では50馬力近い出力減よりも、あっという間に車速が乗るという印象の方が強かった。

 高速域における余裕はエンジンパフォーマンスのみならず、車体の安定感にも表れている。200km/hを大きく超えるような超高速領域においても、しっかりとした直安性を保ちつつ、それでいてハンドリングの軽快感は損なわれることがない。

 サーキットテストでは、S-KTRC、いわゆる予測型レースタイプ・トラクションコントロールの秀逸性が光った。これは加速時のリヤタイヤのスリップの制御介入度合いを三段階、もしくは解除できる仕組みだが、この作動性が非常によく、タイヤエッジを使用して走る際には非常に重宝した。例えばタイヤの温まっていない走り始めにはもっとも介入度合いを高めてちょっとしたスリップさえしないよう制御させ、ペースが安定してきたときには徐々に介入度合いを引き下げていく。素晴らしいのは、パワー制御が行われた場合でも一貫して挙動は安定しており、あからさまな点火カットによるトルク変動がないことだ。

 また、このトラコンとセットで高いバランスだったのがABSシステムだ。CBRなどに採用されている電子制御ABSの秀逸性はこれまでお伝えしてきた通りだが、今回の10Rのブレーキシステムもこれに等しい精度で稼動してくれる。

 200PSを超えるパワーともなれば、加減速時のタイヤブレイクがもっとも神経質になる部分だが、新型10Rはパワーアップや軽量化というSSの進化に欠かせない要素をしっかりと充実させながら、昨今のSSに求められるこのリスクマネジメントまでも大幅に進化させたことが最大の特徴といえるだろう。


 なお、この記事はダイジェスト版です。完全版は月刊モーターサイクリスト2011年5月号をご参照下さい。