A32I0870-2

今期フルモデルチェンジされたBMWのリッタースーパースポーツ、S1000RRをテストした。

従来型S1000RRの実力は、当時のSSシーンの中で完全に突き抜けたものだった。

それまでに存在した国産SSを20馬力近くも凌ぐマックスパワーには驚嘆するしかなく、2010年度のマスターバイクスペイン、アラゴンサーキットのロングストレートでは完全に他を圧倒して見せたからだ。シャシーダイナモにおける実測値でも190馬力を大きく超えており、ラップタイムも含め事実上これに対向できるマシンは一台も存在しなかった。

A32I1528-2


日本仕様が導入されたのも2年前になる。フルパワー仕様からすると50馬力近くトーンダウンしており、シャシーダイナモにおける実測値(後輪)では最大馬力が145.3PS、同トルクが10.3kgm、そしてガス満の装備重量はフロント109kg、リヤ100kgの209kgだった。

これに対し12年型はカタログスペックこそ変わらないものの、実計測では最大馬力が156.2PS、同トルクが11.0kgと大幅にポテンシャルアップしていることが判明した。車重はフロントが109kg、リヤが101kgのトータル210kgと1kgほど重くなったが、大きな差ではない。


スペックのみを見れば従来型ベースのファインチューニングバージョンだが、新型では僅か2000回転から国内仕様のピークを迎える10500回転前後に至るまで、全域に渡ってパワーもトルクもかなり向上している。
A32I1211

ジオメトリを変更した車体フィーリングも一新され、非常にコンパクトでより高いスピードでコーナーに飛び込めるようになった。アプリリアのRSVに似たようなストイックな感触であり、これまでのマシンの大きさ、長さを打ち消し、コンパクトな車格でアグレッシブなコーナーアプローチを可能とした。安定志向からよ り能動的な運動性へと豹変したのだ。最強のエンジンが、最高に面白い車体を手に入れたという印象だ。

また、興味深かったのがグリップヒーターの存在である。失笑されかねない内容だが、実際この手のマシンに常備されているのは初めての経験であり、(試乗時 は3月中旬でまだ寒く)手が暖かいだけでいかにSSマシンがいかに親しみやすい存在となるかを痛感した。今後発売されるすべてのSSマシンには、BMWを 見習ってぜひともグリップヒーターを標準装備すべきだとさえ感じた。

もちろんフルパワー化した際の凄まじいハイパワーぶりは変わらない。現状、ライトチューニングでこれに太刀打ちできる国産SSマシンはZX10Rのみといっていいだろう。他モデルとは同クラスと思えないほど、そのスペックはかけ離れたものとなっている。

またいち早く電子制御システムを導入したマシンだけにその分野でも一日の長があり、この辺は国産メーカーも早く追従して欲しいと切に願う部分だ。昨今のリッターSSで電子制御がないモデルを扱うのは、至難の業である。

なお、このマシンの詳細は月刊モータサイクリスト2012年5月号「エッジで走れ」に掲載されています。