2012 ストリートファイター インプレッション
テスタトレッタ11エンジンに8つのレンジを持つDTC(ドゥカティ・トラクションコントロール)が組み込まれたストリートファイター848(以下SF)。最高出力132馬力、最大トルク9.5kgmという848EVO譲りのLツインパワーユニットは、乾燥重量169kgという軽量な車体に組み込まれている。
今回のSFは848EVOのパワーユニットがベースとなる。しかも日本仕様の感触はEVOとも大きく異なり、かなりポジティブな出力特性となった。ここにトラクションコントロールシステムが加わり、従来の軽量さ、振り回しやすさに、安全性も担保されている。
車名のような日常的なシ-ンにおいては、今シーズン走らせてきたすべてのテスト車の中で、もっとも楽しく痛快である。本来バイクとはかくあるもの―。そう全身で言い放つのがストリートファイターだ。
日本仕様のスペックではカタログ発表値は最高出力117PS/9250rpm(イタリア仕様132PS/10000rpm)、最大トルク9.25kgm/9000rpm(同9.5kgm/9500rpm)というものだ。フルパワー仕様よりも10%程度パワーが抑制され、回転数も抑えられている。日本国内に流通しているモデルで近似しているのは先に挙げた848EVOで、実測数値は115.1PS、8.8kgm、199kgというもの(シャシーダイナモニよる後輪実測値とフル満タンでの装備重量)。
SFは基本的にこれと同じユニットだが、今回の計測では112.7PS、8.6kgm、204kgという数値となり、09年モデルのSF(1098エンジン)は103.2PS、10.1kgm、199kgであったことを考えると、排気量が下がってトルクは若干細くなったもののなぜか10馬力近く向上し、車体は4kgほど重くなった、ということになる。
さて同じパワーユニットを持つ848EVOの日本仕様は僅か9500回転を超えた辺りで突如として襲い掛かるレブカットが凄まじく、まるでバックギヤのごとき激しくトルクカットされる。しかし今回のSFではそれが見事に解消され、やはり9500回転付近からパワーカットはされているものの、848EVOのように激しくダウンすることなく11000回転超まで自然にオーバーレブしてくれる。このため規制のかかる日本仕様と言えども違和感はなく、また対SS600ミドルクラス比でも確実にパワー&トルクも出ているため、排気量ダウンとはいえサーキット、公道それぞれの環境下で物足りなさは皆無だった。馬力帯はほとんど同じだが、実用性を踏まえた場合にはむしろ「EVOより走る」という印象である。
3000回転ほどから十分なトルクが発生しており、短いスパンのストップ&ゴーシチュエイションでも、その加速感は痛快なものだ。引っ張ればキッチリとウィリーしてくれるのも小気味いい。基本的にパワーカーブはフラットであり、そのままピークを迎える9500回転ほどまで一気に車速を増していく。EVOではここでシステムダウンとも言いたくなるようなレブカットがあったが、しかしSFではその後緩やかにパワーダンしつつ11000rpmまで回すことが可能だった。EVOではサーキットはもちろんワインディングでさえ完全に引っかかるパートだったので、この改良は実用面で非常に大きい。
ポジショニングはかなりスパルタンな設定で国産NK愛好家にとっては異常なほどの尻上がり、フロント下がりに感じられるだろう。しかしこの乗車重心の高さこそが高い運動性を発揮する肝になっている。実重量以上に左右への振り回しは軽く感じられ(テスト中は装備で190kg前後と思っていた。走行中は従来型より軽い)、加減速、コーナーへのアプローチと脱出は、NKというカテゴリーを蹴飛ばすような快足っぷりだ。ヘッドパイプ位置が近く、ブレーキングではかなりフロントが低く潜り込んでいくが、そこからの旋回性は非常に高く、コーナリングプロセスではSSと充分勝負していける。
タイヤブレイクタイミングが掴みやすくシビアな操作は必要としなかったためタイムアタックでも好結果を得たが、もちろん8段階の設定可能なトラクションコントロールも試した。介入度がもっとも高いのが8、低いのが1である。端的にいえば「8」は「豪雨土砂降り仕様」でドライのストレート上でも僅かなスリップさえ見逃さずパワーカットされる。ドライコンディションで速く走りたい場合に使うことはないが、前が見えないような雨天時など非常に滑りやすい路面では大きな保険となるだろう。但し状況によって2種類の介入(点火タイミング変化と燃料カット)があり、「8」を使用している際のパワーカットは大きなトルク変動を伴なう。またトラコンが効いているときのバイブレイションはあまり心地よくない。
逆に「1」はかなりストイックな設定で、ラップタイムもカットフルパワー時とさほど遜色がないほどまでスリップを許容してくれた。バーンナウトやウィリーなどをしっかり感知し「介入しない」というクレバーな判断をするDTCシステムならではだろう。初心者の人は「4」程度から前後させていけば感じをつかみやすいはずだ。
元気なLツインと軽い車体、そしてアップライトで攻撃的なポジションという組み合わせは、類を見ないような豊かなイマジネイションを生み出す。ある特定の運動性をしか示せないマシンによってスピードライフの視野が狭窄してしまったときこそ、そういった価値観へのアンチテーゼとして、ストリートファイターのような元気印のバイクに跨ることをオススメしたい。必ず明るい未来を感じさせてくれるだろう。
なおこの記事はダイジェスト版です。
詳細インプレッションは月刊モーターサイクリスト2012年7月号をご参照下さい。セットアップマニュアルも付随しています。
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テスタトレッタ11エンジンに8つのレンジを持つDTC(ドゥカティ・トラクションコントロール)が組み込まれたストリートファイター848(以下SF)。最高出力132馬力、最大トルク9.5kgmという848EVO譲りのLツインパワーユニットは、乾燥重量169kgという軽量な車体に組み込まれている。
今回のSFは848EVOのパワーユニットがベースとなる。しかも日本仕様の感触はEVOとも大きく異なり、かなりポジティブな出力特性となった。ここにトラクションコントロールシステムが加わり、従来の軽量さ、振り回しやすさに、安全性も担保されている。
車名のような日常的なシ-ンにおいては、今シーズン走らせてきたすべてのテスト車の中で、もっとも楽しく痛快である。本来バイクとはかくあるもの―。そう全身で言い放つのがストリートファイターだ。
日本仕様のスペックではカタログ発表値は最高出力117PS/9250rpm(イタリア仕様132PS/10000rpm)、最大トルク9.25kgm/9000rpm(同9.5kgm/9500rpm)というものだ。フルパワー仕様よりも10%程度パワーが抑制され、回転数も抑えられている。日本国内に流通しているモデルで近似しているのは先に挙げた848EVOで、実測数値は115.1PS、8.8kgm、199kgというもの(シャシーダイナモニよる後輪実測値とフル満タンでの装備重量)。
SFは基本的にこれと同じユニットだが、今回の計測では112.7PS、8.6kgm、204kgという数値となり、09年モデルのSF(1098エンジン)は103.2PS、10.1kgm、199kgであったことを考えると、排気量が下がってトルクは若干細くなったもののなぜか10馬力近く向上し、車体は4kgほど重くなった、ということになる。
さて同じパワーユニットを持つ848EVOの日本仕様は僅か9500回転を超えた辺りで突如として襲い掛かるレブカットが凄まじく、まるでバックギヤのごとき激しくトルクカットされる。しかし今回のSFではそれが見事に解消され、やはり9500回転付近からパワーカットはされているものの、848EVOのように激しくダウンすることなく11000回転超まで自然にオーバーレブしてくれる。このため規制のかかる日本仕様と言えども違和感はなく、また対SS600ミドルクラス比でも確実にパワー&トルクも出ているため、排気量ダウンとはいえサーキット、公道それぞれの環境下で物足りなさは皆無だった。馬力帯はほとんど同じだが、実用性を踏まえた場合にはむしろ「EVOより走る」という印象である。
3000回転ほどから十分なトルクが発生しており、短いスパンのストップ&ゴーシチュエイションでも、その加速感は痛快なものだ。引っ張ればキッチリとウィリーしてくれるのも小気味いい。基本的にパワーカーブはフラットであり、そのままピークを迎える9500回転ほどまで一気に車速を増していく。EVOではここでシステムダウンとも言いたくなるようなレブカットがあったが、しかしSFではその後緩やかにパワーダンしつつ11000rpmまで回すことが可能だった。EVOではサーキットはもちろんワインディングでさえ完全に引っかかるパートだったので、この改良は実用面で非常に大きい。
ポジショニングはかなりスパルタンな設定で国産NK愛好家にとっては異常なほどの尻上がり、フロント下がりに感じられるだろう。しかしこの乗車重心の高さこそが高い運動性を発揮する肝になっている。実重量以上に左右への振り回しは軽く感じられ(テスト中は装備で190kg前後と思っていた。走行中は従来型より軽い)、加減速、コーナーへのアプローチと脱出は、NKというカテゴリーを蹴飛ばすような快足っぷりだ。ヘッドパイプ位置が近く、ブレーキングではかなりフロントが低く潜り込んでいくが、そこからの旋回性は非常に高く、コーナリングプロセスではSSと充分勝負していける。
タイヤブレイクタイミングが掴みやすくシビアな操作は必要としなかったためタイムアタックでも好結果を得たが、もちろん8段階の設定可能なトラクションコントロールも試した。介入度がもっとも高いのが8、低いのが1である。端的にいえば「8」は「豪雨土砂降り仕様」でドライのストレート上でも僅かなスリップさえ見逃さずパワーカットされる。ドライコンディションで速く走りたい場合に使うことはないが、前が見えないような雨天時など非常に滑りやすい路面では大きな保険となるだろう。但し状況によって2種類の介入(点火タイミング変化と燃料カット)があり、「8」を使用している際のパワーカットは大きなトルク変動を伴なう。またトラコンが効いているときのバイブレイションはあまり心地よくない。
逆に「1」はかなりストイックな設定で、ラップタイムもカットフルパワー時とさほど遜色がないほどまでスリップを許容してくれた。バーンナウトやウィリーなどをしっかり感知し「介入しない」というクレバーな判断をするDTCシステムならではだろう。初心者の人は「4」程度から前後させていけば感じをつかみやすいはずだ。
元気なLツインと軽い車体、そしてアップライトで攻撃的なポジションという組み合わせは、類を見ないような豊かなイマジネイションを生み出す。ある特定の運動性をしか示せないマシンによってスピードライフの視野が狭窄してしまったときこそ、そういった価値観へのアンチテーゼとして、ストリートファイターのような元気印のバイクに跨ることをオススメしたい。必ず明るい未来を感じさせてくれるだろう。
なおこの記事はダイジェスト版です。
詳細インプレッションは月刊モーターサイクリスト2012年7月号をご参照下さい。セットアップマニュアルも付随しています。
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