2012 GSXR1000 L2 インプレッション

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従来型GSXR1000が発売されたのは、3年ほど前の2009年である。当時K9と呼ばれたモデルはその後2010年にL0、そして同11年にL1となったが、マシンそのものはほとんど据え置きであり、変化はなかった。

今シーズンのモデルはマフラーが一本化されたことによる外観上の違いは元より、ピストンやカムシャフトプロフィールなどエンジン部品の変更などにより中速レンジでのレスポンスを驚くほど向上させ、何より車体の軽量化とフロントフォークのセットアップの最適化が相まって、この3年間とは見違えるほど軽快な動きを示すようになった。外観上はあくまで「継承」だが、内実はまったくの別物であり、しかもそれは非常にポジティブな意味での「原点回帰」でもあった。新型GSXR1000の登場は、行き詰った日本のSSシーンに活力を与えうるだろうか。


エンジン停止状態での引き回しでも従来型との違いは顕著だった。とにかく軽い。公式発表では「従来モデルの出力を継承しつつ低中速レンジをアップ、2kgの軽量化を行った」とあるが、まず実測値をご紹介したい。

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最大馬力が156PS、同トルクが10.2kgm、そして装備重量は前107kg、後98kgの合計205kgであった。従来型(K9)は最大馬力は156.7PS、同トルクは10.3kgm、装備重量は208kgであった。ピーク馬力&トルクはほぼ同レベルながらも少々ダウン、しかし車重は3kgほど減量されている。

01年型K1からこれまでで、もっとも実測値がパワフルだったのは07年型K7であり、162.8PS/10.6kgmだった。またもっとも軽量だったのは01年型で200kgちょうど、逆にもっとも重かったのは07年型で212kgであった。03年型、05年型もともに装備重量は201kgと最軽量に程近く、またトミンモーターランドのラップタイムでいえば01~06年型までが26秒台をマークし、以降はまったくといっていいほど26秒台に届くことがなくなっていった。

現在乗っても「とてもパワフルなエンジン」と感じるのは07年型だが、実はこのモデルからノーマルの状態ではなかなか結果が出ていない。その一番の理由は車重が10kg以上も重くなったことだろう。05年~06年モデルが201kgだったのに対し、07~08年型ではリッターSSとしての境界線といえる210kgを大幅に超えた212kgとなり、それまで備えていた「強靭だけど軽い」という部分が完全に抜け落ちてしまった。


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昨年展開した「ひとりマスターバイク」の中でK5~K6をベストバイクとしてチョイスし、自分で購入して未だ公私に渡り大活躍してもらっているが、裏返せば「K7以降はなぜ選択肢になかったのか」ということになる。理由は前述したとおりで、基本的にクローズド、パブリック問わずスポーツ走行をする上では、重いバイクに可能性は見出せない。それがSSであればなおさらだ。今回のL2は車重が205kg、そして馬力はきれいなパワー&トルクカーブを保ちながら後輪で155PSを超えている。スペックとしては充分及第点に入っている。

実際に試乗するまでは、GSXRファンの一人としてあまりに長い期間待たされていたという思いから、過度の期待をしないように心がけていた。今シーズン試乗したS1000RRや昨年トミンモーターランド市販状態レコードをマークしたRSV4の素晴らしい出来栄えを思えば、ロストしたこの6年間はあまりに大きい。だが、実際にエンジンをかけて走り出すと、そんな危惧は強靭かつ軽快な加速力と共に、瞬時に彼方へ吹き飛んでいった。「これこそがGSXR」という感触は、まさにK5~K6モデルを髣髴とさせる俊敏かつ軽快で鋭利なものだったからだ。

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ストックの国産四気筒リッターSSマシンを走らせて、これほどポジティブにインプレッションを綴れるのはいつ以来か思い出してみたところ、5年ぶり、という回答にたどり着いた。07年型R1以降、トミンモーターランドの及第点タイムとされる26秒台さえマークできなかったのが、国産リッターSSの現状だったのだ。これを見事に打ち破って見せたのが、今回の新型GSXRである。

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昨今のSSシーンから見たとき、新型は「アナログモデル」である。しかしその優しい肌触りは、逆にデジタルモデルにないものでもある。ぜひともショップに出向いて、今すぐに確かめて欲しい。

なおこの記事はダイジェスト版です。実測パワーカーブ、推奨セッティングなどは月刊モーターサイクリスト2012年8月号「エッジで走れ」に掲載されています。