トミンモーターランド私的タイム論/梨本圭
2011年07月05日11:00
◆トミンモーターランドを愛するすべての人に送る、私的タイム論/梨本塾 梨本 圭◆
これは2005年?当時に別のコラムで書いたもので、石川選手の25秒6という新たなトミンモーターランドコースレコードの樹立、また篠塚選手なども25秒台に入って久しい今となっては古い感じもしますが、トミンモーターランドを愛する皆さんの何かの参考になればと思い、梨本塾のページに再掲載します。
ケンツで全日本選手権JSBを走ることになった年の最初にトミンモーターランドでテストを行い、さすがにJSBではコースが狭すぎると感じながらもなんとかしてレコードを出してやろうとした結果、大幅に更新することに成功したというときに書いたものです(一部改定2011/7/5)。マシンはGSXR1000K5、ケンツのフルスペックJSB+ダンロップのスリックタイヤ、バージョン1.0、といったところでした。
※今回のレコード更新を記念して、塾長としてでなく、あくまで私的、つまりバイクで攻めることが大好きな一ライダーとしての、傍観的かつ、傲慢な理論をちょっと展開してみます。諸兄の参考にして頂ければ幸いです。
40秒以上・・・どんなバイクに乗っているにしても、自分に大問題あり。ひとまず先入観を思いっきりぶん投げて、全部最初からやり直すべき。
35秒以上・・・可能性の塊。ほんの少しのきっかけで大幅にタイムアップする直前にいる。ここで4の5の言っては恥なだけ。ただ真剣に前を見ている人だけが、短期間でレベルアップを果たせるタイム帯。どんなバイクでも、問題なくクリア出来るライン。
32~33秒・・・ようやくトミンのリズムが体に入り始めた頃。クローズドで走る楽しみも見つける。ヒザをすり出すのもこの辺り。ただ、ここからが一つ目の大きな壁となる。
31秒台・・・32秒まで順調にレベルアップしてきた人たちが「うりゃああああ」と気合を入れて、ようやく入るラップタイム帯。逆に言えば、それだけ気合を入れても中々31秒0という壁を突き抜けられない、憂鬱な季節。ここで走りが固まってしまう人がかなりいるが、マシン、タイヤともにスタンダードでもまったく問題ない(変な話、ドノーマルのNSR50どころかKSR、果てはFTRやTW200、ブロックタイヤのオフ車でも出るタイム)。
30秒台・・・二つ目の大きな大きな壁。ここまで来るとようやく「ピッチングらしきもの」、「ブレーキングらしきもの」、「レコードラインらしきもの」、がおぼろげに見え始める。だが、それらはあくまで初期の初期。つまりバイクの本当の楽しみの、入り口に過ぎない。これより遅いタイム帯で遊ぶのもバイクライフの一つだが、その先に入り込んだときの、自分の覚醒していく感覚を覚えてしまうと、物足りなくなる、という大きな分岐点。ここより先に行けない人もたくさんいる。
29秒台・・・ようやくSSマシンの暖機が始まるタイム帯。しかし、まだタイヤはノーマルで充分。サスのセッティングなんかも必要ない。これまでのやみくもな走りから、少しずつ自分のリズムを見つけて、各操作をきちんとこなす必要性を感じ始める頃。当然ながら29秒0の壁も大きいが、30秒のそれと比較した場合には、若干ながらハードルの低さを感じる。要するに29秒0まで来た人は、当然ながら「その先」を強く意識していて、8秒台で走る人と混走する機会も増え、それを積極的に活用するようになる。それが29秒台の人の、普遍的な精神性でもある。リプレイスのハイグリップタイヤを装着することで一気に先に進んでいけるタイム帯でもある。しかし梨本圭としては、あくまでノーマルタイヤでアベレージタイムをマークして欲しいスピードレベルでもある。
28秒台・・・一度でも29秒0を切ると、そのままの走りで、細かい部分をさらに微調整することで、28秒前半まで一気にタイムアップ出来る。これはきっと物理的な法則があるはずで、過去の梨本塾の統計を見ても99%がそんな傾向にある。ただ、このタイム帯の頂点、つまり「28秒0」という壁は、これまでにあったあらゆる壁と比較にならないほど、大きい。ここまで上がって来た時点で、ある程度の振り分けを勝ち残ってきたことになるが、その勝ち残り組でさえ、中々それを突破することが出来ない。「30秒」という大きな壁はほとんどの人に公平に与えられるものだが、28秒の壁は、30秒以降の2秒もの戦いを勝ち残ってきた人にとってさえ、突破出来ない大きなものとなっている。逆にここまでノーマルタイヤでこれた人はかなり才能がある。この辺りでタイヤをハイグリップにすると、走りに鋭さが加わって非常に効果的だ。
27秒5・・・恐らく今トミンに来ているすべての人の中で、27秒台に入るのは全体の10%未満だろう。その10%の人の、さらに8割近くが、この壁を超えられない。27秒台と言うと一般的には「速い」とされるタイム帯だが、あえて今回苦言を呈するならば「7秒5以降のタイムは、SSではけして速くない」。27秒5までタイムを出す技術があるのに、その先に進むための明確なイメージが持てないと、ここに長いこと居座り続けることになる。27秒5というと、見た目はかなり速く見えるが、まだまだ各操作における時間的な余裕もあるし、視野も広い。ここまで来ることが出来た人たちは、逆になぜこれ以上行けないのかを真剣に考えないと、絶対に前に進めないという、二つ目の大きな分岐点。なお、250cc以上であれば、タイヤさえきちんとしたものを入れていれば、ここまでは大体到達できる。ちなみに27秒5で20周走り続けるというのは、29秒台で走る場合の50周ほどに相当する疲労度がある。
27秒2~3・・・27秒5という大きな大きな壁を突破した直後にある、さらに大きな壁。根本的な走り方を変えないと、これより先には絶対に進めない。
27秒0・・・ミドル以上のマシンでトミンを走るユーザーの中で「トップレベル」とされる人たちが徹底的にふん詰まる地点。それまでになかった「メリハリ」をつけなければこの壁は超えられないが、そのメリハリそのものを理解することが非常に難しい。闇雲なアタック、気合とかは一切通用しなくなる。マシンのセットアップも重要。過去5年の梨本塾生の中でこのラインを超えられたのはたぶん3人。このタイムをアベレージとする場合には、それなりに体作りも必要になってくる。
26秒7~9・・・6秒を切った人がそのままの走りで、細部を煮詰めることで到達できるライン。ただ、その走りではけしてこれ以上行けない。またしても走りの基本ラインをすべて変換しないと、進化出来ないゾーンでもある。27秒0の走りと26秒8~9の走りは同じで、あまりオススメ出来ない「気合」で出すことも可能だが、アマチュアにはリスクが大きすぎる。ちなみにこのラップペースで20周走るというのは、27秒5辺りのペースで走る場合の、40周相当に値するほどの疲労感が生じる。ほとんど休む間がなくなり、ランニングしてるのと同じくらい息が上がり始める。
26秒5~6・・・26.7とたったコンマ1~2秒しか違わないのに、走りをすべて組み変えないと到達出来ないライン。梨本塾においては26.5というのはカイ、キッシー、タンパン含めて未だ未到タイムのはず(2011年時点では、石川選手、篠塚選手、平手選手、阿部選手などが見事突破)。
ちなみに今回レコード更新をした際に、ガンマ250にスリックタイヤという面白い組み合わせで走っている人がいて、その人の当日のベストが26.6だったそうだ。250スリックの2stマシンで走る場合には方法論、物理現象ともに大きく異なるが、恐らく今までトミンで見た一般ライダーの中では彼が最速だった(2011時点で最速は07CBR600RRホワイトベースにピレリSC1という組み合わせ)。
26秒3~4・・・エッジテストにおける限界値付近だが、仮にタイヤだけをハイグリップに換装していても、この辺でバランスしてしまうことがよくある。これより上げていくには、かなり綿密にサスセッティングをしていかないと厳しい。
26秒1~2・・・今までのレコードレベル。サスやブレーキがノーマルで、タイヤだけハイグリップという状態であれば、ほとんど限界に近いと思われる。ちなみに今回JSBを走らせ始めたときは、この辺りで長いことラップタイムが推移していた。ここからたったコンマ1秒先の26秒0まで持っていくために、かなりのセッティングと走り込みを必要とした。
26秒0・・・これまで自分で走ってきたライン取り、アクセレレーション等含めて、すべて白紙に戻して、走り方そのものを再構築してようやく達したタイム。当日はしめて250LAPほど回ったが、後半50LAPくらいでようやくこの領域に入ることが出来た。JSBの場合には、ほんの10周程度で深刻な腕上がり症状が起こるほどの疲労感がある。非常に高かった壁「26秒1」をいよいよぶっ壊せたことで、逆に冷静になって次のイメージをきちんと考えることが出来るようになった。
25秒9・・・25秒の入り口だが、26秒00を連発した後の、25秒98、或いは96というタイムだったので、ほとんど走り方、考え方は変えていない。27秒を切るか切らないかというタイム帯によく似ている。自分の中でこのタイムはあくまで26秒0でしかなかった。しかし、蓄積された疲労がもはや限界点に達しつつあり、僅か2~3周のタイムアタックが、26秒5ほどで20周ほど走る場合の疲労度と等しくなっていた。
25秒8・・・いよいよ最後にリヤタイヤだけを新品にして、さらに再度走りを再構築し、ライン修正を行った上でマーク。ここまで来ると、まっすぐ走っている区間がほぼゼロになってしまった。コース上すべての区間で左右どちらかに傾いていて、しかも前後どちらかに思い切りピッチングしている状態になった。5秒9とはコンマ1秒だが、まったく違う走り方になり、ここまで来てようやく「5秒台」が自分のものになったと実感。
25秒75・・・まだ至る所に操作の荒さ、ガムシャラさがある気がしたので、オーバーに言えば地球のリズムに合わせるような感じで自然な流れを探し、そこに乗っかっていくような感覚で、250LAPの最後の周にマーク。今までのタイムからすればたったコンマ4秒なのだが、これが大きなサーキット換算した場合にはものすごい差であることは簡単に想像できた。少なくともこれまでトミンでしてきた走りでは、絶対に到達できなかったポイント。最終的には、奥の右から次の左への切り返しで、フロントブレーキレバーが握れなくなるほど、握力を失った中でのアタックだった。このタイムをみんなに分かるように正確に分析するには、もう少し時間が必要と思われる。
◆ 総論 ◆
トミンで効率的にレコードタイムだけを追っていくなら、250、もしくは125のレーサーマシンにスリックタイヤという組み合わせがもっとも手っ取り早いと思われる。ただ、俺は基本的にそれらのマシンでタイムを追うよりも、やはり大排気量車、しかも600ではなくリッターの走りでレコードを追い求めることに意味を見ているので、ここまで中々26秒の壁を破ることが出来なかった。それほど積極的にレコードを更新する必要性にもかられていなかった(要するにトミンで全日本選手権が開催されてそれに出場するという機会はなかった)というのも大きいが、走り始めの当初、ホンダCBR929RRに乗っていた頃は「そのうち5秒台も出るだろう」と軽く考えていた。エッジテストはご存知のようにタイヤも含めて「フルノーマル」なため、今回書いたタイム論よりもさらにシビアな環境となり、飛躍的な(例えば26.3と26.1の違いは、もてぎにおける2分01秒台と1分58秒台ほどの大きな違いがある=‘03CBR954と、‘04GSXR1000で実証済み)向上は考えられなかった。それこそ1000分の1秒単位の削り方でしか、タイムを詰めるのは事実上不可能になっていたのだ。
また、もて耐やモテローのGSXR1000などのいわゆるライトチューニング(梨本塾レーシングの場合は、エンジン、サス、ホイール、ブレーキキャリパーなどは完全にノーマルだ)仕様で走りまくっても、26秒1辺りが限界値だった(追記:その後GSXR1000K5+メッツラー、及び06-07CBR1000RRモテローチャンピオンマシン+BT002、さらにアプリリアRSV4ストックモデル+R10という組合せでいずれも26秒切りは達成)。これは「もっとも真剣にセッティングを繰り返していけば、多少は詰まる」という感触を残してのものだったが、それにしてもたったコンマ2秒先の「5秒台」というのは、まったく見えていなかった。6秒台前半になってくると、3LAP立て続けに1000分の1秒台までタイムが同じ、ということが常態化する。そこまでいくと、もはやこれ以上の最大馬力など必要なはずもなく、欲しいのはシルキーなパワーデリバリーと、それに付随する安定した車体構成だけで、そう考えていくとやはりこのコースでは250cc2stレーサー辺り、もしくは特化した600などが現実的にもっとも5秒台への近道ではないか、と思っていた。そしてそれは今回5秒台出たことで「その通りだったな」と強く思うようになった。
恐らく現状のノーマルベースのリッターマシンにスリックを入れて(ただ、スリックタイヤというものは、慣れていないとまったく走らせることが出来ない。スリックで走った人にしか説明しようがないのだが、そのグリップ力はもとより、タイヤ構成の考え方そのものが異なるので、27秒を切れない人が履いたり、或いはマシンセットアップが出来ない人が履いても、何の足しにもならないどころか、恐怖心だけを植えつけられるハメになる………)、それなりにセットアップをし、さらにインジェクションにも手をつけて、とことんまで走りこめば、25.5辺りは現実的なラインだ。もちろん今回走らせたJSB仕様でも、その辺りまでは詰めれそうな気がする(ただ、恐ろしく疲れるけどね………)。今後そういう機会があるかどうか分からないが、あればぜひトライしてみたい。
あと、俺の自慢のように取られると困るのだが、あえて普段走っているみんながJSBマシンをトミンで走らせるということの厳密な解説をするなら、
「誰が乗っても、自分のレコードタイムはおろか、28秒を切ることさえ難しいのではないか」
と思う。一昔前に「お前のバイク何隼?」「あ、俺のRC211Vはね~10隼だよ」などという会話がこのサイトで流行ったが、そういう意味で言えば、少なくともJSB仕様のGSXR1000の加速力は5隼くらいに相当する。たぶんここまで読んでくれた人は、トミンの最終コーナーで面白いようにドリフトしている俺の走りを見たことがある人が多いと思うが、そんな俺が、最終を立ち上がってアウトに達するより遥か手前、つまり1速でアクセルを開け始めたほぼ直後に、2速に入れて走らせていた。みんながいつも見ている俺の最終ライン、あれよりもさらにイン側からバイクを起こして立ち上がっても、それくらいしかアクセルは開けなかった。当然その分を他で稼がなければならないのだが、それまた次回、会ったときにでも話そう。ちなみにJSBinトミン、走り始めのインプレは、
「リジットマシンどころか、硬い棒のような構成のマシンにスリックを入れて走っている」
という感覚だった。
◆ 最後に、塾長として一言 ◆
今回は速く走るための厳密な意味だけを明確にすべく、あえて厳しい文体にしました。ただ、梨本塾のみんなが「え~俺って”らしきもの”だったの~!?」とか落ち込まれると、ちょっと悲しい。梨本塾の本質はあくまで楽しむことであって、今回書いたこととは別個に考えてもらえたら幸いです。塾長としては40秒の生徒も、それはそれで非常にかわいいわけです。よろぴくね。
◆ 追記総論 2011/07/05 ◆
改めて読み返してみると、ピラミッドの頂点レベルでは大幅な更新があったが、ほとんどアマチュアライダーにとって現実的なトップレベル、すなわち27秒~というそれぞれのタイム帯に関しては未だに間違っていない屁理屈だとも思う。27秒を必死に切ろうとしている人も、32秒をなんとかして突破したいと思っている人も、等しく応援したいという気持ちは変わらない。ただ、昨年も書いたがまさかアマチュアライダーが26秒を切り、さらに25秒6にまでタイムを伸ばすことになるとは予測していなかったし、そういうことがあるからこそ、バイクは楽しく夢があるのだとも思う。
05年当時よりは確かにある銘柄のタイヤレベルは上がったが、しかしトミンモーターランドにおいては厳しい音量規制も設けられるようになったため、一概に現在が有利な状況とも言えない中での快挙だ。
トミンモーターランドのような狭くて小さいコースでのタイム、及びスキルレベルの向上こそ、スピード的な意味でのレイアウトでは30年近く一切変化していないクローズドコース、及びパブリックロードを効率的に走ることの要約でもある。もてぎや筑波はもちろんヘレスやアラゴンを走るためのイメトレも、俺はいつもトミンモーターランドで行う。簡略的なマシンテストにも最高に適していると思う。そんな場所が誰にでも気軽に利用できるのが最大の魅力だ。
トミンモーターランドで梨本塾を始めてから10年以上が経過したが、この辺でもう一度本気でこのコースと向き合ってみたいと思っている。もちろんデッカイバイクで、ガッチリタイムを狙っていくつもりだ。
◆ 追々記総論 2011/12/31 ◆
追記を書いてから、またしてもというか、やはりというか、2011年度下半期のトミンモーターランドではコースレコードラッシュとなった。4月に石川選手が25秒69をマーク、さらにその後、11年度チャンプとなる篠塚選手も25秒入りを果たし、徐々に機運が高まっていく中で、10月開催時には二瓶選手がタイムアタック中に25秒71、さらにその後のフリー走行で25秒60をマークしてレコード樹立、同週に再度トミンを訪れこれを再々更新、25秒53という驚異的ともいえる素晴らしいタイムをマークすることになった。二瓶選手は筑波でも1分0秒0ほどで走るライダーだが(但しいわゆるショップ系の選手ではなく、地道にトミンや筑波に通って腕を磨いたようだ。ここまでタイムが上がったのも、11年シーズン中のことである)、それにしてもビックリするような躍進ぶりである。
自分ではバイク業界でいかなる肩書きがあろうと、これに刺激を受けないようならバイクを降りたほうがいいと思った。そのうち、ではなく、今すぐアタックしてみたい欲求にかられることになった。
しかし同時進行していたひとりマスターバイクという企画で製作していたGSXR1000K6のパッケージではどうあがいてもレコードの更新は見えなかった。そもそもこのマシンで目標としていたのが25秒5である。ナンバー付き、公道走行可能車両のリッターSSで、かつての自分の、JSBマシンやオープンクラス仕様のレーサーマシンで出したタイムを破ることが目標だった。
実際、05年当時はいとも簡単にGSXR1000K5での26秒きりが適ったが、しかしリッターSS用のハイグリップタイヤの進化が乏しい中で、なかなか思うようなバランスが見出せなかった。灯火類やミラーもついているという状態での過重バランスの悪さも気になっていた。
そんな中別の仕事でトミンモーターランドを訪れていた際に、テストも撮影も終えて30分ほど時間が余った。このとき、11年度チャンプとなる篠塚選手も来ていて「ならば」と少しだけ乗らせてもらうことにした。タイヤは梨本塾を席巻したピレリディアブロSC1の、中古逆履きというものだった。走り出してすぐに26秒前半に入り、少しだけプッシュすると25秒に突入した。これまでも何度か試乗していたが、篠塚選手のセットアップの秀逸さも手伝ってマシンは非常に素直であり、身体的な負担もゼロに等しいほど楽なバイクだった。
そこから少しずつ自分仕様に設定を変更していき、ちょうど30分が経過しようとする頃に、25秒46というタイムをマークした。今まで1万ラップ以上トミンモーターランドを走ってきたが、このときのスピード感、景観は非常に新鮮であり、同時にこのパッケージならいずれ24秒台も可能なのではないか、と感じることとなった。
ちなみにトミンモーターランドの1秒は、筑波では2秒、もてぎなら4秒ほどに換算される。27秒が26秒0になれば、筑波で2秒だった人は0秒台で走れるようになる(あくまで理想理論的なものだが、実行できている人もいる)。2007年にもてぎで1分57秒フラット近辺までいった06CBR1000RR(当時のタイヤはBT002)でのトミンモーターランドにおけるベストは、25秒8程度でしかなかった。JSB仕様のGSXRでは1分54秒台で、トミンモーターランドでは25秒75が最高だった。ともにそれほど本気のアタックだった訳ではないが、しかしそれなりに追い込んだ上でのタイムだったのは間違いない。
そう考えると、二瓶選手や石川選手などが筑波選手権で58秒台をビシビシマークして2012年度の選手権を引っ張る存在となっても、なんらおかしくはない。
時代がどれだけ進んでも、ラップタイムだけは嘘をつかない。そして新しいタイムの樹立だけが、陳腐なテクノロジーではなく、ライダーの次なるイマジネイションをしっかりと育むのだと改めて思った。
ご参考>>トミンモーターランド コースレコード推移(梨本塾公式記録分)
これは2005年?当時に別のコラムで書いたもので、石川選手の25秒6という新たなトミンモーターランドコースレコードの樹立、また篠塚選手なども25秒台に入って久しい今となっては古い感じもしますが、トミンモーターランドを愛する皆さんの何かの参考になればと思い、梨本塾のページに再掲載します。
ケンツで全日本選手権JSBを走ることになった年の最初にトミンモーターランドでテストを行い、さすがにJSBではコースが狭すぎると感じながらもなんとかしてレコードを出してやろうとした結果、大幅に更新することに成功したというときに書いたものです(一部改定2011/7/5)。マシンはGSXR1000K5、ケンツのフルスペックJSB+ダンロップのスリックタイヤ、バージョン1.0、といったところでした。
※今回のレコード更新を記念して、塾長としてでなく、あくまで私的、つまりバイクで攻めることが大好きな一ライダーとしての、傍観的かつ、傲慢な理論をちょっと展開してみます。諸兄の参考にして頂ければ幸いです。
40秒以上・・・どんなバイクに乗っているにしても、自分に大問題あり。ひとまず先入観を思いっきりぶん投げて、全部最初からやり直すべき。
35秒以上・・・可能性の塊。ほんの少しのきっかけで大幅にタイムアップする直前にいる。ここで4の5の言っては恥なだけ。ただ真剣に前を見ている人だけが、短期間でレベルアップを果たせるタイム帯。どんなバイクでも、問題なくクリア出来るライン。
32~33秒・・・ようやくトミンのリズムが体に入り始めた頃。クローズドで走る楽しみも見つける。ヒザをすり出すのもこの辺り。ただ、ここからが一つ目の大きな壁となる。
31秒台・・・32秒まで順調にレベルアップしてきた人たちが「うりゃああああ」と気合を入れて、ようやく入るラップタイム帯。逆に言えば、それだけ気合を入れても中々31秒0という壁を突き抜けられない、憂鬱な季節。ここで走りが固まってしまう人がかなりいるが、マシン、タイヤともにスタンダードでもまったく問題ない(変な話、ドノーマルのNSR50どころかKSR、果てはFTRやTW200、ブロックタイヤのオフ車でも出るタイム)。
30秒台・・・二つ目の大きな大きな壁。ここまで来るとようやく「ピッチングらしきもの」、「ブレーキングらしきもの」、「レコードラインらしきもの」、がおぼろげに見え始める。だが、それらはあくまで初期の初期。つまりバイクの本当の楽しみの、入り口に過ぎない。これより遅いタイム帯で遊ぶのもバイクライフの一つだが、その先に入り込んだときの、自分の覚醒していく感覚を覚えてしまうと、物足りなくなる、という大きな分岐点。ここより先に行けない人もたくさんいる。
29秒台・・・ようやくSSマシンの暖機が始まるタイム帯。しかし、まだタイヤはノーマルで充分。サスのセッティングなんかも必要ない。これまでのやみくもな走りから、少しずつ自分のリズムを見つけて、各操作をきちんとこなす必要性を感じ始める頃。当然ながら29秒0の壁も大きいが、30秒のそれと比較した場合には、若干ながらハードルの低さを感じる。要するに29秒0まで来た人は、当然ながら「その先」を強く意識していて、8秒台で走る人と混走する機会も増え、それを積極的に活用するようになる。それが29秒台の人の、普遍的な精神性でもある。リプレイスのハイグリップタイヤを装着することで一気に先に進んでいけるタイム帯でもある。しかし梨本圭としては、あくまでノーマルタイヤでアベレージタイムをマークして欲しいスピードレベルでもある。
28秒台・・・一度でも29秒0を切ると、そのままの走りで、細かい部分をさらに微調整することで、28秒前半まで一気にタイムアップ出来る。これはきっと物理的な法則があるはずで、過去の梨本塾の統計を見ても99%がそんな傾向にある。ただ、このタイム帯の頂点、つまり「28秒0」という壁は、これまでにあったあらゆる壁と比較にならないほど、大きい。ここまで上がって来た時点で、ある程度の振り分けを勝ち残ってきたことになるが、その勝ち残り組でさえ、中々それを突破することが出来ない。「30秒」という大きな壁はほとんどの人に公平に与えられるものだが、28秒の壁は、30秒以降の2秒もの戦いを勝ち残ってきた人にとってさえ、突破出来ない大きなものとなっている。逆にここまでノーマルタイヤでこれた人はかなり才能がある。この辺りでタイヤをハイグリップにすると、走りに鋭さが加わって非常に効果的だ。
27秒5・・・恐らく今トミンに来ているすべての人の中で、27秒台に入るのは全体の10%未満だろう。その10%の人の、さらに8割近くが、この壁を超えられない。27秒台と言うと一般的には「速い」とされるタイム帯だが、あえて今回苦言を呈するならば「7秒5以降のタイムは、SSではけして速くない」。27秒5までタイムを出す技術があるのに、その先に進むための明確なイメージが持てないと、ここに長いこと居座り続けることになる。27秒5というと、見た目はかなり速く見えるが、まだまだ各操作における時間的な余裕もあるし、視野も広い。ここまで来ることが出来た人たちは、逆になぜこれ以上行けないのかを真剣に考えないと、絶対に前に進めないという、二つ目の大きな分岐点。なお、250cc以上であれば、タイヤさえきちんとしたものを入れていれば、ここまでは大体到達できる。ちなみに27秒5で20周走り続けるというのは、29秒台で走る場合の50周ほどに相当する疲労度がある。
27秒2~3・・・27秒5という大きな大きな壁を突破した直後にある、さらに大きな壁。根本的な走り方を変えないと、これより先には絶対に進めない。
27秒0・・・ミドル以上のマシンでトミンを走るユーザーの中で「トップレベル」とされる人たちが徹底的にふん詰まる地点。それまでになかった「メリハリ」をつけなければこの壁は超えられないが、そのメリハリそのものを理解することが非常に難しい。闇雲なアタック、気合とかは一切通用しなくなる。マシンのセットアップも重要。過去5年の梨本塾生の中でこのラインを超えられたのはたぶん3人。このタイムをアベレージとする場合には、それなりに体作りも必要になってくる。
26秒7~9・・・6秒を切った人がそのままの走りで、細部を煮詰めることで到達できるライン。ただ、その走りではけしてこれ以上行けない。またしても走りの基本ラインをすべて変換しないと、進化出来ないゾーンでもある。27秒0の走りと26秒8~9の走りは同じで、あまりオススメ出来ない「気合」で出すことも可能だが、アマチュアにはリスクが大きすぎる。ちなみにこのラップペースで20周走るというのは、27秒5辺りのペースで走る場合の、40周相当に値するほどの疲労感が生じる。ほとんど休む間がなくなり、ランニングしてるのと同じくらい息が上がり始める。
26秒5~6・・・26.7とたったコンマ1~2秒しか違わないのに、走りをすべて組み変えないと到達出来ないライン。梨本塾においては26.5というのはカイ、キッシー、タンパン含めて未だ未到タイムのはず(2011年時点では、石川選手、篠塚選手、平手選手、阿部選手などが見事突破)。
ちなみに今回レコード更新をした際に、ガンマ250にスリックタイヤという面白い組み合わせで走っている人がいて、その人の当日のベストが26.6だったそうだ。250スリックの2stマシンで走る場合には方法論、物理現象ともに大きく異なるが、恐らく今までトミンで見た一般ライダーの中では彼が最速だった(2011時点で最速は07CBR600RRホワイトベースにピレリSC1という組み合わせ)。
26秒3~4・・・エッジテストにおける限界値付近だが、仮にタイヤだけをハイグリップに換装していても、この辺でバランスしてしまうことがよくある。これより上げていくには、かなり綿密にサスセッティングをしていかないと厳しい。
26秒1~2・・・今までのレコードレベル。サスやブレーキがノーマルで、タイヤだけハイグリップという状態であれば、ほとんど限界に近いと思われる。ちなみに今回JSBを走らせ始めたときは、この辺りで長いことラップタイムが推移していた。ここからたったコンマ1秒先の26秒0まで持っていくために、かなりのセッティングと走り込みを必要とした。
26秒0・・・これまで自分で走ってきたライン取り、アクセレレーション等含めて、すべて白紙に戻して、走り方そのものを再構築してようやく達したタイム。当日はしめて250LAPほど回ったが、後半50LAPくらいでようやくこの領域に入ることが出来た。JSBの場合には、ほんの10周程度で深刻な腕上がり症状が起こるほどの疲労感がある。非常に高かった壁「26秒1」をいよいよぶっ壊せたことで、逆に冷静になって次のイメージをきちんと考えることが出来るようになった。
25秒9・・・25秒の入り口だが、26秒00を連発した後の、25秒98、或いは96というタイムだったので、ほとんど走り方、考え方は変えていない。27秒を切るか切らないかというタイム帯によく似ている。自分の中でこのタイムはあくまで26秒0でしかなかった。しかし、蓄積された疲労がもはや限界点に達しつつあり、僅か2~3周のタイムアタックが、26秒5ほどで20周ほど走る場合の疲労度と等しくなっていた。
25秒8・・・いよいよ最後にリヤタイヤだけを新品にして、さらに再度走りを再構築し、ライン修正を行った上でマーク。ここまで来ると、まっすぐ走っている区間がほぼゼロになってしまった。コース上すべての区間で左右どちらかに傾いていて、しかも前後どちらかに思い切りピッチングしている状態になった。5秒9とはコンマ1秒だが、まったく違う走り方になり、ここまで来てようやく「5秒台」が自分のものになったと実感。
25秒75・・・まだ至る所に操作の荒さ、ガムシャラさがある気がしたので、オーバーに言えば地球のリズムに合わせるような感じで自然な流れを探し、そこに乗っかっていくような感覚で、250LAPの最後の周にマーク。今までのタイムからすればたったコンマ4秒なのだが、これが大きなサーキット換算した場合にはものすごい差であることは簡単に想像できた。少なくともこれまでトミンでしてきた走りでは、絶対に到達できなかったポイント。最終的には、奥の右から次の左への切り返しで、フロントブレーキレバーが握れなくなるほど、握力を失った中でのアタックだった。このタイムをみんなに分かるように正確に分析するには、もう少し時間が必要と思われる。
◆ 総論 ◆
トミンで効率的にレコードタイムだけを追っていくなら、250、もしくは125のレーサーマシンにスリックタイヤという組み合わせがもっとも手っ取り早いと思われる。ただ、俺は基本的にそれらのマシンでタイムを追うよりも、やはり大排気量車、しかも600ではなくリッターの走りでレコードを追い求めることに意味を見ているので、ここまで中々26秒の壁を破ることが出来なかった。それほど積極的にレコードを更新する必要性にもかられていなかった(要するにトミンで全日本選手権が開催されてそれに出場するという機会はなかった)というのも大きいが、走り始めの当初、ホンダCBR929RRに乗っていた頃は「そのうち5秒台も出るだろう」と軽く考えていた。エッジテストはご存知のようにタイヤも含めて「フルノーマル」なため、今回書いたタイム論よりもさらにシビアな環境となり、飛躍的な(例えば26.3と26.1の違いは、もてぎにおける2分01秒台と1分58秒台ほどの大きな違いがある=‘03CBR954と、‘04GSXR1000で実証済み)向上は考えられなかった。それこそ1000分の1秒単位の削り方でしか、タイムを詰めるのは事実上不可能になっていたのだ。
また、もて耐やモテローのGSXR1000などのいわゆるライトチューニング(梨本塾レーシングの場合は、エンジン、サス、ホイール、ブレーキキャリパーなどは完全にノーマルだ)仕様で走りまくっても、26秒1辺りが限界値だった(追記:その後GSXR1000K5+メッツラー、及び06-07CBR1000RRモテローチャンピオンマシン+BT002、さらにアプリリアRSV4ストックモデル+R10という組合せでいずれも26秒切りは達成)。これは「もっとも真剣にセッティングを繰り返していけば、多少は詰まる」という感触を残してのものだったが、それにしてもたったコンマ2秒先の「5秒台」というのは、まったく見えていなかった。6秒台前半になってくると、3LAP立て続けに1000分の1秒台までタイムが同じ、ということが常態化する。そこまでいくと、もはやこれ以上の最大馬力など必要なはずもなく、欲しいのはシルキーなパワーデリバリーと、それに付随する安定した車体構成だけで、そう考えていくとやはりこのコースでは250cc2stレーサー辺り、もしくは特化した600などが現実的にもっとも5秒台への近道ではないか、と思っていた。そしてそれは今回5秒台出たことで「その通りだったな」と強く思うようになった。
恐らく現状のノーマルベースのリッターマシンにスリックを入れて(ただ、スリックタイヤというものは、慣れていないとまったく走らせることが出来ない。スリックで走った人にしか説明しようがないのだが、そのグリップ力はもとより、タイヤ構成の考え方そのものが異なるので、27秒を切れない人が履いたり、或いはマシンセットアップが出来ない人が履いても、何の足しにもならないどころか、恐怖心だけを植えつけられるハメになる………)、それなりにセットアップをし、さらにインジェクションにも手をつけて、とことんまで走りこめば、25.5辺りは現実的なラインだ。もちろん今回走らせたJSB仕様でも、その辺りまでは詰めれそうな気がする(ただ、恐ろしく疲れるけどね………)。今後そういう機会があるかどうか分からないが、あればぜひトライしてみたい。
あと、俺の自慢のように取られると困るのだが、あえて普段走っているみんながJSBマシンをトミンで走らせるということの厳密な解説をするなら、
「誰が乗っても、自分のレコードタイムはおろか、28秒を切ることさえ難しいのではないか」
と思う。一昔前に「お前のバイク何隼?」「あ、俺のRC211Vはね~10隼だよ」などという会話がこのサイトで流行ったが、そういう意味で言えば、少なくともJSB仕様のGSXR1000の加速力は5隼くらいに相当する。たぶんここまで読んでくれた人は、トミンの最終コーナーで面白いようにドリフトしている俺の走りを見たことがある人が多いと思うが、そんな俺が、最終を立ち上がってアウトに達するより遥か手前、つまり1速でアクセルを開け始めたほぼ直後に、2速に入れて走らせていた。みんながいつも見ている俺の最終ライン、あれよりもさらにイン側からバイクを起こして立ち上がっても、それくらいしかアクセルは開けなかった。当然その分を他で稼がなければならないのだが、それまた次回、会ったときにでも話そう。ちなみにJSBinトミン、走り始めのインプレは、
「リジットマシンどころか、硬い棒のような構成のマシンにスリックを入れて走っている」
という感覚だった。
◆ 最後に、塾長として一言 ◆
今回は速く走るための厳密な意味だけを明確にすべく、あえて厳しい文体にしました。ただ、梨本塾のみんなが「え~俺って”らしきもの”だったの~!?」とか落ち込まれると、ちょっと悲しい。梨本塾の本質はあくまで楽しむことであって、今回書いたこととは別個に考えてもらえたら幸いです。塾長としては40秒の生徒も、それはそれで非常にかわいいわけです。よろぴくね。
◆ 追記総論 2011/07/05 ◆
改めて読み返してみると、ピラミッドの頂点レベルでは大幅な更新があったが、ほとんどアマチュアライダーにとって現実的なトップレベル、すなわち27秒~というそれぞれのタイム帯に関しては未だに間違っていない屁理屈だとも思う。27秒を必死に切ろうとしている人も、32秒をなんとかして突破したいと思っている人も、等しく応援したいという気持ちは変わらない。ただ、昨年も書いたがまさかアマチュアライダーが26秒を切り、さらに25秒6にまでタイムを伸ばすことになるとは予測していなかったし、そういうことがあるからこそ、バイクは楽しく夢があるのだとも思う。
05年当時よりは確かにある銘柄のタイヤレベルは上がったが、しかしトミンモーターランドにおいては厳しい音量規制も設けられるようになったため、一概に現在が有利な状況とも言えない中での快挙だ。
トミンモーターランドのような狭くて小さいコースでのタイム、及びスキルレベルの向上こそ、スピード的な意味でのレイアウトでは30年近く一切変化していないクローズドコース、及びパブリックロードを効率的に走ることの要約でもある。もてぎや筑波はもちろんヘレスやアラゴンを走るためのイメトレも、俺はいつもトミンモーターランドで行う。簡略的なマシンテストにも最高に適していると思う。そんな場所が誰にでも気軽に利用できるのが最大の魅力だ。
トミンモーターランドで梨本塾を始めてから10年以上が経過したが、この辺でもう一度本気でこのコースと向き合ってみたいと思っている。もちろんデッカイバイクで、ガッチリタイムを狙っていくつもりだ。
◆ 追々記総論 2011/12/31 ◆
追記を書いてから、またしてもというか、やはりというか、2011年度下半期のトミンモーターランドではコースレコードラッシュとなった。4月に石川選手が25秒69をマーク、さらにその後、11年度チャンプとなる篠塚選手も25秒入りを果たし、徐々に機運が高まっていく中で、10月開催時には二瓶選手がタイムアタック中に25秒71、さらにその後のフリー走行で25秒60をマークしてレコード樹立、同週に再度トミンを訪れこれを再々更新、25秒53という驚異的ともいえる素晴らしいタイムをマークすることになった。二瓶選手は筑波でも1分0秒0ほどで走るライダーだが(但しいわゆるショップ系の選手ではなく、地道にトミンや筑波に通って腕を磨いたようだ。ここまでタイムが上がったのも、11年シーズン中のことである)、それにしてもビックリするような躍進ぶりである。
自分ではバイク業界でいかなる肩書きがあろうと、これに刺激を受けないようならバイクを降りたほうがいいと思った。そのうち、ではなく、今すぐアタックしてみたい欲求にかられることになった。
しかし同時進行していたひとりマスターバイクという企画で製作していたGSXR1000K6のパッケージではどうあがいてもレコードの更新は見えなかった。そもそもこのマシンで目標としていたのが25秒5である。ナンバー付き、公道走行可能車両のリッターSSで、かつての自分の、JSBマシンやオープンクラス仕様のレーサーマシンで出したタイムを破ることが目標だった。
実際、05年当時はいとも簡単にGSXR1000K5での26秒きりが適ったが、しかしリッターSS用のハイグリップタイヤの進化が乏しい中で、なかなか思うようなバランスが見出せなかった。灯火類やミラーもついているという状態での過重バランスの悪さも気になっていた。
そんな中別の仕事でトミンモーターランドを訪れていた際に、テストも撮影も終えて30分ほど時間が余った。このとき、11年度チャンプとなる篠塚選手も来ていて「ならば」と少しだけ乗らせてもらうことにした。タイヤは梨本塾を席巻したピレリディアブロSC1の、中古逆履きというものだった。走り出してすぐに26秒前半に入り、少しだけプッシュすると25秒に突入した。これまでも何度か試乗していたが、篠塚選手のセットアップの秀逸さも手伝ってマシンは非常に素直であり、身体的な負担もゼロに等しいほど楽なバイクだった。
そこから少しずつ自分仕様に設定を変更していき、ちょうど30分が経過しようとする頃に、25秒46というタイムをマークした。今まで1万ラップ以上トミンモーターランドを走ってきたが、このときのスピード感、景観は非常に新鮮であり、同時にこのパッケージならいずれ24秒台も可能なのではないか、と感じることとなった。
ちなみにトミンモーターランドの1秒は、筑波では2秒、もてぎなら4秒ほどに換算される。27秒が26秒0になれば、筑波で2秒だった人は0秒台で走れるようになる(あくまで理想理論的なものだが、実行できている人もいる)。2007年にもてぎで1分57秒フラット近辺までいった06CBR1000RR(当時のタイヤはBT002)でのトミンモーターランドにおけるベストは、25秒8程度でしかなかった。JSB仕様のGSXRでは1分54秒台で、トミンモーターランドでは25秒75が最高だった。ともにそれほど本気のアタックだった訳ではないが、しかしそれなりに追い込んだ上でのタイムだったのは間違いない。
そう考えると、二瓶選手や石川選手などが筑波選手権で58秒台をビシビシマークして2012年度の選手権を引っ張る存在となっても、なんらおかしくはない。
時代がどれだけ進んでも、ラップタイムだけは嘘をつかない。そして新しいタイムの樹立だけが、陳腐なテクノロジーではなく、ライダーの次なるイマジネイションをしっかりと育むのだと改めて思った。
ご参考>>トミンモーターランド コースレコード推移(梨本塾公式記録分)
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