「………さん……。……やせ……さん。綾瀬さん!!」
 ゆっくりと瞼を開けるとボヤけた視界に山橋と西村君の顔が見える。
「二人とも…無事だったのか…?」
 ゆっくりと身体を起こして状況を確認する。
「ここは…?ん!?みんな!?」
 そこは見知らぬ会議室のような場所。そこには先程罠にかけられたAグループだけでなく、異常の無かったはずのB、Cグループ、即ち奪取部隊の全隊員が居た。
「これは一体…。」
 気付けば我々の格好も先程までの戦闘服では無くなっていたがかと言ってハイグレになってもなく、上下黒のジャージに靴下、内履きというまるで高校生の様な格好になっていた。
 まだ状況がよく理解出来ない私に西村君が一先ず説明してくれる。
「自分達もまだ状況はよくは理解できていなくて。ただ部隊の動きは奴らに読まれてたようで…全員捕まってしまいました。食料庫での後、自分達も全員眠らされて移動させられた様なんでここがどこなのか、何がどうなってるのかよくは分からなくて…。」
「そうか…」
 すると正面のドアが開き、数人のハイグレ人間が入ってきた。その中の一際目立つ白いハイレグの女がヒールの音を鳴らして前へ出てくる。
「ようこそ!革命軍の泥棒ネズミさん達。私はここの統括管理主任の槇原 麗華よ」
 全員が険しい顔で注視する。
「どういうつもりだ…?なぜ我々をそのままにしておく…」
「あら?どうして?面白い事をきくのね?今日まで生き残ってきた貴方達なら分かるのではなくて?」
 震える声で青崎が口にする。
「人質ですか…。それとも尋問…?」
「人質?尋問?あらあら今日まで逃げ延びてた革命軍の隊員さんのくせに随分とお間抜けさんがいるのね。ねぇ、貴方が隊長さんよね?貴方なら分かっているのではなくて?」
 そう…。この状況、普通の犯罪などならその可能性が大きい。しかし、今世界はその普通が普通ではない。
「どちらも…違うだろうな…」
「何故ですか…?」
 高岩も分かっていない様子だった。
「早い話がどちらも意味が無いからだ」
「意味がない…?」
「そうだ。先ずは尋問だが、早い話光線使ってハイグレ人間にしてしまえばどれだけの強い意志や忠誠心をもっていても奴らの従順な奴隷となる。そしてそうなったら我々は自ら喜んで情報の全てを差し出す。つまりわざわざ抵抗する人間を相手にするなんて時間と労力の無駄だ。光線一発と数分で事足りぬだから…」
 私の言葉を皆はただ静かに聞き入れていた。
「じゃあ…人質は…?」
 「人質だって同じさ、この部隊の人間を数名捉えて同じ部隊の他の人間に対しての人質ならまだ分かるが全員をこうして捉えて誰に対して人質にする?」
「えっ…それは…集落や革命軍のみんなを…」
「脅して何を得る?情報なら我々を洗脳して聞き出せばいい。降参も求める必要ないだろう。我々をハイグレ人間にして場所を聞き出して一斉攻撃すればいいのだから。戦力の差は圧倒的だ。わざわざ向こうの返事や決断を待つ時間がある分余計な手間だろう…。」
「それじゃあ…」
 わたしの頭の中には最も最悪な言葉が浮かんでいた。隊員達を見ると何人かが俯いており、彼らはその答えを理解していると思える。
「流石は隊長さん!賢いわね。じゃあ教えてあげるわ。私たちの目的を。但し私がじゃないけどね!じゃあ説明してあげてくれるかしら」
 そう言われるとすくっと私の後ろで一人の隊員が立ち上がった。
「栃木…。」
 立ち上がった栃木は着ていたジャージのファスナーをゆっくりと下ろす。するとその下には肌にピッタリと張り付いた黄緑の蛍光色のモノが見えた。
「栃木…嘘だろ…」
 全てを脱ぎ捨てた栃木の姿はまごう事なきハイレグに身を包まれていた。
「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!仰せのままに槇原様!」
「栃木君…そんな…」
「栃木…お前…」
 あの食料庫で私が意識を失う寸前に見えた微かな光景…。嘘だと思いたかった。見間違いだと…。しかしそれは確かな現実だった。栃木が堕ちてしまった…。いつ…もしかして最初から?いや、それなら集落が堕とされている。ならばここへ来るまでの途中…一体いつ?…記憶を探る…。思い当たる節が…いや、ひとつだけある。しかしあの時バングルの洗脳反応も光線などの気配も…。ましてや栃木自身の叫び声なども無かった…。ではどうして…。
「皆さん、いつの間にって思ってます?いや、思い当たる節はあるんでしょうけど納得がいかないようですね。でも正解ですよ、俺はあのトイレの時にハイグレへとしていただいたんです!」
「だがあの時バングルのハイグレ洗脳の反応も光線の光もましてやお前自身の叫び声も無かったぞ!」
 高岩が疑問をぶつける。
「それはですね…」
 栃木が答えようとするが槇原というハイグレ人間が割って入ってくる。
「はいはい押し問答はそこまで。その答えはいずれ自ずと分かるわ。貴方達のその身をもってね!さぁそれよりも早く説明なさい。彼らの未来を」
「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!失礼しました!それではよく聞け!お前達はこれよりこの新たに建設された更生収容施設の第1期入所者となるのだ」
「更生収容…施設」
「その第1期…それってつまりは…」
 そう…。人質の為でも、尋問の為でもない。我々を洗脳せずにここに居させているのは…実験台の為…。
「お前らには今からこの施設内で寝食をし、労働に殉じてもらう」
「それってただの奴隷施設じゃ…」
「ただし、ここではただ生活して働けばいい訳ではない。ここは更生施設。お前達未洗脳者の愚かな思想や行動を正す為の場所だ。そこでここではいくつものルールに従ってもらう。ルールに逆らえばペナルティが課せられる。腕の端末を見ろ」
 状況把握に意識がいっており気付かなかったが手には革命軍のバングルではなく、見慣れぬスマートウォッチの様なモノが取り付けられていた。
「ここではこれが生活の基盤だ。このウォッチの時間に合わせて行動するように。そして表示される命令に従ってもらう。ルールだがここでは私語厳禁、暴力行為なども当然ペナルティの対象だ。また労働作業のミスや遅れなども勿論ペナルティの対象だ。ペナルティを受けた者にはウォッチにペナルティの内容が表示されるのでそれに従ってもらう。そしてこれが1番の重要事項だが規則違反のペナルティは違反した本人ではなく他の隊員が対象だ!自分のミスや愚かな正義感がみんなの迷惑になるって事をよーく頭に刻んで下さいね!それでは皆さん正しい人間へと、何よりハイグレの素晴らしさをしっかり学び身体に刻み込んで下さい!」
 説明が終わり頭がまだ追いついていない中高岩が声を荒げる。
「な、なんだよそれ!!」
 すると全員のウォッチが鳴り響く。
 慌てて画面が見るとそこには文字と高岩、そして隊員の新田の顔が映し出されていた。
『規則違反(私語):高岩 、ペナルティ対象:新田。ペナルティ内容:衣服を一枚脱ぎ捨てる』
「な、なんだよこれ!?」
 すると再びウォッチのアラームが鳴りだす。
『規則違反(私語):新田、ペナルティ対象:下郡。ペナルティ内容:衣服を一枚脱ぎ捨てる』
 「なんなのこれ!?」
 またアラームが鳴り響く。
『規則違反(私語):青崎 、ペナルティ対象:新田。ペナルティ内容:衣服を一枚脱ぎ捨てる』
「なんで俺ばっか…」
 またしてもアラームが鳴る。
『規則違反(私語):新田 、ペナルティ対象:青崎。ペナルティ内容:衣服を一枚脱ぎ捨てる』
「喋るな!これ以上は!」
『規則違反(私語):綾瀬 、ペナルティ対象:新田。ペナルティ内容:衣服を一枚脱ぎ捨てる』
 先程から悪意ある程に新田に負荷がかかっているが、謝罪の言葉すらも今の状況では悪循環になりかねなかった。
 皆が私の一言で冷静に状況を認識して口を閉じた。
「さぁ、ペナルティよ。指示に従いなさい。従わないと分かるわよね」
 ペナルティを受けた3人はゆっくりと着ている衣服を脱ぎ始める。
 我々が着ているのは下着とジャージが上下、それに靴下と内履き。つまりは6回ペナルティをうけると…。
 青崎と郡上は靴下を脱いだ。新田は3枚脱がなくてはならない。とりあえず靴と靴下、そして上のジャージを脱いだ新田。
 このペナルティによって衣服が全部脱がされたらどうなる…?その疑問にこれまでの経験則から1つの予想が脳裏に浮かぶ…。
 施設での実験台、予想以上の過酷なモノになる。この状況でいかに強い精神と決意が大切になっていくのだろう…。