1日目が終わった。
 現状を受け入れられないと言う様子で沈黙している。投票に到っては自分たちで行ったというのにそれでも受け入れられないといった様子は些か醜い。
「三鷹…先輩…。沙耶香…。」
 本間が涙を浮かべ弱々しい声を出していた。
 他の奴らも泣くまではしていないが暗い表情を浮かべている。
「なんでだよ…。何で安藤が…?安藤が犯人じゃないのかよ!?」
 井川が激しく机を叩きつけて叫ぶ。
「振り出し…ですね。」
「これじゃあ三鷹先輩の犠牲が無駄に…」
 それぞれが言葉を漏らしているが、私は彼らが感傷に浸るなどお構い無しにゲームを進行させる。
「それではこれより2日目を開始するわよ」
『DAY2昼/討議の時間』の文字と25分のカウンドダウンタイマーが表示される。
「くそっ!もう何がどうなってんだよ!?」
「さっきの作戦は完全に奴に読まれていたという事になりますね。」
「読まれてた…。で、でも…それならこの結果に…グスッ…なるのはおかしくないですか?」
 本間も涙を抑えて会話に入ってきた。
「でもどういう経緯があったにせよこの結果は安藤さんが犯人側でないと成り立たないわ。犯人でないにせよやっぱり一度ハイグレになった安藤さんは裏切り者、スパイだったのということに!?」
 渡辺が強く主張する。
「ふざけるな!それなら俺や三代はどうなるんだ!?みんなこのゲームを終わらせようとして…」
 井川が畳み掛ける。
「でもスパイは居てもおかしくないかも…しれません」
 自らも容疑者である三代が言葉を挟んだ。
「三代?」
「私や井川先輩は勿論ですが、他の人にもスパイがいるかもって…彼女のような存在が…」
「…彼女…あっ…!」
 その言葉を聞いた瞬間、全員の頭に先のゲームでのある事件が浮かんだようでハッとした。
 そう。それはハイカラ神経衰弱の時に1人の女子生徒が自らの欲望と願望の為にゲームを掻き回し、仲間を貶め、そして未洗脳者でありながら自ら笑顔でハイグレを受け入れたのだ。
「確かに…安藤さんも自らハイグレになったから…」
 互いを疑いだした淀んだ空気が包み始めようとして居た。
「でも…だとしたらどうして沙耶香を脱落させる必要が?」
 本間の一言に伊藤が納得する。
「確かに。このまま安藤先輩を残しておけば疑惑の目は間違いなく安藤先輩に向くし、なによりもし協力者だったならこのゲームを勝つ上でこの上ない有効な存在のはずなのに」
「それは…確かに。でも疑いの目を安藤さんに向けてもどうせ次のターンに投票で落とされるから使い捨てたとか?」
「それにしたって1ターンの時間稼ぎになるし、せっかく脱落させれる権利をわざわざ行使する必要はないはずですよ。というか1番使う必要がない存在のはずなのに…」
「1番使う必要のない相手に洗脳を使った…。考えられるのは…」
「口封じ…?」
 沈黙していた伊藤が答えをだす。
「何のために…?」
 井川が伊藤に問ひ返す。
「先のターンで安藤先輩を残しておいたらまずい何かがあったのかも…」
 すると本間が何かを思い出したかの様に前面のタッチパネルを確認する。
「そうですよ…沙耶香は、沙耶香はやっぱり裏切り者でもスパイでも無かった。」
「どう言うことですか?」
 どうやら漸く気づいた様だ。
「根拠は?」
「色んなことで頭がいっぱいになって忘れてましたけどこれは人狼ゲームなんです」
「それが?」
「殆どの人は話し合いと投票のみの一般人ですが、中には特別な力を持ってゲームを動かせる人がいます!そしてハイグレ魔王もその1人。そして彼の能力は夜の洗脳だけではありません!?簡易洗脳、1日だけスパイを生み出すことだって出来ます!それが沙耶香にかけられていたなら…」
「そうか…スキルを使えば安藤さんを陥れることができ、尚且つ邪魔者No. 1だった三鷹先輩を…。」
「まんまとやられたって訳か…」
 このゲームの行方を左右させ重要な役割であるもの忘れるとは呆れてしまう。
「でもこっちにだって頼もしい能力を持った人が居るんです!その人達が上手く能力を使えれば!」
 そう、能力者が上手くスキルを使えればの話。このゲーム、決してスキルだけで解決できる話ではないが、スキルを持つ者がどんな思いでどんな風にスキルを使うかそれで状況は大きく変わる。それはこのゲームだけではなくあらゆる場面で重要となってくることだ。能力だけ持ってても意味がない。力は持つ者の思いと素質が上手く組み合わさってこそ本当の力になるのだから。
 "ピコン!!"
「ん?」
 私のゲームマスター用パッドに通知が届く。
 そこには一通の通知が届いていた。
《博士:スキル使用。電波解析まで残り2回》
 私のパッドには能力者がスキルを使用した際に通知がある。誰がスキルを使用し、あと何回使用可能か。そして誰を対象にしてかまでが送られてくる。画面をスクロールして対象者を確認した。
「なるほどね…」
 確かにこいつは今のところ疑うに値するが果たして…。
 私はあくまでお飾りのゲームマスター。傍観者だ。
 私のパッドには能力者がスキルを使用した事、スキルの残り使用回数が表示されるが、その先の事は分からない。現に先程も魔王様がスキルを発動したのは知っていたが誰に簡易洗脳したかは分からなかった。アクション仮面と博士のスキルも誰を対象にしたかは分かるが肝心の部分は不明であり、今博士が能力を使って調べた人間が白か黒かは分からない。
 アクション仮面においても誰を守ったかは分かるがそれがアクション仮面自身が自分を守ったのか、それとも他の人を守ったのか分からずゲームの根幹を掴むには届かない。
 果たしてこの対象者は白か黒?そして博士がこの結果をどうやってゲームに反映させて導くのか?
「博士とアクション仮面が誰なのか名乗り出るのはやはり危険ですかね?」
「狙い撃ちされるのがオチでしょうからね」
「それにもし複数人が名乗り出たら余計に混乱しちゃうでしょ?」
「いや、でも博士の能力の欄をもう一度見てみろよ。3回使えば正体がバレてしまう、それを発動させれば正直に手を挙げた人以外の人が…あっ…」
 最年長だというのに頭の考えをそのまますぐに口にする井川。今ここでそれを言っては意味がない。本当に男という生き物はバカなのか…。
「それを今ここで言っては…。」
 室井が呆れる。
「それに大事なスキルを乱発するのもちょっと…。」
 一年の三代さえも動揺している。
「下手すれば逆手に取られて1日目の二の舞になります。敵の簡易洗脳によって…。皆さん説明書きをよく見て下さい。博士のサーチも絶対ではありません。サーチ相手が人間と表記されれば確かかもしれませんが、仮にハイグレと表記されてもそれを鵜呑みにするのは危ういです。それもまた簡易洗脳のスキルのせいで真偽は不明、確信するには貴重な三回のうち二回は使わないと確信が持てないんですよ」
 本間という女は先のゲームでも見ていたが、中々に出来る人間だ。この状況での把握と分析、そしてそれを自ら実行するだけの主体性、いい参謀格となる。一方でこの井川はダメだ…。Tバックの部隊にでもぶち込んでとことん筋肉バカとして鍛え、特攻野郎にした方が合理的かもしれない。
 討論が過熱する事である一点は有意義なものとなるがその反面それ以外の事に関して薄くなる。
「あと残り10分」
 彼らが時間を把握しているかは分からないが、私はゲームマスターとしての役割を果たす。
「あと10分です…ど、どうします」
 渡辺が不安そうに言う。確かにこのままでは拉致があかない。そうなればまた生贄を捧げなければいけない事態に陥る。果たして…。
「投票まであと10分切りました…。」
「また…私たちの手で…誰かを…」
 苦悶の表情が見える。
 そう、このゲームが今までのゲームと1番違う点、それは未洗脳者が未洗脳者をハイグレへと変える事。自分が拒絶する事を相手に行使する事。加えて仲間の誰かが、敵であり互いに疑い合う。果たしてこの極限状態に耐えられるのか?
「ところでか、香川さん。さっきから全く喋ってないけど…大丈夫?」
 隣の安藤が居なくなり、隣合わせになった本間が声をかける。
 確かにここまで香川は一言も話していない。しかも両隣がハイグレへと変わったというのに。
「そう言えば…一言も…」
「香川さん?」
 全員の視線が一気に香川に向く。
「あ、アタシは…その…。なん….つーか…」
 ん?この口調…。
「アタシは…その…馬鹿だから…分かん…ねぇ…いや、分かんなくて」
 震える声で言う香川。
「そ、そうか…。」
「それでどうしますか?1日目の作戦はもう危険すぎて使えませんよ」
 高橋が言う。
「確かに狙い撃ちにされるのオチですからね」
「そ、そうなると….みんなの総意で誰かに票をまとめる方がやはり安全…」
 やはりそうなるか。誰かを犠牲にするにしても民意の総意で決める。それが自分もみんなも最も納得できる形だ。1日目のやり方は魔王様の票に自分の票が加わる事でハイグレを招く。それはかなり重い重圧だ。しかしみんなで決めてみんなで入れるならその犠牲への罪悪感と重圧はその人数分だけ軽くなる。みんなで決めたから、みんなの意見だからという言葉と共に…。
 本間の先の提案に全員が沈黙の了承をする。
「じゃあ今回は多数決という事で…」
「ええ…。ただ肝心なのはそこではなく…。誰がなるか…」
 当然ここまで来て立候補する者などおらず、皆が顔を伏せるがそれでも時間は進む。
「残りあと1分よ」
 誰もが言葉を呑んだ。残り数十秒切ったその時、静かな舞台で静かに一つの手が上へと上がっていく。
討議の時間終了!これより投票に移る。時間は5分、未投票者は脱落とする。またこの時間は一切の発言を禁止よ。それでは投票開始」

 再び全員が真っ直ぐに目の前のパネルに向き合っている。あいも変わらずどの人間も息苦しさを感じさせる表情をしているが今回の投票に時間はさしてかからず1分程で全員の投票が確認された。

 ピンポーン!

「全員の投票が確認されたので投票の時間を終了とする。それではこれより貴方達の為に自己犠牲とやらを示した結果を見てみましょう」

 中央の四方の大型モニターにそれぞれの顔と名前が表示される。

「それでは発表するわよ…。井川 甚平:0票。本間 未知瑠:0票。渡辺 穂希:0票。香川 詩音:0票。伊藤 護:0票。三代 亜紀:0票。室井 美来:0票。高橋 慶輝:8票。よって、投票数8票の高橋 慶輝、貴方がお仕置きよ」

 皆が俯き中で高橋は1人モニターを見つめる。

 円卓テーブルが開き中心へと移動する。

「高橋くん…」

「高橋…お前…」

「すまねぇ…高橋…」

 謝罪の言葉を述べる者たち。そんな彼らに向かって高橋が語りかける。

「俺…役に立ったかな?」

 その瞬間天からハイグレ光線が照射される。

「うわぁああああ!」

 高い声をあげて光に包まれる高橋。そして中心には生まれ変わった高橋 慶輝の姿があった。

「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!みんなありがとう!みんなの思いを受けて俺はハイグレ人間になれたよ!さぁみんなもハイグレしようぜ!ハイグレ魔王様に栄光あれ!」

 三鷹の時と違い光線の消失と共に即座にハイグレへの洗脳が完了した。

「高橋…すまねぇ…」

 伊藤が歯をくいしばり呟く。自己犠牲、このサバイバルゲームが始まってたから幾度となく見てきた。その行いが正しいかどうかは分からない。しかし地球人とは弱さ故に誰かを頼り、弱さ故に自分を失ってしまう、そこからこの行為は生まれ。もしかしたら彼らの本能なのかもしれない。

「それではこれより夜、洗脳の時間だ」

 私が宣言すると再び部屋の全ての照明が消えて何も見えなくなる。

"ピコン"

 これは…。

 五分後、照明が点灯すると円卓の中心には誰も居なかった。

「えっ?」

「これって…?」

  驚く人間達に私は通知する。

「先の洗脳はアクション仮面のスキルに防衛された。よって洗脳者なし」

「やっ….やった!!」

「良かった…。」

 曇っていた顔に微かな明かりが戻った。先程まで落ち込んでいたのに、人間とは何て単純なのだろう。目先のものだけを見て考えている…。

 私はふと手元のパネルに目をやる。

《アクション仮面:スキル使用。………。>

 スキルが活用された。ここからが本番のようだな。果たしてこのゲームの先に何があるか…。

 こうして2日目が終わった…。