2017年04月12日

マッシュルーム ガールズ

あたしの目の前に3人の女がいる。
 
 
左にいるのがマリーさん。
本名は麻里絵。
うつむいてテーブルの上を見つめている。
 
あたしより3つ上だから27。
明日の朝結婚式をあげる。いま夜の10時。 
いいのか? 
 
 
きれいな顔だなあ。
彼女の妹たちや幼馴染みのあたしにとっては、憧れの『お姉さん』だった。
  
彼女が弾けるように笑いながら、
友達とじゃれあっているのを見た記憶がない。
いつも静かに微笑みながら妹たちを見ていた。
彼女の理想的な形の頭蓋に浮かぶ微笑はむしろ
女性というよりも、どちらかというと
ミケランジェロの塑像のような、
男性的知性を感じさせた。
 
だけど、いつも妹たちを見つめる視線には、
意思の強さを感じさせるものがあるのだが、
今日のそれは、どこか虚ろだった。
 
 
そして彼女の髪型がマッシュルームカット。
いまだって、瞳の上の前髪を高く切り揃える
三戸なつめのような髪型はあるのだが、
彼女のは、前髪からサイドに至るまで
一続きの連続した曲線で作る古典的なもの。
髪の毛は裾にかけて
緩やかに内側にカーブしており、
頭全体がまるんまるんにボリューミーだ。
 
そう言えば記憶にあるかぎり、彼女はいつも
この髪型だった。
手入れするのに結構、手間とお金がかかる髪型だと思うが、いったいどうしていたんだろう。
 
 
 
マリーさんの右にいるのが、ちゃろ。
幼稚園の時からの、あたしの幼馴染みだ。
 
逆に言えば、あたしの立場も
彼女たちにとっての幼馴染みだ。
気がつくとあたしが
彼女たち姉妹に混ざっていた、
というほうが正しいけど。
 
 
で、ちゃろのやつは、髪を紫色に染めて
緩やかに波打たせている。
姉のマリーさんが、美しい黒髪を
マッシュルームカットにして
大きく天使の輪を輝かせているのとは
全然違う。
 
ちなみにちゃろっていうのは、
高校に入ってすぐの時に
こいつが自分でつけてきた呼び名。
中学のころまで、
あからさまにマッシュルームにはしなかったが
明らかに
マリーさんを意識した髪型をしていたから、
こいつが紫色の髪で教室に入ってきたときには
グラス中が驚いた。
あたしが一番驚いた。
 
ちなみに、こいつの本名は季美絵という。
いい名前なのに。
 
 
あともうひとり、
この姉妹にはいもうとがいるのだが、
子供の面倒をみているので、いまここにはいない。
 
 
 
 
 
そうして二人の姉妹の向かい側に
大橋のおばちゃんがいる。
「大橋」というのは、彼女たちの名字だから
そこに深い意味はない。
 
大橋家と、あたしんちは50mも離れておらず、
あたしたちは幼稚園も小学校もおんなじ。
ちゃろとは小中学校のクラスも、
放課後の習字教室もピアノも一緒で、
挫折した時期まで同じだった。 
 
学校が終わると、あたしたちは
うちに来たり、大橋家に来たり、
ほんとうに姉妹のようにすごした。
 
だから彼女たちのお母さんであるおばちゃんは
母親同然である。
たまに、おばちゃんは本当はうちのママの
姉なんじゃないのか、
という気がすることがある。
 
そのおばちゃんは、疲れ果てた顔をして、
娘二人の前に座っている。
 
 
  
 
『ママ。』と、ちゃろ。
おばちゃんはうつむいた頚はそのまま、
視線だけちゃろに向ける、  
 
『いつまでこんなことやってるの?』
『・・・』
『明日はもう、結婚式当日なのよ?』
『・・・』
『お姉ちゃんの好きにさせてあげなさいよ。』
『・・・髪型はだけは嫌よ。
ママが昔からお願いしてたのに』
『いいじゃない。髪の毛くらい。』
『だめ。』
『・・・』
『・・・』
『最初この娘。髪を切っていつもの髪型にしてくれる、って言ったのよ?』
『お式にあの きのこ頭で行けって言うの?』
『だってこの娘、あたし逆らうことなんて
いままでしたことがないのに。』
  
目の前にマリーさんがいるのに、
どこか無視しているような、おばちゃんの
しゃべり方に違和感がある。
 
『だから、「姉ちゃんを見張ってくれ」って
あちこちに電話したそうじゃない。』
『でも、心配だから・・・』
『見なさいよ。結局姉ちゃん、
髪の毛伸ばせなかったじゃない。』
『あたしは、いまの髪型が好きだから。』

  
 
この会話、今日だけで5周目くらいだ。
 
マリーさんの結婚が決まって、
日程が決まって式場が決まったあたりでは、
おばちゃんも幸せそうだった。
 
新婦方の親戚の招待客の選択と連絡は、
おばちゃんに一任されたから、
親戚の名前を書き出して、何日も眺めたり
意を決して電話して、
一日中話し込んだりしていた。
 
『今日はマリーがお式をあげるホテルの、
ラウンジでお茶してきたの。』
『お式の頃にはバラとアジサイが綺麗だって。』
 
 
 
ところが式の2ヶ月くらい前から
二人の機嫌が悪くなってきた。
 
おばちゃんに訊くと、
『あの娘、まだ髪の毛切らないのよ。』
マリーさんに聞くと、
『結婚式の時は長い髪にしてみたい。』
 
小学校に上がったときからさせられている 
マッシュルーム以外の髪型にしてみたい。
おばちゃんは、
『いつもやっている髪型だから、
特別な日にもして欲しい。』 
『あたしは、あれが一番かわいいと思う。』
 
これはおばちゃんに分がないな、と思いながら
ちゃろと一緒に説得すると、意外に粘る。
いつもなら、こんな程度の行き違い、
一日経ったら、どちらかが折れていたのだ。
 
二人の言い争いは次第に感情的になり、
特におばちゃんが感情的になり
おばちゃんはいかに自分が不幸かということを
誰彼かまわず言って回るようになった。
 
 
 
マリーさんにとって『式の時だけエクステや
ウィッグをつける、』という発想はない。
それができれば、
こんな騒ぎにならなかったのかもしれない。
しかし、20年間同じ髪型をしていたから、
彼女には『髪の毛で遊ぶ』という発想がない。
 
そのうえ『結婚式』で『憧れの髪型』だから、
余計、思考にゆとりがなかった。
 
そうなると、マリーさんの心に行き場はない。
逃げるようにマリーさんは実家を出たが、
好きに髪の毛を伸ばすこともできなかった。
  
おばちゃんが騒ぎ立てたため、
この小さな「事件」は、すでに街の暇人たちに
注目されていたからだ。
 
マリーさんは肩まで伸びていた髪を切った。
噂の圧力は減ったが、
もう一度伸ばし直すは時間はなくなっていた。
 
 
 
 
 
『あんたはマッシュルームにしないの?』
ちゃろが髪の毛を染めたあとで、
彼女に聞いたことがある。
 
『断られたのよ。』さみしそうに笑う。
『断られた?』
 
『高校に入ったときに、冗談みたいにして
「あたしも姉ちゃんみたいな髪に
しようかな。」って、ママに言ったのね。』
『うん。』
『そしたら、
「だめよ。あんたには似合わないから。」
って。』
『・・・』
『結構ショックだったな。あの台詞。』
 
 
『妹もマッシュルームじゃないじゃん。』
『あはは。あの娘はだめよ。天パだし、
黒髪じゃないし。』
『そうなの?』
『あいつは、うちの姉妹の突然変異種よ。』
『ふーん?』
『そもそも、
そんなことに興味がないらしいから。』
 
 
そんな昔のことを思い出しながら、
呆然とする。
 
 
 
 
 
大橋家の3人の女たちもなにも言わない。
 
 
『あー、つかれた。』
不意に大きな声がして、廊下から大柄な女が
座敷に入ってきた。
 
『もう三歳だから赤ちゃんじゃないけど、
ふたご二人を寝かしつけるのは大変だわ。
旦那が迎えに来るから、少し待たせてね。』
この姉妹の末妹だ。

『やっと寝たんなら、そのまま
寝かせてあげなさい。』とマリーさん。
『え、そう?』
『泊まっていきなさい。』
『式の前日なのに、悪いよ。』
『いいから。』
『うーん、じゃあそうしようかなあ。』
 
 
そうしろそうしろ、と、ちゃろもおばさんも
動き始めた。
『ところで、こんな時間まで
みんなでなにやってんの?』と聞くから、
ちゃろが簡単に説明すると。
 
『まだそんなことやってんの?』と
大声を出した。 
 
 
 
あたしたちがビックリして、
彼女を見つめると、黙って考え事を始めた。
あたしたち、年嵩の4人の女たちは
毒気を抜かれて、なにもできない。
 
『マリー姉ちゃん。』
『はい。』
『幼児には披露宴の席が作れないから、
うちの子達置いていくつもりだったけど
やっぱり連れていく。』
『え?でも。』
『結婚式だけ連れていく。
バージンロードを歩くときにベールをもつ、
ベールガールをうちの子2人でやったげる。』
『え?』
マリーさんは「悪いよ」という顔をしたが
目許は輝いていた。
 
『式が終わったら、
ここまで連れて帰ってこないといけないから
あたしも披露宴にでられなくなるけど、
よろしくね。』
『あ、うん。』
『髪はマッシュルームで来てね。』
『え?』 
『約束よ。』
『・・・あ、うん。』
 
今度はおばちゃんの顔が、
こっちは素直に輝いた。
 
『ここに泊まるっていったけど、
朝、忙しくなりそうだから、やっぱり帰る。
明日の式12時?じゃあ30分前にいくね。』
と言い終わったところで、
彼女と子供を迎えに来た旦那が
玄関のチャイムを鳴らした。
眠そうな子供達の背中を押して、
彼女も帰っていった。
 
 
『つむじ風みたいな娘ね。』
  
ちなみに彼女の名前は、郁絵という。
 
 
 
 
 
結婚式は大成功だった。
父さんに右手を預けたマリーさんが 
バージンロードを歩きだしたとき、
後ろを ことことと歩いて、
ベールを捧げてついてくる、
二人の小さな女の子が
どっちもマッシュルームカットである、
ということが見えてくると、 
会場は暖かい笑いと祝福に包まれた。 
  
マリーさんは笑っていた。
おばちゃんも笑っていた。
郁絵も、親子そろってマッシュルームになって
いつのまにか最前列にいて
娘たちに笑いかけていた。
 
お客さんも、みんな笑っていた。
 
 
 
 
 
披露宴が終わって、ちゃろとあたしと
郁絵とでお茶をした。  
 
『いやー、お疲れさまでした。』
ちゃろと二人で郁絵をねぎらう。
 
『ほんとよー。5時起きしたから眠くて。』
『そんな大変だった?』
『当たり前でしょ?
衣装も小物もなにもない。そのうえ髪の毛を
マッシュルームにしないといけない。
それが親子3人でしかも午前中にやるのよ?』
『・・・うーん。』
『試着室のドレスから丈があうやつを
かっぱらって、ホテルの理容室をむりやり
空けてもらって衣装を合わせてそれで5分前』
『うわー。』
『姉ちゃんからコーディネーターの名刺を
預かっておいて助かったわ。』
 
 
 
 
『それにしても姪っこたちにマッシュルーム
の髪型をさせたら、あんなに酷かった
二人の偏見がなくなるなんて。』
『へ?』
『いや、お互いマッシュルームにしろだの
嫌だのって。』
『なにいってんの?』
『ちがうの?』
『まだ、わかんないの?』  
『・・・うん?』 
 
しょうねえなあ、という顔を一度だけすると
郁絵は話し始めた。 

『だから髪型なんかどうでもいいの。
あたしが二人から消してあげようとしたのは
マリーさんがマッシュルームカットにしていた
20年間、二人にかかっていた、呪縛よ。』
『呪縛?・・・』
『ふたりとも、髪型っていう同じものに
こだわっているように見えるけど、
実は全く違うものに縛られてたのよ』
『?』
『「髪型はかくあるべし」とママに言われるとマリーさんは言葉そのものに縛られた。』
『・・・うん』
『かあさんにはマッシュルームの形のことは
どうでもよくて、
「マリーはあたしにしたがうべし。」と、
二人の関係性にこだわった。』
『ああ。』 
『議論が噛み合うはずないのよ。
現に今回だって
話し合いにならなかったでしょう。』
『うん。』
『だから誰かが呪いを解いてあげないと
いけないの。』
 『・・・』
『お前がこだわっているところは、実は、
たいした問題じゃない。』って。
 
 
『・・・そうか。』
『気がついたら今日みたいにやればいの。』
『マッシュルームを?』
『違うわよ。』
『ふむ?』
  
 
 

『ママが望むような、いうことを聞くいい子になんかにならないってことよ。』
 

うん、そうか。
 
おばあちゃんもマリーさんも、ようやくそこを
乗り越えられたんだ。
 
 
 
 
 
  
 
 
『むこうの座敷で
みんなでお茶してるから行こう。』
 

 
『うん。』
  
よし、いくか。
と思って足元をみると
今日のヒロインたちが寝ている。
 
 
あれ?
こどもたち、置いていくの?
 
『うん。そのまま寝かせといてあげて。』
 
 
   
 
 
 
今日、大活躍のマッシュルームシスターズは
綺麗なドレスと立派な式に大喜びだった。
 
大人たちとたくさん笑って、いまは
真底疲れきったかのように
ぐっすりと眠っている。
 
 
 
 
 
ありがとう。
お疲れさま。

 
 
 
 

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natsu_0117 at 03:02|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2017年04月01日

根性花見をしよう

この街でも桜がほころび始めた。

 

 

 

3月いっぱいで、ゼミの講師の奥田先生が
九州の大学に行くことになった。 
 
送別会をしよう。ついでに花見をしよう。
と言うことに当然なった。
 
 
神戸は花見の名所がないので苦労するが
花見だ。

 

 

 

 

 

 

今日は全国的に晴れだった。
ちょうど1日の 土曜日には満開になりそうだ。しかし、土曜日は天気が崩れるそうだ。

 

 

 

  

  
 
 
 
『でも、土曜日、雨らしいですよ。』
 
『うーん。』
 
『しかも、結構強く降るって。』
 
『ええよ。』 
 
『奥田さん。』 
 
『俺も引っ越しの日は決まってるし、』

 
『・・・なるほど。』
 
『教授なんかの偉い人は
最初の乾杯しかでないし』 

 
『・・・まあ、ねえ』 
 
 
 
 
 
『せっかくだから、根性花見ってのを
やらない?』
 

 
『なんですか?それ。』 
 

『むかし「雨の中、カッパを着て外で宴会」。

というのをやったんだ。』

 
『へー。』 

 

『若さ、でもあった。』
  
『もしもし?』 

 

『馬鹿』でもあった。

 
『なんでプロジェクトXみたいに
なってるんですか?』 

  
『な。やろう。』 

 
『まあ、おもしろそうだし。』 
 
 
 
 
 

  

 
 
 
 
 

当日の昼は すでに結構な雨だった。
乾杯だけして、 教授は逃げるように
建物に引き上げてしまう。
 
ゼミの女の子達も
きゃーきゃーいいながら 桜の下を
逃げていく。 

 
 
 
 
 
宴会に挑戦したのは、15人のゼミ生のうち
男ばかり10人。 
あとは奥田先生だ。
 
 
 
 
 


 

 

 

 

 

 

酒はいい、薄くても酒だ。

 
  

 

雨が降るのは わかりきっていたから

料理は必然的に鍋になった。

やっぱり鍋が欲しいし。

ということで3つの班が挑戦した。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カセットコンロに挑戦したのは
3人ずつの3組。
 
惨敗した。

雨より、風に弱かった。
 
火力が上がらなくて、
生煮えの白菜を食った。 

 

 

 

 

 

 

 

登山用のコッヘルは健闘した。
  

なかなか優れものだが1人用なので

すぐなくなるのが欠点だった。『「ダッチオーブン」を持ってきたら
よかったなあ』『あんな重たいもん持って来れるか。』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利したのは奥田先生が持ってきた
七輪だった。

かんかんに炭を熾すと
なかなか消えなかった。

 
 
 
 
『しかし、すごい灰ですね。』
 
 

『常に息を吹き込まないと
いけないからな。』

 
 
灰が舞い落ちるので、
ちっとも落ち着けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

料理はことごとく失敗したが
暖かい雨の中で 

みんなげらげら笑ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若かった、

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以上に馬鹿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、雨は明日には上がる。

 

 

 

 


 

 

 
  

  

 

 

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natsu_0117 at 15:39|PermalinkComments(0)

2017年02月24日

ベテルギウスの夜

あつ子さんは約束を守った。
 
 
 
親父の入院が長引きそうで、
親父が家のことがなにもできない。というので,
ばあちゃんちに行くしかないか、
という話になった時に彼女が
『あたしがやります。』と言ってくれたのだ。
 
 
 
 
しかし、親父が入院しているからといっても
毎日彼女に来てもらうわけにはいかない。
おれの飯の支度や、
パンツの洗濯までしてもらうわけにはいかない。
 
あつ子さんは、『いいよ、毎日でも。』と言ってくれたが
彼女と毎日二人きりなんてそんな状況、
とても耐えられない。
 
 
 
親父は長期入院だけど、
そんなに急に変化するような病状でもないので、
特に問題がなければ、週末だけうちに帰ってくる。
だから、その時だけ来てもらうことにした。
 
おれも別に彼女の家事に頼り切るつもりはなく
掃除をしたり、
平日にしか行けない役所や銀行に行ったり、
毎日病院に行って、見舞いがてら親父に着替えを届けて、
汚れたものを持って帰って自分の分を合わせて洗濯する。
一人でも病人を養うのってめんどくさいな。
そんなことをしている。
 
 
 
 
 
あつ子さんは、土曜日の夕方に来て夕食を作ってくれる。
 
『毎日ご飯作ってあげるよ。』と、言ってくれるのだが
それはかわいそうだ。
ありがたく断ると、
『あはははは、べつに、いいのに』と笑うのだが。
作ってくれる飯が、なぜかみんなケチャップ風味なのは
指摘しない方がいいんだろうか。
 
でも、おいしい。
俺一人だと、
めんどくさいからコンビニ飯ばっかりになるのは
決まってるしな。
 
ありがとう。
 
 
結局、彼女は土日に来て、ていねいに家を全部掃除して
その日の夕食と、そのあとも食べられるように
ジップロックに肉じゃがとか作って入れて冷凍してくれる。
大鍋にカレーをてんこ盛りで作っていってたりもする。
 
 
 
 
土曜日、彼女がうちに来てくれるのは、
部活が終わってからだから、6時過ぎになる。
それから手早く料理をして、
親父、あつこさん、おれの三人で食事をして、
なんだ?この組み合わせ。
 
終わると8時くらいになる。
洗い物までしようとするので、
そこはなんとか説得して帰ってもらう。
 
そして、こんな時間に
女の子を一人で帰らせるわけにはいかない、というか
俺がどうしても送っていきたいから、一緒に家を出る。
 
 
 
 
  
 
 
冷たいアスファルトの道を歩く。
 
南の空を見上げながら歩く。
 
 
 

 
 
 
 
 
白い月が蒼に冴えた空に上がって、かんかんに明るい。
南東の空にオリオン座が見えて、
オリオンの右肩の赤いベテルギウスと
青いシリウス、白いプロキオンの『冬の大三角形』が、
十七日くらいのきれいな月に負けずに
明るく瞬いている。
 

 
あつこさんも空を見上げながら、
 
『こうやって、冬の空見がら歩くとさあ。』
『うん。』
『ベテルギウス、超新星爆発しないかなーと
いつも思うんだ。』
『え?』
『でも、しないなー。』
 
 
急に何を言い出すんだ?
 
 
『ベテルギウスって、
もう星の一生のおしまいのところまで来てて、
いつ超新星爆発を起こしてもおかしくないんだよ。』
 
うん、なんか聞いたことがある。
 
『きっとすごいよ。スーパーノヴァだよ?
空が真っ白になって、昼よりも明るい空が
何日も続くんだよ?』
『うん』
『光が束になって、一杯に地球に降ってきて
それが何日も続くんだ。』
『・・・』
『昼も夜も真っ白で、その真ん中で両腕を広げて立って、
それで、両手を拡げて、わーってやってみたいなあ。』
 
 
 
 
 
空を見上げる。
俺もやってみたい。
彼女と手を繋いで白い空の下で、わーって。
 
 
 
 
640光年彼方のベテルギウスは、ひょっとしたらもう、
すでに超新星爆発してなくなっているのかもしれない。
その光は、しかし俺たちが生きているうちには
届かないのかもしれない。
 
 
 
 
もう一度、空を見上げて赤いベテルギウスを仰ぐ。
すぐに眼が、くらくらする。
 
 
 
 
 
『ありがとう。ここでいいよ。』
いつの間にか、あつ子さんのマンションのある交差点まで来ていた。
 
そのまま手を振って、エントランスの方に向かいかけた彼女が、しかし2、3歩あるきかけて、
振り向くと戻ってきて、小さな箱を渡してくれる。
驚いていると、
 
『チョコレート。』と言うと、
もう一度振り向いて、今度は大股でエントランスドアに向かった。
 
そのまま歩きながら『ハッピーバレンタイン。』と
きれいな声で言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
離れていく彼女と俺の640光年彼方に、赤いベテルギウス。 
 
 
  
 
 


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natsu_0117 at 01:07|PermalinkComments(0)

2017年01月26日

レンズの彼方

小学校の朝は早い。
今日はさらに早い。
       
今日は運動会なのだ。
従って『場所取り』のお父さんが並んでいる。






    
    
    
          
      
   
ちなみに、まだ朝の8時だ。
運動会の開会式が10時なのにすでに長蛇の列である。
        
みんな心得ていて折りたたみ式の椅子を持参して
長期戦の構えだ。
これだけは、俺も持ってきた。
        
去年、『朝一番のカメラ位置取り』を担当した
お義父さんからさんざんに聞かされていたのだ。
       
畜生、逃げやがって。












カメラがビデオのハンディカムからデジカムになっても
結局は場所取りがすべてである。


いや、被写体の子どもは、できあがった映像など
一度見たら飽きてしまうのだし
画角がどうの、露出がどうの、ズームのタイミングがどうのといったことは
正直どうでもいいと思うのだが
それ以降、その画像は、実家、義実家、そして嫁、と
果てしなくリフレインされるのである。


そしてうまく撮れていなければ『下手くそ。』、と。
そして、結局は機材が大がかりなことは
昔も今も変わりない。


俺でさえ、スチール用の一眼レフと
動画用の、ちょっといいデジカメを持ってきている。
いや、一眼レフで動画も撮れるんだが
静止画と、動画を同時に録画することに
なんの意味があるんだろう。













しかし、まだ2時間ある。
開門まででも1時間だ。
       
この時間でも日差しは強く、気温は低いが、とても眩しい。

       
       



律子の奴、このことを知っていて俺に席取りをやらせたのだ。

『こどもたちにご飯食べさせなくちゃいけないでしょー?』
と、いいつつ、
奴がお稚児さんのように日焼け止めを塗り込むのに
30分以上かけているのを知っている。












腕時計を見て、舌打ちしてそして
胸ポケットに手を伸ばしてから気がついた。

『ああ、そうか。小学校じゃタバコは吸えないよな…』

そんな風にもぞもぞしていると、隣にいるおっさんが
『あのー…』といって声をかけてきた。


すごいカメラを持っている。
俺だってカメラマンをやらされるくらいだから
素人以上の知識はあると思うが
このおっさんの持っているカメラは、ボディとレンズで
軽く俺の機材の倍はする。












『タバコをお吸いになるんですか?』というから

『はい…』と答えると、

『学校の周りじゃ吸えないでしょう。
少し歩いたところのコンビニに喫煙所がありますから
行ってらっしゃい。』という。






        
        
ありがたい話だが、こっちのカメラだって、
普通の会社員の初任給以上はするのだ。

もじもじしていると、
『荷物は見ていてあげますよ。
ご心配ならカメラとレンズは持っていらっしゃい。』という。

そこまで言われたらもう、断れない。
『じゃあ、すいません。』と
間抜けなあいさつをして、カメラを提げてコンビニに歩いた。














コンビニの入口に置かれた灰皿の前で
素晴らしくいい天気の青空を見上げながら、
そういえば、あの人は誰だったんだろう、と思った。

最近の小学校は、第三者の侵入に神経質で
俺も、首からIDカードのようなものを下げている。


当然学校から配布されるのだから本名で
俺の名札には『山村』と書いてある。


品質的にはIDカードとしては役にたたず、
言い訳のようについているバーコードに意味はない。














あのおっさんの名札にはなんと書いてあったかな。と
思いつつ、そのままでは悪いような気がして
ペットボトルのお茶を2本買って、学校に帰った。

例のおっさんは、黙然と素寒貧な青空を眺めていた。


『ありがとうございました。』といいながら
ペットボトルを差し出すと、

すごく意外そうな顔をして
『ありがとう。』といった。












彼の名札を改めてみると『咲川』とある。
『何年の方ですか?』と聞いてみた。

各学年1クラスで、全校生徒でも200人いないから
こういう質問が出来る。







彼は、思い出したように自分の名札を見ると
『…3年の咲川理恵の叔父です。』と言った。
      
一瞬『叔父さん?』と思ったのだが、
『実は弟に頼まれて、席取りに駆り出されてるんです。
義父母を連れてくるために車を出さないといけない。
だから兄貴に、席取り要員になって欲しい、と。』









3年1組の咲川さんといえば、可愛いいことで有名だ。
なんとかという、雑誌にもたまに出てるのよー、と
律子が言っていた。



『たまに』の部分を強調して。



そうか、あの子か、と俺も思い当たった。
なにしろ200人だから有名な子は顔くらい知っている。











『へー、それは…』といいつつ、
『うらやましいですね、』と言いかけて
さすがにその言葉は飲み込んだ。

うちの子が可哀想じゃないか。



しかし、隣のおっさんは、お世辞にも
あの可愛い子の血縁だとは思えない。
安っぽいジャンパーにジーンズ。

休日だから、この時間でも存在が許され、
高級カメラを持っているから通報されないだけで、
シルエットだけ見れば、好意的に見ても失業者、
普通に見れば不審者だ。


そこまで言うのは悪し様にすぎるか、
と思ってみるが彼が立派なのは
カメラ機材だけである。


そうはいっても、席取りに来たにしては、
あまりに立派な機材なので、お世辞がてら
『すごいカメラですね…』と言うと、
『いやあ、席取りだけじゃなく、カメラマンも任されてますから。』と言う。












まあ、そういうこともあるかな、
と思いつつ空を眺める。

8月までの濃い青い空とはすっきりと変わって
10月も近い空は薄く、高くなり、朝のこの時間なら
空気が乾いていて、襟の内側が涼しい。

茫然と空を眺める。




最近のトレンドは『ポータブル脚立』だ。
それこそむかしのベータカムの時代には
本気脚立を持ち込む奴がいたらしいが
さすがにいまは禁止されて、
だからザックに入るような小型の脚立だ。


そして、それだから『場所取り』が、圧倒的に重要な意味を持つ。
俺を含めた数十人のおっさんが、
首から怪しげなIDカードを提げて
これもポータブルの椅子に座っているのだ。


なんだろう、この週末。









こんなに晴れた秋の休日の朝、
海にでも行って、もちろん泳げる季節ではないけれど
浜辺で寝そべっているだけで最高ではないか。


運動会の天気としても、最高なんだろうが。










隣の咲川さんの叔父さんとの間とは、
その後、特に話をすることもない。
   
彼は、カメラの点検に余念がなく、
時折、投校中の子どもにレンズを向けて
シャッターを切っていた。


本気だ。













『開門しまーす。』という声が聞こえた。
西門のところに4年生の担任の田中先生が立っている。


各学年1クラスなんだから、先生の数は、
音楽や図工、保健といった専門科から管理職まで
20人ちょっとしかいない。
だから、俺でも先生の全員の顔を知っている。

彼は、いつもよれよれのジャージを着ているはずだが
今日はブルーグレーのポロシャツと
生成りのチノパンを穿いている。


ブランドには詳しくないが、あのシャツは確かすごく高いぞ?









一人ずつ校門を入る。
みんなえらい機材を持っているし、脚立やお茶その他が入った
下手をしたら、
インド横断くらい出来そうな大荷物を抱えているので
進行が遅い。

咲川さんの叔父さんも、
俺よりも大きな荷物を抱えて立ち上がった。




『大丈夫ですか?』と、思わず聞くと、

『勝負は校門を入ってからですよ。
ダッシュしないと、いいポジションは取れませんよ。』



なるほど、と納得して
俺はカメラのホルダーとザックを握りなおした。

























結局、咲川さんは来なかった。

あの『叔父さん』も、児童当人も、だ。





ほとんど意味のないIDカードだが、
田中先生はポロシャツの襟を立てながら、
一応は本人確認をしていた。


そうしたら、欠席届が出ていた咲川さんの
『叔父さん』と称する人物が現れたので
警察に突き出されたらしい。












俺も、きれいな女の娘を撮りたい。












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natsu_0117 at 07:51|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2017年01月08日

山極氏の転職

山極氏は悩んでいた。 
義父から、
家業の電器屋を継いでほしいといわれているのだ。
 
 
 
 
 
山極氏は銀行員だ。
 
高校を卒業して、当時は相互銀行といった
地元の銀行に就職した。
諸事情があって大学に進学できなかったからだが
就職先が銀行、ということで親は喜んでくれた。
 
その後、
世界を舞台に大企業相手のマネーゲームをするような
エリートコースとは無縁の
『地域の銀行屋さん』として、銀行というより、
どちらかというと信用金庫に近いような仕事をしてきた。
 
 
 
 
 
 
就職して10年経って、見合いをして結婚した。
交際しているときは、
『おとなしい人だな。』くらいに思っていたが
結婚したら、その暗さに驚いた。
 
ものすごくネガティブなのである。 
 
話をしていると、がっつり疲れる。
ママ友からも敬遠されているらしく、
それが余計に彼女の暗さを加速させているのだが
自業自得だから、なにもアドバイスできない。
 
 
それでも子供には恵まれた。
なぜか義父さんだけ『きい君』と呼ぶ、その男の子は
嫁にそっくりで真っ暗に暗い。
 
 
うちに帰りたくないな。
 
 
 
 
 
 
 
家がそんな具合だから、
嫁も実家によく行っているようだ。
 
それでも、まあ盆暮れだけの付き合いなら構わない。
嫁が、時々きい君を義父さんに預けているらしいが
それで嫁の機嫌が晴れるんなら、
それでいい、と思っていた。
 
 
 
 
ところが、年末から急に義父さんからの
『店を継いでくれ』コールがひどくなったのだ。
 
 
 
 
なぜだ?
 
 
 
 
どうも義父の店も、流行っていないらしいのだ。
いまや、家電電器は量販店や、ネットで買う時代。
街の電器屋さんに生き残る余地は少ない。
 
山極氏も銀行員だからそういう大状況は読める。
 
 
 
だから、義父の『店を継いでくれコール』に
応える気は起きない。
 
地元では名門の『銀行員』の地位を捨てるには
あまりにもバランスが悪い。
 
だから、それに対しての返事は曖昧にしていた。
 

 
 
さらに、仕事も忙しくなった。
 
12月に山極氏は一つのプロジェクトを立ち上げた。
というとかっこいいが、
倒産間際の地元の不動産会社に自ら参加して
店を作ったのだ。
 
 
 
 
 
 
実をいうと、山極氏には
銀行員以外にやりたい仕事があった。
 
 
うどん屋だ。
 
 
祖父が香川の出身で遊びに行くと、
自分で打ったうどんをご馳走してくれる。
 
あまりおいしいので何回も作り方を訊き、
自分で出汁を引き、
実際にうどん玉を足で踏んだりもしたから、
いまでも、水準以上のうどんを作る自信がある。
 
 
 
しかし、銀行員という
世間的に固くて安定した職業に就いてしまうと、
なかなか『うどん屋になりたい』とは言い出しにくい。
 
あの暗い嫁が、世界が終わるような顔をして
義父に泣きつくか、と思うと『見果てぬ夢』であった。
 
 
 
 
 
 
そこに、市内で不動産業を行っている古田氏の会社の
立て直しの案件が来た。
 
古田氏は市の中心部にある、といっても
今はすっかりさびれた地区にある、
戦前からのビルを所有している。
そうしてそこは、
中規模の証券会社の支店が、ビル一棟ごと借りていた。
 
安定した会社である、として
たいした金額ではないが山極氏の銀行も融資をしていた。
 
だから緊急の運転資金というわけではない。
 
 
 
 
ところが証券会社の本店が
支店の整理、統合ということで、
このビルの賃貸契約を解除することになった。
 
古田氏の不動産会社の収入は、
ほとんどこのビルの賃料だったから、
契約を打ち切られたら大変だ。
 
 
貸出残高は大したことはないが、
この危機を機会に、山極氏の銀行がそれを引き上げたら
おそらく耐えられまい。
 
 
『だから、助けてやれ。』
 
 
という支店長の命令を聞きながら、
『人間味のある銀行でよかったなあ』と、思う反面、
『こんなことやっているから、
一流の都市銀行になれないんだよな。』とも思う。
 
 
 

 
 
 
 
さて、どうしよう。
 
支店がなくなるくらいだから
にぎやかに華やかな通りではない。
 
世間的には『シャッター商店街』である。
 
しかし、とにかくテナントを入れなくてはいけない。
『一棟丸ごと』というのは、もはや不可能なので
2階から上はオフィス以外にも、学習塾、ネイルサロンなど
いろいろな業種から募集してはどうか、と提案した。 
 
1階は商業施設、店舗でも飲食店でもいいのだが
高い賃料が期待される1階には、客が来る店に来て欲しい。
 
 
 
 
2階から上のテナントは、フロアを小分けにしたら
意外に早く埋まった。
 
こまったのが1階で、
JAがATMコーナーを作ってくれることになったが
全部のフロアはいらない、と。
 
50㎡ほどのスペースが余ってしまう。
 
 
ビル全体の収益を考えたら、
そのくらい空きフロアがあっても
もはや大差ないのだが
やっぱり、『ビルの顔』である1階、
商店街に面した一角が空きスペースになっているのは
印象が悪い。
オーナーの古田氏に、何とかしてくれと泣きつかれた。
 
 
 
 
銀行としては、再建計画を作って
それを資金面からサポートすればいいのであって、
テナントの募集まで責任を負う必要はないのだが、
ここで山極氏に、ちいさな欲がおこった。
 
 
『自分のうどん屋を開きたい』  
 
 
そのことを古田氏に伝えると、
とにかくテナントを入れたい氏は、
飲食店に改装するために必要な、
ガスや水道の容量の拡大をするための
費用を持ってくれることになった。
 
そこまでしてくれたら、引くに引けない。
 
 
 
 
といっても銀行員をやめる決断もつかないので、
『昼休みだけうどん屋に出勤するオーナー』になった。
 
接客もするが昼の12時から2時までの間に
麺を作っておく。
  
いまは頼りないバイトの子も、あと1年もしたら
麵を踏むくらいはできるようになるだろう。
 
 
 
 
 
そんなわけで、
うどん屋の店頭に立つときはネクタイ姿である。
さすがに場違いだと、自分でも思うのだが
昼休みの後に、銀行に帰らないといけないのだ。
 
古田氏のビルの再建計画については当然、
支店長に報告しているが
そのテナントの一つにうどん屋があって、
そこでうどんを作っているのが自分である、ということは
報告していない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
山極氏のうどんの特徴は出汁にある。
かつおの風味を際立たせるために、
注文のたびに出汁を引く。
注文が重なる時など泣きそうになるが、
ここだけは譲らない。
 
午前中や昼過ぎなど、山極氏がいない時間帯に
出汁が引けるよう、
手伝ってくれる、古田氏のお母さんを特訓した。
 
開店から2か月経って、
ようやく合格点をあげられる出汁を引けるようになった。
 
 
 
麺は、夜のうちに山際氏が自宅で踏んでおく。
練って踏んだ麵玉は、
少し時間をおいて熟成してやらないといけないからだ。
 
本業の銀行員としては、残業したことがないのに、
うどんを作るとなると残業もいとわない。
 
山極氏は自分で自分がおかしかった。
 
 
 
具は、ごく控えめ。
鶏肉と、なぜかナルトが入る。
 
祖父のうどんがそうだったからだ。
古田氏のお母さんには笑われるが
これも山極氏は譲らない。
 
 
こうやって書き出してみると、
意外に頑固な山極氏のこだわりもあって、
うどん屋は地味に人気を集めるようになっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
そうやって目立つようになれば、
義父さんに見つかる、とは思わないのかというと、
外食は滅多にしない人だからそこはノーガードだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それが、来た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『やあ』といって入ってきたのは芹沢さん。
うちのうどんをひいきにしてくれて、
週に1回くらい食べに来てくれる。
 
 
 
『今日は新しいお客を連れてきたよ。』
という声とともに入ってきたのがお義父さんだった。
 
しまった、この二人は
暇なとき時々つるんでいるんだった。
 
 
 
 
 
俺と義父さんと、二人して固まった。
 
 
 
 
 
芹沢さんが
『ここのうどんはうまいんだよ。
マスターがいつもネクタイ姿だから、「変な店だな」
くらいに思ってたんだが、食ってみると実にうまい。
お前も食ってみろ。』と、いってくれる。
 
  
 
しかしお義父さんは、
『安男君、銀行は辞めたのかね?』
と訊くから、
『いや、これは業務の一環で』と説明しかかると
 
『うどんを打つ銀行なんてあるのかよ』と、
真っ当なことをいう。
 
 
 
返事に詰まっていると、芹沢さんが
『何だ、知り合いだったのか?
そういえば二人とも名字が山極だったな。』
といって笑うが、、俺も義父さんも無言だったので、
 
『まあ、とりあえず食ってみようぜ。うまいから。』
と言ってくれて救われた。
 
 
 
 
うどんの鉢をふたつ調えて二人の前に出して、
なにか審判を受けるような緊張感に耐える。
 
芹沢さんは、
『いやあ、相変わらずうまかったよ。』と言ってくれたが
義父さんは、黙ったまま食べ終え、
やはり無言で会計をして、先に店を出た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あの日以来、義父から
『電器屋を改装してうどん屋にするから、
後を継いでくれ』という電話が
しょっちゅうかかってくる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
改装しちゃったら、継ぐべき『跡』もなくなるんだけど、
それはいいのか。

 
 
 
 
 


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