2014年03月

2014年03月31日

公園を作る

公園を設計することになった。
というとかっこいいが、俺は設計事務所の雇われ社員だ。





担当するのは、郊外にできるマンションの150㎡ほどの
『提供公園』というもの。



意識していないだろうが街中でみんな見ていると思う。
『変に小さい公園があるな。』と。

なにが『提供』か?というと、これは開発者である
不動産会社なりマンションディベロッパーが土地はもとより
公園の植栽や遊具まで含めて、自治体に『提供』するのである。


『ずいぶんひどいことするなあ。』とは、
住民の皆さんも思ってほしいのだが、
昭和30年代後半から
郊外への人口の流出というのが始まった時に
それを受け入れる郊外の自治体は恐怖した。

なにしろ今まで田んぼだったところを『分譲』して
隣の家と20センチも間隔がない、よく施工できたなという
馬鹿馬鹿しい『住宅地』が、
しかも3階建てで田んぼに林立する。

メインの府道に出るためには、
あぜ道をかろうじて舗装した道しかなく
府道に出たところで、そこにしてもちょっと立派なあぜ道である。




自治体からすれば、大迷惑だ。




道路だけでもこんな具合で、
それでも5年前までは家なんかなかったから
なんとかなっていたのだ。
そして困ったことに
国や県が大規模に開発する『団地』ならともかく
都市計画法が追い付いていなかったころには
百姓が、自分の土地をどんどん切り売りしちゃうのである。


住宅基盤がないところに、上下水道、学校、道路、消防、警察、
あらゆる公共サービスを準備しないといけない。






できねえよ。






ということで東京の地方都市が始まりなのだが、
大規模な住宅開発行為には金を出せ、
側溝を整備して差し出せ、そして、公園を作って、
もちろん遊具や植栽もすべて調えて差し出せ、
という、ヒステリーがかった条例が
世の中にまかり通ることになった。

いまでは、開発負担金を出せ、というところはなくなったが
公園だけは作らされる。

戸数や開発面積で計算する式も、ちゃんと決まっていて、
俺が担当したマンションでは150㎡になった。
45坪、90帖だ。

そういう数字で聞くと、広いと思うだろうだろうが、



更地の150㎡って狭いよ?



間口15m、奥行10m。
駐車場だったら5台も停められない。








で、

こんな狭い公園をどう作るのか、というと
ちゃんとマニュアルがある。

ある、どころではなく、
緑地は2割とれ、遊具はいくつ置け、
必ず高木を植えるんだぞ、と
大変うるさい。


要綱書に書いてあるだけでもそれだけうるさいのだが
実際に計画図を書いて市役所に持っていくと
俺よりも二周りくらい年下の小役人に、
『ここにもう一つ、遊具を置いてくださいよ。』なんて言われる。



はらたつ。



『緑地も足りないんじゃないですか?』なんて言うから、
『要綱には、高木一本で10㎡に換算する、って書いてあります。
3本植わってるんだからOKでしょう。』というと、
反論なんかされたことがないらしく、
要綱をぺらぺらと開き直して、無言になった。




ざまあ。





『でも遊具は設置してください。』

『具体的には?
この狭い敷地に、滑り台やブランコなんか置けませんよ。』

『まずベンチ。それと機能遊具。』

『機能遊具?』

『遊びながら運動できる器具、です。』

『たとえば?』

『そりゃいろいろありますが、
狭いって言うならバネの上にパンダとかか乗っている
奴があるでしょう。』






ああ、あるな。
バネの上でパンダがビヨンビヨンする奴。


あんなの誰が遊ぶんだろう。








『あんなの作っても遊んでる子なんか見たことないですよ?』

『いいんです。
面積に応じて遊具の設置点数がきめられているんです。』







そうか、役人も大変だな、







『とにかく、この公園にはベンチを1つ。
遊具を2つ設置してくださいねっ。』

『ビヨンビヨンするパンダ?』

『パンダじゃなくてもいいですが。』


















公園が竣工すると、引き渡しのために検査を受ける。
俺は、満開になった3本の桜しかない公園に
あの小役人と、初対面だが彼の上司である課長を案内した。

表面が土ではさすがにさみしいか、と
パーライト、という真っ白な砂利を、敷地全部に撒いた。


とても柔らかい石なので数年もしたら、
ふまれてさらさらの砂になるはずだ。

その、真っ白な地面の上に、
4mほどで等間隔に植えられた桜が、
うすく紅くそして、いっぱいに咲いている。

さらに、樹と同じ間隔で、樹とは2mほど離れて、40cmほどの、
濃いベージュ色の御影石の立方体が置いてある。











『ははあ、桜がきれいですなあ。』

『ええ、竣工が3月でしたから、
今年は咲かないかと思ったんですが。』

『いや、きれいです。』







『ベンチや遊具はどこにあるんですかっ?』と
あの若造が言う。

『ベンチはそこにある御影石です。』と、
俺は桜の木を前にして、3つある御影石の真ん中を指差した。。


『背もたれがない。』とかぶつぶつ言っている彼は、
『遊具はどうしたんですっ?』と、喰ってかかる。

『それですよ。』と、今度は両端の御影石を指差した。

怪訝な顔をするので
『坐ってみてください。』といって坐らせたら
ビヨンビヨンしたので飛び起きた。



『ご注文のスプリング遊具です。』


























300kgの御影石を支えるバネを特注するのは
既製品のパンダを買うよりも高くついたけどな。





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natsu_0117 at 09:57|PermalinkComments(3)TrackBack(0)

2014年03月27日

霧を歩く

霧だ。



マンションの玄関を出た時に驚いた。
夜中なのに、霧がはっきりと見える。

100mほどしか離れていないビルの航空障害灯が
霧のかなたに けぶっている。

いつもは海まで見えるのに、ほんの手前の社宅しか見えない。
ここまで見えないと、なんか笑える。




エレベーターを降りて、地上に降りたら
地面の匂いがする。

土の匂いがする。
木の芽の匂いがする。

へえ、と思って見上げると、桜もこぶしも
うんと花芽を膨らませていた。







そうか。






なんか、うれしくなって街を歩く。
雨なんか降ってないのに地面も露を帯びている。
交差点の信号がにじんでる。


草の匂いがする。
猫になった気分だ。


街にはいろんな匂いがあるよ?
それはもちろん、いやな臭いもあるけど
『土の匂い』なんて、あたしは好きだ。

むかしの家の中のような匂い、とはちょっと違うな。
でももっとずっしりとした質感で、『土』

草の匂いもみんな違う、
草、といってもいろんな匂いがある。
暖かい露に包まれると、それが聴こえる。
公園なんかの低木でもいい匂いのがある。









と、












ひとつの匂いが、あたしの鼻をとらえた。
沈丁花だ。



あたしは、初めてのデートの時に
駅前に植えられていたこの植込の前に連れて行かれて、
『ほら、いい匂いだろう。、』って言われたんだ。

沈丁花の匂いっていうのはきんもくせいよりはるかに弱くて
だから、鼻を近づけてその甘酸っぱいにおいをかいだ時に
ちょっと幸せだな、と思ったんだ。

次の年、同じ通りを歩いた時に
『ほら、今年も沈丁花』って言われて
なにも気がつかなかった、あたしも悪かったわよ。







子供がいなかったので離婚は簡単だった。


だから、連絡もしてない。市内にいるらしい。











沈丁花の匂いを追う。
弱い香りだけど、風がないから伝わる。


『この辺には社宅や独身寮しかないのに』、と思った時に
20坪ほどの建売住宅の群れが現れた。

最近売り出されたらしい。
そのうちの一軒が、狭い敷地に無理やりなような植栽をしていて

それが沈丁花だった。



表札の名字は、見なかった。
























あたしは、霧の中をひとりで帰った。



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natsu_0117 at 22:47|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2014年03月12日

停まる理由

近所にコンビニがある。
左隣は小学校、右はマンションだ。

午後三時になると、ここに来る。




仕事の途中、『気分転換』、と称してここに行く、
外でたばこを二本吸う。
今は、事務所でも、街でもタバコなんか吸えない。

だからコンビニの店頭にあるこの灰皿に行く。



事務所を空けるのは、ほんの二十分くらいのことなのだが
事務の由里子さんは、2年前にうちの事務所に来た最初は
怪訝な顔をしていた。

2年目は『ケータイ持っていってくださいねっ。』と
不機嫌な声を出した。

だから、それ以降おやつにコンビニスイーツを買って、
彼女にお土産を持って帰る。
それで、みんなでお茶にすることにした。

いまは、『いってらっしゃい』、と言ってくれる。

我が事務所の『所長の権威』は、俺の存在ではなく
所員3人分、600円の日々のケーキ代で支えられている。

そして三時に来ることが恒例になった。










さて、件のコンビニだ。


ここに、平日の昼間にもかかわらず
たくさん車が停まっている。

元は町工場だったらしい300坪ほどの敷地の
1/4ほどにコンビニが建ち
残りは駐車場だ。

だから店とは不似合に駐車場が広い。

15台くらいの駐車スペースがある。
そしてここが、常に埋まっているのである。

大体2/3くらい常に雑多な車種の車で埋まっている。
そして、これが不思議なのだ。













コーヒーを飲んでいる人がいる。
うん、買いたてだから、
あったかいうちに飲みたいだろう。

そのくらいの休憩は欲しいよな。

もちろん牛乳やジュースを飲んでいる人もいる。
冷えてるものなら、よそで飲めばいいのに、とは思う。
言わないけど。





おにぎりを食べている人もいる。
これはどうだろう。

気持ちはわかるけど、
事務所に帰れないくらい忙しいのか?
昼飯に帰るのを許さないくらいブラックな会社なのか?

でも、なんか慣れているんだろう。
結構くつろいで
車の中でもぐもぐしている。






圧倒的に多いのは、『寝ている人』だ。


コンビニの駐車場に停まっている車なんだから、
買い物客だと思いたいのだが、中で寝ている人がいる。
しかも運転席で寝ている。

この間見たのは、ハンドルの上に靴を脱いだ足を乗せて
シートを倒して思いっきり寝ていた。

前から見たら
靴下をはいた足の裏だけが見えているので驚いた。

そこまでじゃなくても、シートを傾けて寝ている人がいる。
さらに不思議なのが、車種がバラバラなのだ。




昔は、タクシーの運転手が、
こうやって仮眠をとっていることがあった。

俺が通っていた大学は、
郊外に移転したのはいいが、予算がつかないらしく
『何かを作るらしい、広大な建設予定地』が
構内にいくつもあった。

建物は建たないのに樹だけは植わっているから
すっかり育って青空に届きそうな、すずかけの樹々が並んでおり
心地よい木陰をたくさん作っていた。



そこに何台もタクシーがいたのだ。
構内の敷地はやたらと広いから思い思いの場所に車を停め、
運転手が気持ちよさそうに寝ている。

中には運転席と助手席の扉をあけて、
すっかり風通しを良くしている車もいた。
なるほど、街中でこれはできない。

でも、タクシーって歩合給じゃないのか?
しかし、昔はそういう車が何台もいたのである。



ところが今はない。
いまのタクシーは、運行履歴が記録で残ってしまうので
あからさまな長時間停車は、
すぐに『さぼり』だと ばれてしまうらしい。

それでも、営業マンらしいのが、軽自動車や
トラックの運転席で寝ている。
















その中で、最近気になる車がある。

ワンボックスカーで、中年の男性が乗っている。
寝ているわけではなく、飲み食いもしていない。

時折腕時計を見ながら、小学校のほうを見る。
停まる場所も決まっていて、駐車場の入口の隣。

状況から見て、小学校から帰る子供を迎えに来ているのだろう。
なんて過保護な親か、と思っていたが
たばこ2本、5分間の間では、
その子供を見ることは、いままで できなかった。






ところがその日、電話があって事務所を出るのが10分遅れた。
煙草を取り出して周囲を見回すと、「あの車」がない。


いや、いた。

しかし定位置ではなく、一台奥にいる。
彼の定位置にはトラックが停まっているのだ。

父親は?とみると、入口の所に立っている。

と、小学校の陰から、低学年の女の子があるいてきた。
父親が毎日迎えに来るくらいだから
怪我でもしているのかと思っていたが
普通にランドセルを背負っている。


彼女は、コンビニの駐車場の入口まで来て、
いつもの場所に行き、手で触って
それが父親の車がないのに気付くと、
驚いたようにあたりを見回した。

すぐに父親がやってくると手を引いて、彼女を車まで連れて行き
淑女をエスコートするようにスライドドアを開けた。

彼女は、やはり淑女のようにゆっくりとステップを上がって
後部座席に座ると、
ランドセルも下さずにちょこんと浅く座り、
横に置いてあった白杖を手に取った。



そうか。

学校では使わないようにしているらしい。
多少は見える、ということなのだろう。

しかし父親が迎えに来るということはその程度なのだろう。
そして、車の中でそれを手にした、ということは
家までの距離も その程度なのだろう。

































納得した時、俺はフィルターを吸っていることに気がついた。




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natsu_0117 at 15:50|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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