2014年07月

2014年07月29日

滴が見える距離

目が悪くなった。
子供のころには近視で乱視で
それは今でも変わらないんだけど
歳をとって老眼にもなった。





むう。





ピント合わせができないカメラになった気分だ。

だから、車に乗る時などはコンタクトや眼鏡をするのだが
『せっかく作るんだから。』という貧乏性が出て
1.2とか1.5とか不必要なハイスペックを求めたおかげで
普段は使えない。



近いところが見えない。
疲れるんですよ。


別に普段遠距離を見る必要はない。
パソコンのモニターしか見ないんだから
視距離40cmの、ぼんやりした視界で
『もう、しょうがないよな。』と思っていた。










と、





シャワーを浴びていて、軽いショックを受けた。
見えるのだ、鮮明に。
ただし、一瞬だけ。

なんだそれは?というと
髪の毛を洗うと滴が落ちるでしょう。
落ちていく水滴は灰色の漠然とした『水』なんだけど

その落ちていく滴が、一瞬だけ鮮明に見えるんです。
それはもう、高級カメラのCMの静止画像みたいに
滴の色も、形も、はっきりと見える。
一緒に飛んでいるもっと小さな水の粒まで、
虹色に見える一瞬がある。


でも、それは、本当に一瞬で
髪の毛から次々と落ちていく水滴を見て
一瞬だけ鮮やかになる、その色彩がきれいだ。
でも、驚いた。








その距離だけすごく鮮明に見える。






どうやら俺の眼は、
自動でピントを追う機能を失ってしまったらしい。
レンズの回らないカメラ。

焦点距離、30cm。

その一瞬なら、崩れる水滴の形も、虹色の色彩も見える。
3cm前後したらもうだめだ。
すごく微妙。




俺はこの『30cmの焦点』の存在に驚いた。
距離よりも、まだそこだけは鮮やかに見えるんだ。



























恋をした。


老眼が恋をしたっていいだろう。
一度結婚したけどいまは、独身だ。

相手は、南さんと言って、会社の人だ。
年齢は『アラフォーですよー』と言っていたから
そうなのだろう。

そういう言い方でいえば、俺は『ジャスフィフ』だ。
つまりちょうど50だ。



それでも、そんな二人だってデートする。
10も歳上だから、なんか奮発しないといけないかな。
と思ったんだけど、恥ずかしいから
会社の先輩と後輩っていう立場で飲みに行こう、と
元町の居酒屋とかに行った。

でも、そういう店は、明るかったり暗かったりするけど
カウンターでストールに坐ると、
彼女の顔が30cmの焦点距離にロックオンできない。
明るさや角度、酔っ払い具合にもよるらしい。
そりゃそうか。


きれいだなあ。
きれいかなあ。


という間をぐるぐるする。








1年ほど、俺の気持ちもぐるぐるしたあげく
告白することにした。

夜景の見えるレストランにエスコートして食事を楽しむ。
さすがに先週まで、湯豆腐120円の店に
連れて行かれていたのだ、
彼女は面白いくらい緊張している。
もちろん眼鏡はかけていった。

それから展望台に行き、周りに若造もいたけどさ、
それでも思いを告白し、
彼女の顔を引きよせた。

眼鏡は外した。
30cm以上でも、まったく見えないわけじゃない。

ああ、久しぶりだな、と思うとともに
暑かったから化粧が落ちてるなあ、といった、
どうでもいい視覚情報を脳みそに放り込みながら
顔を近づけていくと、



30cmで彼女の顔にぴたりとピントがあった。



彼女は、右眼に涙をためており
その滴がはっきり見えて
それは、形から震える様子から
夜景の虹色を拾って光るところまで
鮮明に見えた。



涙って、虹色なんだ。



























俺は、他にも鮮明に見えたはずの部分を見なかったことにして
彼女の唇に、ちいさくキスをした。






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natsu_0117 at 23:51|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2014年07月26日

日盛りの公園の砂場で女の子が遊んでいる午後3時

大体、こんな真夏の昼日中に外回りさせるなよ。
気温ももちろん、湿度がひどい。


今年の梅雨は、雨を降らさなかった分、
真夏に湿度を残したんだな。


なるべく木陰を拾って歩こう、と公園に入った。
割と大きな公園だ。
クスノキ、ケヤキ、シイノキ、桜、などが
濃い木陰をつくっている。


新緑の頃のまだ、みどりいろの木陰とは違う、
真っ黒な木陰を歩く。
直射日光にあたらないだけ、ありがたい。





と、

木陰の多い、この公園の中で
なぜか陽だまりになっている砂場の中で、
小さな女の子が砂遊びをしていた。

スコップや、いくつかセットになったバケツのおもちゃまで
持ってきているんだから遊びに来ているんだろう。

しかし、暑さに倦いたかのように動きは緩慢で
なに作ってんだろう。

っていうか楽しいのか?





暑さの中で、この時刻にはセミの声も途絶える。
日向の砂場の小さな女の子、というのは、
ひょっとしたら、シュールレアリスムの映画のような
空白、を見ているような気がする。





一応、かわいらしい麦わら帽子はかぶっているが
日射病か、熱中症かそんなもんにかかるんじゃないか?

といって、いまの御時世、中年のおっさんが
知らない女の子に声なんか掛けたら、大騒ぎだ。



しかし、

脇を見ると、
東屋の下のベンチで、小学生の男の子、数人が
DSをやっていた。







お前らこそ太陽の下で遊べよ。







うん、暑いもんな。
あの中に、女の子のお兄ちゃんもいるのだろう。

俺は木陰の公園を出て、炎天下の外回りに戻ることにした。













一時間ほど経って、またさっきの公園に帰ってくると、
まだ、高い日差しと、分厚い熱気の中で
相変わらず女の子が、のろのろと、砂場で遊んでいる。

背の高い公園の時計は四時を少し過ぎたところだ。



あわてて東屋を見るとさっきの男の子たちがいない。




どうした?

やっぱりひとりか?とあたりを見渡すと、
さっきの男の子たちが走ってきて、

『よじ―』と叫びながら、

水飲み場で、バケツに汲んで来た水を、
女の子の頭上高く、空に向けて撒いた。


女の子は、それでもたくさんの飛沫を浴びて
『きゃー』と立ち上がるが、
そのまま、一番背の高い男の子にかけよって、
ぎゅうって抱きつく。





みんなの頭の上に小さな虹が見えた。

























いいな。




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natsu_0117 at 22:55|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2014年07月25日

涼しい話をして暑い街を帰ろう

『えーと、そうめん。』

『なんで?』

『うちおばちゃん子だっから、夏休みの昼飯は
いつもそうめんだったんです。』

『へー』

『大きなガラスの鉢に、氷水の中に浮いててね、スイカとか、
缶詰のみかんとか入ってるんすよ。』

『ふーん』



『そりゃもう、子供大騒ぎですよ。
妹と、いとこと奪い合うようにして
氷水に泳いだそうめんを流しこむ訳です。』

『いいねえ。』

『でしょ?それで夏を感じるのが「色つき麺」、っすよー。
一把のうちに2本か三本、
赤とか緑のやつが混ざってるのが憎いっすよねー。』


『あっ』







『いまの課長の「あっ」は、心の底からの「あっ」っですね?』









くっそー。


いまわれわれがやってるのは
『外回り営業中でものすごく暑いんだけど、
夏に涼しい思い出し話 コンテスト』なのだ。
       

スイカは予想していたが『そうめんの色つき麺』という
渋いところを衝いてくるとは思わなかった。


課長の俺と、新人の美由紀さんと一緒に歩く。
街路樹の木陰だけ濃い、アスファルトの道を歩く。


果てしなく、暑い。









『次、課長の番ですよ。』

『えーと、蚊取り線香。』

『…へえ。』

『なんだっ、その「1へえ」はっ。』

『だって、あたしたちの世代だと、もう匂いがしない
「ノーマット」とか、なんですよ。』

『え?そうなの?』

『ばあちゃんちの広い縁側だったら、わぁ、って思いますけど
1DKじゃ服に匂いがついちゃいますもん。』











そういうもんかなあ。
ちなみに、花火とか浴衣とかかき氷とか、
そんな『記号的な夏』は却下である。
梅雨明け以来、4回目だ。

先週彼女が、『麦茶』というのを持ちだしてきて議論になった。

『麦茶自体夏のイメージとしてステレオタイプだし
コンビニに行けば真冬でも…』

っていったら、どわっと涙を浮かべて
『でも、おばあちゃんちの夏休みの麦茶は、濃くってあまくって…』







こいつの夏の記憶は『おばあちゃんち』だけか、と思うのだが
仕方がない。認めた。






われわれがやっている遊びがいったい何なのか、というと
圧倒して夏を感じさせた方が、喫茶店で
「スペシャル、ミルク金時かき氷」をおごってもらえるのだ。

ちなみに、1勝3敗だ。




しかし、未だこちらには最終兵器がある。





その後も、「セミ」「風鈴」「クーラー」、と
お互いをうならせることのない回答が続いたところで
俺の番だ。











『扇風機の前の青いセロファン』


どうだ、と思って振り向くと
彼女の顔に『いまさら何言ってんだこいつ』
という表情が掌ですくえるように現れてきた。

『いやっ、むかしのスーパーやデパートでは
クーラーの効いた売り場で、
デモンストレーションとして、青いセロファンをたゆたゆと…』

『…へえ。』

まずいっ、温度が低い。
『その時売り場に掛かっていたBGMがハワイアンだった。』



『……へえ』


なんだよ、その1マイクロピコへえはよ。







『売り場のBGMにハワイアンって、おばあちゃんとこの
田舎のスーパーがそうだったなー。』

くそ、田舎者扱いしやがって。
俺の夏のきらめく思い出も『ばあちゃん基準』なのか。
でも、なんか涙ぐんでるから、よしとしてやろう。








『じゃあ、お互い1ポイント。そっちの順番』というと
『えー、いまのはあたしの負けじゃないっすよー。』
とかぐずぐず言っていたから、
『もういいから、夏のテーマを。』というと、





『背中っすかね。』





『へ?』と聞くと

海が好きな美由紀さんは、
日焼け止めをたっぷり塗って海にいく。
ところが、どうにもむらが出る。

それでも苦労して刷毛やモップまで使ったのだが
背中に日焼けが残る。

『でも、背中塗ってくれる人いないすから。』
と、からから笑った後、

『日焼けのむらとね、焼けるから色が変わるでしょう。
それに、皮が剝けるから、
まだらになっていく背中を見ながら、ああ夏が過ぎるなって。』

『涼しいもの、じゃないじゃん。』

『だって、鏡見たらぞっとするんすよ?』











まいった。





















気持ちよくかき氷をおごりましたとも。


この勝ち方は、卑怯だけどな。





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2014年07月21日

白しか踏んじゃいけない

『白しか踏んじゃいけないんだぞー。』




いったいなんだ?

夏休みで身軽になった男の子たち、
小学校3年生くらいの4人が
三段跳びみたいな走り方をして、俺を追い越して行った。


横断歩道の白い部分しか踏んではいけないらしい。















ああ、やったやった。

なんだったんだろうね、あれ。






俺がガキの時は、横線が今より細い代わりに
縦線があって、はしごみたいだった。
だから、縦線を使うのは卑怯とされた。

『はしごは1回だけ、OK。』
『マンホールはセーフ、』とか。

なんだったんだろうね、あれ。










いまでもあるのか、と思って、にこにこしながら
横断歩道を渡り終えようとした時、

『あーアツシ、アウト―。』と、
先に渡った連中が騒ぎ立てる。



なんだ?と振り向くと。
横断歩道の中ほどで、
ひときわ小柄な男の子が立ちすくんでいる。

白い部分に届かなかったらしい。









先についた連中は、路側帯の白いペンキの上に立って、
そうか、それもセーフか。

しかし、はやし立てる。








しかしもうアツシ君は委縮してしまって動けない。
横断歩道の間隔なんて、大人ならひとまたぎ、
子供でも、充分に立幅跳びで飛べるだろう。





アツシが飛んだ。




だけど、なんで踏切る前に、
ワンステップとるとかしないのかなー。

これもかかとが黒い部分にはみ出た。






『やーい、ツーアウト―。』
『スリーアウトになったら、山田屋でもんじゃ おごりな。』


どこだ?それ。













なんか俺はもう、猛然とアツシを応援したくなった。
声援を送るのは大人として自制したが
交差点に建っている、見知らぬ家の
植木の木苺をむしっては食いながら、心の中で応援した。

大丈夫だ、アツシ。ここの信号は、
やたらと長いんで有名なんだ。






しかし、もうアツシの脚は出ない。


しかも、無情にも歩行者用信号が点滅し始めた。


『ツーアウト』コールを繰り返している4人を
張り倒してやろうか、と思った時







アツシが跳んだ。

そして転んだ。








一斉にクラクションが鳴る。
さすがに車を出すことはするまいが
この悪ふざけを腹立たしく見ていたドライバーもいたわけだ。

『安全』な路側帯にた仲間たちも、
車に手を振って、『ごめんなさい』という合図を出しながら
駆け寄っていく。




大人も行かないとだめかな?と俺も交差点に進みかけると
『仲間』のうちの一人だけが
路側帯の白いペンキの中で
『もーんじゃ、もーんじゃ。』とコールしている。


俺は、振り向いて早足で現場を離れながら、
手に持って握りつぶしていた、
滴る血のような果汁に満たされた、3粒ほどの木苺の実を
思いっきり、そいつの後ろ頭に投げつけた。




木苺は、狙った後頭部ではなく、
やつの、薄汚いTシャツの背中にあたって
3つの血痕をつくった。





















ざまあ。

こっちは『子供歴』30年だぞ。






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2014年07月18日

蝉と虹

じゃわじゃわと、蝉が鳴いている。
先週まで鳴いてなかったのに。

月曜日から鳴きはじめたから、週末には大騒ぎだ。
7年の眠りから醒めて土を出る時、合図とかしてんのか?







しかし、こいつら根性がなくて、午後になると鳴きやむ。
8月くらいに鳴く蝉はもっと根性があって、
真昼間も鳴いていた記憶があるが、7月のはだめだ。
9月くらいになるとひぐらしが鳴くが、あれはもう『夏』じゃない。


そのかわりめちゃくちゃ早起きで、
いまの時期、朝の5時には明るくなるので、しゃわしゃわ鳴く。

これがアッチェラントして、7時8時には絶好調。
じゃわじゃわじゃわじゃわ、脳みそがかゆくなる。
でも気温がピークになる、2時くらいでピタリと止まる。







なんて根性無しなんだ。
君らが地上にいるのは、たった2週間なんだろう。
そんな『半日休日』みたいな方法でいいのか?


いいなー。


もっと根性無しなこと。
雨が降ると鳴くのをやめる。
これはもう、ぴたっと止める。



なんでだろう。



















夏休み前に早川さんに告白をしたかった。


だから、生まれて初めて『ラブレター』らしきものを書いた。

紙はどうする?ノートじゃだめだよな。
レポート用紙もだめか。
便箋?そんなもんないぞ?

書くものはどうする?
シャーペンじゃ、だめだよな。
万年筆か?だからそんなもんないって。

封筒はどうする?
茶封筒じゃ請求書みたいだ。




男子は『レターセット』みたいの常備してないんだよっ。




ということで、近所の文房具屋で
そういった『ラブレターセット』を買っちまったよ。

小学校の時から通ってたから油断してたぜ。
あの『いしだ』のばあさんのうすら笑いは、
うわあ、恥ずかしかった…。











だけどそうだろう。そのあと40日間会えなくなるんだぞ。
あ、いや、『会う』というか、顔を見ることができない。

別に交際をOKしてくれなくても、
ケータイの番号とか教えてもらったら
いっしょに買い食いしたり、遊園地とかに行けるじゃん。

あ、それって、デートか。





うわあ…







だから下校時には早川さんの背中を探した。
俺は彼女に関しては、髪型も、制服の右のサスペンダーが
必ず縒れていること、といったディテールもふくめて
もう背中でわかる。

気持ち悪いだろうか?。でも、ディテールと、シルエット
俺は両方わかる、もちろん正面から来たらすぐわかる、
顔でわかる、髪型でわかる、腕でわかる、
もちろん、やっぱりシルエットでわかる。

なんだろう、肌に針を差したら、
サラダオイルが出てきそうな『成長感』

もちろん針で刺すようなことはしないが
『生命感』だよな。





でも中学生の女の子、ってのは、なぜか群れて帰るのだ。
一人の時の彼女がいない。

下校ばかりじゃなく、登校の時もそう。
そして休み時間に、『一緒にトイレにいこー』といって
数人が群れてトイレに行くのは、一体何なんだろう。

だけど、早川さんは、そういった『群れ』から
一定の距離を置いているように見えた。









帰り道に、その彼女がいた。
三連休の後、夏休みに入ってしまうから今日が終業式だ。
ひとりで歩いている。
めずらしい。

まだ、蝉がうるさい。






彼女の後を追う。
背中から声をかける。

『あのっ』

早川さんが振り向く。
うん、確かに美人じゃないんだけどさ。
陽光の中の彼女はきれいだった。




『これ、読んでっ』っと、
昨日一晩かけて、書いた、ラブレターらしきものを渡した。

頭の上では蝉がしゃわしゃわ鳴いている。




『え?…』




と言っている彼女の頭上の蝉の鳴き声がやんだ。
急な通り雨が降った。

ぐちゃぐちゃになった、俺の苦心のラブレターを
彼女は開けもせずに、
濡れた前髪をかきあげ


『…はい。』


と言って笑った。















通り雨はすぐに過ぎて、蝉の声が帰ってくる。


























彼女の後ろの青空に、
大きな虹がかかっていた。





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