2014年09月

2014年09月28日

運動会がおわったらハンバーグを食べる

運動会の後にはファミレスに行くんだ。

『好きなものを食べていいからな。』って
今朝、おとうが言った。

だから、ハンバーグを食べる。







運動会は、ぜんぜんだめだった。
50m競争は、6人で5位だったし、
なんかグラウンドの真ん中で
太鼓をを叩いて『やーっ』ってやるあれでは、
太鼓のばちを飛ばした。

でも、おとうは運動会に来てくれた。
おばあも来てくれた。



だからいっしょにファミレスに行く。



『好きなもん頼め。』って言われても、もう決まっている。

だからハンバーグだ。

おかあがいなくなってから、
おばあがご飯をつくってくれるんだけど
『体にいいんだよ。』って言われも
ごぼうの煮たやつとか、焼き魚ばっかりじゃ、いやだ。

『由紀子さんの時にはどんな料理だったのかねえ。』
といいながら、『ハンバーグおいしかった。』っていっても
きっちり和風の料理を作る。









ファミレスに行く。
なんか、きらきらしてうれしい。



『ぼく、ハンバーグ定食。』っていうと
おとうと、おばあの表情がちょっと曇った。

数秒後におとうが、『じゃあ、おれもそれを。』というと
おばあも、『じゃあ、あたしも…』と言った。

『え?おふくろは無理だろう。』と、おとうが言うと
『食べらんなかったら、あんたが食べてよ。』と言って笑う。



おばあは、ハンバーグの半分と、ご飯の半分以上を残した。









おとうとおばあがお金を払って、外に出る。
おばあは、『美咲の家に行くから。』という。
おばさんちだ。

タクシーなんかめったに乗らないのに、
おとうが拾ったタクシーに乗り込むおばあが
『ごめんね』、と僕に言った。







秋になった乾いた風に吹かれながら
おとうと家に帰る。

おとうが、
『おまえ、おばあに謝っておけよ。』という。



意味がわからないでいると、
先週の日曜日、おばあは、ぼくのために
ハンバーグをつくってくれたらしい。

『らしい』というのも、あんまり、ハンバーグじゃなかったからだ。
ぼくがハンバーグ、ハンバーグっていうので作ったんだって。



もちろんそれは覚えているけど
玉ねぎは炒めていないし
表面もかりっ、とかしてなくて正直、肉団子?と思った。

でも、ケチャップと、ソースを出してくれたから
いっぱい食べた。
ソースはともかくケチャップは栓の周りに
いろんなもんがこびりついて、なかなか出なかった。





『だから、謝っとけ。』と、おとうが言う。

納得できないけど
秋の日の、ガラスを溶かしたみたいなオレンジの夕焼けの
光の中のおとうには、言い返せない。





おばあは、僕らが帰って来た後、
2時間くらいで帰ってきた。

仏壇を背中にした、このポジションが嫌なんだよなー。



『あの、ハンバーグ、ごめんなさいっ。』
と、およそ意味の通らない日本語を言うと



『あはは、焼くんだね。オーブンで。』

『スパイスもいろいろ使うんだねえ。』

『だいじょうぶ、次のばあちゃんのハンバーグは
美咲さん仕込みだから完璧さ。
なんかね、スパイスもいっぱい貰って来たんだよ。
ナツメグ?タイム?えーと…』



『ごめんなさいっ。』
これはたぶん、真底から言えたと思う。






























『うん、あんたの、おかあのハンバーグに勝ってみせるから。』







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natsu_0117 at 21:33|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2014年09月14日

山本さんたちの恋

まあ個人的なプロフィールなんか言いたくはないんだけど、
俺は山本龍三郎、39歳だ。






この名前が嫌だ。

やくざでもないのに『龍』、長男なのに『三郎』。






中学の時、名前のせいもあって
割と真剣ないじめにあって悩んだ。
だから、おかんを問い質したことがある。

すると母親は、テレビのジャパネットから眼を離さずに
『あらー、うち名字が平凡じゃない?
子供ができたら派手な名前にしようって決めてたのよ。』

そんな理由ありか?

『龍の字はおとーさんの希望なの。』

なんだ?それ。

『鬼龍院なんとかの映画が大好きだったからねえ。
「鬼」の字じゃなくてよかったじゃない。』

ぐれてやる。

『じゃあ、なんで長男なのに三郎…』

『なんだっけなあ、姓名判断で二画足しとけ、とかだっけ。』

え、そんな理由?

『あ、そうそう、あんたが生まれた時にはまだ生きてた
草加のひいばあちゃんが北島三郎のファンでさあ、
どうしても「三郎」を入れてくれって。』

知るか。

『でも、死ぬ間際で、いろんなチューブにつながれて
ICUでシュコーシュコーッていって
ダースベイダーみたいになってるのよ。断れないわ―。』

といって、テレビから顔を移さずに
すかんと笑ってやがる。






面白いか?ジャパネット。

いやまあ、いいけど。























40を前にして、俺も恋愛をしている。
もちろん真面目だ。
結婚したい。





ところが彼女の名字も『山本さん』なんだよなー。





『なに悩んでるすか?課長。』

そう、俺は課長で彼女は部下で、アラサーだ。

『でもさあ、結婚したら披露宴の会場の行灯が
「山本家・山本家披露宴会場」になるんだぞっ。』

『あはは、そんなこと心配してるんすか?』



むかし、同僚の結婚で
『林家・小林家結婚披露宴式場』っていう案内の前で、
みんなで記念写真を撮った事は言わないでおこう。

『いいじゃないですか、
披露宴の案内も、転居の案内も印刷が楽です。』

披露宴の案内って親父の名前で出すんじゃなかったっけ。

『男の人は世帯主であるという意識が変わらないから、
そういうのがわからないんですよ。』

『うーん』

『会社に届ける書類の多いこと。
住民票も変えないといけないし。保険証も。』

まあな…







『でも、いいこともあるんすよ。』

『へえ…』

『預金口座の名義や判子を変えなくていいし。』

そうか。

『カードの名義も変えなくていいし。』

『うるさいカード会社だと、登録の時の内容と違っていたら
めんどくさいことになりそうだけど…』

『パスポートも変更しなくていいし。』

『……』

『……』

『え?おまえ戸籍を変えないつもりか?』













会社が退けて、二人で街を歩く。

涼しくなったなあ。

気温以上に、分厚かった湿気が減った。

空が高くて絹を巻いたような雲だ。












『でもね、あたしも不満があるんですよ?』

いまは、夕方で元町の食堂で飲んでいる。
再開発でめりめりに壊されている高架下で
不思議に生き残っている一角だ。

『最初にこの店に連れてきてもらって、
「軽く飲んだら、これを食べなきゃ、って
老麺を勧められて、すげー美味くて、きゅんときたんです。』



彼女の「ツボ」が、いまだにわからない。



えーと、とちなみに老麺というのは太めの平メンを
ぐずぐずに煮て、中華丼の具のようなあんかけに
溶き卵を混ぜたものをかける。
スィーツでも中華でもない
知る人がいるのか?という神戸の名物だ。









『それで、あたし、その日部屋に帰って、
ノートを開いたんですけど………できないんですよっ。』

『なにが?』

『結婚して名字が変わったら、きゃ。っていうという、
カルピスウォーターを煮詰めたような、甘酸っぱくて
乙女な遊びですよっ。』




30過ぎて乙女、ねえ。
そもそもカルピスウォーターを煮詰めたら
カルピスだろう。

『でもねっ、普通は結婚したら名字が変わるでしょ?』

『…うん。』

『銀行の窓口とかで「やまもとさまー」って呼ばれて
最初はきづかない。
2度目に呼ばれて、「あら、あたし?」っていう、
うれし恥ずかしな小芝居ができないんですよっ。』

…小芝居…












しかし、まあ気持ちはわかる。
小学校の頃とかやったよな。
好きな娘の名前を自分の名字の下に書いて、きゃっ、なんて。

それを、背中から見られて、
『やーい、山本の奴、芹沢のことが好きなんだー』
『なんで見んだよー』といって、
原因と不釣り合いの大げんかをしたもんだ。

いや、あれはあれでバランスが取れてたのか?














『なーんか、結婚までのわくわく感のステップを一つ
はずされた感じがしますよね。』

『…むー。』

『あーあ、旦那の名字もおんなじだと、つまんないなあ。』

『でも、それはなあ…』と言いかけて、言葉を飲み込んだ。


























俺だって、女房の名字が同じ、ってつまんない。
それはまあ、いろいろですよ。





こどもが生まれたら『スーザン久美子』って名前にしてやろうか。

いや『不幸の再生産』はやめよう。
なかよししてくれなくなる。




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natsu_0117 at 08:40|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2014年09月08日

自転車に乗って

涼しくなったなあ。

風を切りながら走る。
自転車に乗っている。

いまはひとりさ。











『いまは』ってつけたのは、
さっきまでひろ子さんを送っていたから。
放課後、本屋によって、ちょっとお茶して、
そんなことしてると、もう外が暗いよ。
早いな、9月。



あわてて彼女を乗せて送った。

だから、さっきまでは二人乗りだ。
でも、ひろ子さんてば、後ろに乗る時に
『女の子座り』をするんだぜ。
荷台に座って、脚と靴をななめにそろえる。


ひざ丈のスカートを気にしたらしい彼女は
行儀悪く脚を開いて荷台を跨いで座ることをせず、
いまの自転車は、昔のように後輪の軸に乗って立つ
ということができないから、
だから、荷台に座って脚と靴をななめにそろえて
俺の腰を軽く抱くんだ。





だけど、彼女の家はとんでもない坂の上なんだ。
もちろん、必死で漕いださ。
俺もぜーぜ―言ってたけど、彼女はなにも言わなかった。












それで、さよならして
さっきの坂を、今度は下りだから楽だ。





大きな下り坂のはじっこに立ってさよならした。
風が気持ちいい。

しかもひろ子さんてば、帰り際に、うんと背伸びして
ほっぺたにkissしてくれたんだ。





あわてて『またね。』って言って、
わあっ、と真っ黒な坂道に飛びこむ。

街の夜景が見える。
大した街じゃないから全部の夜景が見える。
遠くの工場のオレンジ色の明かりも見える。

その街と夜空に飛び込む。


あはは
ノーブレーキだと速いなあ。

















と、


















ガショ、っといって車輪が停まった。
チェーンが外れた。
ブレーキも効かない。





こけた。





200mくらいある坂の真ん中でこけた。

あーあ、しょうがねえな。と思って立ち上がると
手がぬるぬるする。
顔を触るともっとぬるぬるする。

出血しているらしい。




あんまり痛くないんだけどな。




でも、さっきの派手な転倒音で
近所のおばちゃんが出てきた。

『あらー、すごい血よ?大丈夫?』
『大丈夫です。』って答えて
チェーンを直そうとするんだけど

『あらー、寝てなくちゃだめよ。
おとーさーん。おとーさーん。』と
おばさんって人の話きかないなあ。

でも出てきた、『おとーさん』なる人物が
血だらけの俺を見て
『うぉっ、救急車じゃ。警察も呼べ。』とか
騒ぎ出したもんだから
坂の街の人たちがぞろぞろ出てきた。








なんだか、寝ていないといけないような雰囲気にされて、
『いや、ひとりで帰れますから』なんていうと
もっと大ごとになるな、と思って、寝そべって
蒼に冴えた夜空を眺めた。

























見上げると、中秋の、スーパームーン。




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natsu_0117 at 22:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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