2014年11月

2014年11月12日

笑おう

なっちゃんが、元気がない。


保育園から帰ってきても、リビングの隅で
ふえふえ泣いている。

ご飯の時、『おかわりは?』って訊くと、
一回目は、ぶっという勢いでお椀を出すのに、
2膳しか食べない。
いつも5杯はおかわりするのに。

これは大変だ。





『どーした?』って訊いても
教えてくれないから
ももこせんせいからの連絡帳を見る。
小さな連絡欄に、さらに小さな字で
いっぱい書いてある。

『昨日から元気がないです。
保育室の隅でひとりでいることが多いです。
お友達にちょっと怒られたみたいです。
暴力をふるわれたりとか、
怪我とかはしていません。
あたしたちも気をつけますが、
おうちでも気にしてあげてください。』




いいせんせいだな。





そうはいっても、『お友達とけんか』っていう
アバウトな説明じゃわからない。

あんまり、ふえふえしているので、あー、もうめんどくせえな。
おやつのあとに、『公園にお散歩にいこう。』と連れだした。







広い芝生を歩く。







お?少し顔があかるくなったか?
それでも手をつないで歩いているだけだと、
普段のテンションじゃないなー。

いつもなら、お前。丘のてっぺんに駆け上がって、
そこから『きゃー』って言いながら
滑り降りてきて、
広場の真ん中で寝るじゃんかよー。







と、
向こうから親子連れがやってきた。
子供の顔なんてすぐに変わってしまうので
わからないが、
お母さんの方には見覚えがある。

なっちゃんと同じクラスのお母さんだ。
だれだっけ。




『あー、芹沢さん。お久しぶり。』

ごめん、答えらんねえ。
顔は見おぼえがあるんだけどなー。

『おとといは、うちのさとしがなっちゃんと喧嘩しちゃったそうで』

『え?』




話を総合すると、うちのなつは
前からさとし君が大好きで、
保育室で、いつもの調子で、
彼の背中に『なかよし―』といって抱きついた
らしい。

当然さとしくんは前のめりに倒れてしまい、
怒ってなつに怒鳴ったらしいのだ。
『おまえなんかきらいだっ。
あっちいけっ。』って。


それ以来うちの奴は
ふえふえしているわけである。





『あの、ごめんなさい。さとし君に怪我は、』

『あはは、大丈夫ですよ。保育園なんて
そんなもんです。
これからも仲良くしてやってくださいね。』





いいひとだ。
誰だっけ。





それでも別れ際に、さとしくんはなつに、
ベーってした。

それまでの、
あたしたちの会話もおどおどして聞いていた
なつが
この『ベー』でまたふえふえしそうになった。




丘を下りていくさとしくん親子を見送りながら
あたしはなっちゃんの手を引いて、
丘のてっぺんに行った。



不安そうな顔をしているから。











『すごいじゃないかお前、2歳で失恋かよ。』

あたしの『初失恋』は16の時だ。
割とつらかった。
親にまで紹介していたからなおさらだ。

『あはは、それがお前。
バージン・ハートブレイクが2歳だって?
生意気だぜ。』










もちろん彼女は、あたしがしゃべっている
日本語は1ミリも理解できていないだろう。


でも、それでいいんだ、
あたしは、なっちゃんを抱き上げる。
さっきまでの雨雲が、東に通り過ぎるのを
夕陽が、桃色に照らしている。


彼女を両手で抱きあげて、ぎゅうってして、
大きく両脚を広げて立って
夕方の空に出たばかりの、まだ色の薄い月に
向けてまっすぐに差し上げた。


そして大きな声で言った。












『笑おう』、って。












もちろん、あたしは、だーだー涙を流してる。
























もう一度、胸元でぎゅうってすると、
なっちゃんが不思議そうに、
あたしの涙に触ってきた。
そして控えめに『なかよし―』ってしてくれた
久しぶりだ。
 
 

うれしい。


 
 
 
 
 
 


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natsu_0117 at 09:50|PermalinkComments(0)
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