2015年03月

2015年03月31日

ガス欠

というものを経験したことがあるだろうか。

威張れた体験ではないので
してないに越したことはないです。




これの前兆として、
まず燃料の残量が少ないことを示す警告灯が点きます。

大体燃料の残量10%くらいになると警告等が点いて、
普通の人ならガソリンスタンドに飛び込んで、
「ハイオク満タン」っといっていたのだろうが、
学生の頃何しろ金がなく
給油しても10リットルとかしか入れなかったから、
この警告灯はいつも点いていた。


そうして警告灯をつけて走っていたある日。
それはそれまでの経験からいうと非常にまずい状態だった。

学校から家まで約20km、
燃費を考えれば2リットルもあれば足りる距離だが、
それも怪しい。



下宿への最短ルートは学校から少し細い坂道を
上っていき、その先の小野原という
集落から国道に乗れば西にまっすぐというものであった。

ところが坂道の手前あたりからエンジンの回転が
ばらばらばすんとおかしくなってきた。
詳しく言うと4本あるシリンダーが本来なら1→2→3→4と順番に
回っているはずのものが、
1→3→4→2と途中で休みを取るやつが出てくる
という感じである。



しかし、ここであわててはいけない、
燃料ぎりぎりになったらどうするか、
急ハンドルを2.3回きって車の尻を左右に振るのである。
これで、タンクに残ったわずかな燃料をエンジンに送ってやる。
F1でもやってっるんだから間違いではないが、
目にはガタピシしているポンコツ車が
尻を振っているだけなので、かなり変だ。


とにかくこれでどこかのスタンドに飛び込もうと思った。
小野原で国道に入ればスタンドがある、小銭しかないが
なんとかなるだろう。
何より、ここで停まって、レッカー車のお世話になることだけは
まっぴらだった。




小野原の交差点まで行くと信号は青。
速度を殺さないよう左折してすぐ右横断すると
目指すスタンドがある。
ここで一度止まってしまえばエンジンも止まってしまうことは
明白である。

対向車はと見ると。200mばかり先の信号が変わって
ゆるゆる動き出したところである。
大阪の誇る外環状線国道171号線は
幅60m対向4車線の広い道だが、
あのくらいなら、わたれる。とおもい
車を止めないように注意してウィンカーを出したところで、
500ccくらいのバイクが走ってきた。

2輪は加速がはやい。
やむをえずブレーキを踏んだ。
案の定ぼくの車はゼブラゾーンでエンストした。





店は、と見ると昼下がりのことで暇なのであろう。
すでに店員の全員が並んで帽子のつばに手をかけ、
「いらっしゃいませ」の態勢を取っている。

やがてそのうちの一人が
店に入るべくウィンカーを出しているのに
動かない車を不審に思ったらしくちかよってきた。
「どうしました?」
「いや、ガス欠で」
彼は漏斗のようなものにガソリンを入れて持ってきてくれた。
ガソリンが入れば動くのは当たり前。


店に入ると当然のように「満タンですねっ」と聞いてくる
ポケットに手を入れると出てきたのは325円


「すいませんさっき漏斗で入れたのは何リットルでしょう」
「2リットルくらいでしょうか」
「じゃあ、あと1リットル」と消え入りたい思いでぼくが答えて
1円5円もまざったお金を渡す間も、
店員のにーちゃん、ねーちゃんたちの元気なこと。
くるくる働きまわって、窓は拭くミラーは拭く、
灰皿まできれいにしてくれた。




そうしてわずか3リットル、原付でさえ満タンにできない量のガソリンを入れて、
とっととこの場を立ち去ろうとした瞬間、この店の店員たちは全員
脱帽、整列して限りない大声で





「あーりあとあしたあ。」 





と最敬礼で見送ってくれたのでした。





















これはなにかのプレイ?

 

 

 

 

 






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natsu_0117 at 06:27|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2015年03月29日

外国人に話しかけられて困ったことありますか?

むかしの話です。


学生の頃、学校を出て人気のない坂道を歩いていたとき
インド人らしい女性に道を聞かれた。






「ホエアイズポストオフィス?」


もうちょっと丁寧な表現だったように思うが
まあ、このくらいの英語はわかる。



最寄の郵便局もわかる。

「この坂を道なりに下って
大学の事務所棟の裏手の階段を上がった2階」である。







しかし、英語が出てこない。


「この坂を道なりに下って」とは
どう言うのか。

「事務所棟の裏手の階段を上がった2階」なども
どういえと言うのか。







3分ほど沈黙した後で私がやったことは
「ふぉろーみー」
といって、先に立って案内することだった。


彼女は大変不安そうな顔をしてついてきた。





そして私が郵便局の前で

「ひあ」

というと〒マークは知っていたらしく
初めて笑顔を見せてお辞儀した。












いま彼女は国に帰って
いかに日本の大学生がピュアで親切であったか
語り伝えてる。


わきゃねえよな。









なんだか今日みたいな秋空の日だったので
思い出しました。












 

 

 

 

 

いまだに英語全くしゃべれません。

 

 

 

 

 



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natsu_0117 at 13:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2015年03月26日

雪道ドライビング

雪道ドライビングには自信がある。
涙なくしては語れない理由があるのだ。








学生のころ下宿していた街の北隣にM市という街がある。
M市は山がちで、この時期大阪市内が雨でも箕面は雪、
ということがよくある。 


このM市に紅葉で有名な「K寺」というのがある。
有名な観光地なので大きな駐車場があるのだが
ここが実に日当たりが悪いのである。

だから降った雪がいつまでも解けない。
したがって、車で遊ぶには格好の場所だった。 

 

 

 

大学生の頃、中古車を買ってうれしくて
M市の山のヘアピン道を走り回った。

下宿からまっすぐの国道なら4kmの大学に行くのに
わざわざ倍以上の山道を通って行ったりした。 

 

 

 

まことに馬鹿なのであるが、
おかげで今でも、あそこの山道は暗記している。 

そんなだったから雪が降るとうれしくて
勝尾寺の駐車場にいった。

つるつる走りに行くのだ
   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし夜中に行くと、意外にもほかに車がいたりする。 

 

 

 

同好の人ではなく、
当時大ヒットしたプレリュードだったりしたから
なにをしているか想像がつきますね。
エンジンもかかってるし。  

 

 

 

あれはう種類の動物なので
そっとしておいて 

走る。  

 

 

 

完全に凍りきっているから(一部雪)
ドリフトし放題だ

そこを
『スピンターン』とか
『ロックステアリリース』とかやるのである。
 

 

 

 

 

技の名前を叫びながら。

馬鹿である。
しかし 

楽しい。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公道でやったらただの迷惑暴走車だが
ここなら周りに家もない。
寺には宿坊があると思うのだが駐車場のそばにはない。 

 

 

 

 

そんなことで楽しく走り回っていたら。
ガコッといって、止まった

後輪のタイヤが溝にはまったのである。 
雪に隠れて見えなかった。 


脱出しようとするが動かない。
FFだからタイヤは回るが雪で滑って動かない 

 

 

 


 

 

困った。 

 

 

 

 

 

 

JAFを呼ぼうにも電話がない。
携帯なんてない頃である。

公衆電話を探そうにも
この山の中そんなもんない。 

 

 

 

観光地だからありそうなもんだと思ったが
ないもんはないのである。 

山門の中にはあるのかもしれないが
当然入れない。

 

 

 

 

 

 

 

人気(ひとけ)はないかと宿坊を探したが
これが実に遠い。 

そして誰も起きてくれない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと人気がるのは
あのプレリュードだけだ。


ものすごく躊躇したが
雪の駐車場で一晩過ごすことを考えると
ほかに選択肢はなかった

勇気を振り絞ってドアをノックすると
窓を開けてくれた。 

 

 

 

 

 

ひょっとすると
窓も開けられない状況に
なってるんじゃないかと思っていたから、よかった。

事情を話すと
男性が降りてきて
無言で車を押してくれた 

 

 

 

 

 

 

 

すごく時間が長く感じたが10分くらいだろう。
それでも、雪の中を車を押し続けているのは
大変だったはずだ。 


脱出できると、
礼もそこそこに逃げ帰った。

もっときちんとお礼をすべきだったかと思うが、
とっとと帰ってくるのと、お礼するのと
どちらが、人間として正しいのか
よくわからなくなってくる。 


しかし、
人間としての、『なにか大事なもの。』を
捨ててきてしまったのは事実のようです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


でも、雪道ドライビングは身についたぞ。

少なくとも自信はついた。

 

 

 

 

 

ここまで読んだ皆さんには
馬鹿野郎、といわれるだろうが。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だれか、私の車で雪国に行きませんか?










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2015年03月17日

陽が沈むまで遊ぼう

『では、お預かりします。』
若干しゃちほこばって、頭を下げる。
『先生、よろしくお願いします。』と、
ご両親が頭を下げる。

そう、俺は『先生』なのである。家庭教師の。
きょうの生徒はお母さんにまとわりついている、
小さな男の子。
そして子供を預かって、なにをよろしくするかというと、
この子を車で30分ほど行った自然公園に連れて行って
うらうらとした春の日差しの日曜日を、一日遊ぶのだ。


なんのバイトだ?と思うだろう。
俺もそう思わないでもないが、
彼、小学校2年の悠斗君が来週この公園で
『自然活動』なる一種の遠足をするので
下見を兼ねて遊びに行くのだ。

余計わけがわからないか。

公園と言ってもとてつもなく広くて
外周の道路は一周7kmもある。
中は、
森がありどでかい芝生の広場があり、小川があり、
野鳥が観察できる遊歩道があり、展望台があり、
モニュメントがたくさんある。
博物館もある。
 
 



もともとの話をすると、
俺はこの子のお兄ちゃんである、
小学6年生の隼人君の家庭教師として
この石井家にやってきた。
『家庭科、体育、音楽以外の全科目のフォロー。』
『特に、宿題の未提出がないように。』

こう書くと、相当な問題児のように思うだろうが、
隼人は別に悪い奴ではない。
頭が悪いわけでもない。
小学生らしい生意気さはあるが、
考えていることはわかる。


ただ、こいつ忙しすぎるのだ。
英会話、ピアノ、進学塾が二つ。
そして空手と週5日である。

だから日曜と水曜の休みは貴重だったらしく、
必然的にその日は好き勝手にだらだらする。
『この子は、習い事がないと遊んでばかりいる。』、と
お母さんが心配して、家庭教師紹介会社を通じて、
バイトとして俺を水曜日にねじ込んだらしい。
 

だから、初対面の印象は最悪だった。
彼としては、貴重な『休み』をつぶされる訳だから
そうもなるだろう。

話しかけても、
『ああ…』『別に…』くらいしか言わない。



この野郎、と思ったが
彼の毎日のスケジュールを聞くと気の毒にもなった。
2つの塾の宿題に追われて、学校の分は後回し。

彼の場合、成績が悪いわけではないから
担任も強くは怒らず、
やんわりとお母さんに言ったらしい。

過剰に反応した彼女のおかげで、
俺は、週1回2時間ずつで月30000円の
バイトにありついた訳だ。

時給がいいこともさることながら、こいつ
学校の宿題くらい楽勝なのである。
俺がくびになった、大手進学塾に
通っているだけのことはある。
したがって、『宿題をこなす』くらいのミッションでは
すぐに物足りなくなった。

2時間の枠の半分は、雑談の時間になった。
新たに課題を見つけて勉強する、
という発想は俺にはない。
隼人にもないのは意外だったが、気にいった。

最初は生返事だった隼人も、1カ月もたつと
学校のことやアニメやアイドルの話をするようになった。

4月には中学生になるという男の子の話題はこんなもんか。
よくわかんないけど。



バイトが終ると隼人と悠斗と一緒に
晩ごはんをいただく。
車か原付で通っていたから、
交通費はもらっていなかったが
盆、正月の帰省の時には
数万円単位の『帰省代』をもらった。

いま思うと、会社に黙って利益をもらう、
というのはよくない。
すくなくとも帰省代はまずかったかもしれない。
まあ、晩ごはんくらいなら許してくれるだろうが

いまさら返さないけど。


もちろん、その時は
『へー金持ちすげー』と思っていただけだ。

したがってご飯は美味しく、俺は常に2膳おかわりをして
日ごろの貧乏飯の渇をいやしていた。


実際金持ちで、お父さんは歯医者で
自宅とは違うところで開業している。
日曜日の朝だから自宅にいるが、
いつも水曜日の夕方にはいない。が、授業が終ると、
家に帰ってきて、リビングでくつろいでいることがある。

それが、ソファに座って、
ブランデーグラスを回しながらどでかいオーディオで
クラシックを聞いているんだから
何かの冗談かと思った。


『こんな人実在するんだ。』と。


お母さんはあんまり金持ちのマダムという感じはしない。
夕方、訪れるときには夕飯の支度をしているらしく
エプロン姿が多いし、普段着は普通に普段着に見える。

ただ、飯をよそって、テーブルに置いてくれた時
左手にしている指輪のダイヤがでかいのに驚いた。

普段着に見えるけれど、おそらく服も眼鏡も
相当に高いものなのだろう。


だから、今日のミッションを終えて
悠斗を無事に家まで届けたら
あの指輪をした掌から、
分厚い封筒が渡されることもわかっている。

先週、バイト代をもらう時に
いいにくそうにこう言われたからだ。
『センセ、お休みの日に申し訳ないんですけど
来週の日曜日に別の仕事をお願いできないか…』、と





ちなみに、兄ちゃんの隼人とお母さんはそっくりだ。
目許なんかモンタージュ写真で入れ替えても、
たぶん、気がつかない。
細い。

悠斗の方はそれに比べると、眼は大きいし、
かわいらしい顔つきではある。

男でもそうだが、自分と似た顔の肉親、というのは
いやなものらしい。
俺なんかも、久しぶりに会う親戚から、
『父さんに似てきたね。』なんて言われると
かなり嫌だ。



したがって、お母さんの悠斗の可愛がりっぷりと、
悠斗の甘えっぷり、というのは眼に余る。

さらに兄弟の接し方の不公平ぶりというのも目に付く。
服なんかも悠斗のほうが洗濯が行きとどいて見える。
もっともこれは、隼人のようなローティーンが、
パリッとした服を嫌がるという事情もある。
そしてこの兄弟は、おそろいの服を着ない。
俺でも知っているブランドの名前がプリントしてある
Tシャツを着ているのは悠斗だ。

飯をよそうのも、悠斗が先なのを見て違和感を感じた。
お母さんの飯をよそう順番は
家長であるお父さん、石井氏が最初、
一応お客である俺が、石井氏の後で二番目。
自分が最後、。
ここまでは、まあ常識の範囲だとしても
俺の次が悠斗で、隼人がそのあとなのだ。



もちろんバイトの身の上でなにもいうつもりはない。



ただ、困った事があって、隼人と雑談をしていると
悠斗が部屋に入ってくるようになったのだ。

こいつも、一週間びっちり、
習い事を課せられているはずだが、
水曜日の夕方は開いているらしい。

そして、彼は家庭教師、というものは
経験したことがないらしく
俺のことを単に『兄ちゃんより大きいにいちゃん。』
くらいに認識しているらしい。

そして、授業が半分で終って、あとは雑談しているのは
隣の部屋の彼にもわかるから
興味がわいたらしい。
 
 
 
従妹のなっちゃんもそうだけど、
知らない大人に物怖じしない子、っているよな。

それでも最初は、小さく扉を開けて眼だけ覗きこむ
と言ったくらいだったのが、俺も、小さく手を振ったりしたら
だんだん慣れてきて、いまでは部屋に入り込んで
自分の話をする。

そうなると隼人は不機嫌だ。
まだ、宿題をやっているときに入ってきたりすると
怒鳴ったりするようになった。



ここまで来て、俺もしまったと思った。



隼人は隼人で、自分の扱いに温度差があるのは
気が付いている。
だから、俺があてがわれたのには最初は不満があったが
慣れてきてからは独占感のようなものがあったのだろう。

そこに悠斗が入ってくる。

怒るはずである。





だから、今回の公園ピクニックの話は戸惑った。

誘うのが悠斗だけ、隼人は来ないというのがわかると
どうしたものか。


『隼人君と悠斗君の二人ですか?』
『いえ、隼人はその時間は、まだ寝てますから…』
『悠斗君と、公園へ?』
『実は悠斗の学校で自然学習が…』というのでは
口出しはできない。

どうしたもんか。
そもそも隼人のやつ、どこまで知らされているんだろう。
 



日曜日の朝、冒頭のあいさつをして悠斗を車に乗せ
シートベルトを掛けるのにもたもたしているから、
締めてやると、こいつ小せえな、
首に引っかかりそうになる。

なんとか調節して、振り返って一礼し、車を出す。
石井氏の家の前の小さな道から、
右折して国道に向かう下り坂に入る。

バックミラーを見ると、石井氏が先に立って
エントランスへの緩やかな階段を上り
おかあさんが、
こちらを見ながらあとをついて行くところだった。

割と急な坂を下る。
坂の上の家だから
石井家は見晴らしがよく、陽当たりがいい。


と、急な坂だからか、歩く人もいない坂道の途中で、
男の子がこっちに向かって手を振っている。

隼人だ。

『どうした?』
『おれもつれてって。』

隼人は、助手席側のドアに回ると、
悠斗のシートベルトを外し、
『ほら、おまえは後ろ行け。』と
クーペの後部座席に追い出す。

助手席に収まって、手際良くシートベルトをかける隼人に
『おまえ、知っとんたんか?』
『当たり前や。』と言って外を見上げた。


車を出そうと、ウィンカーを出すと、
ポケットの中で携帯が震える。
あわててウィンカーを止めて電話に出ると、お母さんである。

『どうしました?』
『隼人がいないんです。先生、ご存じありませんか?』

あわてている。

『ここにいますよ。』というと、
『連れだしたんですか?』 あちゃ。
『違います。』と弁解する間もなく、隼人が電話を奪った。

『…ちゃうわ。センセ関係ないって…』
『でも…』
『ええやろ?日曜なんやから俺も遊んでくるわ。』
『でもあんた、今日は出来上がった制服を受け取って、
ばあちゃんのところに行くのよ。』

なんだ、ちゃんと用事があったのか。

『そんなん聞いてないわ。』

え?

『だって、正子さんから昨日電話があって、
ハルトくんの制服ができるから、ばあちゃんと一緒に
写真を撮ろうって…』

昨日?そりゃしらんわ。




それにしても、携帯電話越しに声が聴こえるとは
おかあさん、よほどあわてているらしい。

『もう、ええわ。』という声とともに、
電話は切れた。

しかし、すぐに震えるので出ると、こんどはお父さんだ。
『センセ、すんませんな。』

隣にいたんだろうか?

『なに、あいつ、声がでかいもんで…』

なぜ考えていることがわかる?

『まあ、今日はうちの連中、センセにお任せしますわ。
好きなとこ連れてったってください。』
と言って電話が切れた。




どうしたもんか…




『よし、今日は自然公園はなしじゃ。』と俺が言うと、
『どこ行くん?』
『おまえの好きなとこ、つれてったる。
ボウリングでも映画でも買いもんでも、
なんでもええぞ。』
『やたー』

結局おれたちは、24時間営業のファミレスで朝飯を食い。
国道沿いの、やっぱり24時間営業のボウリング場で
2ゲームやり、同じ建物にあるカラオケ屋で2時間歌い、
そこでピザを取って食べ、
アウトレットモールでスニーカーを買い、
そこにあるシネコンで隼人が好きなアニメを見た。

最初はきょとんとして状況が飲みこめなかった悠斗も
途中から大はしゃぎだった。
悠斗は、隼人が買い物をしているのを見て
うらやましそうな顔をしていたが、隼人が不機嫌そうに
何千円かを握らせると、信じられない、という顔をして
駆けだした。

『貸しだからな。』と、隼人。

もっともボウリングや映画、食事の金は、
俺が払ったから、
最後のほうになると財布が心許なくなった。
俺の場合は、お母さんを怒らせたわけだから
回収できるかどうか、さらに心許ない。

まあいいか。



陽が沈む前に、石井邸に着いた。
クーペだから、助手席の隼人が先に下りるのだが
悠斗が、その横をすり抜けて玄関に駆けあがって行く。

呼び鈴を押す間もなくおかあさんが出てきた。
どこかで見ていたかのようなタイミングだ。
『怒られるかな。』といまさらビビっている
隼人の背中を押しながら、
『この兄弟、買い食いなんかしたことないんだろうな。』
と思うと、俺の方が怖いわ。

隼人をおかあさんに預けると、
『ありがとうございました。』とだけ言って
なにも渡してくれずにドアを閉めた。


『あーあ、いいバイトだったのになあ…』と空を見上げて
外に向かうと、ドゥムッとドアがしまる音がして
パーキングのBMW750から、
たばこの匂いとともに石井氏が出てきた。

『やあ、先生。今日はありがとうね。』とだけ言うと
分厚い封筒を渡して、そのまま玄関に向かった。




ということで、いまでも俺は毎週水曜日、石井家に行く
悠斗が部屋をのぞきに来るのは相変わらずだが
隼人の機嫌は良くなった。


変わったのは、
ご飯の時の俺の配膳が隼人の次になった事くらいだ。


















おかわりは、心理的にできなくなった。








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natsu_0117 at 02:56|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2015年03月11日

料理は引き算だ

『では、課題のサムゲタンを見せてください。』
『メールでも訊いたけど、なんでサムゲタンなの?』
『あたしが食べたいから。』
『あ、そういうのあり?』
『当り前じゃない。』
『じゃあ、あしたはチーズケーキ。』
『ダメよ。これは料理下手のりっちゃんのためにやるのよ。
だから、主食限定。』


えーと、これは由美子ねえさんと美佐子ねえさんによる
『特別料理教室』である。



『3月の連休、東京を案内して。』というから付き合った。
そのあと、下宿のマンションに来たいって言うから
『ホテル予約してるんでしょう。
うちに来るほうが1時間以上遠いっすよ。』
って言っても来るんだな、おばさんってのは。

正確には従妹だけど年齢の隔たり通りに
『おばさん』なんて呼ぶと、恐ろしい復讐が待っている。
だから、関西芸人が使う、『姐さん』くらいのつもりで
大学生になったいまは使えるようになった。
大変だったんだよ、これが…




だけど、下宿の途中でケーキを買って
1DKの部屋に連れて行って、お茶にして、
そこで、はっと油断していた自分に気がついたよ。

このシチュエーションなら、『彼氏はいるのか?』っていう
つるしあげになるにきまってんじゃん。
それで白状しちゃう、あたしもかわいいけどさ。
だって、18歳と倍の年齢×2、だもん。
勝負にならん。


当然、『会わせろ。』という話になって、
家が遠ければ言い訳になるけど、これが隣の部屋だ。
由美子おばさんが、あたしのケータイを奪って、電話して、
ひろくんも断われよな。

そして、さすがにあたしに惚れる男だぜ、
わざわざコンビニに寄って
たっぷりビールを買って帰ってきやがった。

これで飲んだら、あとはもう雑魚寝だよ。
さすがにひろくんは追い出したけど、
8帖に3人、家具もあるのによく寝たな。

『二人ともホテルわぁ?』と訊くと、
『さっきキャンセルしたから…』って。
まあ、上りの終電はもうないし、タクシー使うくらいなら
キャンセル料を払ってもいいのか、と。
その時は思ったさ。



で、翌朝、『なんか朝ご飯作って。』と言われたけど、
卵とハムとバターと牛乳くらいしかない。
しかたなく、ハムエッグとトーストをつくって出したら、

『んまあ、由美子さん。
まるで新婚さんの朝ご飯のようねえ。』
『吐けっ。毎朝これをあのスイカ野郎に出してるのかっ。』
『待って、待って、待って…あいつに車出させて
新宿まで送るから…』と譲歩すると

『ああら、由美子さん。車だったらあたし、
こないだできたすごいトンネル通りたいわ―。』
『わかったか。環状線を通って品川まで行くんだっ。』
『どうせ新幹線だしな。』
と、図に乗る。

『「どうせ…」以下は二人の都合でしょう。
高速代出してくださいよ?』
『だあいじょうぶ。春休みのお二人を
ばあちゃんちにお招きして、来週2泊3日で
りっちゃんに料理の特訓をしてあげよう。』




という訳で、開かれているのがこれだ。
昨日は、あたしたちは材料の買いだし、
事情をよく理解していないばあちゃんが
郷土料理だ、というきびもちの田楽と
シシなべを出してくれた。

変によそいきの味にしなければ、なれない味噌も
見たことがないラベルの醤油も、美味しい。

だから、料理教室もなにも実質1回だけで
さすがに、由美ねえも美佐ねえも悪いと思ったのか
昨日は一日、あたしたちを観光に連れてってくれた。

って、運転手はひろくんなんだけど。

あたしたちが仕上げをしているこの時間は
まだ寝てやがる。




あ、そうそう。サムゲタンなんて時間のかかる料理
昨日のうちに作りましたとも。

ばあちゃんちの台所は広いんだけど
切ったり、煮たり、焼いたり
「ばーちゃん圧力なべどこー?」とか言ってる女3人と、
あとかたずけをするばあちゃんの4人だと、
わあわあ、きゃあきゃあ大変な騒ぎだ。

ばあちゃんはうれしそうにしていた。




ところが、レシピを見ながら
3時間かかっていたのはあたしだけで
美佐ねえは、2時間。
由美ねえに至っては、1時間で鍋の火を消した。

なるほど、これで安くて美味しかったら、
クックパッドのレシピを山ほど打ち出して
7人分の材料代は結構したぞ、という
あたしはかなわない。

『特訓』の意味がある、というものだ。

まだ、へそ出して寝ているあいつに食わせるのは
腹立つけどな。






さて、各自、自分の鍋を温め直して、みんな、といっても
じいちゃんとばあちゃん、ひろくんとあたしと
由美ねえと美佐ねえとなっちゃんを入れて7人だから
7つの茶碗によそう。

まずは、あたしだ。
しかし、こんな形でサーブするとは思っていなかった。
デクパージュする(取り分ける)、というと聞こえがいいが
丸鶏をぼろぼろと分解しているだけだ。
それに煮込んだもち米とスープ、にんにくを入れて
盛り付ける。

ねぎを散らしていると『おいしい』と、
すぐになっちゃんが言う。

うれしい。
でもあんた、熱くないの?と思っていると
ばりぼりばりぼり音がする。
うわ、骨食ってるよ。

しまった、食卓のこの子を2歳児だと思っちゃいけなかった。

美佐ねえが、真っ青になって立ち上がり
流しに連れて行って骨を吐かせる。
あたしは腰を浮かせたまま動けない。


少し大人しくなった、なっちゃんが帰ってきた。
『ごめんね』って言うと、『苦い』と言う。

美佐ねえが、何かひらめいた様に
まだ口を着けていなかったあたしの鍋を口にした。

そして、ゆらりと立ち上がると、
『あんた、朝鮮人参入れたでしょう。』
『え、でもどのレシピにも入れろって…』
『ふはははは、破れたり、士郎。』という。

え?料理対決なの?これ。

『客に子どもがいることが分かっていて
味の好みが分かれる朝鮮人参を入れる、
骨付きの肉を平気で出す。』
『ううっ。』
『あたしも、朝鮮人参はちょっと。』と、ばあちゃん。

『あんたの料理は客のことを考えてないわっ。』

『ぐっ。』






『まあまあ、りっちゃんを鍛えるって言ったて、
いじめちゃあだめよ。
姉さんだって骨を煮込んでたじゃない。』
『ふふふ。いいわ、食べてごらんなさい。』
といって、美佐ねえが自分の鍋をよそう。

と、
骨がない。


『あんた骨は?』
『捨てたわよ、もう。』
『捨てたったって、そんなそぶりなかったし、
お茶椀によそってあるのは、
おじやとニンニクと手羽先だけだし。』

『あんたが見た骨は、鶏ガラよ。』
『え?』
『サムゲタンの鶏なんて意味としては出汁のもとよ。
丸鶏を飾る、なんてパフォーマンスだわ。』
『…うーん』
『それに鶏なんて
煮込めば煮込むほどぱさぱさになるのよ。』
『…まあね。』

『だから、ガラとニンニクと野菜くずを圧力なべで20分煮て、
その出汁で、もち米とニンニクを入れて
肉がないとあんまり貧乏だから手羽元と手羽先も7つ。』
『おお…』
『これで、もち米と手羽に火が通れば出来上がり。
「料理は引き算」よっ。さあ、みんな食べて。』

というまもなく、『味がない。』と、なっちゃん。
『ほんとだ。』と、ひろくん。
って、おまえはここで余計な発言をするなっ。

『でも、ほら。韓国の本場では
自分で味付けするっていうから…
ばあちゃんうす味だし、若い人の味がわからなくて…
ほら、なつ、塩コショウ。』
『へぷしっ。』






今度は由美ねえが立ち上がると、
『ふはははは、破れたり雄山。』と言い放った。
え?もう雄山?


『「料理が引き算」なのは、正しいわ。
でも引くならひくで、徹底的にやらなきゃ。』と
自分の鍋をよそう。

色がない。
全体におかゆ色だ。
小口に切った葱が、かろうじて青味を添えている。
あと、薄茶色に炙った皮が
コーンフレークくらいにちぎってある。

もち米は、ある。
いい具合に炊けていると言うか煮えている。
鶏がない、と思って茶碗をまさぐるとこれもおかゆ色の
刺身が出てきた。ささみだと思うけど柔らかい。

『おいしい。』
なっちゃんが、今日一番の嬉しそうな声をあげた。

たしかにおいしい。
スープは3人の中で、くやしいけど一番美味しい。
ささみが、なんでこんなに柔らかく炊けるんだろう。
あぶった皮もアクセントになっておいしい。

と、
しばらく、口の中で味を確かめていた美佐ねえが
『あんた、ドーピングしたわね。』という。
『なによ。』と由美ねえ。

『これには、スープの素がはいってるわ。』
『違うわよ。』
『え?でもこの、こめかみがき―んとする味は化学調味料…』
『だから違うわよ。「スープの素が入ってる」んじゃなくて
「スープの素、そのもの」よっ。』
『うわあ……』

『なにが悪いの?
あたしは徹底的にひく、って言ったでしょ。この味は確かに
キューブのチキンコンソメよ。』
『コンソメって、洋食じゃない。』
『馬鹿ねえ、サムゲタンは薬膳料理よ?
と言って、レシピどおりに朝鮮人参とかクコの実とか松の実とか
入れると、いまの日本人には合わない、
漢方臭いものができるのよっ。』
あたしはうつむいた。
『そこに行くと、このコンソメだって、ハーブがてんこ盛りで
入ってる訳だし薬膳みたいなもんよ。』
手には、キューブのチキンコンソメの箱が握られていた。
『最後の結論が乱暴ね。』


『丸鶏にしても、りっちゃんの料理でわかるように
とりわけにくいし、最初から煮込むから胸肉とかささみとか
ぱさぱさになるのよ。』
ううう…

『でも、いくらなんでも肉なしでサムゲタンでございます。
ってわけにもいかないし、
あんたみたいに手羽を使った、なんちゃってサムゲタンは
たくさんあるから、あたしはさらに王道を行ったわ。』
『王道?』

『スーパーで鶏皮だけのパックを買って(実在する)
これをフライパンの上で炙って塩を振っておく。』
『脂身だけ?』
『ささみは鶏わさよりも厚めに切って、
食べる30分前まで、冷蔵庫に入れておく。』
『あ、爺さんがわさびとしょうゆで半分くらいくっとったぞ。』
『なんだと?じじい。』
『ふわあ…』、じいちゃん…


『で、食べる直前に鍋を温めてささみを入れて
もち米とよく合わせて、半生くらいにして
これに、鶏皮を炙った奴を手で小さく砕いて散らしたら完成よ。』
『おお、それで色がないのね。』
『お好みで、ネギとか香草をどうぞ。
あたしはこのシャンツァイのほうが…』

こっちもおいしかった。
美佐ねえも黙ってしまう。

なっちゃんは、この鍋3杯めのおかわりを
香草とねぎのダブルで食べている。
あんた、もち米5膳も食べたらあとで死ぬぞ?



『引くんならここまで引く。
あたしが昨日、スーパーで買ったのは、
このコンソメキューブとささみと鶏皮だけよっ。』
『ニンニクはどうしたのよ。』と美佐ねえ。
確かに、味はするんだけど姿がない。
『これよっ。』と言って、由美ねえが取り出したのは
すりおろしたにんにくの瓶づめだった。

『ニンニクくらい自分でむきなさいよ。』
『めんどくさいじゃない。爪に匂いが残るし。』
『中国産の安いニンニク使ってるからよ。
100円で3粒くらいしかないような青森産だったら楽よ。』
『でも、あんたのにも小さな粒が入ってるわよ。』
『くっ。』


『あの、フライパンに入ってるやつが
鶏の脂の皮かい?』とばあちゃん。
『そうよ、じいちゃんとばあちゃんで食べてよ。』
『いやあ、あんなのはちょっと。』

『あ、じゃあ、僕がもらっていいですか?』とひろくん。
おまえは黙ってろー。




『とにかく撤退するなら徹底的に退く。
アメリカ軍3万人が上陸してきたときに
犬3匹しかいなかった、キスカ島撤退作戦のように…』

『あの、魯山人先生。』
『なんだね?理恵子君。』
『これもう参鶏湯じゃないですよね。
鶏、丸で参加してないし。』
『あ、いや参鶏湯の、「参」は朝鮮人参が入ってる、
という意味で。』
『そんなら余計だめじゃないですか。』



『ふはははは、魯山人破れたり。
看板に偽りあり、とは貴様のことよ。』
『…むっ。』
『まあ、不味くはないんだから名前を変えれば。』

『何てつけるのよ。』
『ゲタン(鶏湯)。』
『なによ手抜きタン』
『なによっ。』














『ほれ、あんたたち風呂使っちまえー』
ばあちゃんの声がする。












たのしかった。そして、予想以上に勉強になった。
『レシピを無視したほうが楽しい。』って。
なるほど。

由美ねえと美佐ねえとなっちゃんと別れて
ひろくんと二人になって帰る。
車の中でひろくんが『なあ、また作ってな。』というから
うるっときて、『3人のうちどれをもう一度食べたい?』と聞く。

あー、女ってこういうこと訊くからだめなんだよな、
と思いながらも緊張すると、

『皮を炙った奴。』

え?それだけ?
鶏でも、湯でもなくて、皮?

















しばらくだまってもなにもいわないから
信号で停まった時に張り飛ばした。




『あーでも、』っていうから、
『え?なに?なに?』と訊くと、
『最初にあの二人が、りっちゃんちに泊りに来た時、
「予約してたホテルをキャンセルした」って言ってたの、って
あれ、うそだと思うな。』
『え?どういうこと?』と訊くと、
『東京を案内してくれって、たのみに来た時点で
泊りの確信犯で、ホテルの予約なんかしてなかったってこと。』

なるほど。
あたしの扱いは小学生のころから変わってない。



次の信号で、もう一度張り飛ばした。






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natsu_0117 at 23:23|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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