2016年06月

2016年06月03日

オーダーができません

『こちら、ワインリストになります。』



胸に変なソムリエバッジをぶら下げたお姉さんが、
ワインリストを机の上に置く。

もちろん塚原さんの前にも置く。




『うん、僕はシャブリのクルミエール・クリュにしよう。
山崎さんはどうする?』

なんだよ、それ。

フランス語をローマ字読みして
ようやく見つけたシャブリなんとかは
グラスで1000円もする。
 
 
 
 
たけえ。





『あ、それじゃあ塚原さんと同じものを…』
というと、

『あはは、それじゃつまらない。
僕もボトルでもらうんだ。
違う銘柄を頼んでお互いに楽しまないか?』

ボトル?フルボトルだと1万円もするんだぞ?
グラス6杯がボトル一本だということを考えると
 
こういう計算は酒飲みの証拠だな、
 
でも、ぼったくりじゃないのか?





『山崎さんには、こんなのが似合いじゃないかな。』
と言って指差したメニューには
アルベール・ビショー・ボジョレー・ヴィラージュ・
2010 神の雫ラベル
と書いてあった。










なげえ。












なんでフランス料理ってこうやって名前の長さで
人をビビらそうとすんのかなあ。










ここまでの会話は意図的に書いているが、
これじゃ塚原さんが、ただの金持ちの気障な奴、
としか読めないな。
 
でも、違うんだ。

塚原さんは仕事の大先輩だ。
先輩というのもおこがましい、。
20代後半のあたしから見たら父親、までは行かないけど
遠縁の田舎の従兄のお兄さん、くらいの年齢差がある。
といって、いくつなのか知らないけど。

でも、仕事の上では信頼できる。
気に入らない協力業者なんてのを
本来は私が怒らないといけないんだけど
言えなくてもじもじしていると、スパンと言ってくれる。



きもちいい。



だから、プロジェクトが終わって飲みに誘われると、
ついていく。

最初はそういうのに、あたしもすごく警戒したけど
あたし自身が飲み助なのと、
仕事に見事に、きっぱり影響がないということを
了解したうえでこうやって食事に来るようになった。
もちろん別会計だ。



いたい。



でもまあ、1年に1回くらいだもんな。
あたしも、いろんなお酒や料理を教えてもらえて楽しい。













で、このたび塚原さんが退職されることになった。
へ?と思ったけど、
そこはご家庭上の理由があるらしい。

優秀な人なので、ファンがたくさんおり、
当然送別会をやろう、ということになった。
それは大いに大歓迎なのだが、
幹事役をあたしが仰せつかった。





無理だよ。





あんなグルメなグルマンをどの店に御招待するのさ。
と思ったら、店は決まっていた。

塚原さんのリクエスト、というか
『どうせこいつじゃ決められないだろう。』という
やさしさだったらしい。
 
 
 
 
頼りない、と思われてるんだろうな。




さて、と下打ち合わせに伺うと
明らかにお前、日本人じゃないだろう、
というスタッフが取り囲む。

その中で、黒いベストなんか着て、
偉そうなクラスの服装をした人がメニューを差し出す。







読めねえ。







なんで、全編フランス語なんだよ。
お前食わせる気ねえだろ、と思って泣きそうになった。

そして、打ち合わせ前に塚原さんから渡された
1枚の紙片を思い出した。

『これは魔法の呪文だから。』
 
 
 




Je veux manger quelque chose de délicieux
(美味しいものが食べたいんです。)
 
 
 
 



 
長い沈黙の後、ベストのチーフは
飛び切りの笑顔で笑って、
 
『今の季節牡蠣が美味いでっせ』って言ってくれた。
 
 
 
お前、バリバリに大阪弁じゃん。
 



もちろんこの店にも日本語を併記したメニューがある。
この店を選んだのもスタッフにいたずらを頼んだのも
塚原さんらしい。
 








送別会は大盛況だった。














料理は、美味しかった。
 
 
 
あれから時々、一人でこの店に来ると
スタッフまでみんな、飛び切りの笑顔をしてくれる。





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natsu_0117 at 10:33|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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