2017年06月20日

洗濯する

晴れた。
 
 
 
 
六月の空はいつも深い青、じゃなくて
水蒸気を孕んで柔らかく白いんだけど、
珍しくきょうは真っ青だ。 
 
おれがいままで寝ていたシーツの上で、
顔を洗いながら、猫が天気予報を見ている。
『今日は全国的に一日中晴れ。
最高気温は35℃越えになるから熱中症に注意。
紫外線も強いから注意してください。』と、
繰り返し言っている。
 
夕べも暑かった。
猫をどけて、シーツの上に手のひらを当てたら
しっとりとした。
 
 
  
 
よし洗濯しよう。 
 
 
 
 
まずは自分から洗うぞ。
 
裸になってシャワーを開ける。
温度は40℃。
夜中も暑くて、薄く汗を巻いていた皮膚が
心地好い温度のシャワーによって開かれる。
タオルに手早くボディーシャンプーをつけて、
皮膚をすべらせる。
皮膚が最後の膜を失って、息を吹き返す。
 
 
 
身体の裏に手が届かないな。 
昔はなんてことなかったのに。
 
 
  
肝硬変になって、身体が浮腫んだ。
腹が張って苦しくて、立ち上がれなくて、
呼吸もできなくなって、病院に運ばれた。
処置室に入るとマスクをした先生が、太い針で腹の中から、溜まっていた水を抜いてくれた。
 
少し楽になった。
 
こうして5年くらい前から、
腹水が溜まるまで、できるだけ普通に暮らして
腹水が溜まって、生活が辛くなったら入院して水を抜く、という暮らしがはじまった。
 
 
 
ところが、誰しもが想像できるように、
このサイクルは次第に、
入院側に片寄るようになった。
  
そうなると会社に通えない。
無理を言って休暇を重ねたが、有形無形の圧力によって、ついにやめざるを得なくなった。
 
資格はあったから、自宅を事務所にして
独立した。
ところが半病人が独立する、なんていう無理が
通るほど、世の中が甘いはずはなかった。
 
経緯を知っている人が、
仕事を回してくれたりもしたが、
結局は不義理を重ねる結果になった。
仕事はクレームばかりだ。
 
たくさん喧嘩した。
たくさん迷惑をかけた。
多くの人が離れていった。
最初は支えてくれた祐子も、離れていった。
笑いかけてくれる人が、誰もいなくなった。 
  
 
 
 
腹水を溜めて太って入院して、
少し戻して自宅に帰ってくる。
また、このサイクルを繰り返す。
2,3ヶ月単位の病気のサイクルを生きる。
 
その一方、日々の生活でも変化が起きた。
たとえば、無理をしてでも昼間起きて
食事を摂っていたのが、独立すると、
どちらもリズムが乱れてきた。
 
たとえば、今度は太ったのが戻らなくなった。
食欲は全く無くなっているから、 
肥る要素は何一つないのだが、背中に
手が届かなくなるくらい太った。
 
お腹廻りが1mを超え、はっきりと乳房が現れ
背中と二の腕の脂肪の厚みが倍になった。
 
 
 
しかし、そうして苦労して腹水の始末をしても
その苦労は本来の肝硬変の治療とは関係ない。
腹水という派生症状を追い掛けているだけで、
本丸の『肝硬変』という病気は手付かずだ。
 
おれは故あって身寄りがなく、離婚したから
移植の当てはない。
病院の医者も『先の事を考えておくように』
ということを、最近はかなりはっきりと
言うようになった。
 
  
 
 
洗濯しよう。
 
 
  
 
クロゼットからXLのTシャツを取り出す。
シャワーを浴びた醜い身体にすっぽりと被せる
さらさらとした真っ白な木綿の生地が心地いい
 
 
 
TVに飽きた猫が丸くなっている白いシーツを
ベッドから引き剥がす。
にゃあといって猫が転がる。 
毛布がわりのタオルケット。
一週間分のワイシャツ。
 
 
くそっ。もういっぱいか。
洗濯機も
大きなやつに買い換えないといけないな。
買い換え?
どうして?
 
Tシャツ、トランクス、くつした。
木綿の真っ白なTシャツ。
  
 
 
 
 
 
満艦飾に風にはためく洗濯物を見上げると
真っ青だった空に、いつの間にか
緑色が薄く差してくる。
 
不思議な色だ。
 
 
 
 
夏の色だ 
 
 
乾け。
 
 
みんな、まっさらにしてしまえ。
 
 
   
  
 
 
 
乾いて全部取り込んだら今度はまた、
シャワーを浴びよう。
 
 
 
 
 
 
 
 
今度は冷たいシャワーだ。
 
 
 


natsu_0117 at 13:43│Comments(1)

この記事へのコメント

1. Posted by つねさん   2017年08月01日 06:20
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