2008年12月09日
脇役だって恋したい 劇場版 14
脇役だって恋したい 劇場版
修学旅行大作戦 14
修学旅行大作戦 14
ゆらゆらと揺れるキャンプファイヤーの明かりに照らされながら、俺は単身で優樹のもとを目指していた。すでに、会場となっている自然公園内の、その名も「キャンプファイヤー広場」全体にBGMが流されている。辺りを見渡すと、異性、同性同士問わず様々なカップルなダンスを踊っていた。あぶれている者も数人見受けられるが、絶対数はかなり少ない。
やっぱ一人だとかなり惨めに感じるな。俺も早く優樹と合流しなければ。
と、そんなことを考えていた時、付近からやかましい声が。
「ちょっとー! 武彦ってばどこ触ってんの? エッチ!」
「ハハハ。手が滑っただけだって。怒んなよー。ん? おい、渡辺じゃねえか。お前なんでまだ一人なんだよ。もうダンス始まってんぞ! あかねはどうした!?」
他人のフリ他人のフリ。
優樹との合流が遅れたのにはもちろん理由がある。実は先に前田を一人で行かせ、門司さんを誘い終えてから、今度は俺が優樹を誘うという段取りになっているのだ。門司さんが前田とペアを組まないのであれば、どの道、俺も優樹とペアを組むことはできないだろうからである。
門司さんが前田の誘いを受けたかどうかについては知る由もない。もし断っていれば、優樹のもとへ行っても無駄足ということになる。そうはならないよう祈りつつ、俺はひたすら五組の集まっていた場所に向けて歩を進めた。
優樹? 優樹、どこだ?
その場所に辿り着いたものの、一人で立つ女子生徒の姿はない。やはり門司さんと踊っているのかと、女子同士で踊る何組かのカップルの顔を確認しても優樹は見つからない。俺があまりに遅かったから俺を探しに行き、行き違いになったという可能性も……。
途方にくれ、大きく溜息を吐きながら夜空を見上げた。すると、空一面にキラキラと瞬く星たちの存在に初めて気がついた。しばらく見惚れていると、耳元で聞き慣れた声が聞こえる。
「綺麗だね」
慌てて視線を下ろす。いつの間にかそばに優樹が立っているではないか。俺はホッとひと安心したが、やがて彼女と手を繋ぐ人物の存在を認め、今度は落胆する。
やっぱりダメだったのか……。
しかしそう思った矢先、今度は優樹ではないほうの人物が俺に近づき声をかけてきた。
「渡辺くん、遅かったじゃん」
「え?」
門司さんだと思っていたその人物は、意外にも木下先生であった。「せ、先生? なんで?」
ジャージ姿の先生が、髪を大きくかき上げ、微笑みながら答える。
「岡本が一人で寂しそうに突っ立ってたから、私がお相手してあげてたんだよ。安心しな。ちゃんと君に返してあげるから」
「じゃあ、門司さんは前田と?」
やや興奮気味に優樹にそう尋ねると、彼女はコクリと頷き、それから手を差し伸べた。俺も頷いてその手をそっと受け取った。
「だから、手は動かさなくていいんだってば。違う違う。次は右足でしょ。ちゃんとリハーサルやったの?」
優樹の罵声を浴びながら、俺は必死で手足を動かした。リハーサルなど、二週間ほど前に体育館で一度やっただけではないか(その時の相手は前田だった)。「だーかーらー、そこで手は動かさないでいいって」
上手く踊れない自分にやきもきしながらも、こんな世話女房のような優樹もちょっといいかななどと俺は思っていた。
とはいえ数分踊っていると次第に身体も慣れてゆき、上手く動きについていけるようになった。それに比例して優樹の口数も減る。
「ねえ」
気になっていたことを聞いてみる。「門司さんどんな感じだった」
「んー……」
視線を宙に泳がせる優樹。「私に悪いから前田くんと一緒に踊る、って言ってたけど、だからって脈がないようには思えないね」
「どうして?」
「つゆちゃんから君にもことづてがあったんだ」
俺の左手の下でくるりと一回転しながら、優樹は答えた。「『ゴメンね』って、それだけだけど」
「昼間の前田のダメ出しが効いたってわけか」
あのダメ出しも、あえて俺の心を代弁することにより、俺が門司さんを嫌わないようにするためだと前田は言っていた。ある意味俺こそが真のMVPではないか。
「それに」
俺の腕の中に戻ってくる優樹。「前田くんが来た時、つゆちゃんのほうから『私と踊ってください』って言ったんだよ。あんな行動的なつゆちゃん、初めて見た」
「ふーん」
俺はふふっとクールに笑ってから、とびきりの顔を作った。「恋は人の性格までもを変えてしまうというわけだね」
「いた!」
優樹が顔を歪める。「足踏んだよ。つまらない台詞吐いてるから」
「ゴ、ゴメン……」
「それにしても、やっぱり私より君のほうがダンス下手だったね」
ふて腐れたように唇をとがらせる優樹。「約束どおり、帰ったらクレープおごってもらうから」
「分かったよ……」
そう答えてはみたものの。「そ、そんな約束したっけ?」
「うん」
キャンプファイヤーの暖かな光が、優樹のその笑顔を一層映えて見せた。
劇場版 脇役だって恋したい
修学旅行大作戦 完
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やっぱ一人だとかなり惨めに感じるな。俺も早く優樹と合流しなければ。
と、そんなことを考えていた時、付近からやかましい声が。
「ちょっとー! 武彦ってばどこ触ってんの? エッチ!」
「ハハハ。手が滑っただけだって。怒んなよー。ん? おい、渡辺じゃねえか。お前なんでまだ一人なんだよ。もうダンス始まってんぞ! あかねはどうした!?」
他人のフリ他人のフリ。
優樹との合流が遅れたのにはもちろん理由がある。実は先に前田を一人で行かせ、門司さんを誘い終えてから、今度は俺が優樹を誘うという段取りになっているのだ。門司さんが前田とペアを組まないのであれば、どの道、俺も優樹とペアを組むことはできないだろうからである。
門司さんが前田の誘いを受けたかどうかについては知る由もない。もし断っていれば、優樹のもとへ行っても無駄足ということになる。そうはならないよう祈りつつ、俺はひたすら五組の集まっていた場所に向けて歩を進めた。
優樹? 優樹、どこだ?
その場所に辿り着いたものの、一人で立つ女子生徒の姿はない。やはり門司さんと踊っているのかと、女子同士で踊る何組かのカップルの顔を確認しても優樹は見つからない。俺があまりに遅かったから俺を探しに行き、行き違いになったという可能性も……。
途方にくれ、大きく溜息を吐きながら夜空を見上げた。すると、空一面にキラキラと瞬く星たちの存在に初めて気がついた。しばらく見惚れていると、耳元で聞き慣れた声が聞こえる。
「綺麗だね」
慌てて視線を下ろす。いつの間にかそばに優樹が立っているではないか。俺はホッとひと安心したが、やがて彼女と手を繋ぐ人物の存在を認め、今度は落胆する。
やっぱりダメだったのか……。
しかしそう思った矢先、今度は優樹ではないほうの人物が俺に近づき声をかけてきた。
「渡辺くん、遅かったじゃん」
「え?」
門司さんだと思っていたその人物は、意外にも木下先生であった。「せ、先生? なんで?」
ジャージ姿の先生が、髪を大きくかき上げ、微笑みながら答える。
「岡本が一人で寂しそうに突っ立ってたから、私がお相手してあげてたんだよ。安心しな。ちゃんと君に返してあげるから」
「じゃあ、門司さんは前田と?」
やや興奮気味に優樹にそう尋ねると、彼女はコクリと頷き、それから手を差し伸べた。俺も頷いてその手をそっと受け取った。
「だから、手は動かさなくていいんだってば。違う違う。次は右足でしょ。ちゃんとリハーサルやったの?」
優樹の罵声を浴びながら、俺は必死で手足を動かした。リハーサルなど、二週間ほど前に体育館で一度やっただけではないか(その時の相手は前田だった)。「だーかーらー、そこで手は動かさないでいいって」
上手く踊れない自分にやきもきしながらも、こんな世話女房のような優樹もちょっといいかななどと俺は思っていた。
とはいえ数分踊っていると次第に身体も慣れてゆき、上手く動きについていけるようになった。それに比例して優樹の口数も減る。
「ねえ」
気になっていたことを聞いてみる。「門司さんどんな感じだった」
「んー……」
視線を宙に泳がせる優樹。「私に悪いから前田くんと一緒に踊る、って言ってたけど、だからって脈がないようには思えないね」
「どうして?」
「つゆちゃんから君にもことづてがあったんだ」
俺の左手の下でくるりと一回転しながら、優樹は答えた。「『ゴメンね』って、それだけだけど」
「昼間の前田のダメ出しが効いたってわけか」
あのダメ出しも、あえて俺の心を代弁することにより、俺が門司さんを嫌わないようにするためだと前田は言っていた。ある意味俺こそが真のMVPではないか。
「それに」
俺の腕の中に戻ってくる優樹。「前田くんが来た時、つゆちゃんのほうから『私と踊ってください』って言ったんだよ。あんな行動的なつゆちゃん、初めて見た」
「ふーん」
俺はふふっとクールに笑ってから、とびきりの顔を作った。「恋は人の性格までもを変えてしまうというわけだね」
「いた!」
優樹が顔を歪める。「足踏んだよ。つまらない台詞吐いてるから」
「ゴ、ゴメン……」
「それにしても、やっぱり私より君のほうがダンス下手だったね」
ふて腐れたように唇をとがらせる優樹。「約束どおり、帰ったらクレープおごってもらうから」
「分かったよ……」
そう答えてはみたものの。「そ、そんな約束したっけ?」
「うん」
キャンプファイヤーの暖かな光が、優樹のその笑顔を一層映えて見せた。
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