2008年12月24日
ばしょうぶ その7 クリスマスです。
ばしょうぶ
その7
クリスマスです。
その7
クリスマスです。
クリスマスです。センパイ><
ジングルベール、ジングルベール。窓の外は雪景色、というわけではありませんが、どことなく街が活気づいているように見えます。
私は今、自分の家の二階の自分の部屋に一人でいます。たった今、ディナーのおうどんを頂いたところなんですよ。うちの家族はあまりクリスマスに関心がないのです。
机に座って頬づえをつきます。しばらく窓の外を眺めていると、一組のカップルが腕を組みながら楽しそうに歩いていく姿を見つけました。私は思わず笑みを浮かべ、それからあの人たちに心の中でそっと言います。
呪われてしまえ。
あの秋の一件以来、センパイとのぎくしゃくした日々が続いています。部活中は句の詠み合いに終始し、家まで送ってもらう時は句の詠み合いに終始します。センパイは相変わらず国宝級の作品を読み続けていますが、私は今世紀最大のスランプに陥っています。その原因は言われなくても分かるでしょう。
クリスマス間近となった師走の中旬より、私は芭蕉部の部活動に参加しなくなりました。
センパイは何も言ってくれません。なんで何も言ってくれないんですか。
ベッドに移動し、センパイを両手で抱きかかえます。あ、センパイといっても、可愛い狸のぬいぐるみのことです。センパイに会うことができないので、こうしてぬいぐるみのセンパイと時々話をするんです。
「センパイ……」
『なんだい?』
センパイがクイっと眼鏡のフレームを上げます。
「西洋のお祭り、クリスマスがやってきました。この日は別名恋人たちの聖典と呼ばれ、この日を一緒に過ごすというのは特別なことなんですよ」
『そうだね』
ニヒルな表情でセンパイは頷きます。『僕が君と一緒にこの日を過ごしているのは、芭蕉部の先輩後輩という間柄だけの関連じゃないような気がしているんだが、君はどう思う?』
「私もです」
こっちのセンパイ相手にはスラスラと自分の気持ちを伝えられます。「来年も再来年も二人でこうしていたいです」
『僕もだ』
そして二人は静かに口づけを交わします。
センパイ……。いえ、ぬいぐるみじゃないほうのセンパイ。
センパイは来年の春に卒業してしまいます。芭蕉部の残された活動期間はごく短いのに、ちゃんと参加できなくてごめんなさい。でも、胸に別のものが雪崩れ込んでしまい、まったく俳句が詠めないのです。
『君は間違っている』
え?
センパイの声が聞こえました。キョロキョロと部屋を見回しますが、もちろん誰もいません。いたらホラーです。
『胸が別のものでいっぱいに詰まっているのなら、それを上手くブレンドさせて一句詠めばいいのだ』
上手くブレンドさせて……。
『それでこそ一流の俳人。さあ、柏崎くん。クリスマスをどう詠む?』
目をつむり考えます。クリスマスツリーやイルミネーション、サンタクロースなど、クリスマスの情景が瞬く間に浮かんできます。やがてそれが、私の胸の中の儚くやるせない気持ちと混ざり合っていきます。
「コホン」
私は咳払いをしました。「もみの木や 師走を待ちて花かざり」
じ、じ、自信作です!
ようやくスランプを脱出しました。早くこの句をセンパイに聞かせたいです。
評価をください。センパイ><
ばしょうぶ その8 お正月です。
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ジングルベール、ジングルベール。窓の外は雪景色、というわけではありませんが、どことなく街が活気づいているように見えます。
私は今、自分の家の二階の自分の部屋に一人でいます。たった今、ディナーのおうどんを頂いたところなんですよ。うちの家族はあまりクリスマスに関心がないのです。
机に座って頬づえをつきます。しばらく窓の外を眺めていると、一組のカップルが腕を組みながら楽しそうに歩いていく姿を見つけました。私は思わず笑みを浮かべ、それからあの人たちに心の中でそっと言います。
呪われてしまえ。
あの秋の一件以来、センパイとのぎくしゃくした日々が続いています。部活中は句の詠み合いに終始し、家まで送ってもらう時は句の詠み合いに終始します。センパイは相変わらず国宝級の作品を読み続けていますが、私は今世紀最大のスランプに陥っています。その原因は言われなくても分かるでしょう。
クリスマス間近となった師走の中旬より、私は芭蕉部の部活動に参加しなくなりました。
センパイは何も言ってくれません。なんで何も言ってくれないんですか。
ベッドに移動し、センパイを両手で抱きかかえます。あ、センパイといっても、可愛い狸のぬいぐるみのことです。センパイに会うことができないので、こうしてぬいぐるみのセンパイと時々話をするんです。
「センパイ……」
『なんだい?』
センパイがクイっと眼鏡のフレームを上げます。
「西洋のお祭り、クリスマスがやってきました。この日は別名恋人たちの聖典と呼ばれ、この日を一緒に過ごすというのは特別なことなんですよ」
『そうだね』
ニヒルな表情でセンパイは頷きます。『僕が君と一緒にこの日を過ごしているのは、芭蕉部の先輩後輩という間柄だけの関連じゃないような気がしているんだが、君はどう思う?』
「私もです」
こっちのセンパイ相手にはスラスラと自分の気持ちを伝えられます。「来年も再来年も二人でこうしていたいです」
『僕もだ』
そして二人は静かに口づけを交わします。
センパイ……。いえ、ぬいぐるみじゃないほうのセンパイ。
センパイは来年の春に卒業してしまいます。芭蕉部の残された活動期間はごく短いのに、ちゃんと参加できなくてごめんなさい。でも、胸に別のものが雪崩れ込んでしまい、まったく俳句が詠めないのです。
『君は間違っている』
え?
センパイの声が聞こえました。キョロキョロと部屋を見回しますが、もちろん誰もいません。いたらホラーです。
『胸が別のものでいっぱいに詰まっているのなら、それを上手くブレンドさせて一句詠めばいいのだ』
上手くブレンドさせて……。
『それでこそ一流の俳人。さあ、柏崎くん。クリスマスをどう詠む?』
目をつむり考えます。クリスマスツリーやイルミネーション、サンタクロースなど、クリスマスの情景が瞬く間に浮かんできます。やがてそれが、私の胸の中の儚くやるせない気持ちと混ざり合っていきます。
「コホン」
私は咳払いをしました。「もみの木や 師走を待ちて花かざり」
じ、じ、自信作です!
ようやくスランプを脱出しました。早くこの句をセンパイに聞かせたいです。
評価をください。センパイ><
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