2005年09月29日

社長列伝4(後編)

彼の恫喝は執拗に続きました。この会社が属する業界は、海千山千の人間ばっかり。
ハッタリや脅しすかしで成り立っているようなところがあるのです。
机を拳でバンバン叩く、大声で怒鳴りつけるなどの威圧行為が続きました。

その後は、彼の人生論、人間学の説教です。こういう独善的なワンマン経営者は
こういうのが大好きなんです。
ちなみに打ち合わせにが始まってから2時間が経過していますが、前向きな
仕事の話はまだ一切できていません。

彼の語録を一部紹介。
「ええか?このビジネスは人と人との触れ合いや、ワシは誠意を見せてくれる
奴を裏切ったことはないんや。
お前らが1000万でも2000万でも用意してきて、社長を支えさせて下さい
と言えば、ワシも『よっしゃ!』言うて儲かったときには報いてやるがな」

→債務者の言うセリフとはとても思えません。
しかも我々が資金を調達してくれるという大きな誤解をしているようです。

「この業界は借りた金は倍返しが鉄則なんや。ワシは今まで金を借りても
そうやって恩を返してきた。ワシは受けた恩は忘れん男なんや。
そのかわり、裏切ったら怖いでー」

→倍返しとか景気のいいこと言っているわりには、元金すら返せなかったから
こういう事態に直面しているという事実に早く気付いてほしいものです。
絶対に口には出せませんけど。

「お前ら素人にこの商売の何がわかるっちゅうねん。ワシは業界の10年先、
20年先が正確に見通せているんや。
お前ら素人とは向いている方向が360度違うねん」

→360度違うって、同じじゃないんですか?でもそんなチャチャいれると
大阪湾に沈むか六甲山中に埋められそうです。

以上のことが延々と続き、解放されたのは4時間後でした。結局、最後は
「金もってくるか、金主の了解を先に取り付けてくるのが筋やろが。
それがない限り、この話は白紙や」

と怒鳴りつけられ、すごすごと帰京したのでした。しかもそれまでも一部は作業に
着手していたのですが、その分のフィーはもらえず、貸し倒れになると言う
最悪の結果に終わりました。今考えると、あれは一体なんだったのかと、
思い出したくない記憶です。  

Posted by natural99 at 23:49Comments(1)TrackBack(0)clip!社長列伝 

2005年09月22日

社長列伝4(前編)

大阪の会社でした。
資金に窮しているのですが、スポンサー候補が現れてビジネスプラン次第では
お金をいれてくれるという状況になっているとのことです。

しかしながら、カツカツの資金の中で中々資金が入らないことに社長は相当
怒っていたということが行ってみて分かりました。
お金が入らないのは誰のせいでもない(強いて言えばスポンサーに具体的な話
ができていない自社が悪い)のですが、彼には通用しませんでした。

私の上司とFA証券会社の担当者と一緒に訪問したのですが、応接室に通されて
社長が現れました。第一声がその証券会社の彼に向けられました。
「お前、ねむたいことしとったらアカンで・・」

鋭い眼光、ドスの効いた声。そして机に足を投げ出してピースを吸い始めました。
「いつまで待たせたら気が済むんじゃ、ああっー?」

そして運悪く、私の上司が契約書(当面の資金を入れたあとに増資をすることに
なっており、そのサポートをするということだったのです・・)を机の上に用意
していたのを目ざとく見つけ、
社長:「なんやそれ?」
上司:「はっはい。契約書を用意してきたものですから、ご確認をと思いまして」

社長は中身にざっと目を通しましたが、その中に報酬の一部を前金で払うと
いう条項がありました。この社長、本当に0.3秒くらいで激高するのです。
その恐ろしさと言えば、文字とその場の雰囲気では雲泥の差があります。

その契約条件に怒りは頂点に達しました。
「お前ら、いいかげんにせーよ。人が苦しんでいる時に金も持ってこんと
自分とこには先に払えぇーー?なめっとったらアカンで、ゴルルァァ!!!!」

「1000万でも、2000万でも、金用意せんかい!話はそれからや。
泥水すすってでも集めてこんかい!!」

「この会社は瀕死の重傷で輸血を待っとるんやで。生き血を持ってこんかい!ワレ」

こんな態度の悪い債務者は初めてです。しかもそんな初対面のビジネスの相手に
「お前」、だの「ワレ」だの、上司もビビると同時に、顔を紅潮させて怒りをこらえ
ています。

こちらはブリッジローンをまとめるなんて約束はもちろん一言もしていないのです。
それは金主の判断次第ということは証券会社が口を酸っぱくして
言っていたはずです。でも彼はそんな理詰めで話ができるタイプではないんです。
社会人とか、ビジネスマナーとか、そういうのの範疇の外にあるということは
今までの恫喝、怒声の連続で分かりましたので、ずっと黙ることにしました。

この社長、怖い、しかもかなり昔には逮捕歴もあると聞いていたので、
事前にうちの会社の調査部門に問い合わせたところ、一応カタギであり、
仕事をすることについてもOKをもらったのですが、深い後悔につつまれました。
今更帰ることもできませんし・・・
(次回に続く)
  
Posted by natural99 at 00:59Comments(0)TrackBack(0)clip!社長列伝 

2005年09月21日

勝手な借金理論(後編)

さて、コストとしての借金ですが、こちらは、生産設備に向けられない
借金と定義しましたので、クレジットカードでの支払い、生活資金等の借金等が
これにあたります。特筆すべきは、住宅ローンや車のローンも自己使用するので
あれば、この範疇に入るということです。なぜなら、収益を生まないからです。

こちらはあくまでもコストですので、リターンではなく
代替手段を用いた時のコストとの比較で得かどうかを判断するべきでしょう。

つまりこういうことです。住宅ローンであれば他の手段と言えば、賃貸しかありま
せん。どこにも住まないという選択肢はホームレスにでもならない限りないです
からね。車であればどうしても必要ならばレンタカーやリースとの比較。
そしてカードや生活資金の借金は、比較するべきものは「借りないという選択」
です。すなわちこの手の借金は、どうやったって得にはなりえない、最初から損
だと割り切ってするべき借金なのです。

コストとしての借金がお得かどうか、という議論の代表的なものに、ローンで
住宅を購入することは得か?というものがあります。

この場合は、賃貸との比較にはなりますが、

借りた場合の家賃 > 月々のローンの支払い額

であるから得、ということには全くなりません。

こういうことを信じている人がいるのは、マンション会社などの広告手法に責任
があると私は思います。

比較するべきは、それぞれの選択肢にかかり将来に発生するキャッシュフローの
現在価値の総額であるべきです。

すなわち、購入であれば、物件価格、不動産取得税、登録免許税のほか、
支払利息、月々の管理費等があり、残存価格は控除するべきです。ずっと住み
続ける場合は、節目節目での修繕費用も見込む必要があるでしょう。
鉄筋コンクリート造の建物の耐用年数は、税法上では47年、実際には60年程度
持つとも言われていますが、それは大規模修繕をしての話ですから。

賃貸であれば、家賃のほか、更新料、住み替えの引越費用も見ておくとなお現実
に近い比較ができるでしょう。

私は、「持家/賃貸キャッシュフロー比較研究会」の座長を勤めている関係で
上記のような相談を受けることも多いですが、住宅は個人がする借金の中でも
最も大きいものですので、納得のいく判断をする必要があると思います。

同じ借金といってもそれぞれによってずいぶん性質が違う、そしてまたお得な
借金をしようと思うとそれなりに大変であることがお分かりいただけたと思います。

日本人は世界的にみても、借金嫌いな国民性だと言われますが、借金=悪 という
短絡的な図式を押し付けるのはナンセンスです。これは今の日本の教育による
ところもあるのでしょう。安易に無理な借金を重ねて破綻してしまう経営者が多い
のも、その裏返しであるとも考えられます。

リスクとリターン、メリットとデメリットを良く考えて、お得な借金をするという
教育をするほうがよっぽど重要ではないか?と私は思うのです。


  
Posted by natural99 at 00:04Comments(1)TrackBack(0)clip!ひとりごと 

2005年09月19日

勝手な借金理論(前編)

「借金できるのも実力のうちだ!」とうそぶいている人がたまにいます。

仰るとおりかも知れません。最初から返す見込みがない人には誰も貸してくれませんからね。

でもいくら実力のうちだとは言っても、借金することって得なのでしょうか?

これは私の勝手な理論ですが、借金には2通りあると思っています。
一つが投資としての借金、もう一つがコストとしての借金です。

企業であれ個人であれ、前者はお金を借りてそれを元に投資(機械の購入でも
賃貸不動産でも何でもいいですが)をして、レバレッジを効かせることによって
さらなるリターンを得ることを目的とするものです。

それに対して、後者は支払いのタイミングの差のような決済期間のメリットを
得るために行う借金です。

企業で言えばそれは長期借入金と短期借入金というような差となって現れます。
要は借りたお金が生産設備に向けられるかどうかということです。

さて、借金が得かどうかということに話を戻しましょう。分かりやすく、
ここからは企業ではなく個人を念頭において進めたいと思います。

投資としての借金は、純粋に収益性で得か損かを判断するべきでしょう。
つまり借入利率を上回るリターンを上げることができるかどうか、です。

これには当然個人の力量というものが大きく関わってきます。

もちろんリスクフリーレート(長期国債の1.3〜1.4%くらい?)であれば
実力も関係なく誰でも運用可能なので、これ以下の金利または無利息で借りること
ができるのであれば、無条件にその借金は得ということになると思います。
しかし、そんな低利での融資などは親族間などを除いては通常ありませんから、
やはり事業などを行って、相応のリターンを上げる力がないと、
なかなか「お得な」借金はできないのではないかと思います。

(銀行の3%や5%という利率から、ノンバンクの20%を超えるようなものまで
利率は多種多様ですが、ROAが20%を超える上場企業なんて全体の数%にも
満たないことを考えても、20%なんていう数字は借りる=即破綻を意味すること
が分かるでしょう)

そして、もう一方のコストとしての借金は、次回詳しく説明したいと思います。

  
Posted by natural99 at 23:28Comments(3)TrackBack(0)clip!ひとりごと 

2005年09月17日

紹介図書3 「ヒルズで働く社員の告白」

ac9a32f5.MZZZZZZZ六本木ヒルズで働けるなんて羨ましいっ!!
って思っている人は多いと思います。

少なくとも私はそう思います。
昔は50階以上ある高層ビルで働いていたことがありますが
それだけでモチベーション上がります。

六本木ヒルズといえば、中でも最も人気が高く、入っている企業も
今勢いのあるところばかり、YAHOO、楽天、ライブドア、
村上ファンド、等々・・・

ですが、その華やかなイメージの一方で、末端の社員たちはそれなりに
苦労しているようです。
仕事は徹夜もしょっちゅう、なのに給料は大部分の一般社員は
日本のいわゆる大企業よりもはるかに安かったりするようです。
離職率も高く、ライブドアなどは1年いたら中堅、2年で古株の称号が与えられる
ようです。

一方で経営者や幹部は職場の近くに住み、豪華な生活。
そういった現実にあって、一生懸命働いているモチベーションは一体
どこから?ということもちゃんと書いてあります。
読んで思いましたが、やはり目的意識がある人が多いということです。
そして仕事を楽しんでいる。そういう意味では幸せな働き方とも言えます。

また、YAHOOと楽天の比較も面白い。
時間や服装が自由なYAHOOに対して楽天はこういう企業には珍しく
超管理主義。さすが経営者が元銀行員なだけあります。
フレックスもなく、朝8:30には全員出社しているそうです。
また机の上などに私物をおいたり飾りをするなどは厳禁です。
なんか自由そうなイメージがあったけど意外ですね。

そしてどの企業にも共通しているのが人事評価のシビアさ。
ライブドアのような四半期査定や部下や同僚からも評価される
360度評価が一般的です。
あまりに評価のサイクルが短いとか厳しいと、人材の疲弊感を招くと
思うのですが、彼らのビジネスのスピード感にはこのくらいの制度が
必要なのかも知れません。  
Posted by natural99 at 02:07Comments(1)TrackBack(0)clip!図書紹介 

2005年09月15日

またまた現場

しばらく更新が遅れてすみませんでした。
というのも地方へ行くことが多くて、バタバタしていたからなんです。

突然ですが、私は田舎が好きです。
将来は地方でのんびりと暮らすのもいいかな、なんて漠然と思ったりもしていました。

しかし、今回の経験でちょっと現実を思い知らされました。

ある案件で、多額の負債を抱えた会社に張り付いていました。
今回は、とある有力政治家も絡んでいる微妙な案件なので、地域名や業種は秘密です。

その会社というのが、とんでもないところにあるのです。

羽田から飛行機で1時間以上。
そして空港からはバスに乗りまたまた1時間近く。
そして特急列車にのり、そして某駅でまたまたローカル線に乗り換え30分。
着いたのが無人駅。トイレと間違えそうな駅舎です・・・

そこからはタクシーです。
駅前には夫婦2人でやっているタクシー会社があるのですが、それを
利用するのは事前に会社の担当者から禁止されていました。

「こんな田舎の会社に標準語を話すスーツ着た人達が出入りしているのが
バレたら、一発で噂になる。あの会社は危ない、そんな噂になったらまずい」

というのが理由です。ですからタクシーはわざわざちょっと離れた街から
呼びました。

ついたところは、思わず「DASH村?」と思ってしまうほど、単なる山村です。
棚田と茅葺屋根の農家しかありません。

ちなみにその日に泊まる宿は、最寄の宿でもタクシーで3000円ほどのところに
ありました。

最寄のコンビニへは徒歩1時間以上かかるとのことです・・・

これからもしばらく、ここの住人にならなければなりません。
はぁ〜。憧れの田舎暮らしが、こんなに早く実現できるとは。涙が出てくる・・

  
Posted by natural99 at 01:39Comments(2)TrackBack(0)clip!

2005年09月10日

紹介図書2 「ハゲタカ」

3b853327.MZZZZZZZM&Aや企業再生を舞台にした小説は少ないです。

そしてあったとしても、作家が現場の人間などへの取材を元に
書いているため、どうしても私から見ればリアリティに欠けるという
点は否めないという問題もあります。

しかし、この小説は例外です。
小説なので脚色は多々ありますが、実際の企業再生の現場を良く描いている
と思います。

当時の大蔵省の総量規制からバブルが崩壊し、デフレ時代に突入していくまでの
時代と、現代の話との二本立てで話は進みます。
ハゲタカ達がこの世を謳歌した90年代後半から2002年頃までの
不良債権のバルクセール全盛の時代、そしてそこから一歩踏み込んだ企業再生
という今までの邦銀がなかった視点をもった時代へと。

失われた10年の人間ドラマが良く分かります。
小説の作り話とはいえ、当時の日本では同じような苦悩、絶望、論戦が
あちこちで繰り広げられた、そして今も繰り広げられたのは疑いようもありません。

とくに債権の価格評価、デューディリジェンスの結果の報告会議での主人公の
やりとりなどは、私の日常よくみる光景と共通している。そんなリアリティが
この小説にはあります。

フィクションでありながら、世間を騒がした現実の企業名が登場してくる
のも笑えます。少しでもニュースを見た人ならすぐ連想できるでしょう。

山野証券=山一証券
メリレ・リンク証券=メリルリンチ
足助銀行=足利銀行
東京相愛銀行=東京相和銀行
ハニーコーンで有名な太陽製菓=東ハト
産業復興機構=産業再生機構

あまりに分かりやすいです。

理解されにくい仕事ですが、この本を読んでいただければ
この2〜3年、熱病にうなされたように銀行やファンド、そして私たちのような
アドバイザリーが躍起になった、企業再生というものが分かっていただけると
思います。  
Posted by natural99 at 22:24Comments(0)TrackBack(0)clip!図書紹介