2005年11月08日

第9章 愚直

 

屋久島にきて3週間が過ぎた。

源三は、早朝にやってくるその若者を見つめ、

初めて問いかけた。

 

「ヒロさんよ。最初は、青っちょろい奴だと思ってたが、

ここでの暮らしもなかなかようやっとるやないか。

いっちょ、海に連れ出してやろうか」

 

源三が自分の息子をダブらせていることは明らかだった。

「えぇ、お願いします」

12月を迎え、さすがの屋久島の海もずいぶんと肌寒くなっていた。

強い潮風がほほに痛かった。

 

2日後、船に乗った。

クルージング用の船と違い、

漁船の揺れは大きい。慣れていたはずが酔ってしまった。

乗船1時間後、ようやく船酔いは収まった。

暗闇の中で、網を引くと、次から次へと魚がかかっていた。

 

「どうして魚がいるところがわかるんですか」

「勘さ、長年の勘がモノを言う」

「いまは魚群探知機だってあるのに、なぜいまだに勘に頼るんですか」

「ボケないようにさ」

源三は、笑った。ヒロは、別の理由が知りたかった。

 

「教えよう。そろそろいいだろう。

人はな、余計なことを考えるもんだ。

こうなったらどうしよう、ああ思われたらどうしようとか何とか・・・」

 

「だがな、そんな心配は、無駄なんだ。

海の状況を読むこと、己の力量だけが勝負なんだ。

あとのもんはいらん。

愚直なまでに、まっすぐものごとをとらえることがいるんだよ」

 

「もちろん、それだけ準備万端用意してても、失敗するこたぁある。

そうやって、学ぶのさ」

 

そこまで話したとき、朝日が昇り始めていた。

日に焼けた源三のほほに朝日が当たり、オレンジ色に輝いた。

その視線は、水平線へと飛んでいた。

 

「オレの息子は、健太って言ったんだ。

まだ、オレが25のとき、海に連れ出した。

自分の力を過信して。親父のいいとこを見せてやろうと思い上がってな。

それが間違いの元やった」

 

ヒロには、源三の瞳がうるんで光っているように見えた。

 



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