20代前半の頃、愛知県某所の四輪ダートトライアルコースを試走した事がある。
一緒にコースを訪れた大先輩が、こいつはモトクロスレースで優勝してるんだよと、
顔見知りのドライバー達に紹介してくれた。
モトクロスライダーは、このコースをどう走る?と自分に尋ねて来た。
トリッキーなバンク、ジャンプ、ウォッシュボード、細くて深い不規則に刻まれた轍も無い。
正直、オールフラットな単なるダートと思え、怖いと思う部分も無い。
本音は言わなかったが、「走った事が無いので」と、言葉を濁した。
当時のモトクロスはアメリカン旋風が吹き荒れ、スタジアムモトクロスのテクニックを、
野外フィールドコースでも使う流れだった。
コーナーのバンク、ジャンプをトレースしていたのでは抜かれてしまう。
全てが弾くような走りが求められたため、サスの剛性が高められ、硬い設定へと変化した。
直角に近いバンク、ジャンプをフロント、リヤサスペンションをフルストロークさせ、
反動を使っての鋭角バウンドターン、フルパンプの反発力でジャンプの高さと飛距離を得た。
大先輩の知人が所有するダートラ仕様車だったが、走ってみろと先輩らに言われ、
渋々試走する事にした。
地主が趣味で造成したような四輪ダートトライアルコースで、
プレハブのハウスと簡易トイレが置かれただけの、ギャラリーも来ないような立地。
数千円の料金を徴収して開放している感じであり、自動車運転免許さえあれば
誰でもOKな雰囲気だった。
料金は一台単位なのか、自分が走行料を払う事は無かった。
5周程走ったが、最後のラップで数周学習走行して得たライン取り、ブレーキングポイント、
パワーを掛けるタイミング、トラクションを得るアクセルワーク等の全てを駆使した。
そんなにムキに走ったつもりでも無く、地味に充分セーブして走ったつもりだったが、
タイムが良かった事で周りが驚いていた。
自分はモトクロスでは、トラクション(グリップ)走法と鋭角的なターンを心掛けていた。
複数台でバトルをしながら順位を競うモトクロスはハードで過激である。
30台近くでのレースとは違い、単独走行でバトルの駆け引きも無い。
つまり、クラッシュを恐れない度胸と、無駄のない走りをする思考が重要だと。
試走を終え、再び他車の走行を傍観していたのだが、見知らぬ若者が話し掛けて来た。
細身で貧弱そうだったが、初対面の相手に躊躇なく話し掛ける事の方が意外だった。
モトクロスの一流ライダーは、皆素晴らしい肉体を持つイメージが強かったので、
この人は、激しい挙動を伴うダートトライアルには向かないだろうなと。
初対面の自分に対し、「OOと言います、熱い走りを拝見させて貰いました」と、
礼儀正しい対応だったので、高学歴で教養が高い人なのだろう、自分とは違うなと。
自分が、「OOってこの付近の地名と同じだけど、もしやOO家の一族?」とおどけて言う。
彼は苦笑いしながら、「いえ違いますよ、名古屋から見学に来た只の会社員です」と。
年齢を聞くと自分よりも年が離れていたが、若く見えたので意外だった。
自分のような若造では無く、20代後半の青年だった。
ダート走行に関する持論、トラクションを効率よく発生させるアイディア等を話した。
オーバーな挙動を抑える、より一瞬で方向を変える、排気音の緩急で自分の走りを計る等、
自分が普段からモトクロス走行で心掛けている事ではあるが、
もしも、四輪ダートトライアルに転向したとしての仮定で話した。
彼は手帳にメモを取っていたから、全てを記憶で済ます自分とは違うと思えた。
自分は二輪のモトクロスライダーで、今日試しに試乗させてもらっただけで、
全開、全力での走りでも無く、借り物だから流しただけと言うと、
マスオさんのように、「えぇ~」と手を挙げながら仰け反ってオーバーに驚いていた。
彼とはその後会う事は無かったが、その時の光景は今も忘れない。
鮮明に思い出せる事から、自分は相当強い印象を受けたのだろう。
強いエネルギーを持つ人物だったのかも知れない。
車のCMで流される、真面目だけど遊びこころを持つような人物なのだろう。