2008年04月08日
Info
ちょっと時間的に余裕がないので更新できてませんすいません。
余裕が出来たら更新していきたいと思うので、たまに覗いてくださる感じで大丈夫かと思います!
頻繁に来てくださっている皆さんには、無駄足を踏ませてすいませんホント!
ちなみに時間に余裕がない理由は、断崖絶壁の日記を参照してくれよな!
騙されたねんまにさんかわいそす!!
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2008年03月13日
Alice 9/15-A
休日の池袋は人で溢れ返っていた。
待ち合わせ場所である池ふくろう周辺は特にひどく、無事に相手を見つけられるか僕は少し不安になる。
だが、その心配は杞憂に終わった。
ふくろうの石像の近くで佇んでいる人はたくさんいるが、その中に13歳程度の年齢に見える女性は1人しかいなかったからだ。
念のため教えてもらった携帯番号にかけてみると、すぐにその少女がバッグをごそごそと探るのが見えた。
間違いないだろう。
おもむろに側に近づいていき、小さく声をかける。
「あの、りかさんですか?」
はっとした顔でこちらを見る少女は、髪を茶色に染めていなければ化粧もしていない。
遊園地に小学生の料金でも入れそうなその外見は、とてもではないが援助交際をやりなれているようには見えなかった。
彼女が初めて出会い系サイトを利用したに違いないという僕の推測は、どうやら間違えていなかったようだ。
だけど――。
「あ、はい。そうです。筒井さん……ですか?」
その姿に妙な既視感を覚え、声をかけられているにも関わらず、僕は思わず考えこんでしまった。
なんだろう……。どこかでこの子の顔を、見たことがある気がする……。
だけどどこで?
自慢にも何にもならないが、今までに関係を持った少女の顔は全て暗記している。
その中には、彼女の顔はない。
となると一体、どこで見たのだろう。
佐々木さんが送ってきた動画に出てきた少女たちとも違う。
記憶の糸を辿ってみるが、答えは見つからなかった。
「あの……? 筒井さんじゃないんですか……?」
返事をしない僕を不審に思ったのか、少女が再度声をかけてくる。
僕は考えることをやめ、慌てて言葉を返した。
「あ、そうです。えーと、ここじゃなんだからちょっと移動しましょうか」
周りの視線を気にして、僕はすぐさま少女を先導して歩き始めた。
何しろ、30歳になろうかという男が13歳の女の子に声をかけているのだ。
不審者に見えないわけがないのだから、出来るだけ人目にはつかないほうがいい。
それと同時に、僕は注意深く周囲に目を走らせた。
自分たちについてくるような人影がないか確かめるが、それらしき人物はいないようだ。
どうやら美人局やオヤジ狩りの心配は、しなくてもいいらしい。
数分ほど歩いて地上に出る頃には、僕の警戒もだいぶ薄れていた。
落ち着いたところで改めて、右斜め後ろを歩く少女に注意を戻す。
依然として既視感が拭えなかったが、それよりも、なぜこんな子が出会い系サイトを利用して援助交際なんかをしようとしたのかが気になった。
近頃は、学校ではおとなしい普通の子までがそういうことに手を出すような時代になったと世間では騒がれているが、僕から言わせるとその認識は間違えている。
確かに、一見すると優等生タイプの子はたくさんいると思う。
だけど実際に接してみると分かるが、彼女たちの多くは心に何らかの闇を抱えていて、その本質は人々が抱く「普通」のイメージからは大きくかけ離れているのだ。
しかし今、僕のそばにいるこの少女は、そういう子たちとも少し違う気がした。
世の中に拗ねていたりするような部分が感じられないし、好奇心から援助交際に手を出すような子にも見えない。
そのせいか、数度にわたるメールのやり取りで合意のうえのはずなのに、真っ直ぐにホテル街へと向かうことが躊躇われてしまう。
知らず知らずのうちに足取りが重くなり、僕は彼女に声をかけた。
「えーっと……」
「はい?」
「ちょっとどこか寄りますか? 喫茶店とか」
「あ、いいですよ。このまま向かってもらって」
真っ直ぐにこちらを見つめながら、少女が言う。
その目は今まで知り合ったどんな子よりも澄んでいて、こんな幼い女の子にお金を渡して肉体関係を持とうとしている自分に、いつにも増して強い罪悪感をおぼえた。
だけど僕は知っている。
その罪悪感が強ければ強いほど、少女が純真であればあるほど、自分の興奮が高まっていくのだということを。
「じゃあ、このまま向かいます」
少女がこくりと頷く。
それを見て、重くなっていた僕の足取りは元に戻った。
ホテルに入り、ソファに荷物を降ろす。
彼女も同じように荷物を置き、ベッドに腰をかけた。
スカートから伸びる足が艶かしい。
自分の中の獣の欲望が早くも抑えられなくなってくるのを感じながら、僕はおもむろに切り出した。
「あの、ひとつお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
敬語をやめてフランクな口調で尋ねる僕に、少女が「あ、はい。なんですか?」と聞き返す。
「実はね、そのさ、カメラで撮影をしたいんだけど……いいかな……?」
それを聞いた少女の表情がこわばるのを見て、僕は慌てて言葉を重ねた。
「もちろん、どこかに流出させたりなんてことは絶対にしないと約束するし、僕が個人的に記録を残したいだけなんだ。お金に関しても、当然上乗せさせてもらうし。だめかな……?」
しばらく考え込むように視線を宙に彷徨わせ、彼女がゆっくりと口を開く。
「それだったら、いいですよ」
「そう? ごめんね、なんか急にこんなこと言い出して」
「いえ、いいです。それと、お金の上乗せも別にいらないです。その代わり、あとで私の話を少し聞いてもらえませんか?」
私の話?
思ってもいなかった言葉に、僕は少し戸惑った。
「あ、うん……。話を聞くぐらいは全然大丈夫だけど、お金はやっぱり、そこはきちんと上乗せさせてもらわないと……」
「いえ、いいんです」
少し強い口調で言い切られ、僕はたじろぐ。
掲示板では「サポ希望」と書いていたけど、彼女にとってはそれは建前であり、どうやら本当の目的はその話とやらを聞いてもらうことにあったらしい。
だけど何を? なんで僕に?
「分かった。そういうことなら、その話っていうのはちゃんと責任を持って聞かせてもらうから……。じゃあ、ちょっと待ってて」
色々と疑問はあったが、とりあえず撮影の許可は得ることが出来たのだ。
僕はごそごそとバッグを探り、そこからデジカメと三脚を取り出した。
それらをベッドのそばにセッティングし、ファインダーを覗きながらピントを調整していく。
「ごめんね、ちょっとかかるから適当にくつろいでて」
「いえ、気にしないでください」
レンズ越しに彼女の姿を見ていると、またしても既視感にとらわれた。
それも、さっきより強い感覚だ。
カメラを通して、僕はこの少女を見たことがある……?
分からない。考えてみようとはするものの、これから起こることへの期待感が僕の思考を妨げる。
はやる気持ちを抑えてセッティングを終え、僕はベッドの方に向かった。
彼女は少しリラックスしてきたのか足を崩し、そのせいで幼い太ももがあらわになっているのが見える。
そこが、僕の我慢の限界だった。
言葉もかけず、唐突に彼女を抱き締めて、押し倒す。
少女は、ミルクの匂いがした。
化粧や香水の匂いでまみれた大人の女にはない、甘いミルクの香り。
何人もの少女を抱いてきたはずの僕だったが、そんな風に思ったのは今日が初めてだった。
2008年03月02日
Alice 9/9-C
宛先:佐々木さん
送信者:筒井 賢介
件名:昨日の今日ですが
本文:
先ほど、とある出会い系サイトで13歳の少女の書き込みを見つけました。
真偽のほどは分かりませんが、メールしておきましたので、もしかしたら近々会うことになるかもしれません。
取り急ぎ、ご報告までに。
それでは。
筒井から送られてきたそのメールを見て、私は狼狽した。
自室に戻ってアームチェアに腰を下ろし、やっと安堵のため息をつくことが出来たと思った矢先にこれだ。
13歳――。
援助交際の相手を探すに当たって、私はずっとその年齢の少女を避けていた。
もちろん筒井にはそんなことは教えていないし、恐らく気付いてさえもいないだろう。
ましてやその理由などというものに至っては、あの男は知る由もない。
だが、偶然ではあるのだろうが、筒井が今まで13歳の少女の動画を私に送ってきたことはなかった。
だからこそ余計に、このメールは私の心をざわつかせた。
この半年でようやく落ち着きかけていた気持ちが、また乱れていくのが分かる。
しかし、これでいいのだ。
私は大きく息を吸い込んで呼吸を正し、ゆっくりとキーボードに指をかけた。
宛先:筒井様
送信者:佐々木雄治
件名:Re:昨日の今日ですが
本文:
13歳とは、楽しみですね。
私も期待しておきます。
ですが、くれぐれも無理はなさらないようにお気をつけ下さい。
それでは、失礼します。
そうだ、これでいい。
メールを送信して、自嘲的な笑みを浮かべる。
結局のところ私はきっと、「彼女」の身代わりを探すために援助交際をしているのだ。
だとすれば、13歳という年齢を避け続けていては何の意味もない。
代わりを見つけることさえ出来れば、二度とあんなことをしてしまわずに済むのだから。
「いや……」
私は小さくかぶりを振った。
本当は、彼女の代わりを探す必要なんてどこにもない。
心の底から反省し、後悔しているのなら、何もかもやめてしまえばいいだけなのだ。
私の脳裏からは、あの時の彼女の泣き顔がいまだに消えない。
あんな想いをさせていると気付いていなかった、いや、気付こうとさえしなかった身勝手な自分が、許せなかった。
だからこそ、同じ過ちを繰り返さないために、全ての欲望を捨てて生まれ変わろうと誓ったはずだった。
それなのに私は、都合のいい理由を探すだけで、己の欲望に打ち克とうという努力すらしていない。
利己的な言い訳をしながら少女を抱いて、自分の獣欲を満たしているのだ。
一体、何なのだろう私は。
ここまで自分のことしか考えられないエゴの塊のような人間が、46年間も生きてきたという事実に虫唾が走った。
だがそれが、私という存在だ。
こうやって自省するフリをするだけで、何も変えようともしない。それが私なのだ。
いつもと同じ結論に達し、私は思考することをやめた。
そうだ。考えたところで結局、私は自分を抑制することなど出来ない。
根本的にそういう奴なのだ。今までの人生も、ずっとそれの繰り返しだった。
それでもたった1つだけ、このことだけは何があっても守り通そう。
それは、彼女にもう二度とあんな想いはさせないということ。
それさえ守ることが出来れば、あとはもうなんだっていいような気がした。
パソコンの電源を落とすと、急に部屋が真っ暗になった。
電気をつけないでいたことにさえ、私は気がついていなかった。
2008年02月23日
Alice 9/9-B
パソコンの前であたしは思わず、「ほほう」と変な声を出して唸ってしまった。
学校から帰ってきて、昨日の夜に無料で作ったメールアドレスの受信トレイを開いてみると、予想よりも遥かに多い量のメールが届いていたからだ。
タイトルにざっと目を通してみると、あの掲示板の書き込みを見た人から送られてきたものばかりらしい。
全部で20通くらいあるのかな。
あんまり人がいなさそうなサイトだったのに、1日足らずでこんなにもたくさんのメールが来たことに、あたしは少し驚いた。
それが13歳と書いたおかげなのだとしたら、計画どおりである反面、ちょっと複雑な気分だ。
で、どれどれ。みんなどういうこと書いてんのかな。
少しドキドキしながら、受信時間が早いものから順番にメールを開いていく。
「37歳男です。サポします」
「46歳ですが、構いませんか」
「21歳都内に住んでます」
うーん。
なんていうか、必要最低限のことだけを書いた淡白なメールばっかりだ。
別に楽しいメールを期待してるわけじゃないんだけど、そういう冷たい感じの内容ばっかりだとちょっとびびってしまう。
だけど、そんなことだけで恐がってるようなあたしが、いくつも年が離れた男の人と2人きりで会ったりなんて本当に出来るのかな。
不安になりながらも、どんどん読み進めていく。
1通読むのに30秒もかからないから、あっという間に一番最後に送られてきたメールまで到達してしまった。
宛先:rika
送信者:筒井 賢介
rikaさんはじめまして。
都内に住む29歳です。
サポOKです。よろしければ、一度どこかでお会いできませんか。
##余計なことかもしれませんが、年齢はそのまま書かないほうがいいかも^^;
え、なに。この一言アドバイスみたいなの。
もしかしたら、13歳とか書いたらダメだったのかな。
気になって昨日の掲示板を開いてみると、あたしの書き込みはキレイさっぱり削除されてた。マジすか。
どうやら、18歳未満ってことを大っぴらにするのはやっぱりまずかったらしい。
たぶん、このメールを送ってきた人が見たちょっとあとぐらいに管理人に見つかって消されちゃったんだろう。
筒井さん、わざわざご忠告ありがとう。
でもあたしは、ちゃんと自分の年齢が男の人に伝わるように書かないと、こんなことやってる意味がないんだよ。
だけど、初めて事務的なだけじゃない文章を見て、あたしは少しほっとした。
おじさんが頑張って打ち込みましたって感じの顔文字も、悪い気はしない。
メールをくれた人たちの中では、会うとしたらこの人が一番マシだろう。
でも、年齢がなあ。
29歳。
これだと少し、あたしが考えていることの対象としては若すぎるかもしれない。
出来ればやっぱり、40歳を越えてる人の方がいいんだけど……。
そう思ってもう一度他の人からのメールを見返してはみるものの、やっぱりその硬い感じの文章に気後れしてしまう。
うーん、どうすっかなー。
腕を組んで考える。
だけどまあ、29歳のおじさん(29歳はあたしから見たら十分おじさんだ)が、お金を出して13歳の小娘とエッチしたいって言ってるのは十分異常だよね。
つまりは世間の人たちから見ると、変質者でありロリコンであるわけだ。
その条件さえ満たしていれば、あたしの目的には適ってる。
「よーし!」
勢いよく返信ボタンをクリックして、メールの作成ウインドウを表示させた。
結局のところあたしは、びびって妥協しちゃっただけなのかもしれない。
本当は、“あの人”と同じくらいの年齢の人が一番いいに決まってる。
だけどそういう歳の人を選んで、もしエッチだけして話が全然出来ないままバイバイなんてことになっちゃったら、体を張ったあたしの計画が台無しだ。
その点この人なら、きっとあたしの話を聞いてくれる……ような気がした。
宛先:筒井さん
送信者:rika
本文:
こんばんは、rikaです。メールありがとうございます。
年齢書いたらまずかったみたいですね。
さっき見たら、書き込み消されちゃってました(´;ω;`)
会うのオッケーです。どこなら大丈夫ですか?
あたしは、新宿か池袋なら平気です。
送信ボタンの上に、マウスのカーソルをゆっくりと合わせる。
これを押しちゃうと、あたしは多分、本当に後戻りできなくなってしまうだろう。
だけどもう、今さら迷うようなことはしない。
間髪入れずに左クリックして、「送信しました」と表示されるメッセージウインドウを確認すると、あたしは深々と息を吐き出した。
うん、これでいいんだ。
時計を見ると、時刻はもうすぐで晩御飯の時間になろうとしている。
いつものように、7時ぴったりになったらママがあたしを呼ぶだろう。
「美奈ー、ごはんよ」
ほらね。
心の中で呟いて、「はいはいー」と叫びながらあたしは階段を駆け下りた。
「あー、お腹減った。今日はご飯なに?」
ダイニングのドアを開け、中に入る。
するとそこに、珍しい人の姿を見つけてあたしは少し驚いた。
「あれ、パパじゃん。今日は早いんだね」
仕事で帰りが遅いから、パパがあたしたちとご飯を一緒に食べることはほとんどない。
昔はそうでもなかったんだけど、こうやって家族全員で食卓を囲むのは、ここ最近では数ヶ月に1度あるかないかだ。
「仕事が一段落したからな。また、すぐに忙しくなるとは思うが」
「ふーん、そうなんだ」
久しぶりの家族3人での食事は、なんだか不思議な気分だった。
あたしが学校であったことを話す、パパがそれを茶化す、ママが笑う。
それは昔と何も変わってなくて、もしかしたらあの頃に戻れたんじゃないかって思わず錯角してしまう。
だけどよく見たら、ママの笑い顔はやっぱりずっと引き攣っていて、ああ全部変わっちゃったんだなってことを嫌でも思い知らされることになる。
パパだって、もちろんそのことに気がついているんだろう。
そして、その原因が誰にあるのかということにも。
それはあたしと、そして――。
そんなことを考えているのを気取られるのが嫌で、あたしはわざと明るいトーンで「おかわりー!」とママにお茶碗を差し出して、いつも以上のテンションで色んなことを話してみせた。
ママが笑う。パパが笑う。あたしも笑う。
だけどみんな知っている。
これが偽りの家族団欒なんだってこと。
そのことを思うとぞっとして、笑いながらあたしは少し泣きそうになった。
あたしはバカでガキだから、その解決策を出会い系サイトなんかに求めてみた。
そこで知り合うおじさんが、もしかしたら何かを解決する糸口になってくれるんじゃないかって。
たぶんこれは、すごい幼稚で間抜けな思考。そしてたぶんきっと、まるで意味のない行動。
けど、あたしは何かに縋ってでも取り戻したい。あの頃のあたしたち家族の幸せを。
だからあたしは、意味がなくてもなんでもいいから思いついたことはやってみる。
あの筒井さんって人は、そんなあたしの願いを叶えてくれるだろうか。
別に助けたりなんてしてくれなくてもいいし、そんなことは出来っこない。
ただ、あたしがあたしの背中を自分で押すためのほんの少しのきっかけを与えて欲しいんだ。
調子に乗って3杯目のごはんをおかわりすると、案の定半分も食べられなかった。
「あれ、まだ2杯目だと思ってた」と言って頭を掻くと、パパもママも笑ってくれた。
だからあたしは、うん。頑張ろうって思った。
2008年02月20日
Alice 9/9-A
カーテンの隙間から差し込む日の光で目が覚めた。
どうやら昨晩は、ベッドに寝転んで物思いに耽っているうちにそのまま寝てしまったらしい。
時計を見ると、まだ朝の8時半だ。
こんなにも規則正しい時間に起きたのは随分と久しぶりだから、なんだか清々しい気分だった。
やっぱり人間は、社会のリズムという大きな指針に合わせた生活を送らないと、無意識に不安を感じてしまう生き物なのかもしれない。
「よし、起きるか」
1LDKのマンションには僕以外誰もいないのだけど、10年近く1人暮らしをしていると、何かにつけてこうして思ったことを口に出すのがいつの間にか癖のようになっていた。
でもまあ、そうでもしないと一言も言葉を発さないまま日が暮れてしまうことになるから、適度に声を出すことになってちょうど良い。
洗顔を済ませ、トーストをかじりながらパソコンの電源を入れた。
仕事のメールが何件か来ていたので、まずはそれを片付ける。
カタカタカタと、しばらくの間部屋の中に無機質なキーボードのタイピング音が響いた。
2時間ほど集中してそれに打ち込み、今度はメールのアカウントをプライベート用の物に切り替える。
仕事用のアカウントの方とは違い、こっちは受信トレイの中身も随分と寂しいものだ。
スパムメールが数件と、例の佐々木さんからのメールが1件。
それを見て、次は自分が援助交際の相手を探さなければならないのだったということを思い出す。
清々しい気分が一転、ドス黒い獣の欲望が己の中に広がっていくのを感じた。
だけど昔と比べると、それを特別嫌悪したり憂鬱になったりすることはない。
29年という長い時間を生きる中で、僕はこの欲望に体を支配されることに随分と慣れてきてしまっていた。
その代わりに自分の中に生まれたのは諦観だ。
僕はおかしい。だから仕方ない。
そう言い聞かせながら僕は、いつものようにブックマークに入っている出会い系サイトを次々と開いていった。
「ん……?」
何番目かで開いたサイトで目についた投稿があり、僕はマウスをクリックする手を止めた。
投稿者:rika
投稿日時:2007-9/8-21:34
rikaっていいます。13歳です。
サポしてくれる人募集してます。よろしくお願いします。
「13歳か……。どうなんだろこれ……」
援交相手を探すと言っても、そう一筋縄ではいかない。
美人局やオヤジ狩り等の犯罪行為にあう危険性は常に孕んでいるし、せっかく会う約束をしても、待ち合わせ場所に行ったら誰もいないなんてことはザラだ。
それに、今まで遭遇したことはないものの、警察による囮捜査の書き込みがないとも言い切れない。
それらの可能性を常に考慮し、信用に足る書き込みだと思ったものだけにメールを送るのが、僕の中での鉄則だった。
さて、そう考えた場合この書き込みはどうだろう。
文章が短くて判断するための材料は少ないけれど、13歳とストレートに書かれているというのが引っかかる。
最近の中高生は悪知恵が働くので、たとえ18歳に満たない年齢だったとしてもこんな風に直接書くようなことはせず、記号を組み合わせて数字に見える文字列を作り、万が一の際には言い訳が出来るような方法で年齢をこちらに伝えるのだ。
この書き込みをした人間は、その暗黙のルールを知らなかった。
つまり、出会い系を初めて利用する実年齢13歳の少女という投稿者像が考えられる。
だけどもちろん、単なる悪戯かもしれないし、さっき挙げた犯罪狙いの若者の書き込みなどの可能性も十分にある。
けれど、それならば利用者を騙す確率を少しでも上げるために、出来る限り不自然さのない書き込み内容にするのではないだろうか。
それに、騙すためだけならば別に13歳である必要はないはずだ。
ロリコンだけをターゲットに絞らなければならない必然性はどこにもない。
そう考えると、この書き込みが本物である可能性は決して低くない気がした。
「よし、まあメールしてみるか」
自分の勘を信じることにした僕は、「返信」と書かれたボタンをクリックすると、そのrikaと名乗る少女にメールを送ることにした。
宛先:rika
送信者:筒井 賢介
rikaさんはじめまして。
都内に住む29歳です。
サポOKです。よろしければ、一度どこかでお会いできませんか。
##余計なことかもしれませんが、年齢はそのまま書かないほうがいいかも^^;
簡潔な文面のメールを作成し、送信。
最後の1文は、僕なりのアドバイスだ。
続いて、もう1つメールを作成する。
宛先:佐々木さん
送信者:筒井 賢介
件名:昨日の今日ですが
本文:
先ほど、とある出会い系サイトで13歳の少女の書き込みを見つけました。
真偽のほどは分かりませんが、メールしておきましたので、もしかしたら近々会うことになるかもしれません。
取り急ぎ、ご報告までに。
それでは。
「これでよし……と」
小さく呟きながら、パソコンのモニタの電源を落とす。
少し休憩して、午後からまた残りの仕事のメールを片付けよう。
しかし我ながら、不思議なほど落ち着いた気分だ。
援助交際を始めた頃は、出会い系サイトで見つけた少女にメールを送るだけで、いつも罪の意識に苛まれていた。
なのに、ロリータコンプレックスを抱く自分に対する嫌悪感が段々薄れていったのと同じように、お金の力で少女を抱くことに何の抵抗も感じなくなってきている僕がいる。
けれどそれを恐ろしいと思う一方で、相変わらず、どうしようもないのだという気持ちがあった。
今さらやめようとしたところで、もう戻れない。
いや、そもそも最初から、僕には戻る場所なんてどこにもないんだ。
2008年02月11日
Alice 9/8-C
1人の家は寒々しかった。
否、実際はこの家にいるのは私だけではない。
だが、精神的な面から言えば、常に私は1人だった。
パソコンを起動してメーラーを立ち上げると、例の男からメールが届いていた。
宛先:佐々木さん
送信者:筒井 賢介
件名:Re:12歳の子です
本文:
いただいた動画、拝見させていただきました。ありがとうございます。
可愛らしい子でしたね。少し、佐々木さんが羨ましかったです。
次は私が送る番ですね。近々、相手の子を見つけたいと思います。
また何かあればご連絡致しますので。それでは。
筒井賢介。
このような最低の人間とやり取りをしている自分が憎い。
だが、こんな男とでも協力し合わねば生きていけないというのが、今の私だった。
12歳というその年齢を見ると、心が痛む。
こいつはなぜ、平然とこんなメールを送ってこられるのだろう。
筒井賢介の素性は知らないが、いい年をした男が幼い少女に欲情しているのかと思うと、虫唾が走った。
そしてその気持ちは、そっくりそのまま自分に返ってくる。
私は、唾棄すべきこの世界の害悪だ。
少女を金の力で蹂躙し、撮影するだけでは飽き足らず、あまつさえ他の男とそれを共有する。
暴走した感情を抑えきれずに人の命を奪ってしまう殺人者か何かの方が、まだ人間としていくらかましなのではないだろうか。
だが気がつけば、私の指はすらすらとキーボードを叩き、こんな情けない文面を作り上げていた。
宛先:筒井様
送信者:佐々木雄治
件名:Re:Re:12歳の子です
本文:
お気に召していただけたなら、こちらとしても幸いです。
筒井さんにいただくものはいつも素晴らしいので、次回も期待させていただいています。
何かありましたら、私も協力させていただきますので。
それでは失礼します。
営業という仕事柄、上辺だけの愛想のいい内容のメールを作ることには慣れている。
これも、その延長線上のものだと思いたかった。
しかし恐るべきことに、嫌悪しながらもここには私の本心が含まれている。
本当は誰よりも、筒井が送ってくる幼い少女の動画ファイルを期待している自分が居るのだ。
でなければ私は、月に2、3度の援助交際で自分を抑えられる自信が無い。
そのせいでまた、あの神にも背く犯罪行為に手を出してしまうことになるかもしれないかと思うと、体が震えた。
そうだ。もう二度と、「あんなこと」はしてはいけない。
自分の中にある欲という欲は残らず捨て去って、真っ当な人間に生まれ変わる。
あの日、泣きながら私はそう誓ったはずだった。
だと言うのに、湧き上がる衝動を堪えることが出来ない。
誓いから僅か数週間後には私は、あの罪を犯す代わりに援助交際を利用することを覚え、筒井賢介という忌むべき同胞を得ていた。
自分がいかに自制心の無い人間であるかを、身を持って知った気分だった。
頭の中で、都合のいい身勝手な甘言が囁かれるのだ。
お前は、幼児嗜好性という病気なのだから、どうにかしてその欲求を晴らすしか生きていく術は無い。
だからある程度の犠牲は仕方がないのだ、と。
ふざけろ、と思う。
そんな理屈が通用するのなら、性欲を抑えきれずに女性を襲ったレイプ犯は無罪となるのか?
馬鹿らしい。個人個人が各々の欲求を抑えながら生活しているからこそ、社会は成り立っているのだ。
それを精神の病気のせいにしてもっともらしく正当化するなど、最低の行為に他ならない。
だが、そんな風に自分を冷静に客観視できるのは、いつも事が終わった後だ。
少女の中で果て、朦朧とする意識の中で、いつも凄まじいまでの罪悪感に囚われる。
ほら、やはり私はクズだ。何も変わっていない。何も変わろうとしていない。
しかし私は分かっている。そうやって自分を責めることすら、ナルシシズムに酔うための自己防衛の手段にしか過ぎないのだと。
筒井に送った動画の少女を抱いてから、今日でまだ5日目だ。
だから今はまだ、こうして自分を批判できる。
けれどまた2週間も経てば、猛烈に幼い柔肌が恋しくなり、汚らわしい欲望を抑えられなくなるのだろう。
そうなれば理性など遥か彼方に消え去って、無我夢中で援助交際の相手を探し始めるに違いない。
分かっているのに何も出来ない自分がただ情けなく、そして恐ろしかった。
ベッドにもぐり、頭まで布団を被る。
もう寝よう。明日も仕事だ。
キングサイズのダブルベッドは、広々としていた。
シーツがやけに冷たい気がする。
私はやはり、独りだった。
2008年02月09日
Alice 9/8-B
らんらんるー。
らんらんるー。
携帯から間の抜けた着信音が響き渡り、張り詰めていた緊張の糸がふっと切れる。
あーもうまったく、うるさいよドナルド。
あたしは今、人生の重大な分岐点に差し掛かっているかもしれないっていうのに少しは気を遣って欲しい。
ちなみにドナルドっていうのは、言わずと知れたマクドナルドのマスコットキャラクターであり、らんらんるーというのは、彼が嬉しくなるとつい言ってしまう言葉(?)らしい。
インターネットでたまたまドナルドの動画を見て、人の神経を逆撫でするようなその言葉の響きが一発で気に入ったあたしは、すぐに着ボイスをダウンロードしたんだけど、クラスメートからはすこぶる不評だった。ありえないとまで言われたしね。
あたしからすれば、みんなでお揃いのヒット曲の着うたにしてるほうが遥かにありえないんだけど、そこはまあ黙っておいた。
腰をひねってベッドに手を伸ばし、携帯を取ってパカッと開く。
新着メール1件。「あのさ、連立方程式ってどうやって解くんだっけ(*´∀`*)」
うん、ググれカス。
ていうか、教科書見ろ。
返事もかえさずにベッドに携帯を放り投げると、あたしは再びパソコンに向き直った。
画面には、いくつかの出会い系サイトが表示されている。
なんで今日こんなことをしようとしているのかは、あたしにもよく分からない。
しいて言うならば明日の宿題が全部終わって暇だったっていうのと、それともう1つ。
あと1ヵ月あまりで、あたしは14歳になっちゃうから。
あたしがやろうとしていることを達成するためには、たぶん年は小さければ小さいほどいいはずだった。
まあ、そういう理由。
だけど、出会い系サイトってなんかよく分かんないんだよね。
適当に検索して引っかかったところを片っ端から開いてみたんだけど、どこも優良だとか無料だとか、そういう宣伝文句みたいなのが飛び交ってるだけで肝心の中身が見えてこないし、初心者にはあんまり優しくない。
それにいざ書き込もうとしても、年齢欄が選択式になってて、18歳未満はそもそも選べないようになってるから困る。
まあきっと、運営の人からしても18歳未満の書き込みを載せてちゃまずいことになるからそうしてるんだろうけど。
仕方ないから、色々と条件を絞り込んでもう少しマイナーなサイトを探すことにした。
そんなこんなで苦労の末やっと、年齢が選択式じゃないうえに、ちょっと違法ちっくな書き込みもオッケーっぽい雰囲気のところをいくつか発見。
今開いているウインドウに表示されてるのは、全部そういうとこだ。
だけど、なんて書きこめばいいかでまた悩む。
他の人の書き込みを見ると、「¥お願いします」だとか「サポ希望」って文字が飛び交ってるから、きっと援助交際のために使われてる掲示板なんだと思うけど、別にあたしはお金が欲しいわけじゃないんだよね。
けど、変なこと書いて浮くのも嫌だから他の人に倣おうか。うーん。
もちろんそのことだけじゃなくて、他にも色々と悩んでる。
本当にこんなことしちゃっていいのか、とか、あたしは相当バカなんじゃないだろうか、とか、もう後戻り出来なくなっちゃうんじゃないかとか。その他諸々。
けどあたしは、何かしたかった。
何もしないで悩むより、何かしてから悩むほうがいい。
それがあたしの出した結論だった。
「よし」
意を決して、キーボードに手をかける。
しかしそんなあたしの決意を妨げるかのように、階下からか細い声が聞こえてきた。
「美奈ー、お風呂入ってくれるー?」
え、もうそんな時間!?
時計に目をやると、時刻はちょうど21:30に変わったところだった。
今日もぴったりこの時間。
「分かったー! ちょっとだけ待ってて!」
声を張り上げて返事をすると、あたしは急いでキーボードを叩く。
投稿者:rika
投稿日時:2007-9/8-21:34
rikaっていいます。13歳です。
サポしてくれる人募集してます。
よろしくお願いします。
よし、これでいいや。
なんか悩んでた割には何のひねりもない書き込みになっちゃったけど、まあ気にしない。
慌ててパソコンを消すと、あたしは階段を駆け下りた。
「ごめんね、ちょっと宿題してて」
自然と口から嘘が出てしまったことに少しの罪悪感をおぼえながら、謝罪する。
困ったように、「ごめんね。邪魔しちゃった?」と聞き返すママの姿を見ると、なんだか余計に申し訳ない気分になって、あたしは話題を変えた。
「ううん、いいよ。パパは?」
リビングにいたのはママ1人だった。
「もうお風呂に入って、部屋に戻ったわよ」
「そっか、じゃああたしも入るね」
「ええ。ママはまだだから、あがるときにお風呂のフタしめておいてね」
こうしていると、どこにでもある普通の家族の会話のように思えてくる。
だけどあたしは知っている。
いつの頃からか、ママはずっと何かに怯えるようになってしまったこと。
何気ないことを話す時でも、声が震えていること。
そして毎日21時30分。まるで機械のように、いつも決まった時間にあたしをお風呂に呼ぶこと。
でもその原因は分かってる。きっとそれは、あたしのせい。
一体ママは、どこまであたしのことに気がついているんだろう?
けれどあたしには、それを問い詰めることは出来ない。少なくとも今はまだ。
「じゃ、入ってくるねー」
ママの肩を軽く叩き、わざと明るい調子であたしは言った。
らんらんるー。
ドナルドが、嬉しくなるとつい言ってしまう言葉。
あたしとママが、心からの笑顔でそれを言えるようになる日は来るだろうか。
ううん、あたしがそうなるようにしてみせる。
いつかきっと。
2008年02月07日
Alice 9/8-A
12歳と29歳。
それが、彼女と僕の年齢だった。
パソコンのモニタの中で苦痛と恥じらいに顔を歪めている12歳の少女と、それを見て興奮している29歳の僕。
なぜ自分がこんなどうしようもない人間になってしまったのか、その原因は分からない。
だけどそれはきっと、心が未熟だからなのだと思う。
周りの人間がどんどん結婚していくというのに、僕はどうしても自分に近い年齢の女性に興味が持てなかった。
いや、ハッキリ言ってしまうと18歳を過ぎた時点でもうアウト。
出来れば、15歳以下が一番良いという典型的なロリータコンプレックスだった。
けれど僕だって、そんな自分を甘んじて受け入れていたわけじゃない。
今の僕は客観的に見たらかなり異常なのだという事は分かってる。
だからそんな状態を少しでも改善したくて、合コンにも積極的に参加し、彼女だって作った。
だけど、付き合っても決して長続きしない。
自分を変えるために好きでもない人とムリヤリ付き合っているのだから、当たり前の結果だろう。
とにかく僕は、大人の女性に愛情というものをまるで感じることが出来なかった。
だから次第に、連絡を取ったりデートをするのも億劫になってしまう。
それに、体の問題もある。
ノンケの男性が男の裸体に嫌悪感をおぼえるのと同じように、僕は成熟した女性の体に不快な気持ちしか抱けなかった。
ましてやセックスなんて、とんでもないことだ。
付き合い始めてから大体1ヶ月で相手の女性がそういう部分に愛想を尽かし、去っていってしまう。
しかし僕はというと、また変われなかった自分に落胆すると同時に、解放された安心感を得ているのだった。
そんなことを繰り返すうちに、僕は段々、変わることなんて不可能なんじゃないかと思うようになってきた。
努力しなかったわけじゃない。
大人の女性に相手にされないから、幼児にしか興味が抱けないのでもない。
これはれっきとした病気なのだ。ただし、治療法の無い。
性同一性障害は、立派な病気として認められ市民権を得るまでになった。
だけど現在の世の中で、「自分はロリコンです。幼い女の子しか愛せません」と告白したらどうなるだろう。
皆から一斉に軽蔑の眼差しを向けられるのは容易に想像がつく。親だってきっと、泣くかもしれない。
だから僕は、この病気と一生付き合ってひっそりと生きていくことを決めた。
大人の女性と恋をせず、結婚もしないで1人静かに生きていこう。
29年間生きてきて僕が出した結論がそれだった。
だけど、ご飯を食べずに生きていける人がいないのと同じように、性欲は抑えることが出来ない。
そして僕の性欲が向かう先。それは、15歳以下の少女たちだった。
その欲求を満たすため、僕は援助交際に手を出した。
インターネットで探せば、僕が求める年齢の少女たちとの援交も容易く出来る。
もちろんそれがいけないことだということなんて分かっていた。
けれどじゃあ、それすらも禁じられれば僕は一体どうやって生きていけばいい?
人は誰もが穢れを捨てた聖人になれるわけじゃない。
煩悩から解脱することなんて、凡人の僕には無理だ。
独りよがりの自分勝手な理論だけど、欲求を持て余して少女をレイプするような事件を起こしてしまうよりは、援助交際に手を出すほうがいくらかマシだと思った。
だけどそんな僕の考えなんて、我が国の法律の前では何の意味も為さない。
少女を1人抱くたび僕は、いずれ逮捕されてしまう可能性がどんどんと跳ね上がっていくのを感じていた。
だからそのリスクを少しでも減らすため、僕はネットのアングラ掲示板で知り合ったとある男性と契約を結んだ。
男の素性は一切知らない。年齢も、職業も、家族構成も。
ただ分かっているのは、彼もまたこの厄介な病気を抱えているということ。
そして、恐らくは僕と同じで都内近郊に住んでいるらしいということだけだった。
だけどお互い、いつ手が後ろに回ってもおかしくないことをしているのだ。
それくらい徹底しておいた方がいい。
彼との契約の内容は、情報の共有。
どこの出会い系サイトがいいだとかそういう話もするが、一番のメインは動画や写真の交換だった。
僕が援助交際で少女を抱いた際には、その様子を撮影して彼に提供する。
その代わり、彼も自分の行為の記録を僕に送ってきてくれる。
実は今再生していた12歳の少女の動画も、先日彼から頂戴したものだ。
そうやってお互いが抱いた少女を見せ合うことによって、欲求を解消する。
単純計算だが、そうすれば実際に援交を行う回数も半減すると思った。
知り合って半年近くになるが、彼から何か僕の情報が外部に漏れた様子もない。
信頼できる相手だし、このまま関係を続けていっても問題はないだろう。
動画再生ソフトを消し、メーラーを立ち上げる。
宛先:佐々木さん
送信者:筒井 賢介
件名:Re:12歳の子です
本文:
いただいた動画、拝見させていただきました。ありがとうございます。
可愛らしい子でしたね。少し、佐々木さんが羨ましかったです。
次は私が送る番ですね。近々、相手の子を見つけたいと思います。
また何かあればご連絡致しますので。それでは。
メールの送信を完了し、パソコンをシャットダウンしてから、僕はベッドに大の字になって寝転んだ。
こうして天井を見つめていると、嫌でも色んなことを考えてしまう。
このままではいけないのだろうということはもちろん分かっている。
だけど、もがいたところでどうしようもないし、どうにでもなれという気持ちの方が大きかった。
佐々木という男が現状についてどう考えているのか、話したことはないがきっと彼も同じように考えているのではないだろうか。
自分の倫理観が許せるギリギリのところで罪を犯し、なんとか世の中に折り合いをつけて生きていく。
だって仕方ないだろう?
誰も助けてなんてくれないし、僕たちはただ排除されるだけの存在でしかないのだから。
「障害者手帳が欲しいよ……」
なんともなしに呟いてみるが、本当の気持ちだった。
真っ当な社会生活が送れない。これは立派な障害なんじゃないだろうか。
ベッドにうつむき、枕に顔を突っ伏す。
この先の自分が、どこに向かっているのか分からなかった。
だけどきっと恐らくは、ずっとこんなことを続けることになるんだと思う。
死にたくない。だけど生きていたくもない。
少し格好をつけて言うならば、まさにそんな気分だった。
人はきっと、ロリコンが何言っているんだか、と思うのだろうけれど。
2008年02月05日
Alice プロローグ
あの2人の哀れな末路は、偶然見ていたニュースで知った。
血まみれで発見された2つの死体。それを抱きかかえて歓喜の表情を浮かべる女。
一度歪んでしまったものが元通りになるなんて思ってはいなかったけれど、だとしてもあまりに悲惨過ぎるその結末に呆然としてしまう。
結局、我々のような存在は、関わる人たちを皆不幸にしてしまうのだ。
頭では分かっていたことだけど、それを改めて突き付けられたような気分だった。
自分にも遅かれ早かれ、このニュースのような未来が待ち構えているのかもしれない。
だと言うのに。
カメラのセッティングが終わる。
目の前のベッドには、名も知らない少女が横たわっていた。
生き方を、変えられない。
おぞましい自分から、解放されることが出来ない。
この事件の真実が明るみに出れば、きっとマスコミはまた、こぞって我々のような人間を糾弾するだろう。
いや、マスコミだけではなく、それが世間の人たちの総意だ。
汚らわしい。気持ち悪い。人間のクズ。消えてなくなれ。
分かってる。言われなくても分かってる。
自分たちは、どうしようもない犯罪者だ。この世の害悪だ。
だけどじゃあ、せめて誰か教えて欲しい。
どうしたら、普通に生きることが出来ますか。どうしたら、まともな人になれますか。
この忌まわしい病気を治してくださる、お医者様はいませんか。
怖いこわいこわいこわい。
何かにすがりつきたくなって、夢中で少女を抱きしめる。
少女は笑わない。無表情でされるがままだ。
けれどかすかに体を震わせ、くすぐったそうにしているのが分かった。
それがたまらなく愛しくて、膝上まで彼女を包むオーバーニーソックスをそっと撫でる。
不思議の国のアリスみたいだ。そう思った。
だけど、アリスのソックスは白だったのに、彼女のそれは真っ黒だった。
ぞっとするくらい、真っ黒だった。
なんだかその色が全てを物語っている気がして、きょとんとする少女を抱きしめながら、静かに泣いた。