2008年02月07日

Alice 9/8-A


12歳と29歳。
それが、彼女と僕の年齢だった。

パソコンのモニタの中で苦痛と恥じらいに顔を歪めている12歳の少女と、それを見て興奮している29歳の僕。
なぜ自分がこんなどうしようもない人間になってしまったのか、その原因は分からない。
だけどそれはきっと、心が未熟だからなのだと思う。

周りの人間がどんどん結婚していくというのに、僕はどうしても自分に近い年齢の女性に興味が持てなかった。
いや、ハッキリ言ってしまうと18歳を過ぎた時点でもうアウト。
出来れば、15歳以下が一番良いという典型的なロリータコンプレックスだった。

けれど僕だって、そんな自分を甘んじて受け入れていたわけじゃない。
今の僕は客観的に見たらかなり異常なのだという事は分かってる。
だからそんな状態を少しでも改善したくて、合コンにも積極的に参加し、彼女だって作った。

だけど、付き合っても決して長続きしない。
自分を変えるために好きでもない人とムリヤリ付き合っているのだから、当たり前の結果だろう。
とにかく僕は、大人の女性に愛情というものをまるで感じることが出来なかった。
だから次第に、連絡を取ったりデートをするのも億劫になってしまう。

それに、体の問題もある。
ノンケの男性が男の裸体に嫌悪感をおぼえるのと同じように、僕は成熟した女性の体に不快な気持ちしか抱けなかった。
ましてやセックスなんて、とんでもないことだ。

付き合い始めてから大体1ヶ月で相手の女性がそういう部分に愛想を尽かし、去っていってしまう。
しかし僕はというと、また変われなかった自分に落胆すると同時に、解放された安心感を得ているのだった。

そんなことを繰り返すうちに、僕は段々、変わることなんて不可能なんじゃないかと思うようになってきた。
努力しなかったわけじゃない。
大人の女性に相手にされないから、幼児にしか興味が抱けないのでもない。
これはれっきとした病気なのだ。ただし、治療法の無い。

性同一性障害は、立派な病気として認められ市民権を得るまでになった。
だけど現在の世の中で、「自分はロリコンです。幼い女の子しか愛せません」と告白したらどうなるだろう。
皆から一斉に軽蔑の眼差しを向けられるのは容易に想像がつく。親だってきっと、泣くかもしれない。

だから僕は、この病気と一生付き合ってひっそりと生きていくことを決めた。
大人の女性と恋をせず、結婚もしないで1人静かに生きていこう。
29年間生きてきて僕が出した結論がそれだった。

だけど、ご飯を食べずに生きていける人がいないのと同じように、性欲は抑えることが出来ない。
そして僕の性欲が向かう先。それは、15歳以下の少女たちだった。

その欲求を満たすため、僕は援助交際に手を出した。
インターネットで探せば、僕が求める年齢の少女たちとの援交も容易く出来る。
もちろんそれがいけないことだということなんて分かっていた。
けれどじゃあ、それすらも禁じられれば僕は一体どうやって生きていけばいい?

人は誰もが穢れを捨てた聖人になれるわけじゃない。
煩悩から解脱することなんて、凡人の僕には無理だ。
独りよがりの自分勝手な理論だけど、欲求を持て余して少女をレイプするような事件を起こしてしまうよりは、援助交際に手を出すほうがいくらかマシだと思った。

だけどそんな僕の考えなんて、我が国の法律の前では何の意味も為さない。
少女を1人抱くたび僕は、いずれ逮捕されてしまう可能性がどんどんと跳ね上がっていくのを感じていた。
だからそのリスクを少しでも減らすため、僕はネットのアングラ掲示板で知り合ったとある男性と契約を結んだ。

男の素性は一切知らない。年齢も、職業も、家族構成も。
ただ分かっているのは、彼もまたこの厄介な病気を抱えているということ。
そして、恐らくは僕と同じで都内近郊に住んでいるらしいということだけだった。

だけどお互い、いつ手が後ろに回ってもおかしくないことをしているのだ。
それくらい徹底しておいた方がいい。

彼との契約の内容は、情報の共有。
どこの出会い系サイトがいいだとかそういう話もするが、一番のメインは動画や写真の交換だった。
僕が援助交際で少女を抱いた際には、その様子を撮影して彼に提供する。
その代わり、彼も自分の行為の記録を僕に送ってきてくれる。
実は今再生していた12歳の少女の動画も、先日彼から頂戴したものだ。

そうやってお互いが抱いた少女を見せ合うことによって、欲求を解消する。
単純計算だが、そうすれば実際に援交を行う回数も半減すると思った。
知り合って半年近くになるが、彼から何か僕の情報が外部に漏れた様子もない。
信頼できる相手だし、このまま関係を続けていっても問題はないだろう。

動画再生ソフトを消し、メーラーを立ち上げる。


宛先:佐々木さん
送信者:筒井 賢介
件名:Re:12歳の子です

本文:
いただいた動画、拝見させていただきました。ありがとうございます。
可愛らしい子でしたね。少し、佐々木さんが羨ましかったです。

次は私が送る番ですね。近々、相手の子を見つけたいと思います。
また何かあればご連絡致しますので。それでは。



メールの送信を完了し、パソコンをシャットダウンしてから、僕はベッドに大の字になって寝転んだ。
こうして天井を見つめていると、嫌でも色んなことを考えてしまう。

このままではいけないのだろうということはもちろん分かっている。
だけど、もがいたところでどうしようもないし、どうにでもなれという気持ちの方が大きかった。

佐々木という男が現状についてどう考えているのか、話したことはないがきっと彼も同じように考えているのではないだろうか。
自分の倫理観が許せるギリギリのところで罪を犯し、なんとか世の中に折り合いをつけて生きていく。
だって仕方ないだろう?
誰も助けてなんてくれないし、僕たちはただ排除されるだけの存在でしかないのだから。

「障害者手帳が欲しいよ……」

なんともなしに呟いてみるが、本当の気持ちだった。
真っ当な社会生活が送れない。これは立派な障害なんじゃないだろうか。

ベッドにうつむき、枕に顔を突っ伏す。
この先の自分が、どこに向かっているのか分からなかった。
だけどきっと恐らくは、ずっとこんなことを続けることになるんだと思う。

死にたくない。だけど生きていたくもない。
少し格好をつけて言うならば、まさにそんな気分だった。

人はきっと、ロリコンが何言っているんだか、と思うのだろうけれど。

nennmani at 02:44│Comments(3)TrackBack(0)clip!Alice 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by ap   2008年02月07日 23:48
これはおもしろい!!!
早くも名作の予感が背筋をすり抜ける。

極端な異分子であり、そのありのままの姿を露呈してしまえば、弁解の余地すら与えられず、蔑まれ裁かれるだけの存在。
にもかかわらず、群れに属することを捨て去ることができないジレンマ。
そんな主人公に図らずとも自らの姿を重ねてしまう。
だからこそ、彼には救われてほしいと切に願う。
2. Posted by YKM   2008年02月08日 19:57
待ってました!!
今回も最高に面白そうで楽しみです!
3. Posted by ねんまに   2008年02月09日 12:25
>>apさん
apさんは、書評等のお仕事をなさった方が良いのではないでしょうか……?! マジで!
僕が伝えたいことを非常にコンパクトにまとめてくださってあり、感服しました!

これに便乗して言わせていただきますが、世間から疎まれる存在の象徴としてロリコンをテーマに選んだだけであり、僕は別に真性ロリコンとかではないですからね!!>>ALL

>>YKMさん
お待たせしてすいませんでした!!
ご期待に添えられるかどうかは分かりませんが、頑張って完結させます!

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔