2008年02月09日
Alice 9/8-B
らんらんるー。
らんらんるー。
携帯から間の抜けた着信音が響き渡り、張り詰めていた緊張の糸がふっと切れる。
あーもうまったく、うるさいよドナルド。
あたしは今、人生の重大な分岐点に差し掛かっているかもしれないっていうのに少しは気を遣って欲しい。
ちなみにドナルドっていうのは、言わずと知れたマクドナルドのマスコットキャラクターであり、らんらんるーというのは、彼が嬉しくなるとつい言ってしまう言葉(?)らしい。
インターネットでたまたまドナルドの動画を見て、人の神経を逆撫でするようなその言葉の響きが一発で気に入ったあたしは、すぐに着ボイスをダウンロードしたんだけど、クラスメートからはすこぶる不評だった。ありえないとまで言われたしね。
あたしからすれば、みんなでお揃いのヒット曲の着うたにしてるほうが遥かにありえないんだけど、そこはまあ黙っておいた。
腰をひねってベッドに手を伸ばし、携帯を取ってパカッと開く。
新着メール1件。「あのさ、連立方程式ってどうやって解くんだっけ(*´∀`*)」
うん、ググれカス。
ていうか、教科書見ろ。
返事もかえさずにベッドに携帯を放り投げると、あたしは再びパソコンに向き直った。
画面には、いくつかの出会い系サイトが表示されている。
なんで今日こんなことをしようとしているのかは、あたしにもよく分からない。
しいて言うならば明日の宿題が全部終わって暇だったっていうのと、それともう1つ。
あと1ヵ月あまりで、あたしは14歳になっちゃうから。
あたしがやろうとしていることを達成するためには、たぶん年は小さければ小さいほどいいはずだった。
まあ、そういう理由。
だけど、出会い系サイトってなんかよく分かんないんだよね。
適当に検索して引っかかったところを片っ端から開いてみたんだけど、どこも優良だとか無料だとか、そういう宣伝文句みたいなのが飛び交ってるだけで肝心の中身が見えてこないし、初心者にはあんまり優しくない。
それにいざ書き込もうとしても、年齢欄が選択式になってて、18歳未満はそもそも選べないようになってるから困る。
まあきっと、運営の人からしても18歳未満の書き込みを載せてちゃまずいことになるからそうしてるんだろうけど。
仕方ないから、色々と条件を絞り込んでもう少しマイナーなサイトを探すことにした。
そんなこんなで苦労の末やっと、年齢が選択式じゃないうえに、ちょっと違法ちっくな書き込みもオッケーっぽい雰囲気のところをいくつか発見。
今開いているウインドウに表示されてるのは、全部そういうとこだ。
だけど、なんて書きこめばいいかでまた悩む。
他の人の書き込みを見ると、「¥お願いします」だとか「サポ希望」って文字が飛び交ってるから、きっと援助交際のために使われてる掲示板なんだと思うけど、別にあたしはお金が欲しいわけじゃないんだよね。
けど、変なこと書いて浮くのも嫌だから他の人に倣おうか。うーん。
もちろんそのことだけじゃなくて、他にも色々と悩んでる。
本当にこんなことしちゃっていいのか、とか、あたしは相当バカなんじゃないだろうか、とか、もう後戻り出来なくなっちゃうんじゃないかとか。その他諸々。
けどあたしは、何かしたかった。
何もしないで悩むより、何かしてから悩むほうがいい。
それがあたしの出した結論だった。
「よし」
意を決して、キーボードに手をかける。
しかしそんなあたしの決意を妨げるかのように、階下からか細い声が聞こえてきた。
「美奈ー、お風呂入ってくれるー?」
え、もうそんな時間!?
時計に目をやると、時刻はちょうど21:30に変わったところだった。
今日もぴったりこの時間。
「分かったー! ちょっとだけ待ってて!」
声を張り上げて返事をすると、あたしは急いでキーボードを叩く。
投稿者:rika
投稿日時:2007-9/8-21:34
rikaっていいます。13歳です。
サポしてくれる人募集してます。
よろしくお願いします。
よし、これでいいや。
なんか悩んでた割には何のひねりもない書き込みになっちゃったけど、まあ気にしない。
慌ててパソコンを消すと、あたしは階段を駆け下りた。
「ごめんね、ちょっと宿題してて」
自然と口から嘘が出てしまったことに少しの罪悪感をおぼえながら、謝罪する。
困ったように、「ごめんね。邪魔しちゃった?」と聞き返すママの姿を見ると、なんだか余計に申し訳ない気分になって、あたしは話題を変えた。
「ううん、いいよ。パパは?」
リビングにいたのはママ1人だった。
「もうお風呂に入って、部屋に戻ったわよ」
「そっか、じゃああたしも入るね」
「ええ。ママはまだだから、あがるときにお風呂のフタしめておいてね」
こうしていると、どこにでもある普通の家族の会話のように思えてくる。
だけどあたしは知っている。
いつの頃からか、ママはずっと何かに怯えるようになってしまったこと。
何気ないことを話す時でも、声が震えていること。
そして毎日21時30分。まるで機械のように、いつも決まった時間にあたしをお風呂に呼ぶこと。
でもその原因は分かってる。きっとそれは、あたしのせい。
一体ママは、どこまであたしのことに気がついているんだろう?
けれどあたしには、それを問い詰めることは出来ない。少なくとも今はまだ。
「じゃ、入ってくるねー」
ママの肩を軽く叩き、わざと明るい調子であたしは言った。
らんらんるー。
ドナルドが、嬉しくなるとつい言ってしまう言葉。
あたしとママが、心からの笑顔でそれを言えるようになる日は来るだろうか。
ううん、あたしがそうなるようにしてみせる。
いつかきっと。
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この記事へのコメント
1. Posted by 豆腐DEゴマ 2008年02月10日 19:19
ドコモの野郎 退職金もいいらしいからね!!
頑張って続き書いてくださいね!
応援してます!!
頑張って続き書いてくださいね!
応援してます!!
2. Posted by ap 2008年02月11日 02:34
謎の多い少女ですね。
彼女は一体なにがしたいのだろう!?
そしてロリコン男との出会いからどんなドラマが展開されるのだろう!?
続きが気になって仕方ないので、明日はそれを理由に会社を休もうと思います。
彼女は一体なにがしたいのだろう!?
そしてロリコン男との出会いからどんなドラマが展開されるのだろう!?
続きが気になって仕方ないので、明日はそれを理由に会社を休もうと思います。
3. Posted by ねんまに 2008年02月11日 21:42
>>豆腐DEゴマさん
人並みの給料をくれるところなら、どこでもいいです!
転職したい!
がんばります^^
>>apさん
今回は、序盤から謎をばんばん提示していく感じにして、なんとか最後まで読んでもらえるように頑張ろうという作戦です!
一応それなりの結末はつけますので、疑問点となっている箇所を心の端に留めておいてくだされば、こちらとしても幸いです。
僕はメダルゲームとかいう悪魔の遊戯にハマってしまったので、会社を休んだうえ貯金を全て吐き出してこようと思います^^
人並みの給料をくれるところなら、どこでもいいです!
転職したい!
がんばります^^
>>apさん
今回は、序盤から謎をばんばん提示していく感じにして、なんとか最後まで読んでもらえるように頑張ろうという作戦です!
一応それなりの結末はつけますので、疑問点となっている箇所を心の端に留めておいてくだされば、こちらとしても幸いです。
僕はメダルゲームとかいう悪魔の遊戯にハマってしまったので、会社を休んだうえ貯金を全て吐き出してこようと思います^^