2008年03月02日

Alice 9/9-C


宛先:佐々木さん
送信者:筒井 賢介
件名:昨日の今日ですが

本文:
先ほど、とある出会い系サイトで13歳の少女の書き込みを見つけました。
真偽のほどは分かりませんが、メールしておきましたので、もしかしたら近々会うことになるかもしれません。

取り急ぎ、ご報告までに。
それでは。



筒井から送られてきたそのメールを見て、私は狼狽した。
自室に戻ってアームチェアに腰を下ろし、やっと安堵のため息をつくことが出来たと思った矢先にこれだ。

13歳――。

援助交際の相手を探すに当たって、私はずっとその年齢の少女を避けていた。
もちろん筒井にはそんなことは教えていないし、恐らく気付いてさえもいないだろう。
ましてやその理由などというものに至っては、あの男は知る由もない。

だが、偶然ではあるのだろうが、筒井が今まで13歳の少女の動画を私に送ってきたことはなかった。
だからこそ余計に、このメールは私の心をざわつかせた。
この半年でようやく落ち着きかけていた気持ちが、また乱れていくのが分かる。

しかし、これでいいのだ。
私は大きく息を吸い込んで呼吸を正し、ゆっくりとキーボードに指をかけた。


宛先:筒井様
送信者:佐々木雄治
件名:Re:昨日の今日ですが

本文:
13歳とは、楽しみですね。
私も期待しておきます。
ですが、くれぐれも無理はなさらないようにお気をつけ下さい。

それでは、失礼します。



そうだ、これでいい。
メールを送信して、自嘲的な笑みを浮かべる。

結局のところ私はきっと、「彼女」の身代わりを探すために援助交際をしているのだ。
だとすれば、13歳という年齢を避け続けていては何の意味もない。
代わりを見つけることさえ出来れば、二度とあんなことをしてしまわずに済むのだから。

「いや……」

私は小さくかぶりを振った。
本当は、彼女の代わりを探す必要なんてどこにもない。
心の底から反省し、後悔しているのなら、何もかもやめてしまえばいいだけなのだ。

私の脳裏からは、あの時の彼女の泣き顔がいまだに消えない。
あんな想いをさせていると気付いていなかった、いや、気付こうとさえしなかった身勝手な自分が、許せなかった。
だからこそ、同じ過ちを繰り返さないために、全ての欲望を捨てて生まれ変わろうと誓ったはずだった。

それなのに私は、都合のいい理由を探すだけで、己の欲望に打ち克とうという努力すらしていない。
利己的な言い訳をしながら少女を抱いて、自分の獣欲を満たしているのだ。

一体、何なのだろう私は。
ここまで自分のことしか考えられないエゴの塊のような人間が、46年間も生きてきたという事実に虫唾が走った。
だがそれが、私という存在だ。
こうやって自省するフリをするだけで、何も変えようともしない。それが私なのだ。

いつもと同じ結論に達し、私は思考することをやめた。
そうだ。考えたところで結局、私は自分を抑制することなど出来ない。
根本的にそういう奴なのだ。今までの人生も、ずっとそれの繰り返しだった。

それでもたった1つだけ、このことだけは何があっても守り通そう。
それは、彼女にもう二度とあんな想いはさせないということ。
それさえ守ることが出来れば、あとはもうなんだっていいような気がした。

パソコンの電源を落とすと、急に部屋が真っ暗になった。
電気をつけないでいたことにさえ、私は気がついていなかった。


nennmani at 21:35│Comments(3)TrackBack(0)clip!Alice 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by ap   2008年03月04日 22:33
巧みな心理描写に思わず感情移入させられます。
登場人物達の行く末を、固唾を呑んで見守っております。

ちなみに、ボクも最近巷にはびこるスイーツ系の本には、虫酸が走ります。今日ふと立ち寄った本屋でなにげなく手に取って立ち読みしていたら、脳に蛆が沸いてくる気がしました。あやうくポケットからライターを取り出しかけて、断崖ふうのリアル放火オチになるところでした。
2. Posted by ¥m   2008年03月05日 07:09
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url/503-4960405-0199142?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-jp&field-author=%E9%85%92%E4%BA%95%20%E3%81%82%E3%82%86%E3%81%BF

資料としてどぞ。
元風俗上が書いてる本。文章もうまくて内容も面白いです。
3. Posted by ねんまに   2008年03月13日 14:31
>>apさん
ありがとうございます!
更新遅くてすいませんホント。おかげさまで、転職活動はあと少しで収束しそうな雰囲気になりつつあります。

スイーツ系の本を見ていると、なんか日本語ってすごい自由なんだなあって思いますよね。

>>¥mさん
この前、官能小説事典(古今東西の官能小説の表現手法が網羅された破滅的な一冊)を手に入れて参考資料にしているのですが、そちらもぜひ利用させていただきたいと思います! 官能小説事典では、実際の女の心理なんて分かりませんもんね!

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔