2009年07月31日

原子力ルネッサンスとハルキスト

  1980 年代という舞台背景が好まれてか、村上春樹の長編小説「1Q84」(全2 巻)が話題を呼んでいます。発売からまだ1 ヵ月足らずで、累計150 万部に迫るハイペース。また同じく1980 年代の象徴ともいえるスーパー・スター、マイケル・ジャクソンが急死したことも加わり、最近1980 年代へのノスタルジー(郷愁)が高まっているように感じます。あの時代の日本には、特別な上昇エネルギーがありました。1970 年代の石油ショックから立ち直り、バブルへ向かって経済が加
速した時代に対して、日本人の多くが思いを募らせていてもおかしくはないでしょう。

  さて、今回のテーマは1980 年代へのノスタルジーの高まりではありません。ただ序奏として、その興隆の背後で起きた悲劇を思い起こしていただき、それ以降、世論の高まりを受けて原子力の平和的活用が積極性を欠いてきたという事実に触れたかったのです。具体的な悲劇とは、1986 年に起きた旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原発の大事故です。あれから約四半世紀を経て、事故を教訓に技術革新による安全性の向上が図られてきました。加えて、新興国の成長加速と環境への世論の後押しという新しい材料が重なり合い、この呪縛から抜け出す動きが急速に強まっています。この動きは時代の要請であり、
原子力の再評価は今後本格化すると考えます。主題に「原子力ルネッサンス」というやや大げさな言葉を使ったことには、それなりの根拠があるのです。
その根拠には3 つのポイントがあります。

  まず一つ目は新興諸国での人口増加、成長加速による需要増大への対応です。残念なことに、成熟した先進諸国では、1980 年代にあった上昇エネルギーを感じることは難しくなっています。しかし一方で、ここ数年の中国を中心とした新興諸国の興隆は著しく、金融危機後も強い成長エネルギーを失っていません。都市化が進む中国では、年々夏場の電力不足に苦しんでおり、それを補うために1 ギガワットクラス(ギガ=10 億)の原子炉を30 基程度建設するといわれています。また、インドでも原子炉が30 基は必要だとされています。

  二つ目のポイントは、先進国を中心とした地球温暖化防止の動きです。原子力発電(以下、「原発」)による二酸化炭素排出量は、石炭や原油、天然ガスなど火力発電の約20 分の1 から40 分の1 です。風力や太陽光など再生可能エネルギーの普及が思うように進まないなかで、原発は温室効果ガス排出削減のための切り札となっています。こうして原子力の復活を望む世論が高まり、いよいよ「原子力ルネッサンス」が現実のものとして形を見せ始めています。それは各国エネルギー戦略の転換に繋がっています。グリーンニューディール政策を進める米国は、クリーンエネルギーの促進を進める一方、新しい原子炉を約30 基建設することを決めています。日本でも、麻生太郎首相が6月10 日、2020 年までの日本の温室効果ガス排出量削減の中期目標を「2005 年比15%減」と決め、環境と経済を両立させつつ、原子力開発に全力をあげて取り組み、長期目標を実現させたいとの声明を出しました。

  三つ目のポイントは、資源ナショナリズムへの対応です。新興国を中心に国家戦略として資源の囲い込みが進むなど、エネルギー外交が積極化しており、資源輸入国にとっては大きな問題となりつつあります。つまり、長期的に持続的なエネルギー供給確保が緊急課題となってきたといえるでしょう。特に、欧州では、昨年天然ガスの安定的供給がロシアの政治的意図、および投資不足により、十分保障されていないという厳しい事実に直面し、これが政策の大転換のきっかけとなりました。即ち、代替エネルギー源の確保が進まないなか、かつての「脱原発国」イギリス、スウェーデン、イタリアが次々と原子力発電所の新設にむけて動き出しています。
  結論としましては、新興国の成長を背景にしたエネルギー需要の拡大、世界規模での地球温暖化対策、資源ナショナリズムへの関心の高まりのなかで、世界的に原子力の再評価が進む蓋然性が高まっていると考えます。そして、上述のように原発が増設され、稼動が進むと、原料のウラン需要も大幅に増加すると見込まれています。OECD(経済協力開発機構)とIAEA(国際原子力機関)の予測では、ウラン需要が2006年の年間約6 万5000 トンから、2015 年には同8万3000トン程度まで増加するとしています。また、市場もこれらの動きに気付いたためなのか、春先からウラン価格は急騰し、4 月の安値40 ドルから6 月には50 ドル半ばまで30%超の回復を見せました。
  「原子力ルネッサンス」の動きは、ウラン会社にとってプラス材料であるばかりか、原子炉建設の技術力、人材に強みを持つ日本にとっても大きなプラス材料です。今の日本にとって必要なことは、浮揚感を求め1980 年代のノスタルジーに浸るより、現実を踏まえ、成長戦略、エネルギー問題に対して、日本の強みを生かした抜本的対策を練ることではないでしょうか。例えば、原子力を日本の輸出産業の柱にするなど・・・。 

  余談ですが、村上春樹の作品への傾倒は、よくモチーフになる、現実とは違う“別の世界”にトリップ(出奔)できる点にあると聞きました。トリップの結果(?)か、村上春樹好き、いわゆるハルキストには独身の男性が多いそうです。しかし、現実を離れていては何事も解決しません。日本の政治も、政権闘争など内輪のワールドに浸ってばかりいて、世界の現実から遊離していると、国際社会からますます置いていかれるのではないかと心配です。個人的には村上春樹の大ファンなのですが・・・・!



neoiio at 22:56│Comments(0)TrackBack(0)clip!ビジネス 

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