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残る2本の特許のうち1本の特許に無効審判の申し立てが認められて再審査へ。
2022-04-25 07.53.35
In Reversal, Patent Trial and Appeal Board Says WiTricity Patent Claims Likely Invalid
March 17, 2022, 6:12 AM

*Patent part of lawsuit WiTricity filed against Momentum Dynamics
*Patent Trial and Appeal Board granted rehearing request after denying review

Momentum Dynamics Corp. convinced an administrative tribunal to review a WiTricity Corp. patent related to wireless charging systems for electric vehicles, months after the Patent Trial and Appeal Board said it didn’t think any part of the patent was likely invalid.

The Patent Trial and Appeal Board in December denied Momentum Dynamics’s request for review of U.S. Patent No. 7,741,734 because it didn’t think there was a “reasonable likelihood” Momentum Dynamics would win its challenge to any of the patent’s claims.

Momentum Dynamics asked for a rehearing, arguing WiTricity’s “unsupported attorney argument misled the Patent Trial and Appeal Board” in its decision. The Patent Trial and Appeal Board on Wednesday said Momentum Dynamics had alleviated concerns ...

翻訳(直訳):
逆転では、特許審判部はWiTricityの特許クレームが無効である可能性が高いと述べています 2022年3月17日午前6時12分

*Momentum Dynamicsに対して提起された訴訟WiTricityの特許部分
*特許審判部は、再審査を拒否した後、再審査の請求を認めました

Momentum Dynamics Corp.は、特許審判部が特許のどの部分も無効である可能性が高いとは思わないと述べた数か月後に、電気自動車のワイヤレス充電システムに関連するWiTricity Corp.の特許を審査するよう行政審判所を説得しました。 12月の特許審判部は、Momentum Dynamicsが特許の主張のいずれに対しても異議を申し立てる「合理的な可能性」があるとは考えていなかったため、Momentum Dynamicsによる米国特許第7,741,734号の再審査請求を却下しました。 Momentum Dynamicsは、WiTricityの「支持されていない弁護士の主張が特許審判部を誤解させた」と主張して、再審査を求めました。水曜日の特特許審判部は、Momentum Dynamicsが懸念を緩和したと述べた...

説明:
どうやら特許侵害訴訟(裁判所/司法)とは別に(米国)特許商標庁(行政)にも特許の無効を審査するようMomentum Dynamicsから(米国)特許商標庁に対してWiTricityの特許第7,741,734号の再審査請求が行われていたようである。Patent Trial and Appeal Boardは米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)という。この手続きは日本で言えば”特許庁の審判部に特許の無効審判が申し立てられた”ということに該当する。特許侵害訴訟が提起されているのは裁判所であるが、訴えられた側が反撃として特許庁に係争中の特許の無効審判(再審査)を申し立てることはよくあることである。
この再審査請求であるが、昨年12月に出されていたものが一旦却下になっており、それを覆して3月16日に再審査請求が認められての再審査となる。

PTABは特許第7,741,734号の請求項が無効である可能性が高いと見ているようであるがどのような理由なのであろうか。
技術的に見ると私見ではあるが、一次側の共振と二次側の共振で音叉の共鳴のようなことが起きるという理論自体が大きな間違いであり、ワイヤレス給電は二次側の共振だけで成立する。そういう意味でこの特許は無効になってほしいと思っている。しかし実際の特許の無効審判(再審査)はそういう理由では審査してくれないので、おそらくはいくつかの先行技術と比較して進歩性があるか否かという判断になるのであろう。結果が気になるところである。


「詐欺的なスキーム・・」 ん?何か物騒なことを言っている・・
By Tiffany Hu (March 1, 2022, 4:54 PM EST)
Electric vehicle charging maker Momentum has hit back at a patent suit by rival WiTricity and the Massachusetts Institute of Technology, telling a Delaware federal judge that it doesn't infringe the patents and WiTricity is engaged in an "unlawful, unfair and deceptive scheme."…

翻訳:
電気自動車充電会社(Momentum Dynamics)は(WiTricityのやり方は)欺瞞的なスキームだと主張してMITの特許訴訟と戦う
2022年3月1日、東部標準時午後4時54分

電気自動車充電メーカーのMomentum (Dynamics)は、ライバルのWiTricityとマサチューセッツ工科大学による特許訴訟に反撃し、デラウェア州の連邦裁判官に、(Momentum Dynamicsは彼らの)特許を侵害していないし、さらにWiTricityは「違法、不公正、欺瞞的な計画」を進めていると語った。
以下会員のみ閲覧可

解説:
記事の本文の中には"Momentum said WiTricity "furthered its knowing and willful scheme of unfair competition" through its involvement in a task force to define industry-wide EV wireless power transfer standards. "とあるが、要約するとWiTricityは規格を定めるタスクフォース、つまり、IEEE(米国電気電子学会)やSAE(米国自動車技術者協会)などに入り込み、WiTricityに有利になるようにワイヤレス給電の充電規格を誘導して新しい技術の導入を排除したりした結果、EVのワイヤレス充電規格に技術的な欠陥をもたらしたと、
"WiTricity's actions have impeded industry acceptance of wireless vehicle charging, introduced technical deficiencies to the [wireless power transfer] standard, and constitute unfair and deceptive acts, trade practices, and methods of competition that threaten... " さらに、「不公正で欺瞞的な行為、取引慣行、および脅威となる競争方法を構成している...」、とMomentum Dynamicsは訴訟の答弁の中でWiTricityを手厳しく批判しているようである。この様子ではどうも和解は難しそうな雰囲気だ。
それと、既にWiTricityが特許侵害だと主張する特許の一つ(US8,710,701)がDiscoveryの過程で無効になっているが、その後4つの特許(US8,304,935 US8,884,581 US9,184,595 US9,306,635)がWiTricityによって取り下げられ、現在訴訟が続けられているのはUS7,741,734US9,184,595の二つになっているようである。
そしてMomentum Dynamicsは残る二つの特許も先行技術が明白なので特許侵害にならないと主張している。
このような流れになってくると心穏やかでないのは、WiTricityとライセンス契約したライセンシー各社とWiTricityに出資しているファンド各社であると思う。
またこれらの特許の回避は簡単で、1990年代中ごろから普及し始めた日本式のワイヤレス給電(二次側だけを共振させる)を積極的に採用すればよい。なお、これらの二次側だけ(受電側だけ)を共振させるワイヤレス給電の特許はほとんどが切れているので、先行で事業化している各社に特許侵害で訴えられるおそれもない。

●二次側のみ共振か両側共振か
一次側と二次側とを共振させる場合と二次側だけを共振させる場合でどういう場合に有利不利が生じるかはLTSpiceで簡単にシミュレートすることができる。結論だけ言ってしまうと、送電・受電コイル間の結合係数が0.1以下ならば双方とも共振させた方が良い結果が得られるし、結合係数が0.2を超えるならば二次側だけを共振させた方が良い結果が得られる。結合係数0.1~0.2(前後)の間の明確な線引きを求めるならば、それは受電コイルのパラメータと負荷のインピーダンスとの関係(+駆動周波数)によって決まる。いずれもLTSpice等のシミュレーションによって求めてみればよいだろう。
実用性を考えてみると、大電力かつ高効率でワイヤレス充電を行うとすれば結合係数は0.2以上が好ましいので、やはり受電側(二次側)のみ共振が有利ということになる。そうなってくるとWiTricityの方式の出番はますますなくなってきてしまうのである。


先ずはブルームバーグの記事から、訴訟にはWiTricity(ワイトリシティ)と他にMITとオークランド大学が原告に加わっている。訴えられたのはMomentum Dynamics。Momentum DynamicsはGoogleにワイヤレス給電技術を提供している。

翻訳:
三菱(商事)が支援するWiTricityがワイヤレス充電特許をめぐって訴える
2020年12月10日午前6時21分

投資家が三菱を含むWiTricityは、Momentum Dynamicsが、4つの州の公共バスネットワークに沿って設置している電気自動車用のワイヤレス充電システムで7つの特許技術を侵害したと述べた。
・マサチューセッツ工科大学とオークランド大学のオークランドユニサービスユニットも原告である
・デラウェア州ウィルミントンの連邦裁判所に水曜日に提出された訴状によると、彼らは、逸失利益と合理的なロイヤリティを含む現金補償と、テクノロジーのさらなる不正使用を阻止する裁判所命令を求めている
訴訟で引用された公共バスネットワークは、マサチューセッツ州マーサズヴィンヤードにあります。 テネシー州チャタヌーガ; ワナッチー、・・(以下有料記事)
解説:
WiTricityは三菱商事から約40億円の増資を受けた直後の提訴である。資金調達を報道する記事には気になる文言が書かれていたが、この訴訟がその意味かと思われる。
プレスリリース発表元企業:WiTricity 配信日時: 2020-10-30 08:28:00
「三菱商事が米国子会社の北米三菱商事を通じて戦略的投資を行いました。この資本注入により、ワイトリシティは引き続き最先端のワイヤレス充電プラットフォーム開発を進め、知的財産ポートフォリオを拡充し、電気自動車(EV)とモビリティー市場向けワイヤレス充電の商用化に邁進していきます。」

つまりこの三菱商事による資本参加は特許戦略を拡充することを目的としている。何かあると思っていたが、この特許訴訟を提起するということがその答えだったわけだ。ではどのような特許を侵害しているのかというと以下の7つである。
この訴訟、QUALCOMMがよくやる戦略だが、訴訟を起こしておいてから相手と適当に和解してしまうんじゃないかと思っていたが、ガチでマジに戦っていたようだ。WiTricityは三菱(商事)と組み、Momentum DynamicsはGoogleと組んでいるせいかもしれない。ディスカバリーの手続きの中で特許の有効性について争われたが、一部の特許について請求権なしとされた。(無効と見なされた)

https://news.bloomberglaw.com/ip-law/abstract-witricity-patent-cut-from-wireless-changing-patent-suit
スクリーンショット 2022-01-25 21.20.52

翻訳:
ワイヤレス充電特許訴訟から外された抽象的なWiTricity特許
2021年9月29日午前4時58分

・裁判官は、特許が抽象的なアイデアのみしかカバーしてないことを発見した
・侵害で告発されたMomentum Dynamics
電気自動車のワイヤレス充電システムに関連するWiTricity Corp. の特許は、法的保護を受ける資格のない抽象的なアイデアを対象としていると、デラウェア州の連邦判事が裁定しました。
Momentum Dynamics Corp.は、12月に提起されたWiTricityによる侵害訴訟の一環として、米国特許第8,710,701号の有効性に異議を唱えました。 この特許は、ワイヤレス電力伝送用のアンテナに関するものです。
デラウェア地区の米国地方裁判所のミッチェル・ゴールドバーグ裁判官は、9月27日の意見で、この特許は単に「ワイヤレス電力伝送を最適化するための抽象的な目標」を述べていると述べた。 それがすべてのワイヤレス充電デバイスの目標だと彼は語った。(以下有料記事)
補足:
この中間判決の全文はこちら。
この特許訴訟における侵害非侵害の判断はこれからである。長いので読むのがつらいという方は最後のIII. CONCLUSIONだけ読めばいいと思う。
US8,710,701号の出願時Assignee: QUALCOMM Incorporated (San Diego, CA)、QUALCOMM-Halo由来の特許発明が無効化された判断となる。
これを読むとUS8,710,701号の特許性は否定されたがUS9,184,595号の進歩性は認められて有効ということになっている。有効だから即侵害アリと認められたわけではないが、'595特許請求項にあるa source magnetic resonator(ソース側磁気共振器)のQ値の定義がコイル単独の quality factor Q(品質係数Q)であることに注意しなければならない。一般的な高校物理で習う直列共振/並列共振の共振Qではないからややこしい。コイル単独の quality factor Qとはどれだけ優秀なコイルかという部品の品質指標である。重要なことであるが一般的な報道ではここまで突っ込んだことは書いてないので特記しておいてほしい。
US09184595-20151110-D00007_002
'595特許の問題点は、仮に高い品質係数のワイヤレス給電送電コイルの構造や原理をWiTricityが発明してそれを特許にしたというならわかるのだが、'595特許明細書に具体的実現方法としては「ソース磁気共振器を取り囲んでキープアウトゾーンを形成する非損失材料の層」という記述はあるだけで、なぜそれで高い品質係数Qが実現できるのかが理論的に不明であり、非損失材料の層がプラスチックの充填などを意味するのだったらそれってあたりまえの作り方ではないか?このままだと高い品質係数のコイルを第三者が作るとして、それをワイヤレス給電送電コイルにして共振させたらWiTricityの特許を侵害することになってしまうことになるという点だ。この請求項もまた単なる目的の記述、概念の記述だと思うのだがその申し立ては認められずに'595特許は有効と認められた。WiTricityの発明のHighly-resonantには進歩性があるようだがその具体的実現方法としてコイルが必要なQ(文脈からHighly-Q)値を有していることが明記されているとしている。だがそのHighly-resonantのQって共振Qのことじゃないか?請求項のコイル単独の品質係数Qじゃないだろう?!この判断、明らかに共振Qとコイル単独の品質係数Qの区別ができていない。今後被告がその点をつつくとどうなるかに注目である。裁判官がもし「発明の本質であるHighly-resonantのQって請求項にある品質係数Qじゃないよね」って気づいていてこの中間判断を出したとしたら頭のいい裁判官である。
そこで気づいたのが最初に訴状にあったUS7,741,734が中間判断では言及されてないが、これの請求項を読むとQの定義がfirst Q-factor Q1=ω1/(2Γ1)、second Q-factor Q2=ω2/(2Γ2)とあり、こちらは明らかに共振Qである。このように一つの訴訟の中でQの定義が共振Qであったりコイル単独の品質係数Qであったり定義がうろうろと変貌するのもおかしなことである。
で話は続くが、'595特許の請求項をそのまま解釈すると、(WiTricity以外の)コイルメーカーの努力でESRの小さい優秀なワイヤレス給電用送電コイルを作ったとして、それをワイヤレス充電送電用のソースリゾネーター用にに売り出したら自動的にWiTricityの特許侵害になってしまうように読める。このようにして売られているワイヤレス給電用コイルの全てがWiTricityの特許侵害になってしまうのだ。これは'595特許を侵害しないためにはコイルの品質が優秀であってはならないということを意味する。そんな広い解釈許されるか?この裁判官はワイヤレス給電のオリジナルの発祥が日本だということを知らないのではないか?或いはMomentum Dynamicsもオリジナルが日本にあることを主張していないとかもあるかもしれない。或いはわざと原告被告が組んで発祥が日本であることを隠して裁判を行っているか?!民事裁判というのはそういう策略もあり得るので怖い。高い品質係数Qのワイヤレス給電用コイルならば少し大きなE型のフェライトコアに銅線を巻き付けただけで簡単に実現できてしまう。日本のワイヤレス給電では昔からやってたことになる。もっと日本の先行技術を調べてほしい。数多くの先行技術が二次側だけ共振させてちゃんと実用になっている。そしてほとんどの特許が切れている。
結局この米国の特許侵害訴訟に巻き込まれないためには送電コイルを共振させないことが一番早い侵害回避手段だということになるだろう。

解説:
一つの特許が無効化されても残り6つの特許があるからいいや・・・、というわけにはいかない。US8,710,701は特許範囲が非常に広いからだ。それが無効化された。ダメージは大きいと思う。
ところでMomentum Dynamicsの技術はどのようなものかというと、昭和飛行機の特許発明に似ている。一次側に並列コンデンサによる共振回路を持っていることになっているが、実際にはチョークコイルとコンデンサとの間で共振させている。
preup
プレ昇圧回路と呼ばれる

この訴訟の当事者、両社ともワイヤレス給電の原理を間違えているのだからどうしようもない。簡単に言うと、
1.一次側の共振と二次側の共振が必須だという迷信を固く信じている
2.一次側の共振はLsとCsとの共振が正しいが、これをCsとL1との共振だと思い込んで訴訟を続けている(CsとL1との共振ではない! L1はただの非共振コイルだと主張すれば侵害回避できるかもしれない)
3.「共鳴場エバネセントテール」なんてものはない、古典的な主磁束/漏れ磁束ならある
要するに両社とも間違った原理を信じて物理的に存在しない現象の特許を争っているのだ。
原理を間違えた者同士の特許紛争なんだから放っておくしかないのだが、我々も「(彼らの)原理が間違っている」、とプレスリリースをかけている。我々の特許発明は二次側のみの共振であり、それで十分にワイヤレス給電は成立してしまう。一次側も共振させなければいけないという両社の思い込みが間違えているのだ。
WiTricity vs. Momentum Dynamicsの特許が請求項に「一次側と二次側との共振 (the source resonator and the second resonator)」とはっきり書いている一方、二次側のみの共振で成立する我々の特許技術は彼らの特許を回避した特許発明だということになる。高みの見物といくしかない。ヤレヤレ、本当に物理法則的に正しい技術はこっちだっていうのに・・
ちなみに我々が示すQ値の定義はLとCと負荷抵抗で決まる共振Qである。(ここまででQの定義が3つも出てきてしまった・・)そして目標の高効率を得るのに必要なQ値も曖昧な定義をせずに計算式を明細書に記載している。結合係数が0.4ならば必要なQ値は2/0.4/0.4=12.5、結合係数が0.3なら2/0.3/0.3=22.22、結合係数が0.2で2/0.2/0.2=50である。実用域の結合係数ではそれほど大きな共振Q値は必要ない。

Neotes Co., Ltd. Announces Revolutionary Wireless Power Transfer Technology
December 21, 2021 07:02 AM Eastern Standard Time
“The root cause is that the theory behind resonant circuits is wrong. The MR method depends on the resonance between the transmit coil and the receive coil, like the resonance phenomenon with tuning forks. The right way to do it is to have resonance only in the receiving coil. We have proved this in the development of our own technology, namely invertors for LCD backlights,”
「根本的な原因は、共振回路の背後にある理論が間違っていることです。 MR方式は、音叉による共振現象のように、送信コイルと受信コイル間の共振によると言われています。 しかしそれを行う正しい方法は、受信コイルでのみ共振することです。 これは、独自の技術、つまりLCDバックライト用のインバーターの開発で証明されました。」
真のワイヤレス給電は二次側の共振のみ(磁界調相結合)が正しいのだ。もう、学問的にも報道的にもワイヤレス給電を「音叉の共鳴」だという迷信は捨てるべきだ。そうすれば日本のワイヤレス給電がアメリカから訴えられる心配もない!!


インバータ回路のシミュレーションができるようになったので、一次側並列接続(PP、PS方式)をインバータ回路で駆動してみるとどうなるかを見てみた。以前にPP、PS方式について意味がない!、発狂する!とまで悪口を言ってしまったので、その裏付けを取るべくシミュレーションしてみた。
一次側(送電側)に共振コンデンサC5を配置しただけであるが、回路図は以下のようになる。
LTC4449HardSoft-4a

とりあえずPP方式で試してみた。並列に接続されたC5とスイッチング素子に大電流が流れるからPP、PS方式は意味がない方式であると言ったが、その結果は以下のとおりである。
LTC4449HardSoft-4p

300A?!
スイッチングのFETであるQ1、Q2になんと300Aものパルス電流が流れてしまうという結果になった。悪口言っても許してもらえますよね?
実際のインバータ回路でも結果は同じになる。コンデンサのESRなどがあれば多少は電流を制限してくれるかもしれないので300Aにはならないと思うが、それでもけっこう鋭い電流パルスが発生していることは間違いない。スイッチングのFETが損傷するだけでなく、猛烈なEMIを発生していることになる。

●結局インバータ回路でPP,PS方式を駆動するのは無理
送電側並列共振というものが意味があるのかないのかは別として(意味がないのだが・・)送電側並列共振の回路を駆動するには駆動インピーダンスがゼロのインバータ回路では無理だということが明らかである。
ならば駆動側インピーダンスがゼロではない整合回路で駆動すればいいのかというと、大きな損失が起きるので好ましくない。
と、ここまで書くと、駆動側インピーダンスがゼロではない整合回路で駆動してみればいいのかと思う人が出てきてしまうといけないので結論から先に言っておくと、インバータで駆動するほどローコスト/簡便な方法は他にはないので、実用的にはPP、PS方式は成立しない(理論的にも意味がないのだが)ということになり、諦めた方がよいということで間違いはないだろう。

●素朴な疑問
しかしなんで磁界共振は揃いも揃って一次側(送電側)に共振コンデンサを置こうとしてしまうのだろうか。よく考えてみてほしい。電力変換のための相互作用は巻線間にのみ発生する。送電側のコンデンサは電力変換の相互作用に関係ないだろうに。これもWiTricityが最初にモデルを発表し、皆がそのモデルに嵌ったからだと説明するしかない奇妙な現象である。試しに送電側共振コンデンサをなくしてDCデカップリングコンデンサ(C3)だけにしてみたら?それを誰もやってみようとしないということにますます大きな疑問を感じてしまうのである。

今まで初期設定編からNP方式磁界共振(磁界調相結合)の基本特性についてシミュレーションを行ってきたが、実際にワイヤレス給電を実用化したり自作したりする場合にはインバータ回路の制作が必須である。そこで回路シミュレーションの視点を変えて、磁界共振のLC回路をインバータ回路で駆動した場合のトランジェント解析を行ってみたいと思う。
駆動する基本LC回路はNP方式磁界共振であるが、他のオプションもいろいろと試してみればよい。
シミュレーションの電源と実際のインバータ回路との違いはシミュレーション電源が正弦波であるのに対して、インバータ回路ではスイッチング素子のON-OFFによる矩形波駆動となる点である。そのほかスイッチングのタイミングなども大事であり、スイッチングのタイミングが悪いとハードスイッチングを起こしてスパイク状の電流が流れ、それがEMIを起こす。その様子もシミュレーションで再現することができる。
スイッチング素子をFETにする場合、スイッチング回路はFET二個によるハーフブリッジ回路、またはFET4個によるフルブリッジ回路が一般的である。
今回は二つのFETで構成するハーフブリッジ回路として、そのFETを駆動するICはLTC4449とする。このドライバICはごく一般的なICであるるので自作派にも向いている。他にもテキサスのTPS2836などが使いやすいので現時点ではお勧めである。
LTC4449は同期整流ドライバということであるが、ハーフブリッジの駆動にも向いている。LTC4449とTPS2836は「適応型シュートスルー保護」"Adaptive-(Dead-Time and) Shoot-Through Protection"と言って、ハーフブリッジの上下のFETが同時にONにならないような工夫がされているので便利だ。「適応型」"Adaptive"というのはFETのゲート容量の違いによる駆動遅れをある程度自動的に補正してくれる機能である。一方、旧来からあるハーフブリッジドライバではIR-2104、IR-2184、IR21844などがポピュラーである。耐圧が600Vあるのでハイパワーのインバータ回路を組む場合には定番である。ただし、これらのICのShoot-Through Protectionは"Adaptive"ではない。固定Dead-Timeなので、使い慣れたFETとの組み合わせであれば問題ないがゲート容量が大きく違うFETを使う場合には注意が必要である。IR21844はDead-Timeの調整が可能であるが、このDead-Timeの調整は回路設計者自身が行う。いろいろなゲート容量のFETやIGBTに合わせてドライバのICを選んだり、FETやIGBTごとに最適なDead-Timeの調整をしたりできることは便利な一方でけっこうな職人芸なので自作派には辛い。

●LTC4449を選択
LTC4449を使った回路は以下のとおりである。NP方式磁界共振なのでC3は47μFと大きく設定してあり、共振とは無関係な値になっている。これはDCカットコンデンサであって共振コンデンサではない。ここでSP方式を試したい人はC3に0.18μFなどを設定してみればよい。結合係数が0.4の場合、C3は共振させない方が良い。
LTC4449HardSoft-3a

左下の矩形波の発生部分はシミュレータの電源で済ませているが、ここは実際には後述する555などの発振回路を使ってほしいと思う。パルス幅計算で真面目に矩形波を発生させてみたが、なぜだか計算時間が異常にかかってしまったので簡略にした。
シミュレーション結果は以下のとおりとなる。非常に模範的なインバータ回路の動作波形が得られた。実際にワイヤレス給電回路を制作し、駆動周波数を共振周波数上にピタリと合わせた場合に見ることができる波形と一致しているのでここは信用してよいと思う。
LTC4449HardSoft-3p

シミュレーションの読み取り開始時間を、
.tran 0 2050u 2000u
と2000μ秒開始と大きく遅らせたのはカップリングコンデンサ47μFによる過度振動の影響が消えるのを待っているからである。
動作開始直後から見たい場合は、
.tran 0 200u 0u
などとすればよい。起動時はけっこう暴れていてEMIが大きい。2000μsec(2ミリ秒)ほど待てば波形が落ち着く。
直列共振周波数である87.291kHzで駆動するとソフトスイッチングであり、EMIも発生せずに綺麗な電流波形であることがわかる。特筆すべきは、二次側(受電側)を共振させると一次巻線電流(送電コイル電流)I(L1) の電流波形が正弦波になるということである。一次巻線側に共振コンデンサがないのに何故?と疑問に人も多いだろうが、これが二次側共振(磁界調相結合)の興味深いところであり、二次巻線(受電コイル)との相互作用によって、二次巻線電流が正弦波になると一次巻線電流も正弦波になるのである。
V(center)電圧と送電コイル電流I(L1)との関係を見ると、I(L1)の電流位相がV(center)電圧位相よりも少し遅くなっていることがわかる。これはZVS(ゼロボルトスイッチング)動作条件としてとても大切である。
Id(Q1)、Id(Q2)はQ1、Q2のそれぞれのFETのドレイン電流である。FETのドレイン電流がマイナスから始まっているのはゼロボルトスイッチングの状態であることを意味する。このような波形であると、EMIを発生させずにFETに損失を起こさせない高効率なスイッチングがされているということになる。

●駆動周波数がわずかに狂っただけでEMI発生!
次にわざとEMIを発生させてみる。
SINE(2.5 2.5 87.291k) を
SINE(2.5 2.5 86.1k) に書き換えて、
駆動周波数を86.1kHzにしてみると、Id(Q1)、Id(Q2)に大きなスパイク電流が流れていることがわかる。このスパイク電流がEMIの原因となる。駆動周波数を0.1kHz単位で変えてみると、このスパイクは86.6kHzあたりから発生し始めていることがわかる。
HardSwitching
V(center)電圧と送電コイル電流I(L1)との関係を見ると、I(L1)の電流位相がV(center)電圧位相よりも早くなっていることがわかる。これがハードスイッチングの状態であり、FETには大きな負担がかかっていてFETが焼損する原因にもなる。

●ソフトスイッチングとハードスイッチング
上記の図でどこに注目すればよいかといえば以下の通りだ。
HardSoft
共振動作をしているLC回路をスイッチングする場合は、一次巻線駆動電圧(矩形波ー水色)に対して一次巻線電流位相(サイン波に近いー緑色)は常に遅れる関係になければならない。この状態を誘導性駆動と言い、またソフトスイッチングの条件でもある。FETに流れる電流は先ずはマイナスから始まる、この状態をゼロボルトスイッチングと言い、FETのスイッチング損失が少ない良好なスイッチング状態である。
逆に一次巻線駆動電圧(矩形波ー水色)に対して一次巻線電流位相(サイン波に近いー緑色)が進んでいる関係にあるとよくない。この状態を容量性駆動と言い、ハードスイッチングになってしまっている。この状態ではFETに流れる電流は先ずはプラスから始まる、この状態はゼロボルトスイッチングではないために、FETのスイッチング損失が大きくEMIを生じる悪いスイッチング状態である。ワイヤレス給電のインバータ回路を設計する場合には最も注意しなければならないポイントである。
●555による発振回路
参考までに発振回路を555とした場合の回路図と波形を以下に示す。実際にワイヤレス給電回路を組む場合にはこの回路をもとにすると便利である。R2を可変抵抗にすれば周波数を変えた実験もすぐにできる。
LTC4449TLC555HardSoft-85a
LTC4449TLC555HardSoft-85p

●ワイヤレス給電では周波数精度の問題を舐めてかかると失敗する
実際のワイヤレス給電の回路でも駆動周波数と共振周波数の正確さは大事である。
駆動周波数が最適駆動周波数よりもわずか1.4%下回っただけでこの現象(10A近くのスパイク電流)が起きる。この周波数合わせのノウハウがワイヤレス給電のロバスト性の良し悪しに直結しているのである。
では駆動周波数を精密に固定すればいいのか?それは間違いである。駆動周波数を精密にしても、コイル間距離が設定よりもちょっと近づいた(結合係数が高くなった)だけで共振周波数は高くなり、ハードスイッチングが起き始める。ならばと、駆動周波数とコイル間の設定距離を正確に定めたとしても、今度は共振コンデンサの部品精度(普通は±5%)と受電コイルのインダクタンスの精度(普通は±20%)が問題となってくる。部品制度と言っても温度によって変化する温度係数、パラメータの経年変化なんてものもる。量産になると量産バラツキというのも出てくる。果たしてこれら全てを克服できるか?
ここがワイヤレス給電のもっとも難しいところで、駆動周波数と共振周波数とが常に思いのほか高い精度で一致していなければならない。(ここがわかっていないケースが多過ぎる!)
つまり、共振周波数がバラツクのだから駆動周波数を共振周波数に合わせる、か、駆動周波数は変えずに共振周波数の方を補正する、か、答えは二つに一つであり、他の選択肢はない。
ここまで聞いて、「こりゃあ、ワイヤレス給電は実験室で一台完成させることは可能でも量産は無理だな。」という結論に達するのが正常な事業感覚である。
それでは磁界共振方式のワイヤレス給電の量産は不可能なのか?!このままでは不可能である。だからワイヤレス給電は大きな市場が期待されていながらスムースに普及しないのである。では解決法はあるのかというと、あるから解説しているのである。


●駆動周波数の大切さ
以上、ワイヤレス給電にとって駆動周波数/共振周波数の管理が非常に重要であることをシミュレーションによって確認してきた。
ここで認識していただきたいのは、この点が多くのワイヤレス給電の開発において全く重要視されていないということである。
そして多くの前例や回路例、参考WEBが気楽に駆動周波数を決め、周波数精度に無関心のまま実験に取り掛かって正しくない結果を導いている。そういう参考WEBを見て、他人も(周波数管理を)いいかげんにやっているから、じゃあ自分もいいかげんにやればいいんだということには決してならない。これは、どのような回路や回路パラメータが正しいかは前例に左右されず、最適な回路は主体性をもって判断するべきだと言うことである。とくに権威のある筋からの提示回路が信用おけないことには十分に注意してほしいと思う。

工事中



今まで初期設定編からNP方式の磁界共振をシミュレーションしてきたが、NS方式はどうなのかということに簡単に触れてみたい。
NP方式は実は1990年代後半に世界で最初に日本で本格的な普及が始まったワイヤレス給電の方式に使われていたし、今でも多く使われている。
NS方式の接続だと比較的低電圧低抵抗に向いているということなので負荷抵抗は低く設定した。そのことでわかるのだが、共振電流の多さに比べて伝わる電力が少ないので効率があまりよくない。ワイヤレス給電の黎明期(1990年代)には流行ったが、その後は少なくなっている。もしかしたら知らないところで大量に採用されているのかもしれないが。
ということでNS方式もシミュレーションしてみた。
ResonantTransformerSeriala

負荷抵抗を0.5Ωから8Ωまで可変してみた。その結果が以下である。
ResonantTransformerSerialp

やはり直列共振周波数が伝達関数のピークと一致している。このことから見てもワイヤレス給電の本質は直列共振周波数にあると言って間違いない。
NS方式の特徴はなんといっても負荷抵抗の大小にかかわらず、出力電圧が一定なことであり、この後につながるレギュレータの設計も従来型で良いので扱いやすく、広く普及した。ワイヤレス給電の先行技術を調べるとたくさんの特許出願が出されていたことがわかる。
NP方式に比べるとワイヤレス給電としてはあまり話題に上ってこないのは、遠くに届かないということが(つまらないので?)その原因かもしれない。ワイヤレス給電が2006年のMIT(WiTricity)の実験よりも先に実現されてたということがライターや記者の面子にかかわり、インフルエンサーとか技術誌記者らの意地でも取り上げたくないという雰囲気というか、風も感じられなくもない。

上の位相特性でを見てもわかるように、伝達関数の高いところは直列共振周波数にあたり、二次側短絡インダクタンスと二次側共振容量との共振である。L2のインダクタンスと二次側共振容量との共振ではないので、ここのところを間違わないようにしっかりと見てほしい。

●実際の回路ではどうなのか
では実回路ではNP方式はそんなに完璧なのかというと、少しだけこの定電圧性が崩れる。それは一次巻線(送電コイル)と二次巻線(受電コイル)に直列抵抗を入れることで実際のモデルに近いシミュレーションができるようになるので試してみてほしい。
ResonantTransformerSerialp2


NP方式と同じように結合係数の方も変化させてみた。

ResonantTransformerSerial2a

結果はやはりコイル間距離が変化すると共振周波数(直列共振周波数)が変化するのがわかる。
ResonantTransformerSerial2p

結合係数が0.15以下であれば共振周波数はほとんど変化しないので、多少効率を犠牲にすれば固定周波数でも使えそうである。NS方式であればレギュレータも従来型で良いので簡単である。このあたりが早くからNS方式ワイヤレス給電が普及した理由であると考えられる。


- We are confused even when it is said now-Explanation of the essential principle of wireless power transfer explored with LTSpice (equivalent circuit edition) -

これまでLTSpiceで探るワイヤレス給電のしくみ(初期設定編)と(変数を使う)で共振変圧器の挙動を見てきたが、共振変圧器の中ではいったい何が起きているのであろうか。
変圧器は三端子等価回路と理想トランスに置き換えることができる。この辺は大学の電磁気学とか電気工学や電験三種あたりでやっていると思うので詳しい説明はそちらの教科書に任せるとして、ここでは理想トランスを省略して進める。理想トランスを入れても結果は同じなので、理想トランスを入れたい人は入れてシミュレーションしてみるとよいと思う。結果は同じになる。トランスを等価回路に変換して三端子に配置されたインダクタンスのLe1、Le2を漏れインダクタンス、Mを(二次側に換算された)相互インダクタンスという。以下も参考にしてほしい。
今回のモデルでは一次側コイル(送電コイル)も二次側コイル(受電コイル)も22μHなので、結合係数が0.4の場合の三端子等価回路の漏れインダクタンスや相互インダクタンスは次のようにして求められる。
数式01
回路図は以下のようになる。
3Equivalent2

これをAC解析してみると以下の結果が得られる。

3Equivalent2p

この結果は初期設定編で得た結果と全く同じである。つまり、三端子等価回路のモデルは正しいということが言える。しかし何で伝達関数のピーク周波数が結合係数の変化によって変わってしまうのかが良く理解できないと思う。ざっと説明すると、結合係数kが高くなるほどM(相互インダクタンス)の値が大きくなり、逆にLe1、Le2(漏れインダクタンス)の値が小さくなるからである。そうするとVout側から見た合成インダクタンスが小さくなる→共振周波数が高くなる、からである。

●簡易等価回路に置き換える
で、合成インダクタンスって何だろう?それをかいつまんで解説する。
ここで三本あるインダクタンスを二本に置き換えるということをしてみる。ここで出てくるインダクタンスの合成による等価抵抗と等価電圧の計算方法は「鳳-テブナンの定理」と言って、使い慣れていない人にはなじみが薄いものである。中身はなんてことはなく、インダクタ同士の合成をまるで抵抗の合成のように並列、直列に合成するだけのことである。(LだけCだけの場合に限り非常に簡単)結果としては次のようになる。
Equivalent2a
それぞれの値の計算方法は以下のようになる。
●Lsc2の計算
先ずAC電源のインピーダンスをゼロとする。(イメージとして荒っぽいけどそういうもん)そうするとLe1とMは並列合成される。
数式02
これの結果とLe2を直列合成する。
数式03
ここで、合成インダクタンスであるLsc2を「二次側の短絡インダクタンス」(Short circuit inductance)という。短絡インダクタンスは磁界共振のワイヤレス給電においては重要なパラメータである。なのに、なぜだか全く論文、書籍、特許明細書などに出てこない。短絡インダクタンスは一般的な教科書に載っていないので聞きなれないのもしかたがないとは思うが、こういうこともワイヤレス給電の開発がスムースに進まない大きな原因になっているだろう。
●MMの計算
このMMというインダクタンスは適切な用語が付けられていないのでなんと呼んだらよいのかわからない。
数式04
●等価電圧
普通は理想トランス1:0.4が入るので0.4V。電源電流は10/4倍になる。
シミュレーション結果は以下のようになる。電源電流値は理想トランスを通したことにして-0.4倍に補正する。
Equivalent2p

全く結果は一緒である。同じ図を使いまわしているのでは決してない。皆、同じ結果なのである。したがって、結合係数が低いトランス回路、三端子等価回路、簡易等価回路の3つは電気的に等しいということがわかる。

●短絡インダクタンスとは
ここで短絡インダクタンスという聞きなれない用語が出てくるので解説すると、短絡インダクタンスとはトランスの結合係数を測定する際などに計測するインダクタンスである。
具体的にはトランスの二次巻線を短絡して一次巻線側から計測するインダクタンスが一次側短絡インダクタンス、一次巻線を短絡して二次側から計測するのが二次側短絡インダクタンスである。ここで、JISには一次巻線を短絡して二次側からインダクタンスを計測することも定められていることに着目すべきである。
実際に値として一次側短絡インダクタンスと二次側短絡インダクタンスとどちらの方が工業的有用性が高いかというと、圧倒的に二次側短絡インダクタンスの値の有用性が高い。二次側短絡インダクタンスはアーク溶接機やネオン灯用磁気漏れトランスの電流制限リアクタンスのパラメータであるし、CCFLインバータ回路の二次側共振周波数を決めるパラメータでもある。昇圧コンバータの場合も二次側短絡インダクタンスを記述して設計した方が現実的である。その他例を挙げればきりがない。
一方、一次側短絡インダクタンスは本当に工業的に有用になるのは降圧コンバータの設計の場合のみである。
ではなぜ一般の技術解説では短絡インダクタンスを一次側に配置して設計してしまうのかというと、これはもう単なる慣習でそうなっているとしか考えられない。或いは短絡インダクタンスは一次側に配置して設計しなければならないと思い込んでいるか、さらには短絡インダクタンスを一次側に配置しても二次側に配置しても結果は同じだと軽く考えているからかもしれないが実は全然違うのである。
理想トランスの場合にはそれでも良いのであるが、実トランスやワイヤレス給電で実際に共振させる場合だが、直列抵抗成分を考慮すると、共振電流が流れる側の巻線は電圧の高い巻線側を共振させた方が原理上効率が良い。その場合の共振周波数の計算は共振させる側(二次側)の短絡インダクタンスとした方が計算も設計も楽なのである。実際にワイヤレス給電/ワイヤレス電力伝送の場合は二次側で共振させた方が伝送距離が伸びるし効率も良いので、二次側短絡インダクタンスを計測して設計すべきだろう。

●ワイヤレス給電の共振の本質は短絡インダクタンスだった!
ここで電源に並列に接続されるMMを見てみると、インピーダンスゼロの電源で駆動されているのでワイヤレス給電のエネルギー伝達には何も寄与していないように見えるのでで取り外してみた。その結果が以下である。
LscOnlya
ワイヤレス給電の本質は短絡インダクタンスだったのか?!

短絡インダクタンスのLsc2だけになった。シミュレーション結果は?!
LscOnlyp

並列共振周波数(電流の極小)が消えて直列共振周波数(電流の極大)だけが残った。ここで伝達関数(下)のピークを見てみるとMMがあってもなくても伝達関数のピークの周波数には関係ないようである。このことから、並列共振周波数はワイヤレス給電にとって不要な存在であるということができる。

●並列共振はなくして結合係数を変数にする
試しにこの状態で結合係数を変数にしてみた。回路は以下のとおりである。Lsc2と等価電圧が結合係数の関数になっている。
LTSpiceはコマンド内で計算もできる。.(ドット)コマンドは以下のようにセットした。

.ac dec 1000 50k 150k
.step param X 0.05 0.65 0.05
.param Lsc=(1-X*X)*22u
AC電源の等価電圧も {x} とした。

LscOnly2a

シミュレーションしてみると、トランスの等価回路に置き換える前と全く同じ結果が得られた。
LscOnly2p

これは並列共振周波数がない場合のシミュレーション結果であるというのに、伝達関数は並列共振周波数の影響を全く受けていない。したがって並列共振周波数(ω2=1/(√(L2・C2)))はワイヤレス給電には実際役に立っていない周波数であると結論付けられる。
結局、並列共振周波数は今まで長い間ワイヤレス給電の開発者やテスラコイルのマニアなどによる技術解説を惑わし、混乱に導いてきた魔物であったということが言えるのである。
ワイヤレス給電の本質は二次側(受電側)の短絡インダクタンスであり、短絡インダクタンスと二次側の共振容量とで決まる直列共振周波数だったのだ。

●今さら言われても困る結論
以上、共振変圧器の中で何が起きているのかを等価回路に置き換えてシミュレーションを行ってきたが、共振変圧器の共振周波数や伝達関数を決めているのは二次側(受電側)の短絡インダクタンス(だけ?!)であるということが明らかになった。また、結合係数が変化する(コイル間距離が変化する)と二次側短絡インダクタンスが変化するので共振周波数が変化するということである。そしてよく出てくる以下の式は間違いであった。
二次側共振周波数


回路シミュレータを使ってワイヤレス給電の動作を解明する際に、以前に使っていた古いシミュレータは変数が使えなかった。そこで回路をいくつもコピーして並べることで連続的なパラメータの変化を追えるようにしていた。(例えばこんな具合) 古いシミュレータはMicro-Cap 5 / CQ版であり、トランジスタ技術の付録として付いてきたものである。XPでしか動作せず、Hyper-vの仮想マシンの中で飼いながら使っていたが、どうしても変数を使いたいのでLTSpiceに乗り換えることにした。

●負荷抵抗R1を変数にしてみる
前回用いた回路図をもう一度読み込み、R1の200Ωのところを右クリックすると、Enter new Valu for R1 が立ち上がるので、200の部分を {x} とするだけで負荷抵抗が変数にできる。次にツールバーの.opに見えるSPICE DirectiveをクリックするとEdit Text on the Schematic がポップアップするので.step param X list 12.5 25 50 100 200と入れてOKし、回路図の適当な位置に置く。これで抵抗値が変数として12.5Ωから200Ωまで4段階で変化したシミュレーション結果を得ることができる。回路図ファイルとプロットファイルをダウンロードできるようにしたので同じフォルダに入れてRunしてVoutを見ることで下記の結果が得られる。

ResonantTransformer01a
ResonantTransformer01p

●シミュレーション結果を解析する
ここでグラフウインドウの上部のV(vout)を左クリックし、カーソルを出して、←→で87.29KHzに合わせて↑↓で伝達関数のピーク付近の値を読み取ると、
負荷抵抗(Ω) 出力電圧(V) 出力電力(W) 出力電流(A)
12.5  493.29825m 0.01967 0.039464
25  986.58064m 0.03893 0.039463
50 1.9730767 0.07786 0.039462
100 3.9457846 0.15569 0.039458
200 7.8898476 0.31125 0.039449
の値が得られる。(ついでに電力と電流も計算した)
LTSpiceを使い始める前は特定の周波数の伝達関数の値を手間暇かけて複素関数を立てて計算して出していたが、LTSpiceを使うとシミュレーション結果から値を直接読み込んで解析に使うということができて、この非エレガントな感覚がとても嬉しい。この手軽さのおかげで複素関数を忘れてしまいそうである。出力電流が小さい!と思われるかもしれないが、あくまでもAC電源が1Vでのシミュレーションである。
ResonantTransformer01C

表を見ると負荷抵抗が倍になったときに伝達関数の値も倍になっていることがわかる。電力も同じだ。(この場合はまだ二次巻線の直列抵抗は設定していない)
このことは次のように解釈することができる。負荷抵抗値が高くなればなるほど出力電圧が高くなる。

●レギュレータで絶望する
「N-P方式磁界共振の出力電圧は負荷抵抗に比例する!」ということである。同時に「N-P方式磁界共振の出力電力は負荷抵抗に比例する!」、「N-P方式磁界共振の高周波出力電流は負荷抵抗値の大小にかかわらず一定になる!」という意味でもある。実際の特性を測ってみると、二次巻線の直列抵抗の影響で、「電力は負荷抵抗にほぼ比例する!」「電流は負荷抵抗値の大小にかかわらずほぼ一定になる!」という特性が得られる。これはレギュレータを使って定電圧化しようと思っても最近の市販のレギュレータICの中に適当なものがないという問題に直面する。レギュレータキットをNet通販で買ってきて気楽に済まそうと思っていた人たちにとっては悲報だ。(悲報だということを事前に知っているだけでも価値がある。)昔ながらのTL494という古い定番ICを使って特殊なレギュレータを組むしかないようだ。

●結合係数を変数にしてみる
今度は結合係数を変数にする。結合係数が変わるというのは送受電のコイル間の距離が変化したり、位置関係が横ずれしたりした場合を意味する。ワイヤレス給電の場合、この結合係数が変化した場合の特性を知ることが、ワイヤレス給電の使いやすさ(ロバスト性)の向上にとって最も重要なことになる。
結合係数K1を編集して0.4の部分を {x} にする。そしてコマンドは .step param X 0.05 0.65 0.05 とする。これは結合係数のパラメータXを0.05から0.65まで0.05ステップで変化させるという意味である。
ResonantTransformer02a
RunしてVoutを見ると次のような結果が得られる。
ResonantTransformer02p1
これはコイル間距離が近づいて結合係数がだんだんと大きくなるにつれて、受電コイルに発生する電圧が高くなると同時に電圧のピークの周波数(共振周波数)がだんだんと高くなっていくという性質を示している。ということは、ワイヤレス給電の回路を設計する場合にはレギュレータによって電圧の変化を定電圧化するだけでは足りず、共振周波数の変化にも対応しなければならないということを意味しているのである。
この性質はN-P方式のみならずN-S方式でも変わらないのでシミュレーションをやってみればすぐにわかるはずなのだが、WEB上、論文/レポート上、特許明細書上で対応しようとしているものをあまり見かけたことがない。ということは、ワイヤレス給電普及の最大の障害が共振周波数の変化に対応できていないことにあるのではないだろうか。

●それでも共振周波数は変化する
もしかすると、共振周波数が変化することはインバータ回路の制作者にとって都合が悪いのではないかと考えてみた。アナログ発振器のインバータ回路ならそんなに難しいことではないのだが、マイコンを使った発振回路でフルデジタルの可変周波数のインバータ回路を組もうとするとちょっと面倒くさい。フルデジタルでは分解能が追いつかない。一部アナログの手助けが必要となる。それは嫌だ、できればスクリプトだけで対処できる固定周波数にしてサボりたい。これはエンジニアの本音である。
最悪なのが13.56/6.78MHzのISMバンドを使うワイヤレス給電なのだが、ISMバンドを使うという方針が決まっちゃったんだから共振周波数の方に「変化しないでください」とお願いするパターンである。物理法則の方にお願いされたって物理法則が変わってくれるわけではない。もしも13.56/6.78MHzのISMバンドを使ってワイヤレス給電を行いたいならば13.56/6.78MHzで使える可変コンデンサの開発は必須になる。
k296369478.1
容量値を計算すると430pF×3のバリコンとサーボ機構が必要である
●13.56/6.78MHz(ISMバンド)を使うなら受電側バリコンは必須
受電側の共振周波数が結合係数によって変化すると言うことは、既にメーカー開発レベルでのコンセンサスになっているとみて良い。どうしても固定周波数でISMバンドを使いたければ受電側の共振周波数をバリコンで調整する以外に方法はない。以下の先行技術(公開公報)が参考になるだろう。

受電側バリコンを使うなら送電側バリコンは不要なんだが・・・
磁界共振の原理が音叉の共鳴であるという誤った洗脳がこんなところにまで影響を及ぼしている。

●他に方法はないのか?
話を戻して、シミュレーション結果の線が入り組んでいるので結合係数を0.05から0.3、0.3から0.65に分けてみたのが下記である。
ResonantTransformer02p2
結合係数を0.05から0.3まで変化させた場合は共振周波数の変動は少ない。 結合係数が小さい範囲においては共振周波数の変化が少ないのである。この性質を利用して一見ロバスト性が良く見えるデモが可能である。結合係数を小さくするには送電コイルと受電コイルとでコイルの大きさを変えればよい。例えば送電コイルを大きくして受電コイルを小さくすれば、広い範囲で平均的な受電ができるので、ロバスト性が良さそうな見栄えの良いデモにできる。(デモには出来るが実用化には不向き)
GIZMODEの記事を参照
ただし駆動周波数を固定したままだとあまり効率は良くない。ハイパワーの実用化は無理である。やはり、共振周波数の変動を検出して補正した方が効率は良いしEMIも少ない。
ResonantTransformer02p3
結合係数を0.3から0.65まで変化させてみたが、この範囲は共振周波数の変化が大きい。実際のワイヤレス給電は、実用的には結合係数が概ね0.1から0.6ぐらいの範囲で使うので、共振周波数の変化に対応することは必須である。

LTSpice は無料で提供されるシミュレータであるが、ワイヤレス給電/ワイヤレス充電/ワイヤレス電力伝送の原理や仕組みを解明するにはとても便利なツールだ。そこでLTSpiceを使ってワイヤレス給電/のシミュレーションを行ってみた。このLTSpiceは以下のページからダウンロードできる。
LTSpiceのダウンロード
初期設定と簡単な操作方法は以下のページが参考になる。
(リンクが切れることもありそうなのでその際には教えてほしい。)
●ワイヤレス給電/ワイヤレス充電の基本構成
ワイヤレス給電の最も基本的な構成から解析してみることにする。単純電磁誘導では「電磁誘導の法則」一言で終わってしまって面白くないので、まずはN-P方式磁界共振(磁界調相結合)の構成で試してみる。共振が関係してくるとワイヤレス給電はがぜん面白くなる。磁界共振の構成としては次の6種類が挙げられているが、実際には意味のない方式が二つ含まれている。(参考:磁界共振−間違いだらけの原理説明
ResonantCoup
磁界共振の各方式 6種類
磁界共振の解析というと、S-S方式から解析を始める人が圧倒的に多いがこれはMIT系の理論による悪い影響だ。共振が一次側と二次側との両方に必須だなんて最初に洗脳されてしまったものだから、後々泥沼から抜け出せなくなってしまっている。現実的にはN-S方式やN-P方式の二次側共振で基礎解析をして、それらの磁界共振(磁界調相結合)の性質をしっかりと把握してから一次側の共振を加えて解析すべきである。そうするとS-S方式のおかしさが素直に理解できる。最初からS-S方式を解析すると位相特性が複雑で、高効率の条件とソフトスイッチング条件が矛盾して身動きが取れなくなる。本当は身動きが取れないんじゃなくて一次側の共振に欠陥があるという結論になるのであるが、これは別の機会に説明する。

●N-P方式の解析
実はN-P方式で二次側だけを共振させるだけで十分にワイヤレス給電は出来てしまう!そのことをここで確認してほしい。そしてもう一歩進んでワイヤレス給電には一次側共振って本当に必要だったの?という疑問に到達することができればなおさらよい。
N-P方式の磁界共振の構成は、高周波交流電源、結合係数の低いトランス、共振コンデンサ、負荷抵抗だけである。これをLTSpiceで記述すると以下のようになる。
ResonantTransformer04

NP方式なので共振回路は二次側(受電側)だけに設定している。一次側(送電側)にも共振回路を設定してみたい場合はこの基本回路をもとにいろいろとアレンジしてみればよいと思う。そうすると一次側に共振回路を置いた場合のデメリットにいろいろ気づくことになると思う。まずは複雑な位相特性に理解が追いつかずに辟易する。結論から言っておくと、共振には並列共振と直列共振とがあり、並列共振と直列共振との組み合わせはいい結果にならないということが最後にわかることになる。
詳しいことは別の機会にUPするので、とりあえず今回は単純なNP方式の基本構成からしっかりとマスターしてほしい。(単純な割には内容が密)

●回路図ファイルのダウンロード
回路図ファイルは.asc の拡張子が付いているのでこれをダウンロードして適当なフォルダに保存する。そして、LTSpice のFile→Openで開いてみると上記の回路図が開く。注意点としてはL1の22μHに0.001Ωの直列抵抗が設定してあることである。電源V1かコイルL1のどちらかに微小な内部抵抗が設定されていないとシミュレーションでエラーを起こす。これは回路シミュレータに共通した基本事項だ。電源V1の部品の上にカーソルを合わせて右クリックをすると、Independent Voltage Source - V1 がポップアップするのでこの構成のAC Amplitude が1になっているのを確認してほしい。ここで内部抵抗を設定してもよい。AC Amplitude を1Vにしておくと、伝達関数の値(一次側(送電側)入力電圧に比べて二次側(受電側)出力が何倍になっているか)がわかりやすくなる。注意点としてこの場合の電圧1Vはサイン波のピークが1Vだということだ。実効値でいうと0.707Vrmsということになる。(AC電源の電源電圧12Vをシミュレーションしたい場合は16.968Vを設定する。)
次に注意点としてトランスの巻線L1とL2はEdit→ComponentからInd2を選択する必要がある。トランスの構成の作り方と結合係数の設定の仕方は以下を参考にしてほしい。(リンク切れしていたら教えてほしい。)
LTspiceでトランスを作成する方法
結合係数はとりあえず0.4とした。K1 L1 L2 0.4 のパラメータを右クリックして編集すれば結合係数が変えられる。注意点は以上である。次にSimulate→Edit Simulate Cmd とするとEdit Simulation Command がポップアップするので、ここでAC Analysis タブを選んでType of sweep をDecade Number of points per decade (分解能)を1000、Start frequency を50k、Stop frequency を150k とする。ここはいろいろとパラメータを変えてみてほしい。ここでOKすると.ac dec 1000 50k 150k のコマンドが設定されるので回路図の適当な位置に左クリックして置く。そしてRunをする。そうすると枠だけで何も書かれていないPlot Pane が立ち上がる。次に回路図のウインドウをクリックしてアクティブにし、この状態でC1の近辺やVoutの近辺を探ると赤いプローブが現れる。このプローブを左クリックすればPlot PaneにAC Analisys の結果が表示される。表示されたグラフのMagnitudeスケールはdB表記になっているので、スケールを右クリックしてLogarithmicにしたり範囲を変えたりして解析しやすいように変えることができる。下記では縦のスケールが読みやすいようにWindow→Tile Verticallyにしてある。その他、グラフのウインドウ内でグラフを右クリックし、File→Save Plot Settings の設定をプロットファイルにSaveしておけば、次にシミュレーションを立ち上げたときにFile→Reload Plot Settingsで一度設定したスケールを再現することも出来る。シミュレーションを開始した直後ではFile→Reload Plot Settings がグレーアウトしている。そういうときは下記の図のプロットファイルをダウンロードして.asc を保存したフォルダと同じフォルダに入れる。既にプロットファイルがある場合は上書きしてもよい。そうするとFile→Reload Plot Settingsで下記のスケールセッティングが再現できる。
ResonantTransformer04GF

次にこの図から一次巻線と二次巻き線間(送受電コイル間)の伝達関数の値と共振周波数を読み取ってみる。グラフのウインドウでグラフ上部のV(vout)を左クリックするとカーソルが現れる。このカーソルを←→キーで移動して伝達関数のピークに合わせると、共振周波数は87kHz、伝達関数の値は7.88倍であることがわかる。ワイヤレス給電はこのピークの周波数で一次側(送電側)を駆動すればいいわけである。
ResonantTransformer04SC

つまり、この磁界共振のコイルインダクタンス設定で、結合係数0.4の状態で87kHz、ピーク値1Vの交流で一次側(送電側)コイルを駆動すると、二次側(受電側)コイルにはピーク値7.88Vの電圧が出てくるということである。(あくまでもピーク値)
コイルの巻数比が1対1なのに、入力した電圧よりも高い電圧が二次側に出てくるところが面白いところである。磁気漏れトランスの二次側に共振コンデンサを接続したものを共振変圧器と言うが、ワイヤレス給電は共振変圧器と全く一緒なのである。
結局ワイヤレス給電は二次側共振(N-P方式)だけで実現できてしまう。一次側共振は要らない。

●なぜ二次側共振(受電側共振)が良いのか?
共振させるのならば一次側で共振させても二次側で共振させても同じだろうと考える人は多いが実は間違っている。
実際に間違った考えに至る技術者が多いのは大学の電気工学の教科書などにトランスの等価回路として漏れインダクタンスや短絡インダクタンスが一次側に記載されることから、それが習慣になってしまっているからではないだろうか。さらに短絡インダクタンスを記載している教科書が極端に少ないというのもワイヤレス給電/ワイヤレス充電の開発が進まない大きな原因の一つだと思う。
しかし漏れインダクタンスや短絡インダクタンスを二次側に記載してはいけないとはどこにも書いてないし二次側に記載しないと気づかないことも多い。そしてそれらを二次側に記載することによって二次側で共振させることのメリットが理解できるようになる。実際に実験してみると二次側で共振させる方が一次側の共振では得られない数多くのメリットがあり、磁界調相結合による力率改善効果(低発熱)とか共振昇圧の現象とかがあり、それがシミュレーションによってどう裏付けられるかも興味深いので見てみるべきである。
実際のトランスには巻線抵抗があり、巻線抵抗によって一次巻線が発熱するのである。ワイヤレス給電/ワイヤレス充電ではこの発熱が深刻な問題を起こす。それが二次側で共振させれば解決するのだということが以下のシミュレーションからもわかる。
先ずはグラフウインドウで右クリックしてAdd Plot Pane を選ぶと枠だけのPane が登場する。ここで回路図ウインドウをアクティブにしてカーソルをL1の上に持って行くと電流プローブが現れるので左クリックすると一次巻線の電流値と電源から見た電流位相が現れるので、左のスケールにカーソルを持って行ってクリックし、電流値を消す。そのようにして得た結果が以下のシミュレーション図である。
或いはプロットファイルをダウンロードして同じフォルダ内にあるプロットファイルに上書きして、File→Reload Plot Settings でリロードすれば下記と同じ図が再現できる。
ResonantTransformer0.4PH


上のPaneの青い破線は電源電圧の位相と比較した一次巻線(送電コイル)L1の電流位相である。もしも二次巻線側L2と何の相互作用もなければL1はただのインダクタとして働くので、この青い破線は-90度に張り付いたままである。ところが二次側(受電側)に共振があると位相関係が変化するのである。上記の様子を見てみると、共振周波数のところで位相関係が0度に近づくようなので上のI(L1) を左クリックしてカーソルを出してみる。
ResonantTransformer04PC

←→でカーソルを伝達関数のピークに合わせて値を読み取ると、-18.2度と読み取れる。一次巻線(送電コイル)側の力率が良くなっている。巻線なのに抵抗みたいになっている。この状態は一次巻線の発熱が少なく、伝送効率も良くなっている。これを二次側共振によって一次側に現れる力率改善効果と呼んでいる。
位相特性のグラフを見慣れていないと-18.2度がいったいどういう意味なのかを掴めないという人も多いと思うので、これを送電コイル(一次巻線)に流れる電圧と電流の波形で表してみる。これをトランジェント解析という。

●トランジェント解析をしてみる
ここでシミュレーションをトランジェント解析に切り替えてみる。
V1の電源にカーソルを合わせて右クリックし、Independent Voltage Source - V1 をポップアップさせてSINE波を選び、87.29kHzをセットする。Simulate→Edit Simulation Cmd としてEdit Simulation Commandを立ち上げて今度はTransientタブを選び以下のようにセットする。細かい設定は以下の回路図ファイルとプロットファイルをダウンロードして同じフォルダに入れてRunさせれば再現できる。

ResonantTransformer0.4RT
「;」はこのコマンドは無効ですよという意味である。AC解析とトランジェント解析は両立できない。トランジェント解析からAC解析に戻すときには.tranを;tran に書き換えて;acを.acに書き換えればすぐにAC解析に戻れる。

●一次巻線(送電コイル)の電圧・電流関係
一次巻線L1にかかる電圧V(vin)と一次巻線に流れる電流 I(L1)との位相関係を見てみる。普通に考えるとL1はコイルなのであるから電圧位相に比べて電流位相が90度遅れるはずである。これが二次側に共振電流が流れるとその相互作用で一次側の電流位相が電圧位相に近づくようになる。

ResonantTransformer0.4RTP


一次巻線L1にかかる電圧V(vin)と一次巻線に流れる電流 I(L1) との位相差を見ると電流位相が電圧位相よりも少しだけ遅れている。この差は18.2度である。もしもこの差が0度となっていれば一次巻線L1は抵抗性で駆動されていることになる。実際に‐18度程度ではほとんど抵抗とみなしてよい。
「えっ?一次巻線がインダクタンスではなく抵抗みたいにになっちゃうの?」
一次巻線の無効電流が少なく、発熱が少なくなり、効率が改善する。この、一次巻線(送電コイル)のインピーダンスがほとんど抵抗みたいになってしまう現象が二次側共振の一次側に発生する力率改善効果である。

●力率改善効果って?!
あれあれ?トランスの一次巻線につきものだった励磁電流はどこに消えてしまったんだ?これが二次側共振の最も興味深い性質であり、励磁電流消失効果と言ってもよい。答えから言えば励磁電流は二次側に移ったのである。励磁電流が二次側に移ると何が良いかというと、昇圧する場合に限るが励磁電流が二次側に移った方が銅損が少ない。この効果は昇圧比が高いトランスで特に顕著である。この効果は液晶バックライト用のCCFLインバータでは絶大であった。というのも、当時は圧電型の昇圧トランスと競争するためにトランスの大きさを体積比で従来比1/8にしなければならなかったのである。そうすると一次巻線のインダクタンスが十分に確保できない。その結果励磁電流が多くなって一次巻線の発熱が多くなるので限界があると思われていた。ところがこの力率改善効果によって励磁電流が大幅に減ることがわかったので、一次巻線のインダクタンスを従来常識では考えられないほど小さくすることができるようになり、昇圧トランスの一次巻線のターン数を減らして巻線を太くし、さらにコア体積を減らして、その結果圧電型の昇圧トランスと競争できるところまでCCFLインバータ用のトランスが小型化出来たのである。出来上がったトランスは体積比で従来比1/9、テスラコイルそっくりであった。
v667861593.1

下の白いテープで巻かれたトランスが正規のライセンス品で上の茶色いテープで巻かれたものが台湾のコピー品(非ライセンス品)である。このような形状のトランスでは一次巻線のインダクタンスが小さすぎるので、普通のトランスのように二次側を共振させないで駆動するとトランスの一次巻線が発熱して焦げてしまうが、二次側を共振させることによって一次巻線の励磁電流が減って温度が下がって使えるようになる。これは当時は一大発見であって世界中のノートパソコンに採用された(コピー品の方が多かったが・・)。コピーしているトランスメーカーも原理がわからずにコピーしてたのには笑った。
一次巻線(送電コイル)のインダクタンスが十分に確保できない事情はワイヤレス給電も全く同じであるから力率改善効果は非常に有用である。二次側を共振させると送電コイル(一次巻線)の励磁電流が減らせるのである。これは送電コイルの銅損を減らして効率の改善に役立つ。一方LLCコンバータのような時には昇圧、時には降圧するような場合は降圧回路では不利な効果である。この効果は皆気づいていなかったと思われる。30年間黙っていた秘密をここでバラしている。当時の特許明細書には数行で簡潔に書かれている以外には当然、学術文献などにはどこにも書かれていない。とはいえ、三端子等価回路までは電気工学の教科書に載っているのだから、そのほんのちょっと一歩先まで解析すれば答えは出てくると思うのであるがそれをほとんど誰もやろうとしないことに問題がある。
●送電コイルの力率はほぼ1に近い
話しをワイヤレス給電に戻すが、力率を計算すると、cos(π/180×-18.2)=0.95となりほとんど1になっている。逆数を取ると無効電流の大きさがわかるが、無効電流は5%ほどであり、これだけ無効電流が少なくなっていれば一次巻線(送電コイル)の発熱も少ない。ここが常識が覆る重要ポイントであり、「ワイヤレス給電は非接触なんだから効率が悪いに決まっている!」という思い込みは大外れ!ということなる。この力率改善効果は磁界共振方式のワイヤレス給電において非常に利用価値の高いものである。
ところで位相特性の意味が分かる人は、もう少し駆動周波数を下げれば位相差がゼロになるじゃないかと思うだろうが、実はこれぐらい電流位相の遅れが残った方が都合が良いのだ。これはインバータのところでも触れるが、これをソフトスイッチング条件と言い、スイッチングトランジスタに優しくEMIが発生しない条件でもある。逆に電流位相が電圧位相よりも進むようになるとハードスイッチングというのが起きてEMIが発生する。目安として、電源のスイッチング位相に対して一次巻線(送電コイル)の電流位相が-30度以内であれば実用的に合格ラインとみてよいと思う。

●誤解しないように!巻線にとっての力率なので・・
ここで力率を改善するなら直列にコンデンサを接続して誘導性を打ち消せば、力率は改善できるという意見が出ると思うが、それはスイッチング素子(FET)から見た場合の力率である。では巻線の立場から見た力率は?それを見落としてはならない。電源回路の設計史上でいつも見落とされるのが「巻線の立場」である。巻線側から見た力率を良くしないと巻線からの発熱は抑制できない。

●磁界の調相現象とは
この状態で一次巻線近辺の磁界位相と二次巻き線近辺の磁界位相を調べてみるとほぼ同位相となっている。また磁界位相がほぼ同位相であるということは電流位相もほぼ同位相である。次のプロットファイルをダウンロードしてフォルダ内のプロットファイルに上書きしてRunすれば下記の図が得られる。

ResonantTransformer0.4RTG

一次巻線電流位相と二次巻線電流位相がほぼ同位相である。このような状態であると一次巻線の磁界と二次巻線の磁界が常に同一方向に向くようになる。とくに二次側(受電側)の共振が強くなればなるほど、遠くの距離から一次巻線(送電コイル)で発生した磁束を呼び込む(引き込む)ようになり、一次巻線と二次巻線の磁束がつながって主磁束(相互磁束)を形成しやすくなる。その結果、コイル間が離れていても電力が届くということになる。受電側の強い共振がミソである。

●この回路は並列共振ではなくて直列共振である
「トランスの二次巻き線(二次コイル)に共振コンデンサが並列に接続されているからこれは並列共振だ」とBlog、WEB記事、雑誌、はたまた論文や特許明細書にまでそういう記述が見つかる。果たしてこの回路は本当に並列共振なのだろうか。見た目には並列共振に見えてしまうので並列共振だと言ってしまうのはある程度しかたがないと思うが実際には直列共振回路なのである。電源側から見たときは、と付け加えておく。再び回路図ファイルを元に戻す。最初にダウンロードしたものと同じ.ascファイルである。先ほどの回路図の;acを.acに書き直してもよい。そしてI(L1)の電流値を表示する。

または以下のプロットファイルをダウンロードして同じフォルダに入れてRunする。

ResonantTransformer0.4C
新たに表示されたのは一次巻線(送電コイル)L1に流れる電流である。カーソルを表示させると伝達関数のピークで電流の最大になる。直列共振周波数の定義は電流が極大になる周波数であるからこれは直列共振周波数であるということになる。では左の電流極小の周波数は何というのかというと、電流が極小になるのでこっちが並列共振周波数である。並列共振周波数は伝達関数のピークには影響していない。つまり並列共振周波数はワイヤレス給電には役に立たない周波数である。

●直列共振周波数のミステリー
と、ここまで来て、二次巻線(二次コイル)L2とC2との共振周波数を計算してみただろうか。共振周波数の計算は簡単であるが、いつもこのサイトで手軽に計算している。
22μHと0.18μFで計算してみると79.98kHzとなる。この計算結果はシミュレーション結果の87.29kHzと合わないじゃないか!ということになる。これは二次側共振の直列共振周波数はL2とC2との共振周波数ではなくて、二次側短絡インダクタンスとC2との共振周波数だからである。二次側短絡インダクタンスとは、一次側を短絡した際に二次側から測ると計測されるインダクタンスである。二次側短絡インダクタンスをLsc2とすると、
Lsc2=(1-k^2)L2 になる。
そうすると共振周波数f2は、
f2=1/(2π√(Lsc2*C2))=1/(2π√((1-k^2)L2*C2))となる。
k=0.4だからLsc2は18.48μHになるので、再びCR直列共振周波数 と Q値  計算 ツールで計算してみると87.26kHzとなり、シミュレーション結果と一致していることがわかる。ワイヤレス給電に関する概ね9割9分のWEBサイトやpdfで参照できる文書に、二次側共振周波数が f2=1/(2π√(L2*C2)) と間違って記載されていているようである。これがワイヤレス給電の開発/普及の致命的な障害になってなければいいのだが。



独自技術で周波数補正-ワイヤレス電力伝送技術
電波結合型の位相同期モジュールが出来上がりました。

電子デバイス産業新聞 2019年12月12日
位置ずれでも高効率充電



Speaking of wireless power transfer, MIT (WiTricity) is a very famous in this field. They are said the origin of electromagnetic field resonance or resonant inductive coupling. But were the theories they presented correct?
This principle is often compared to example of the resonance of dual tuning forks, but this was really incorrect. (An example of putting a glass of wine in front of an opera singer and breaking it is correct. The latest WiTricity WEB site describes only the example of a wine glass.)
I am still investigating whether MIT (WiTricity) himself was mistrailing mistake or reporters reporting the topic of wireless power transfer arbitrarily made a mistake.
But in explanations of the magnetic resonance or the resonant inductive coupling WEB article, it is first compared to example of the resonance of tuning fork anywhere. This is a big mistake and it is believed that the wrong recognition for wireless power transfer has expanded considerably due to the misunderstanding by this example.
This time, Green Electronics (19) is reconsidering these misunderstandings. (Link to Green Electronics No.19)
グリーン・エレクトロニクス(19)
Although it is a very gentle journal, used words in the article are discreet.
Then, what is wrong with many Web articles related to the theory of MIT (Witricity) so far,

1.  To compare to example of the resonance of dual tuning fork.
2. Seems to be convinced that two resonators are essential for both the primary side and the secondary side.
3.   Making an image that something special phenomenon is occurring between the two resonators.
4.  Although the formula of the primary side resonance can be expressed by the equation of physics learned in high school, write the same formula on the secondary side without thinking deeply about it.
Etc.
The correct formula of the secondary side resonant frequency is as follows,

form100

Because the secondary side resonant frequency is a function of the coupling coefficient, the resonant frequency changes as the distance between the coils changes. There were almost no articles of journal which explained in detail why about this reason. Various problems will arise if the resonance frequency changes. Any solution to that problem is also necessary. Although it is said that wireless power transmission will be put into practical use immediately, the schedule has been changed many times and is delayed, but it seems that there is this resonance frequency problem as its real reason. But, there was no WEB article focusing on this resonance frequency problem. Will there continue to be no such articles in the future?
Then, are major companies aware of? It is easy to understand by analyzing the patent that was filed by them. Patent applications about wireless power transfer have increased sharply from 2009 to 2012, and the patent office is summarizing the trend of application. (Heisei 20th Patent Application Technology Trend Survey Report (Overview) Contactless Power Supply Related Technology - Japan Patent Office)

Although we focus on the claims in terms of the resonant structure of the primary side and the secondary side, but the explanted formula of the resonance of the secondary side described in the filed patent specifications are mistaken on most of patent specifications. (That means that those patent applications of during that period have almost no real meaning!)
However, looking at recent times, several descriptions of the patent specification have gradually changed, especially in the latter half of 2016 to 2017. In the explanation of the secondary side resonance, what has been described 1-k2 has come to be considerably more. Among these several patent applications, companies that acquired licenses from MIT (WiTricity) are also included. That means ...

This ultimately means the beginning of wireless power transfer world.
In any case, if 1-k2 is understood extensively, it will lead to reliable realization of wireless power transfer. I am thinking that my load will become off by this understanding.

 ワイヤレス給電といえばMIT(WiTricity)が大御所ですが、電磁界共鳴とか磁界共振とか呼ばれる方式の出どころです。この原理はよく音叉の共鳴に例えられますが、これがとんでもなく間違っていました。(オペラ歌手の目の前にワイングラスを置いてそれが壊れる例えは正しいです。最近のWiTricityのホームページにはワイングラスの例えしか記載されていません。)
 果たして大元のMIT(WiTricity)自ら間違いを撒いていたのか、それともワイヤレス給電の話題を報道する記者が勝手に言い出して間違えているのかはまだ調べている最中ですが、電磁界共鳴とか磁界共振を解説するWEB記事がどこを見てもまず音叉の共鳴に例えています。これが大きな間違いで、この例えによる誤解からワイヤレス給電に対する間違った認識がかなり広がってしまったと考えられます。それを今回はグリーン・エレクトロニクス(19)で総括することになったわけです。(Amazonへのリンク
グリーン・エレクトロニクス(19)
 とは言ってもとても品の良い雑誌ですから記事中の言葉は控えめにしています。
 では今までのMITに関する多くのWEB記事のどこが間違っていたのかというと、
  1. 音叉の共鳴に例えること。
  2. 一次側と二次側の双方に二つの共振器が必須だと思い込んでいること。
  3. 二つの共振器同士の間に何か特別な現象(エバネセント結合だとか非放射の電磁的共鳴エネルギートンネル)が生じているというイメージを作り上げていること。
  4. 一次側の共振の式は高校で習う物理の式でいいが、二次側の共振の式までそのまま単純に書いてしまうこと。
 などです。
 二次側の共振の式は正しくは、
form100

 で、これは結合係数の関数ですから、コイル間の距離が変化すると共振周波数が変化してしまうのです。これについてなぜなのか詳しく解説している雑誌記事はほとんど皆無でした。共振周波数が変化してしまうといろいろな問題が起きます。その課題の解決法も必要です。ワイヤレス給電が実用化間近と言われながらなぜかズルズルと実用化が遅れていた原因がほとんどここにあったと思われるのですが、この共振周波数問題に着目したWEB記事は皆無でしたね。今後も皆無が続くのでしょうか?
 では、大手は気づいているのでしょうか?それは出願された特許を分析してみるとよくわかります。ワイヤレス給電に関する特許出願は2009年から2012年にかけて急増しましたが、それは特許庁が出願傾向をまとめています。(平成26年度特許出願技術動向調査報告書(概要)非接触給電関連技術-特許庁
 請求項の着眼点で一次側と二次側の双方に共振回路を持つもののところですが、個々に調べてみるとやはりほとんど皆、二次側の共振の式が間違っています。(ということは、この頃の出願特許は実質意味をなさない?!)
 ところがここ最近を見てみると、特に2016年後半から2017年にかけて公開公報に載ったものの中にいろいろと表現は工夫されているものの、二次側の共振の式に1-k2 を取り入れたものが相当に見受けられるようになりました。なんと、それらの特許が以前にMIT(WiTricity)とライセンス提携した企業からも出願されていたのです。ということは・・・

ということは、やっとワイヤレス給電の幕開けなのかなということになります。
 ワイヤレス給電がいつになったら実用化するのか?と疑問に思っていた人も多いと思いますが、1-k2 さえ分かれば実用化は確実だと思います。ヤレヤレというところです。

ワイヤレス電力伝送(WPT)が注目されてから時間が経つにつれて、多くの方式が提案されて発表されてきたようである。そこで2016年最新版をまとめてみた。
ワイヤレス電力伝送は大きな分類として放射型と非放射型に分けられる。長距離を伝送させるのであれば放射型が圧倒的に有利であろう。一方、効率を追求するのであれば非放射型がよい。しかし、両者を並べたり比較したりして語ってはいけない。特に「放射型と非放射型の特徴を併せ持つ」なんてものを世間に期待させるのは厳禁だ。例えば放射型のように長距離を伝送でき、かつ非放射型のように効率が良いなんてものを期待しがちであるが、そういう都合の良いものはとりあえず存在しない。しかし報道によっては世間に過大な期待を持たせるような報道をしてしまっているような気がするのだがいかがだろうか。実際には両者はまるで別の技術なのであるから報道するときは最初に放射型・非放射型のタイプを明確に分けてから説明に入ってほしい。
放射型の一つの方法として面白いものは超音波を使ったU-Beamというものである。
そしてマイクロ波ビーム型として米Energous社のWattUpも加わった。
今後も新しい提案が生まれるかもしれないが、そのときは順次更新する予定である。
kindWPT


磁界共振は決して音叉の共鳴の原理ではない。巷に溢れる報道や解説に翻弄されないよう注意すべきである。

アップルが新しい無線給電を開発中というニュースが入ってきた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160130-00010004-newswitch-prod
https://newswitch.jp/p/3447
近接磁気共鳴(NFMR)という新しい技術が採用されるという報道が気になったので調べてみたが、慎重に調べてみると翻訳が原因で新技術と誤解されることになったものだと思う。
もとの英文は、Near-Field Magnetic Resonanceであって、近接場(近傍界)の磁界共振という意味になる。ちなみに磁場というものはもとより近接場(近傍界)であるから、磁界共振は全て近接磁気共鳴(NFMR)である。近接場(近傍界)でない磁界共振というものは存在しない。
結局、従来の磁界共振も調相結合もQi V1.2(制御されていない調相結合)も全部近接場(近傍界)の磁界共振(Near-FieldのMagnetic Resonance)であり、従来から言われている分類表に新しいカテゴリーを追加する必要はなさそうである。
新技術とうたったのは、おそらくはいつものAPPLEのマーケティング戦略の一環であり、独自規格によって顧客を囲い込むという目的があるのであろう。それを新規格と言わずに新技術と言い換えただけであると思う。お騒がせなAPPLEだ。

●特許技術はWiTricityの延長か
早速気になったので特許を調べてみた。
http://astamuse.com/ja/published/JP/No/2014522630
で特許の一つが引っかかったので、それを特許庁の特許・実用新案番号照会でさらに検索して、特表2014-522630の公開公報(正しくは再公表)を読んでみた。
まずは請求項の第一項を引用すると、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  共振周波数ωTを有する近接場磁気共鳴(NFMR)トランスミッタユニットにより提供される磁界から無線受電される最小の電力を少なくともデバイスに提供するように構成された無線電力ユニットであり、前記デバイスに出力される前記最小の電力が前記磁界に対する前記ポータブル電力ユニットの空間方位に依存しない無線電力ユニットであって、
  共振周波数ω1及び特徴サイズL1を有する第1の共振器構造と、
  共振周波数ω2及び特徴サイズL2を有する第2の共振器構造であって、前記第1の共振器構造と前記第2の共振器構造との間の有効磁気結合係数κeffが約ゼロであるように前記第1の共振器構造及び前記第2の共振器構造が磁気的に分離される前記第2の共振器構造と、
  前記磁気的に分離された第1の共振器構造及び第2の共振器構造に結合された電力合成回路と、
を備え、
  前記電力合成回路は、
  前記第1の共振器構造及び前記第2の共振器構造と前記デバイスとを負荷整合し、
  前記第1の共振器構造及び前記第2の共振器構造からの電力を負荷平衡し、
  前記NFMR磁界に対する少なくとも2つのNFMRレシーバの方位に関係なく前記デバイスが前記無線電力ユニットから前記少なくとも最小の電力を無線受電するように、前記NFMR磁界に対する前記無線電力ユニットの空間方位に関係なく前記第1の共振器構造と前記第2の共振器構造との間の有効磁気結合係数を約ゼロに維持するように構成されることを特徴とする無線電力ユニット。
------------------------ ココマデ -----------------------

請求項には「近接場磁気共鳴(NFMR)トランスミッタユニット」「特徴サイズL1」「特徴サイズL2」「有効磁気結合係数κeff」という新造語(被定義語)が並ぶ。新造語のオンパレードである。
この新造語というのがいくつかあれば特許査定率は上がる。つまり、特許が取りやすくなる。
しかしその反面、特許の有効性が低いということにもなる。

●有効磁気結合係数を約ゼロにする?!
請求項の最後の行は、「第1の共振器構造と前記第2の共振器構造との間の有効磁気結合係数を約ゼロに維持するように構成されることを特徴とする無線電力ユニット。」とあるが、「有効磁気結合係数を約ゼロ」にするというのはどういう意味だろうか。
明細書の中を読み進むと、コイル同士の結合状態を結合係数がほぼゼロになるように配置するのだから、有効磁気結合係数とは従来の結合係数そのものである。ならば結合係数でいいじゃないか。

さらに明細書を読むと「共振エバネッセント結合」や「固有の損失速度Γ」「「強結合」動作レジームκ/Γ>>1」とか、磁界共振の原理の説明にはおおよそ意味のない用語が使われている。
技術的に分析すると、原理はほとんどWiTricityの磁界共振の説明と一緒だし、間違いの部分もそのまま踏襲しているように読める。
並列共振直列共振
どう読んでも使うべき共振周波数(右側)を使っているようには読めない。

●知らずに直列共振周波数に嵌っているかも
特許は別として、製品としては2017年中の実用化を目指しているのだろう。ということは、既にある程度の基本回路の試作は行っていることになる。
ちなみにAPPLEが出願した特許技術はこのWattUpのDemoとは無関係なので注意していただきたい。(動画は2014/08/12 公開のWattUp Demo)
WattUpはエネルギー放射型である。(後述)


話はAPPLEの特許に戻るが、種を明かせば送電コイルと受電コイルとの距離が離れたりすれば結合係数は小さくなるし、コイル間の位置の配置によっても結合係数を小さくできる。
そうすると並列共振点と直列共振点の周波数とが近づいてくる。その場合、設定をちょっと間違えただけで(二次側のLかCがちょっと大きいだけで)、直列共振点の設定になっていて「あーうまくいったー」と喜んでいることが多いが、今回もそのパターンなのだろうと推測される。(※1に後述)
とくに結合係数がごく小さい領域では並列共振周波数と共振周波数との区別がつきにくくなる。このことをもって、APPLEが「第1の共振器構造と前記第2の共振器構造との間の有効磁気結合係数を約ゼロに維持するように構成される」と言っている可能性が非常に高いといえる。つまり、実験でたまたまうまくいったから特許にしてみたというところだろう。なぜそれがいいかの原因(原理)がわかっていない。
では、視点を変えて、最初から正しい原理に基づいて直列共振点の設定(Advanced MR-AMRという)を行ったらどうなるのだろうか。その場合は「有効磁気結合係数」(結合係数)が0.5とか0.7でも調子よく結合できることなる。そうすると、APPLEの特許請求項に基づく特許範囲の近接磁気共鳴(NFMR)にならない(構成要件=エレメントが異なる)ってことで間違いないだろう。AMRの設定ならばAPPLEの特許請求項の範囲外になるということである。逆にAPPLEこそ知らずに間違って(勝手に)AMRの設定を使っていないか?という疑問が沸く。
さらに、第1の共振器構造に頼らない近接磁気共鳴(NFMR)が出来たならば完全にAPPLE特許範囲外(エレメントの欠如)ということになる。そういうのはAMRの設定次第でできる。

一部の報道によると、APPLEの特許はこれではなく、US9,086,864だとも書かれているようであるが、読んでみたところ、技術的にはa first electromagnetic field of the wireless power supply and a first deviceとa second electromagnetic field to a second deviceとを結合(coupling)するとだけ書かれており、あとは通信してどうこうして複数のデバイスに可変コンデンサを制御して電力を供給するという概念だけで特許を取得している。ワイヤレス給電の基幹技術に関しては具体的な実施例はなく、どうやって可変コンデンサを制御するのかも書かれていない。どちらかというと複数給電の通信プロトコルが主体の特許といえるものである。いくら通信プロトコルを強化したところで、肝心の共振制御技術が二の次ではあまり意味がない。ワイヤレス給電/ワイヤレス電力伝送の不幸は通信屋ばかりが集まってAlianceを組んでいるところにありそうだ。電源屋の意見を聞かずに良いPower Systemが組めるわけがないと思うのだが。

いずれにしても実用化されることは嬉しいことであるので大きな期待を持っている。たとえ特許の有効性が危うくてもである。

※1 この場合心配されるのが世界的な大企業の場合、実験室的にうまくいっていても、量産の際に裏づけのない部品設定を行うとISO9000のTQC(Total Quality Contro)の段階で量産が認められなくなる可能性があることだ。量産を可能とするためには裏づけとなっている理論がWiTricityの理論に基づいているのだったら、一箇所だけ式を間違えているのでこれを修正しなければならない。この場合、WiTricityを×するか、WiTricity自身に共振の式は結合係数kの関数であることを認めさせてアナウンスさせるかどちらかの行動が必要である。いずれにしても、特許明細書を分析してみるとNFMRの理論からしてAPPLEが独自に掌握しているとはとても思えない内容である。たまたまうまくいっているということで量産に踏み切ったとしたら、もし、たまたまうまくいかなくなったときにどうするのだろうか?ワイヤレス給電(ワイヤレス充電)の根本的な原理や仕組みがわかっていない。本当にこのままの理解度であったらとても量産に踏み切れるものではない。

●WattUp(Energous社)のワイヤレス給電/ワイヤレス電力伝送について
この技術は既に2014年の8月に公開されていて、明らかに放射型である。
したがって利点も欠点も放射型の特徴そのままである。ユーザーはあまり距離を飛ばすということにこだわるべきではない。エネルギー放射型はマイクロ波ビームで電力を送るものだが人体吸収の問題がありそうで怖い。軍事用途、産業用途であれば問題ないと思う一方、民生用には普及してほしくない技術である。
Energous社動画へのリンク

I-Phone7にどのような技術が搭載されるのか、報道が迷走しているようであるが、非放射型のAPPLE特許と放射型のWattUpとは全く異なる技術である。
両者を混同してはならないので慎重に分析すべきである。
しかし、APPLE社は自社で非放射(即ち近接場)の磁界共振型(NFMR)の特許を出願しておきながら、放射型のWattUpと独占契約を結ぶという点がどうも解せないのは私だけであろうか。



追伸2017
結局APPLEはiPhone 8でQiを採用することになった。したがって数多く研究されてきた「その他の方式」は継続研究または不採用になったということである。今回採用されたQiはV1.2である。QiはV1.1以降は一部磁界共振(二次側のみを共振させる)を採用している。つまりこれは調相結合または磁界調相結合を採用したということである。ワイヤレス給電(ワイヤレス充電)業界はまさにCCFLインバータ回路の技術開発史をトレースしているといえる。そしてまだゴールに至っていない。

●磁界共振(磁界共鳴)の構成には何種類あるのか?
まず磁界共振という言葉について、奇妙な言葉である。磁界が共振するわけがない。これは皆がそう言っている。どこかで正しい呼び名を決めるべきである。その話は置いといて、いわゆる磁界共振の構成には簡単に分類しただけもP-P、P-S、S-P、S-Sの4種類があるとされているが本当に正しいのだろうか。→実は6種類か8種類
PPSSPSSP

実はP-PとP-Sには意味がない。ネット上には磁界共振(電磁界共鳴)の原理と称してP-P接続の磁界共振の図が溢れ、その横に音叉の共鳴と書かれ、さらにコイルとコイルとの間が共鳴フィールドになっているという図解があるのがこれらは全て間違いだ。共鳴フィールド(特許請求項的には共鳴場エバネセントテールの結合)という言葉は特許を取ることだけを目的に作られた造語である。共鳴フィールドという概念は物理的に存在しない。なんでこういう読む人を大きくミスリードするような解説が横行しているのかというと、全てはMITによる2006年の実験に始まりWiTricityが電磁界共鳴フィールドなどという造語を広めてそれを見た多くの人々が洗脳されたことによるところが大きい。(私も半年ぐらいは洗脳されていた。)結論からいうと一次側(送電側)の共振回路はいわゆる磁界共振の本質的な構成要素ではない。場合によっては害しか及ぼさない存在である。

●ラジオの増幅回路と混同?
それではなぜ、ネット上に磁界共振、或いは電磁界共鳴の原理と称してこのような図解が出回るのだろうか。
P-P方式、或いはP-S方式をFETでスイッチングすると、一次側の共振コンデンサと称するCp1にはスイッチングの大電流が流れてしまう。Cp1は共振コンデンサとしては全く働いていないのだ。これはDC-DCコンバータ回路やインバータ回路を設計したことのある人であればすぐに気付く間違いである。
PPSW

しかしながら、ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の解説になるとこの奇妙な駆動回路がいたるところに登場している。そういうところをみると、ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の解説をしている人たちが、実はコンバータ/インバータなどのスイッチング回路を全くやったことのない人だったりするからではないだろうかと考えてしまう。
つまり、ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電に携わる人の中にパワー回路経験者が全くいない、またはごく少数だということであろう。だから私などがこの回路を見るたびに発狂してしまうわけである。

それではこういう間違いがどこから来ているのか、冷静になって考えてみた。
ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の磁界共振をFM受信機の中間周波トランスに例えて疎結合、臨界結合、密結合を解説しようとしている人が多いことに気付く。
そのことから推測すると、多くの人がFMラジオの中間周波段のアナログ増幅回路の複同調回路を見て磁界共振の原理と勘違いしているのだろうと思う。
トランジスタ増幅回路のトランジスタのコレクタ側のインピーダンスはとても高い。増幅回路としてならばCp1とL1とで並列共振回路を構成し、共振周波数で高インピーダンスになると高ゲインになるからCp1は共振コンデンサとして働いている。これは正しい回路だ。トランジスタもリニア・アナログ動作をしている。
PPtransistor

たしかにFM受信機の中間周波トランスの性質には疎結合、臨界結合、密結合、双峰特性などがあり、一方でWiTricityに端を発する間違った磁界共振の原理も流布されており、その方式を解析したり実測したりするとFM受信機の複同調回路と良く似た現象が観察される。

●FM受信機の双峰特性とは原理が異なる
しかし、密結合の際に双峰特性が現れる原理は、FM受信機の複同調回路の場合、一次側の共振回路が並列共振回路として働き、二次側の共振回路が等価回路的には直列共振回路として働いて、一次側の共振回路の共振電流を奪うところから双峰特性が現れるのに対して、(WiTricity提唱の)ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の場合はこれとは原理が異なる。
(WiTricity提唱の)ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の双峰特性は、二次側の共振回路が等価的に並列共振回路として働いている周波数を使う。この二次側共振中心点では二次側コイルに一次側から送られてくる磁束とは位相が90度ずれた磁束が発生して結合を阻害するために双峰特性が現れる。共振が強ければ強いほど(Q値が高ければ高いほど)位相ずれが正確に90度に近づき、電力が全く伝わらなくなる。これが密結合によって双峰特性の中心部の凹みが生じる原理である。
二次側の共振回路が等価的に並列共振回路として働いている周波数のことは反共振周波数とも言われている。
以上はWiTricityによって提唱されている結合モード理論に基づく磁界共振の設定をした場合であって、上記のことが全て理解できたとしてもワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の開発には役に立たない。どうすれば失敗回路になるかという意味でなら役に立つであろう。
WiTricityによって提唱されている磁界共振では、密結合の際に生じる双峰特性の伝達関数だけに目が行き、その双峰特性をいかにして消すかに腐心するからそこが大きな間違いになる。
着眼点は二つある伝達関数のピークを消すのではなく、共振中心点の部分を反共振による凹みを解釈するべきである。そういう解釈をした論文は今のところ全く見かけないのでいたしかたなくグリーンエレクトロニクスNo.19で発表させていただいた。
※ワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電の開発で失敗しないためには、WiTricityが提唱する周波数である、反共振周波数(二次側の共振回路が等価的に並列共振回路として働いている周波数)を使うのではなく、二次側の共振回路が等価的に直列共振回路として働いている周波数(磁界調相が起きる方の共振周波数)を使うようにするのが正しい。

●そもそも共振周波数には二種類あることを知っているのか?

共振周波数の式は高校の物理の教科書にも載っているが、反共振周波数のことは大学で習う教科書にもポツポツとしか載っていない。橋とかビルとかの構造体や車両や船体の振動/制振材料の方面には載っている。ピエゾ共振素子の方にも解説があるが、電子回路に関してはほとんど説明を見たことがない。そのせいで、反共振周波数という言葉を知らない人は多いと思う。
例えばこんな簡単な共振回路でも、二つの性質の異なる共振周波数が観測される。この方式をワイヤレス給電ではN-P方式、N-S方式と呼んでいる。磁界共振の本質であるが電磁誘導と言われていることもある。
impanalyzer回路
N-P方式、N-S方式では二次コイルに並列または直列にコンデンサを接続する。そして一次側からインピーダンスアナライザを使って観測してみると共振点が二つ存在することが確認できる。
周波数の低い方の共振が高校で習った共振であり、二次側を共振させた場合はω2=1/√(LC)の教科書通りの式が共振周波数となる。二次側共振ではこの共振のことを反共振周波数という。インピーダンスが極大になるので並列共振周波数である。
一方、周波数の高い方の共振の式はω2=1/√((1-k^2)LC)であり、この共振は共振周波数という。結合係数の関数であり、結合係数が変わると共振周波数は変化する。インピーダンスが極小になるので直列共振周波数である。


インピーダンス極大 インピーダンス極小
電気/電子工学
並列共振周波数
直列共振周波数
物理学/構造体/ピエゾ
反共振周波数
共振周波数

並列共振点と直列共振点
横軸は周波数、縦軸はインピーダンス
二次側を共振させて一次側からインピーダンスを観測すると、このように二つの共振周波数がセットで観察される。そしてワイヤレス電力電送/ワイヤレス給電では反共振ではなくて共振周波数つまり直列共振周波数の方を使う。

●WiTricityの壮絶な勘違い?
ところがWiTricityは二次側の共振をω2=1/√(LC)としているのである。ということは明らかに左側の反共振周波数を使おうとしているのである。実はこれは大間違いである。実際にはWiTricityの言うとおりに設定するのではなく、二次側の共振回路の設定を少し変えて直列共振周波数のほうに合わせると、突然に出力電圧が高くなってさらに効率よく伝送できるようになる。そしてここで驚く。WiTricityがまさか間違いをやらかしていたとは、と。ワイヤレス給電の普及が遅れている最大の原因がここにあるのかもしれない。
※これはWiTricityが本当に反共振周波数を使おうとしているのか、結合係数が小さな領域で直列共振周波数と反共振周波数とが近づいているために区別がつかずに間違ってしまっているのかは不明である。しかし天下のMIT (WiTricity)様が式を間違えるか?一応論文等にはω2=1/√(LC)と書いてあるので、WiTricityは二次側の共振のうちの反共振周波数を使おうとしていると仮定して話を進める。
ketsugoujisoku
いや無理だ。反共振周波数では主磁束が形成されないので、電力が一次側から二次側にうまく伝わらない。一方直列共振周波数に合わせると伝達関数が高く効率がよいことは実験してみればすぐにわかるし発熱が少ないことでもわかる。この設定であると双峰特性にもならない。これこそが本命の磁界共振であると思われる。しかし、天下のWiTricity様にはあなたの式が間違えているなんて怖くて言えない。(←言っちゃってる^^;)
vlcsnap-2021-03-23-16h49m14s809
「家の一か所から全ての家電に給電?!」
CNNもいいかげんな煽り報道をする放送局であった

問題を大きくしているのはMIT (WiTricity)の2006年当時の磁界共振の説明を信じて音叉の共鳴をいまだに掲げているBlogや記事だ。その間違った概念の再引用が続いてワイヤレス給電の正しい概念の普及の障害になっている。MIT (WiTricity)は宣伝のためにインフルエンサーを濫用し過ぎた結果だといえる。WiTricityは当時MIT (WiTricity)が仕掛けたインフルエンサーがばら撒いた「音叉の共鳴」というゴミ情報をいいかげん自らの責任で掃除してもらえないものだろうか。ライターの方々も、情報の発信元である当のWiTricityから既に梯子を外されちゃっているので「音叉の共鳴」はそっとフェードアウトを考えた方がよいと思う。例えるならオペラ歌手とワイングラスの例に差し替えておくべきだ(後述)

●紛らわしいけれど正しい回路
P-P方式は意味がないと述べたが、世の中には紛らわしいものが存在する。
次の回路はP-P方式ではない。スイッチング素子に過大電流が流れることもない。
preup
プレ昇圧という回路であり、まずはLsとCsだけで昇圧する。L1は共振に関与していない。一次側と二次側との結合は磁界調相結合になっている。二つの昇圧回路の組み合わせである。この方式は直列共振と直列共振との組み合わせなのでお互いに共振が協調して良い結果が得られるのである。
この方式を使っているメーカーのホームページを見ると60cmの電力電送に成功したと書いてある。そして、P-P方式だと解説しているのである。(オイオイ)
違うんだよなー。

以下、わかっているんだかわかっていないんだかよくわからない先行技術(一応プレ昇圧の効果は利用している)。
参考:昭和飛行機   JP2012-134217A JP2012-39831A
参考:WiTricity               P2016-533145A(Fig.4,Fig.6)
※WiTricityの明細書では115、216を「フィルタ」と称しているが、スイッチング素子側から見たら直列共振回路である。これで正式にIMN(インピーダンスマッチングネットワーク)を諦めていることがわかる。また、一次側(送電側)電力制御でフライバック昇圧回路を採用している。基本概念が2006年当初とは様変わりしている。

一方、この高周波誘導加熱に関する説明はしっかりとしているので参考になる。共振によるプレ昇圧はかなり昔からやっていたということである。

ワイヤレス給電の駆動回路(インバータ)を設計する際には、他の業界の先行技術を調べておくことも必要だということがよくわかる。



追伸、
 WiTricityの結合モード理論(Coupled Mode Theory)に翻弄されて2007年以来10年間も迷走していた。
今までWiTricityのライセンシーなど、WiTricityから技術供与を受けた人たちはその旧理論に基づいて二次側共振周波数(反共振周波数のこと)は変わらないと主張し続けていた。これに対して我々は少数派ながら二次側共振周波数(直列共振周波数のこと)はコイル間距離によって変わると言って意見が食い違っていた。つまりお互いに使おうとしていた周波数が異なっていた。
グリーン・エレクトロニクス(19)
ある教授から、「なにしろほとんどの人は二次側の共振に反共振周波数と直列共振周波数とがあるなんて知りませんからそこから説明しないといけませんよ」とご指摘を受けたことで、グリーンエレクトロニクスNo.19の原稿に丁寧な説明を追記した次第である。
業界は早く反共振周波数と直列共振周波数との存在に気づけばよかったのに、いったいこの十年間何をしていたのだろうか。
この十年間は共振回路を一次側と二次側とに置くことによって今までの電磁気的法則とは違う何か特別な現象が起きるというような妄想に憑りつかれた十年であったと言える。

●基本的な磁界共振は共振が二次側にあれば成立する
それを磁界調相と言う。一次側の共振は単なる補助とか脇役の存在だったこと、結合係数が0.1以下だというならともかく結合係数0.1以上の実用域のワイヤレス給電ならば一次側の共振はない方がよい。一次側の共振をやめて、一次コイルを高電圧で駆動すれば一次コイルを共振させた場合と同じ効果が得られる。これはシミュレーションで確かめることも可能だ。共振が一次側と二次側とに両方あると特別なことが起きるなんてことはなかったのである。
論より証拠だが、今まで旧結合モード理論についてWiTricityとともに磁界共振を説明してきたTDKのJPA_2012182980の公開公報にとんでもないことが書かれているのだ。
2012182980-21
図19
【0084】
図19は、第3実施形態におけるワイヤレス電力伝送システム100の原理図である。第3実施形態におけるワイヤレス電力伝送システム100も、ワイヤレス給電装置116とワイヤレス受電装置118を含む。ただし、ワイヤレス受電装置118は受電LC共振回路302を含むが、ワイヤレス給電装置116は給電LC共振回路300を含まない。すなわち、給電コイルL2は、LC共振回路の一部とはなっていない。より具体的には、給電コイルL2は、ワイヤレス給電装置116に含まれる他の回路要素とは共振回路を形成しない。給電コイルL2に対しては、直列・並列のいずれにもキャパシタが挿入されない。したがって、電力を伝送するときの周波数においては、給電コイルL2は非共振となる
【0085】
 給電源VGは、共振周波数fr1の交流電流を給電コイルL2に供給する。給電コイルL2は共振しないが、共振周波数fr1の交流磁場を発生させる。受電LC共振回路302は、この交流磁場により共振する。この結果、受電LC共振回路302には大きな交流電流が流れる。検討により、ワイヤレス給電装置116においては必ずしもLC共振回路を形成する必要がないことが判明した。給電コイルL2は、給電LC共振回路の一部ではないため、ワイヤレス給電装置116としては共振周波数fr1にて共振状態には移らない。一般的には、磁場共振型のワイヤレス給電は、給電側と受電側双方に共振回路を形成し、それぞれの共振回路を同一の共振周波数fr1(=fr0)で共振させることにより、大電力の送電が可能となると解釈されている。しかし、給電LC共振回路300を含まないワイヤレス給電装置116であっても、ワイヤレス受電装置118が受電LC共振回路302を含んでさえいれば、磁場共振型のワイヤレス給電を実現可能であることがわかった。

とある。
大御所のTDKさん、いまさら大発見したみたいなこと言わないでほしい。二次側(受電側)だけ共振させるワイヤレス給電は1990年台後半から日本でとっくに実用化されている。それをWiTricityと契約した後に気づいたなんて〇〇けだ。ワイヤレス給電は日本が発祥なのだからもっとよく先行技術を調べとけばよかったのに・・・少なくともこれで送電側と受電側との両方に共振器を置くことを必須とする今までの解説や音叉の共鳴に例える解説はできなくなった。
そうなると今まで磁界共振の宣伝に利用されてきた人たちがWiTricityに梯子を外されたことになる。これからは世間をミスリードするWEBページの図はワイヤレス給電の説明からそっとフェードアウトして行く必要がある。オペラ歌手とワイングラスの例に皆差し替えよう!
実はワイヤレス給電の本当のパイオニアはMIT (WiTricity)ではなかった。1993年から日本で実用化が始まっていたのである。その技術の供給源はオークランド大学でありそちらが本当のパイオニアであった。同時期、我々も液晶バックライト方面で同技術を世界的に量産展開していた。受電側だけ共振させる方が量産性も特性も良くて実用化しやすい。
●送電側を共振させていると特許侵害訴訟に巻き込まれる?!
日本には「受電側だけ共振」というオリジナルの技術があるのだからそれらの先行技術を活用すべきである。そしてWiTricity理論のEV用のワイヤレス給電が実用化するする詐欺なのは何かがおかしいと気づくべきである。

ロイヤー回路は電圧共振なのか電流共振なのかと聞かれることが多いので整理する。
ロイヤー回路は鉄芯の飽和を利用した弛張発振回路なので電圧共振回路でも電流共振回路でもない自励発振回路である。

●電圧共振回路の定義
フィードバックループ内に並列共振回路またはその等価回路を含む自励発振回路を電圧共振回路という。
その発信周波数近傍において上記並列共振回路の電圧が最大電圧となるという特徴を有する。
コレクタ共振回路(コレクタ同調形発振回路)は典型的な電圧共振回路である。

●電流共振回路の定義
フィードバックループ内に直列共振回路またはその等価回路を含む自励発振回路を電流共振回路という。
その発信周波数近傍において上記直列共振回路の電流が最大電流となるという特徴を有する。
蛍光灯用インバータ回路のほとんどは典型的な電流共振回路である。

●他励型回路
電圧共振回路でも電流共振回路でもなくそもそも自励発振回路ではない。
一部の蛍光灯用インバータ回路は他励型回路である。中国製コンパクト蛍光灯によく使われており、寿命に関係なく故障し、不良の山を作っている。Hard Switching Protection機能を電流共振の機能と勘違いして採用した設計者が悪い。或いは、Hard Switching Protection機能を自慢し過ぎて設計者を惑わすICメーカーのほうが悪いかも。

ワイヤレス電力伝送(WPT)が注目されてから時間が経つにつれて、多くの方式が提案されて発表されてきたようである。そこで最新版をまとめてみた。
ワイヤレス電力伝送は大きな分類として放射型と非放射型に分けられる。長距離を伝送させるのであれば放射型が圧倒的に有利であろう。一方、効率を追求するのであれば非放射型がよい。しかし、両者を並べたり比較したりして語ってはいけない。特に「放射型と非放射型の特徴を併せ持つ」なんてものを世間に期待させるのは厳禁だ。例えば放射型のように長距離を伝送でき、かつ非放射型のように効率が良いなんてものを期待しがちであるが、そういう都合の良いものはとりあえず存在しない。しかし報道によっては世間に過大な期待を持たせるような報道をしてしまっているような気がするのだがいかがだろうか。実際には両者はまるで別の技術なのであるから報道するときは最初に放射型・非放射型のタイプを明確に分けてから説明に入ってほしい。
最近では放射型の一つの方法として超音波を使ったU-Beamというものまで登場している。
今後も新しい提案が生まれるかもしれないが、そのときは順次更新する予定である。
kindWPT

余談だが電磁誘導と調相結合と磁界共振との違いを簡単に述べよと言われた場合、特定のマニアだけにはすぐに理解できる言葉で言うと次のようになる。
電磁誘導はトランスの原理、調相結合は共振変圧器の原理、磁界共振はDRSSTCの原理である。
磁界共振は決して共鳴の原理ではない。巷に溢れる報道や解説に翻弄されないよう注意すべきである。

参考資料
トランスの電力変換について

トランスの電力変換に対する主な誤解は、励磁電流と負荷で消費される電流をごっちゃに考えるところから始まるものと思われます。まずは、主磁束の働きに着目して考えて行きましょう。
トランスの電力変換を考える場合、コアの励磁に必要な電流と電力変換される電流は分けて考えなければなりません。
基本は、

1.励磁電流は電力変換に寄与しない
2.トランスが電力変換している最中に、励磁電流は変化しない


であり、これは誤りのない事実なのでこれを前提としておさえます。

次に、トランスが電力変換する原理を考えます。
まず、仮に、トランスの二次巻線に負荷がつなげられていない状態を考えます。
負荷がなく、二次巻線に全く電流が流れない状態では、トランスの一次巻線はただのチョークコイルと同じです。

したがって、

数式1

となり、一次巻線には励磁電流だけしか流れません。励磁電流は主磁束を発生させます。主磁束とは一次巻線と二次巻線との双方と鎖交する(貫く)磁束のことを言います。トランスの電力変換の主役のことです。
二次側が無負荷の場合、一次巻線はチョークコイル状態ですから励磁電流しか流れません。
それはインダクタンスがあるので、電流が流れるのをじゃましているからです。
二次巻線には主磁束の働きで電圧だけが発生していて電流が流れませんから、主磁束への影響は全くありません。

では、トランスの二次巻線に負荷がつながれ、電力が消費されるとなぜ一次電流が増えるのでしょうか。 これが重要です。
すなわち、じゃまが減ったらどうなるのか?

         答え:電流が増えますね。

どうしてじゃまが減るのか理由を見てみると、

数式 2

つまり、二次側で電力が消費され、二次巻線に電流が流れると、一次巻線のインダクタンスを減らすように(主磁束を減らすように)逆向きの磁束Φ2が発生しようとします。(負荷が抵抗性の場合は主磁束と位相が90°ずれていますが)
その分一次側の電流が増えて主磁束を増やし、もとの励磁電流で作られていた主磁束Φ1に近づけようとするので、一次電流が増え、結果として電力変換になっているのです。
# 教科書によっては主磁束がΦ12、Φ21と書かれているものもある。漏れ磁束まで考慮した記述だとΦ12、Φ21の表現が多い。(漏れ磁束がΦ1、Φ2)
# 外国の教科書だと主磁束はΦ1、Φ2で漏れ磁束はΦσ1、Φσ2と書くものが多い。
# すぐに式をたくさん並べてくるものが多く、平易に書かれているものがない。

ここで、副産物として、
1.二次側で電力が消費されるとわずかに励磁−主磁束Φ1が減る。
理想的には減らないことになるのですが、実際には主磁束はわずかに減る傾向になります。

つまり、大きな電力を変換すればするほど、コアの磁束密度は減って(ほとんど減らないけど)コアの負担が減るのです。

ここのところが、全く知られていなくて、小さなコアで大きな電力変換をしようとすると、コアが飽和するのでは? と考える人がいますが、これは全くの誤解です。
# ただし、非漏れ磁束トランスの場合に限る。
# 誤解なきように、一次巻線の電圧を上げて電力供給を大きくしようとすると励磁は増える。
# 二次側に低インピーダンスの負荷をつなげて電力供給を大きくしようとした場合に励磁が減るということ。

また、上記のような原理でトランスが電力変換するので、「磁束が漏れたら漏れた分効率が低下する」も全くの誤解です。漏れた磁束=漏れ磁束はチョークコイルと等価の働きをしますから電力損失にはなりません。
それとやめてほしいのですが、「漏れた磁束が電波になって放射される・・・」。それは完全に間違っています。それが本当だったらアンテナ設計がものすごく楽になるはずですが実際にはそうじゃありません。

例えば、
「磁束が漏れたら漏れた分効率が低下する」と考える人は、変換する電力が増えれば増えるほど、主磁束Φ1は増えるという誤解を伴っているでしょうし、変換する電力が増えていくといつかはコアが飽和する、という誤解もまた伴っているはずです。

結局、考え方の重要ポイントは、

トランスの電力変換は、主磁束を増やそうとして電力変換するのではなく、主磁束を減らそうとして電力変換するのです。

つまり、次のように一次巻線側から考えようとすると間違った考え方に至りやすいということです。
例えば、

・一次巻線に電流が流れ、それが主磁束を作り出し、その主磁束が二次巻線に影響を与えて二次巻線に電圧が発生し、二次側に電流が流れる…
(この考え方だとどうしても、「漏れた磁束は?…」という疑問に陥りやすい)

ところが、これを、二次巻線側から先に考え、

・二次巻線で電力が消費されると、一次巻線の主磁束が減って磁束のバランスが崩れようとするので、あわてて一次巻線から電力が供給される。
・二次巻線から電力を引き抜くと、主磁束が足りなくなり、足りない分だけ一次巻線に電流が流れて主磁束をもとどおりにしようとするので電力が供給される。
(この考え方だと、二次巻線に影響を与えている磁束だけを考えればいいので、漏れ磁束は電力変換に関係なくなる)
という具合に、考えの順番を入れ替えていただければわかりやすいのではないでしょうか。

# ただし、これは漏れ磁束をほとんど考慮しない理想変圧器に近いトランスの場合。
# 漏れ磁束の働きは別の項で説明する。

WiTricityの磁界共振(電磁界共鳴)方式では共振器を一次側と二次側とに配置していましたが、詳しく解析していくと共振器は二次側のみでよいことがわかってきます。
そうなると、はたしてWiTricityの磁界共振方式が最適な方式だったのかどうかということが疑問になってくるでしょう。
WiTricityの磁界共振方式の一次側共振器は実はなくてもいいわけで、これがあるために一次側の駆動周波数の自由度を減らす邪魔者だったわけです。では一次側共振器は一体なんなのかというと、一次側の巻線電圧をを共振によって昇圧するためのブースターの働きをしているだけです。
一次巻線の電圧を上げるだけだったらなにも共振させなくてもいいでしょう。必要なだけインバータの電圧を上げて駆動すれば同じことです。電圧を上げて駆動した方が一次側の周波数依存性がなくなるし効率も向上します。一次側の共振回路はなくしましょう!!

●WiTricityタイプの磁界共振がのみなみ拒絶査定
一次側と二次側との共振・・、それってどこかのカード会社の技術だったなと思って探したら古い特許明細書(特開平3-98432号)が出てきました。
H03-98432

3のコイルと4のコイルとは疎結合で、4のコイルと5のコンデンサの部分が一次側共振器に相当します。4のコイルと5のコンデンサとで共振して、4のコイルには高い電圧が発生し、その共振電流の働きで一次側の磁界が強くなります。等価回路的には共振昇圧という回路になります。
明細書を読むと、この共振昇圧がある場合とない場合とでは、送信電力が50倍ほど変わると書かれていますので、このことはつまり1991年頃にはWiTricityの磁界共振と同じLC構成の回路がICカードで既に使われていたことになるわけです。この先行技術が原因で、2010年から2012年頃にかけていろいろなところから出願されたワイヤレス給電に関する多数の特許出願において、WiTricityタイプの磁界共振を普通に出願したためにのきなみ拒絶査定を受けてしまっていました。ではWiTricityの特許は2000年以降にあとから出願されているのになぜ特許査定されているのかというと、それは後述するとして、結局現在、WiTricity類似の方式がスイカなどのICカードで主流でないのは、一次コイル電圧のブーストなら一次コイルの駆動電圧を上げれば済むという結論になったからです。駆動電圧を上げるだけで済むならば、周波数依存性のある一次側共振器は不要で、むしろ使いにくいという結論になるわけです。(まだその先の話もあるのですが、別の機会に述べます。)
●本当の主役は二次側共振(磁界調相結合)
二次側共振のワイヤレス給電方式はWiTricityのMagnetic Resonanceよりもいくつかの点で優れるため、これを改良磁界共振(Advanced Magnetic Resonance-AMR)と名付けることにしました。この方式は二次側の共振が主役ですが、結合のさせ方に磁界調相結合を使うというのが特徴です。
二次側共振といっても二次側の共振周波数は二つあり、それぞれを並列共振周波数と直列共振と言います。それぞれの共振の性質は大きく異なり、ほとんど真逆です。
式で表すと、
並列共振周波数=1/(2π√L2・C2)  ・・・・・・・・・・ 磁界調相結合が起きない方の共振
直列共振周波数=1/(2π√(1-k^2)L2・C2) ・・・・  磁界調相結合が起きる方の共振
となります。
AMRに使われる共振は磁界調相結合の起きる方の共振で、直列共振周波数が使われます。一方、MIT(WiTricity)の提唱する磁界共振(MR)、そしてAPPLEなどが提唱するAPPLEのNFMRなどで使われる共振は各論文、技術資料、特許出願などを見る限り磁界調相結合が起きないほうの共振で、並列共振周波数が使われています。というか、今までの公表資料を読む限りでは一次側から見た二次側共振に共振と反共振があることを知らないのかまたは単純に二次側の共振の式を間違えているのではないかと思われるのですが、間違えているかどうかは当の大御所MIT(WiTricity)が間違っていましたと認めない限り、こちらからはどうすることもできません。したがって、MIT(WiTricity)の磁界共振は二次側の反共振を使うということにしておくしかないのです。ではMIT(WiTricity)の設定のままなぜかワイヤレス給電は実現できているよ、と思う人も多いでしょうが、実は上の式、並列共振周波数と直列共振周波数は結合係数kが小さい時は(1-k^2)がほとんど1なので、注意深く観測しないと区別がつかないという問題があるわけです。「数値が近いなら一緒でいいじゃない」とそういう雑なことを言ってはいけません。そんなことを言うと、ワイヤレス給電の実験を試しにやってみたところわりとすんなり成功したのだが、その後部品の精度を高めて再実験したがどうもうまくいかないという珍現象に見舞われることになります。
そんなところから一応MIT(WiTricity)のMRは反共振周波数、AMRは直列共振周波数を使うとしておきます。
この点が従来MRとAMRとの大きな違いですが、もっとも大きな違いは、二次側の共振が主役なので一次側の共振はなくてもいいのです。
オプションとして一次側の共振を使うこともありますが、一次側の共振は使うこともあるし使わなくてもいいし、いずれにしても主役ではないので必須ではありません。それに一次側の共振を使わないならばMIT(WiTricity)から特許侵害で訴えられることもなくて安心です。

WiTricityは間違った理論を特許明細書の請求項に書いてしまったので意地でも押し通すしかない!
MITやWiTricityのMR、APPLEの提唱するNFMRでは、一次側の共振と二次側の共振が必須です。なぜ必須なのかと言えば、彼らの特許出願の明細書(とくに請求項)に「一次側の共振と二次側の共振」と書いてしまったからです。そしてそのまま特許査定されてしまいました。こうなると、今さら二次側の共振だけが大事で一次側の共振は要りませんとはWiTricityは口が裂けても言えません!
さらにScienceという権威ある科学雑誌の論文にもそのように掲載してしまいました。今さら論文を取り下げるとかしたら彼らの面子だけでなく、ライセンスした先にも顔が立たなくなります。困ってしまいますよね。特許実務を知っている人であればこの冷汗は理解できると思います。
ということで、MIT(WiTricity)は一次側(送電側)の共振は必須であるし、二次側の共振周波数は反共振であるω2=1/√(L2・C2)の式を押し通すしかないのです。これを撤回したら大事件になりかねません。さてどうするんでしょう??
●“The root cause is that the theory behind resonant circuits is wrong.”・・・!

●AMRの基本理論はMIT(WiTricity)と大きく異なる
二次側の共振を主体とし、もっといえば磁界共振を実現するためには共振は二次側だけあれば十分(NP方式)であり、さらに二次側の共振は反共振周波数ではなくて直列共振周波数(共振周波数)であるし、さらにとどめは二次側の直列共振周波数は結合係数の関数であって、コイル間距離が変化すると共振周波数も変化する、とここまでMIT(WiTricity)と異なる理論が物理的な裏付けをもって立証されたらさすがに騒ぎになるのではないでしょうか。
現在High-Q(Highly resonant)のAMRを研究しているのは現時点で日本では4社だけです。(Low-Qの磁界調相結合をAMRと見なせば1990年代初頭のノートPCやAGVの黎明期からありますが。)
WiTricityの磁界共振は一次側の共振器の共振周波数も二次側の共振周波数も変化しないという式が立てられていますので、二次側の共振は並列共振の方を使おうとしていることが明らかです。(いや、本当は「間違っていることが明らかです」と言いたいのですが。)
ところが実際には直列共振周波数の方が利用価値が高く、高効率です。しかし、二次側共振器の直列共振周波数はコイル間距離によって変化するという厄介な現象があることがわかっています。
たとえば、TDKの特許5471283号より抜粋すれば、二次側共振器130の共振周波数が調整できるように可変のインダクタL5を設けてこれを調整します。

TDK5471283
この方式はこの方式で一つの解決法なのですが、変化する二次側共振器の共振周波数に追随して一次側の駆動周波数を変化させることでも解決が可能です。
この場合は一次側の共振器は邪魔なので取り去ってしまいます。(例えば特開2014-045552特開2014-140290US20120248882 TDKを参照)
すると、WiTricityの「共鳴場エバネセントテール」ってどうなっちゃうんでしょうか?
実は第一共鳴場エバネセントテールと第二共鳴場エバネセントテールとの結合(俗に音叉の共鳴の原理と言われる)は不要なのです。
TECMO

そして、共鳴場の結合という二つの共振器同士だけに起きる特殊な現象というものは最初からなかったのです。WiTricityの「共鳴場エバネセントテール」は特許査定を受けるためだけに作られた造語で、この造語によって既に特許出願されていた過去のものと異なる構成だということで一応特許査定は受けました。ところが問題はその造語が過去の構成にない特殊な物理現象であるということが立証できないかぎりWiTricityの特許は全て無効同然(訴訟しても勝てない特許)となるのです。
一方、物理現象として実在するのは駆動側コイルの発生する磁束位相と共振しているコイルの磁束位相とが同期して磁束がお互いに引き込まれて主磁束(Mutual Flux)を形成する磁界調相結合(Magnetic-flux phase synchronous coupling)の現象です。そして、この主磁束が介在して電力伝送が行われます。ここで、「共鳴場エバネセントテール」の結合とは主磁束のことなんだよ、と言ってしまうと特許実務的には自爆します。実は最初から主磁束なのですが、それを認めてしまうとWiTricityの特許は先行技術と同じになって無効(新規性喪失)になります。それと、主磁束の形成は共振器同士の結合に限らず、位相が同期したコイル同士であればどこでも起きます。昔からこの現象はありました。ワイヤレス電力伝送の解説をいろいろと参照しますが、主磁束という言葉がほとんど見受けられないのはどういうことでしょうか。とても大切な磁束であり、電力伝送を媒介する主役の磁束なのにです。
磁界調相結合は世界最小CCFLインバータ回路の発明の基本となる動作原理の一つなのですが、これが改良磁界共振(Advanced Magnetic Resonance)でもそのまま応用できます。
テスラ・コイルの一次コイルと二次コイルとの結合にも磁界調相結合が働いています。つまり、磁界調相結合は結合の弱い(結合係数の低い)コイル同士の間で電力伝送を行う場合の最も基本的な原理であるといえるでしょう。
実際に共振器は二次側共振器のみとし、一次側回路はハーフブリッジで駆動し、二次側共振周波数の追従はCCFL蛍光灯の電流共振技術をそのまま利用してワイヤレス電力伝送をやってみました。
意外にあっさりと素直に動作することを確認しました。
専用ICなどは一切使わずに簡単なロジックゲートで回路が組んであります。
送受電

動画をご覧ください。これは、アマチュア工作でワイヤレス電力伝送を試してみるには最適な回路かもしれません。これによって、ワイヤレス電力伝送は高度な技術ではなくなり、あたりまえのように身近にある存在になるでしょう。
この回路はハーフブリッジながら、位相帰還(電流共振)を採用することにより自動ZVSでソフトスイッチング動作が行われています。
ハーフブリッジでZVS(ゼロボルトスイッチング)のソフトスイッチング動作を行うというのは、本来ならばかなり難しい技術なのですが、電流共振技術を使うと簡単に自動ZVSが実現されます。
ZVSはソフトスイッチングですからEMIノイズもたいへんに小さくなります。
コイル間の距離変化にも強く、コイル間距離が変化しても一次コイルを駆動する際の力率は常に1近くを維持します。
ワイヤレス電力伝送で最も重大な課題となっているロバスト性についてもほぼ完全な解決ができています。
電流共振技術は二次側回路の共振周波数変化を自動追尾するので、コイル間距離が変化して共振周波数が変化しても、その周波数変化を自動的に追いかけ、常に共振中心周波数の最も伝達効率の良い周波数で一次コイルを駆動します。



次は平行二線路を用いたワイヤレス電力伝送を試してみる予定です。
何度も述べてきたことですが、CCFLインバータ技術とワイヤレス電力伝送の技術は非常に良く似た技術であるといえます。ワイヤレス電力伝送を開発される際にはCCFLインバータ技術のアーカイブを参照されると、多くのヒントが述べられていることに気付かれるものと思います。

おまけです。
ソリッドステートテスラコイル(SSTC)を電流共振回路で動かしています。
動作原理は一緒です。
テスラコイルの共振周波数は人が近づくだけで分布容量(寄生容量)が変化し、共振周波数が変わります。電流共振回路を使えば共振周波数が変化しても自動的に追尾します。

さらにおまけです。
上記のSSTCの電流共振回路はこのタイプの位相検出方法を使っています。
CCFLインバータ回路と原理は同じですね。
共振電流検出手段3

●二次側共振器の共振周波数について
二次側共振器の共振は二次側共振器のコイルのインダクタンスと共振するのではなく、短絡インダクタンスと共振します。ここのところが一般のワイヤレス電力伝送の解説の中でほ皆無というほど明記されていません。
関係式は、送電側コイルと受電側コイルとの結合係数をkとして、二次側のコイルのインダクタンスをL2とし、共振コンデンサをCsとした場合に以下のようになります。
form100
この式でわかるとおり、コイル間の距離が遠くなって結合係数が小さくなるとk自乗が小さくなりますから、二次側の短絡インダクタンスがほとんどL2と近くなるので、見落としやすいといえば見落としやすいところでしょう。
しかし、わずかな共振周波数の変化であっても、二次側の共振器のQ値は高い値に設定されているので、この少しの共振周波数変化が伝達関数の値に大きく影響します。ですからこの式を把握しておくことはたいへんに重要です。
この式は、CCFLインバータ回路では一般的な知識として扱われてきました。ワイヤレス電力伝送をやっていると、「それってCCFLインバータ回路ではこうやっていたんだよ」、みたいな話がまだまだたくさん出てきそうです。

MITの電磁界共鳴または磁界共鳴(MR)方式と言われる発明の特許番号がわかったので発明家の立場から特許請求項を分析してみた。
いくつか気になる部分があったので検討してみることにした。
WiTricityの特許はマサチューセッツインスティテュートオブテクノロジーの権利者で検索することにより出てくる。

特許番号と請求項
発明の名称は、
特許4921466 無線非放射型エネルギー転送
特許5190108 無線エネルギー伝達装置
である。日本のほとんどの特許がワイヤレス給電(充電、電力伝送)、非接触給電(充電、電力伝送)で出願されているので、検索語によっては見つけにくいかもしれない。
特許明細書の中で重要なのは請求項であり、請求項は26項ある。その中で一番重要なのは独立項と呼ばれるもので請求項1と請求項16である。その他の項は従属項という。
特許5190108 の請求項1と請求項16が独立項なので見てみよう。

【請求項1】
第1の高Q値共振構造と;第2の高Q値共振構造とを具えた無線エネルギー伝達用の装置において、前記第1の高Q値共振構造は、共振周波数ω1及び固有損失速度Γ1を有する第1モードを有し、前記第2の高Q値共振構造との間で電磁共鳴を利用して、エネルギーを無放射で距離D越しに伝達するように構成され、前記距離Dは、前記第1の高Q値共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ前記第2の高Q値共振構造の特徴的サイズL2より大きく、前記第2の高Q値共振構造は、共振周波数ω2及び固有損失速度Γ2を有する第2モードを有し、前記無放射のエネルギー伝達に、前記第1の高Q値共振構造の共鳴場エバネセント・テールと前記第2の高Q値共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在し、前記第1の高Q値共振構造が、Q1=ω1/(2Γ1)なるQ値を有し、前記第2の高Q値共振構造が、Q2=ω2/(2Γ2)なるQ値を有し、前記無放射の伝達が速度κを有し、前記第1の高Q値共振構造及び前記第2の高Q値共振構造が、
【数1】
 getimg02
であるように設計され、前記特徴的サイズL1は、前記第1の高Q値共振構造全体を包囲することのできる最小の球の半径に等しく、前記特徴的サイズL2は、前記第2の高Q値共振構造全体を包囲することのできる最小の球の半径に等しく、前記距離Dは、前記共振周波数ω1に相当する波長λ1=2πc/ω1より小さく、かつ前記共振周波数ω2に相当する波長λ2=2πc/ω2より小さく、ここにcは光速であり、前記第2の高Q値共振構造が、負荷に誘導結合されていることを特徴とする無線エネルギー伝達装置。

【請求項16】
無線エネルギー伝達の方法において、
第1の高Q値共振構造と第2の高Q値共振構造との間で電磁共鳴を利用して、エネルギーを無放射で距離D越しに伝達するステップを具え、前記第1の高Q値共振構造は、共振周波数ω1及び固有損失速度Γ1を有する第1モードを有し、前記第2の高Q値共振構造は、共振周波数ω2及び固有損失速度Γ2を有する第2モードを有し、前記距離Dは、前記第1の高Q値共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ前記第2の高Q値共振構造の特徴的サイズL2より大きく、
前記無放射のエネルギー伝達に、前記第1の高Q値共振構造の共鳴場エバネセント・テールと前記第2の高Q値共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在し、前記第1の高Q値共振構造が、Q1=ω1/(2Γ1)なるQ値を有し、前記第2の高Q値共振構造が、Q2=ω2/(2Γ2)なるQ値を有し、前記無放射の伝達が速度κを有し、前記第1の高Q値共振構造及び前記第2の高Q値共振構造が、
【数4】
getimg02
 であるように設計され、前記特徴的サイズL1は、前記第1の高Q値共振構造全体を包囲することのできる最小の球の半径に等しく、前記特徴的サイズL2は、前記第2の高Q値共振構造全体を包囲することのできる最小の球の半径に等しく、前記距離Dは、前記共振周波数ω1に相当する波長λ1=2πc/ω1より小さく、かつ前記共振周波数ω2に相当する波長λ2=2πc/ω2より小さく、ここにcは光速であり、前記第2の高Q値共振構造が、負荷に誘導結合されていることを特徴とする無線エネルギー伝達方法。

ここで、下線部は出願した後に審査があり、その際に補正されたことを表すものである。
特許の権利はこの請求項に書かれた範囲になる。
そうすると、請求項の中の単語や節(エレメントという)が全て揃って特許の技術範囲となる。エレメントの一つまたは複数が欠落しているものは特許の技術範囲外となる。
赤字で示した部分は私が色づけしたもので、被定義語と呼ばれ、明細書内で発明者が自分で定義することができるとされている。その他の語は常識で判断できる場合は意味も常識どおりである。
また、既に常識どおりの意味が決まっている言葉であっても発明者が被定義語として明細書内で定義してしまうこともできる。百科事典や常識と食い違う意味に定義することも可能だ。このときは常識的な(辞書的な)意味が優先するか明細書内で定義した意味が優先するかは各国の特許制度によって違う。
特許侵害訴訟の場合の請求項解釈では、米国では明細書内定義が優先すると決まっている。日本では解釈ルールが決まっていないので、たまに明細書内定義がはっきりしているのに、辞書や文献などの外部証拠の定義が持ち込まれたりして、特許侵害訴訟などでは特許解釈の混乱のもとになっている。(というか、裁判官の腹づもりで決めていいことになっている。中世だな<Shut up!)
●電磁共鳴について
ここで気になるのがその被定義語が明細書内でどう定義されているかである。まず、「電磁共鳴」という言葉であるが、これが明細書内で定義されていない。
明細書内には「共振モードがいわゆる磁界共鳴であり」とあるが、電磁共鳴と磁界共鳴という言葉が同じ意味であるかどうかがはっきりしない。「いわゆる磁界共鳴」という以上、世間で使われている言葉に従えという意味になるが、ワイヤレス電力伝送ではWiTricity自身でプレスリリースした言葉がマスコミ報道の中でエコーのように飛び回っているだけで、信頼性のある第三者的な定義のようなものはまだない。学会論文にしてもMITがScienceの中で使った言葉が伝言ゲームになっているだけである。結局、明確な定義はどこにもない。
次に「共鳴場エバネセント・テール」とは何なのか、エバネセント・テールとは、一般に光の進路の波長に近いところに現れる電場、磁場の近接場のことで、光が放射エネルギーなのに対してエバネセント場は非放射であるからそのことを言っているのかなと思う。それが「無放射のエネルギー伝達」という意味だとすればここまでは矛盾がないが、エバネセント・テールと言った以上電磁場であり、電界、磁界の双方が介するエネルギー伝達である。それが共鳴場であれば何か特別なことが起きるというわけである。その結果、このエレメントは「無放射のエネルギー伝達の共鳴場エバネセント・テール」という新語を作り出したかまたは新たなる物理現象を利用した発明ということになって、この明細書内における「共鳴場エバネセント・テール」は明らかな被定義語ということになる。
エバネセント・テールという言葉は聞き慣れないが、放射エネルギーである光にも1/2波長に近いようなミクロな領域(オングストロームな領域?)まで見ていくと、電界の影響場と磁界の影響場が交互に現れる構想が見えてくる。このぐらいの微細な構造においては電界および磁界、それぞれが単独で影響する放射エネルギーにならない「近接場」というものが存在することがわかる。それをエバネセント場というのであるが、WiTricityの特許請求項ではこれを「電磁場」と言っているようなものなので、電場、または磁場のいずれか一方だけの現象であればその請求項からは外れることになる。
さらに追求してみよう。共鳴場エバネセント・テールが被定義語だとするならばその言葉の定義が明細書内に書かれていなければならない。そこで、それを明細書内で探してみると、【0045】に、
【0045】
他の態様では、無線エネルギー伝達の方法を開示し、(略)この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
と、ここにしか書かれてないので、これによって、エバネセント・テールという言葉が定義されたと言うしかない。
最近の(日本流の)明細書の書き方では被定義語ははっきりと被定義語とわかるように書いている。(そうじゃないと裁判官が勝手に外部証拠を採用しようとするので、)

ここでいう共鳴場エバネセント・テールとは第1共振構造と第2共振構造のそれぞれに共鳴場を生じるものであり、そのそれぞれの共鳴場が共鳴場エバネセント・テールによって結合されるものをいう

ぐらいの強い言い方をして定義だ!と主張しておかないと日本では危ない。それにしても共鳴場エバネセント・テールとは意味不明な言葉である。電磁波には必ずエバネセント場があるし、それが共鳴しているからといって特別に何か新しい物理現象を生み出すものではないはず。もとの電磁波が強ければそれに比例してエバネセント場が強くなるだけであって、共鳴があるかないかは物理現象に関係ないはず。
でも、この明細書で言いたいことは、共鳴場エバネセント・テールが存在するということであるから第一に「共鳴」が必須エレメントであり、そして第二にエバネセント・テールつまり、「電場と磁場との双方が作用する近接場」がもう一つの必須エレメントだということになる。
ところが実はこの現象を私なりに実験/分析した結果から解釈すると、WiTricityが発表した資料の中で電磁界共鳴と言われているものは、電界と磁界の双方が作用する現象:電磁界(電界+磁界)ではなくて、どうやら磁界のみが作用していて電界が作用していないもののようである。そうするとこの場合、正しい物理現象としては古典的な言葉である主磁束(Mutual flux)の作用だというのが正しい。主磁束とは、一次巻線と二次巻線との双方を貫くように巻線と鎖交する磁束をいう。巻線間の相互作用を生じる磁束のことだ。
syncrophase

仮に明細書の書き直しができるなら、「共振させると磁束の時間的変化の位相が同期して(位相が同じになって)、コイルそれぞれで発生した磁束の引き込み現象が起きる。その結果多くの磁束が第1共振構造と第2共振構造との間の相互作用に介在する主磁束となって作用する。」と書くべきだった。
この説明のほうが古典的な電磁気学、電気工学でもすっきりと解釈できて良いと思う。その分、報道受けするような不思議な魅力が消え失せてしまうがしかたがない。さらに困るのは、存在しない物理現象をエレメントに含んでいるので特許は成立していても、その特許自体が意味のない特許(侵害立証不能な特許)になってしまうことである。
古典的解釈だとさらに言外に推測できることがある。コイル間の距離が決まると結合係数が決まるが、ワイヤレス電力伝送では結合係数が0.01ぐらいになることもある。そして、コイル間の結合係数は共振が起きても変わらない。ということは、多くの主磁束が生じているのなら、結合係数の逆数倍の漏れ磁束(トランスの主磁束-漏れ磁束の場合とは磁束の方向、位相が異なるので注意)も生じているはずである。いわゆる(said〜)共鳴場エバネセント・テールの周辺は膨大な量の漏れ磁束で溢れている。どれくらいの磁束密度なのか知っておかないと何か気になる。あまり遠くまで伝送させたくないというのが正直な感想である。
下記の動画みたいに夢を広げるのもいいが、非放射の近接場を使って家の中の一箇所のTxから家中にワイヤレス給電するのは妄想だと思う。せめて、EVとか机の下からとか、数十センチ以内にしてもらいたいものだ。


この磁力線の向きはおかしいんだよな
磁力線を人間の気分に合わせて書くのはどうかと・・

ところでさらに被定義語のはずなのに未定義な言葉がある。
「速度k」って何なのかな?結合係数kの誤訳ではないよね?
「固有損失速度Γ」ってエネルギー放射するアンテナの・・・?
いずれにしても、誤訳でなければこれらのエレメントの全部が揃わないとWiTricity(MIT)の特許には引っかからないということになってしまうし、アンテナの特許ならば「非放射の」という記述と矛盾する。
それと「前記共振周波数ω1に相当する波長λ1=2πc/ω1より小さく、かつ前記共振周波数ω2に相当する波長λ2=2πc/ω2より小さく、ここにcは光速であり、」は自然法則のままを記載した無駄なエレメントである。
85kHzのワイヤレス給電を例に取れば、85kHzの1/4波長は1.8辧実際のワイヤレス電力伝送のコイルは30cm。たしかに30cmは1.8劼茲蠅肋さい・・って85kHzのワイヤレス給電の場合になんか関係あんのか?10MHzを超えていればなんとなくそれっぽい現象になるかもしれないが。
特許解釈的には不要な限定に思え、いずれにしても問題の多い請求項である。

●もしかしたら私の共振変圧器にインスパイヤされてるのかも?
もしかしたら、調相結合トランスの二次巻線に発生する分布定数性の遅延(1/4λで共振する)現象のことを言いたいのかなー、と思うが、それだとこのWiTricityの特許は分布定数性の遅延が現れる自己共振型共振器、つまり、分布容量で共振するタイプの共振器のみに限定されて、ループコイルと共振コンデンサによる現在の一般的なLC共振器のほうは特許の技術範囲に入らないということになるのかもしれない。
さらに1/4λの共振器に現れる進行波/定在波の速度は光速cよりも遥かに遅いのがあたりまえなのでやはり無駄な限定か単なる自然法則の記述である。
さらに、Resonatorに関しては以下のことがわかっているので補足までに解説する。

●Resonatorの等価回路
Resonatorは1/4λで共振する。これを自己共振と呼ぶのであるが、ちなみに自己共振型の共振器(resonatorと呼ぶ)がなぜ1/4λで共振するのかを図示してみた。
Resonator
正しい等価回路はどちら?
resonatorはコイルのインダクタンスと分布容量が分布定数状になっているところから磁束位相の時間遅延が生じて、これがちょうど1/4λの遅れになった周波数で共振する。(あまり利用価値がないが3/4λや5/4λとかの高次の共振もある)その等価回路を書くと、まず一般的にはつい,里茲Δ暴颪い討靴泙いちであるが間違っている。私も人のことは言えない。私も昔は,里茲Δ暴颪い討い燭海箸發△襦しかし、,療価回路では磁束位相の時間遅延が生じないのだ。そして実測とは異なる結果になる。正しい等価回路は△任△襦これはシミュレーションしてみれば磁束位相の時間遅延が見られるのでより正確な等価回路だと思う。
Phase05
Pとaとの間が調相結合
a、b、cと位相が遅れていくのが分布定数性遅延

ちなみに、コイル上に1/4λの位相遅延が発生することを利用して、初めて量産化・工業化したのは調相結合トランスを用いた世界最小インバータ回路が先であるので、こちら方面から見てもこのエレメント単独では新規性がない。

●本当にWiTricityの特許は有効なのか?!
WiTricityの特許では「共鳴場エバネセント・テール」とか「電磁共鳴」というのがこの特許の中で重要な要素(エレメント=構成要件)になっているが、もしこのどちらかの現象が存在しないことになったらどうするのだろうか。
そこでわかったことが一つある。
ワイヤレス電力伝送では、いちいち電磁共鳴などというわけのわからない言葉を使わないで「共振」で」いいじゃないかと多くの人が言い出しているのだが、報道ではしつこいほど「電磁共鳴」「電磁共鳴」と洗脳するようにこの言葉を繰り返す。これはWiTricityから報道リリースで意図的にこの曖昧な言葉を流して既成事実化しようとして工作しているのだなという推測が成り立つわけである。
WiTricityには悪いけど、やはり電磁共鳴なんてものはない。古典的電気工学のLC共振ならある。

もっと決定的なことがある。
第1の高Q値共振構造と;第2の高Q値共振構造によって共鳴場エバネセント・テール介在しているということであるが、第2の高Q共振構造だけあれば効率のよい電力伝送ができてしまう。
電磁誘導と磁界共振の中間的な構成による電力伝送のシミュレーションと実験
そうなると、介在する共鳴場エバネセント・テールは存在していないことになってしまう。
高Q値共振構造が二次側だけでよいのであれば請求項上からも重要エレメントが二つ欠落してしまう。
現にそういう技術がTDKから特許出願されている。
特開2014-110733
特開2014-079107
特開2014-045552
(給電部の回路構成は給電コイルのみ、受信部の回路構成は受電コイルと受電コンデンサからなる直列共振回路とするワイヤレス電力伝送システム)
これはたいへんな事件になりそうである。

WiTricityの特許は複数に分割出願がされていて、これだけが全てではないという話もあるが、分割出願は特許の技術範囲を大幅に変えられないので、これだけの弱点を補うように分割によってシフト補正をすることはできない。
なお、WiTricityの特許は今後も順次特許査定されていくと思うので、重要なものが特許査定された場合はまた分析する予定であるが、精密な分析が必要であれば私よりもプロの分析である特許分析レポートなどを参照してほしい。

ところで、この話題を書くきっかけになったblogがこれである。
このblogでは「このWiTricityのポイントは "Resonant Magnetic Coupling" にあるようですが、IFT等の電磁結合の複同調回路(下記サイト参照)と原理的にどのように違うのかよく理解できません。」、と述べているが、実はそのとおりで、IFT(中間周波トランス)の結合と同じことが起きているだけである。
ただ、Q値を上げて大きくしてやってみた、そしたら電力伝送できちゃったという MIT Experiment の意義は大きい。極端なHigh-Qにするとギャップが数メートルあっても電力伝送できちゃうという事実は誰も知らなかったのだから、それを発見したという学術的功績は認めるべきものである。しかし学術論文としてではなく特許という視点で見た場合、惜しむらくは共振器が一次側と二次側と二つ必要だと言ってしまったことだ。結合の本質を分析すれば共振器は二次側だけでよい。一次側の共振器は共振昇圧という別の働きをしているだけなのである。二つの共振器が必須で共鳴結合するのではなく、それぞれが独立して別の働きをしているだけなのである。
WiTricityの特許は二つの共振器が共鳴し、第一共鳴場のエバネセントテールと第二共鳴場のエバネセントテールとの結合という新たな物理現象の存在を立証できない限り、実質的な効力のない特許だということになる。


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