冷陰極管(CCFL)用インバータ回路として良く紹介される回路に、ロイヤー回路(Royer oscillator Circuit)というのがあると言われる。しかしこれには大きな間違いがある。この回路の呼称については液晶バックライト産業全部が間違えている。冷陰極管用インバータ回路に用いられている回路はロイヤー回路に似てはいるが、ロイヤー回路ではないのである。冷陰極管用インバータ回路に用いられている回路はコレクタ共振型回路(コレクタ同調型発振回路)という。

Royer回路
ロイヤー回路
ロイヤー回路は1954年にウェスティングハウス・エレクトリックGeorge H. Royer によって発明された回路である。(Royer oscillator Circuit United States Patent 2783384
ウェスティングハウスといえば、ニコラ・テスラをサポートして発電・送電・変電網と三相交流モーターの動力源を構築した20世紀の立役者でもある。
ロイヤー回路とコレクタ共振型回路とを比べると、まず、発振周波数が全然違う。また、動作原理も全然違うのである。 ロイヤー回路に用いられるトランスは大変に大きい。これは、トランスのコア(鉄芯)を飽和させて位相の反転動作をさせるからである。また、トランスのコアの飽和はトランス一次巻線のインダクタンスL1と電源電圧とコアの飽和磁束密度で決まってしまうので、電源電圧が変わると発振周波数が変わる。周波数も数十Hzから数千Hzと、比較的低い周波数で動作する。
この回路の欠点は、コアを飽和させて反転動作をするので、コアのヒステリシス損失が起きることである。このヒステリシス損失というのは大変に大きな損失となる。また、反転動作をする瞬間にはコアが飽和しているのでインダクタンスが非常に小さくなる瞬間があり、このときにパルス状の大電流が流れる。
トランジスタに流れる電流
これがスイッチング用トランジスタを発熱させる。このパルス状電流を制限するのはトランスの巻線抵抗Rw1Rw2である。したがって、鉄損も多いし、トランジスタの発熱も多いし、とにかく変換効率が大変に低く問題の多いインバータ回路であった。
Royer回路のインバータ
※写真はRoyer回路によるAC100V 55Hz 矩形波インバータ(1980年頃)
ロイヤー回路の反転動作はコアが飽和した瞬間に起きる。コアが飽和すると透磁率が1になり、主巻線とベース巻線との間の結合がなくなり、したがってトランジスタのベース電流が供給されなくなるのでトランジスタが両方ともOFFになる。そうすると、今まで励磁電流が流れていたほうのトランジスタのコレクタ電圧には高い電圧が発生し、コアの透磁率が回復すると、この電圧がベース巻線を通じてて逆側のトランジスタのベースに与えられてベース電流が流れ始めるので反転動作が行われる。詳しい解析が名古屋工業大学のページにあったので下記のリンクが参考になると思う。
今から30年ほど前にはインバータ回路といえばロイヤー回路が必ず引き合いに出されるほどポピュラーな回路であったが、今ではほとんど見かけることがなくなってしまった。
発振周波数が高く出来ないので使いにくい。逆に、発振周波数を低くできることが特徴であるので、EL用のインバータ回路として細々と生き残っているようではあるが、故障が多いとされ、すこぶる評判が悪い。

Jensen回路
ジェンセン回路
ロイヤー回路は主トランスT1自身を飽和させて反転動作を行っていたので、鉄損、銅損、スイチング損とも3拍子揃って多いという最悪の回路であったが、トランスのコアの飽和を補助トランスT2に任せることによって、主トランスT1を飽和させないようにしたものがJensen回路である。(JENSEN OSCILLATORS Filed Aug. 29, 1955 United States Patent 2774878
この改良によって飽和させるコアの体積が劇的に減り、その結果、パルス状の電流が減り、銅損も鉄損も減ったので大幅に変換効率を改善することができた。
しかしながら、まだまだコアの励磁が大きく、損失が多い。インバータ回路の変換効率を改善するにはコアを励磁させてはいけないのである。
この回路も発振周波数が低い。高周波化が難しい。しかしながら、昔のトランジスタは応答速度が遅いので、この回路でも十分だったのかもしれない。
ロイヤー回路とJensen回路は簡単な回路でよくまあここまで複雑な動作をさせられたものだと昔の人たちに敬服させられる。
今の回路技術ではこんなことをする必要はない。NE555とゲートICで反転駆動回路を作れば済むので、昔に比べれば味気なくなったものである。ロイヤー回路とJensen回路はあくまでも往年のアナログ全盛時代の歴史的な遺産という位置づけである。

●コレクター共振型回路
コレクタ共振型回路
冷陰極管用インバータ回路やDC-DCコンバータ用の回路として普及した本命の回路がこれである。これをロイヤー回路だと言う人は、回路図を良く見比べてみてほしい。動作原理が全然違うのである。コレクタ共振型回路においては、トランスの一次側電圧波形、二次側出力電圧波形とも正弦波であるので、チョークコイルLcと共振用コンデンサCo、そして出力側のチョークコイルLaは必須である。
crwave
コレクタ共振型回路の歴史を調べたところ、最も古い文献は1958年にP.J.Baxandallによって記述されていることがわかった。
International Convention on Transistors and Associated Semiconductor Devices, 25th May, 1959/Transistor Sine-Wave LC Oscllators
そのほか
"Practical Design Problems in Transistor D.C./D.C. Convertors and D.C./A.C. Inverters" by T. D. Towers, Apr. 1960. .
も参考になる。
このP.J.Baxandallという人はオーディオのトーンコントロール回路の方面ではかなり有名な人らしい。このリンクの751ページfig.5にある回路がコレクタ共振型回路の原型とみていいだろう。二次巻線がなく、負荷RLがプシュプルのコレクタ巻線側に接続されているが、このL1に二次巻線を設けて二次巻線側に負荷RLを取り付ければDC-ACインバータになることは誰が見てもわかると思う。
sinewavelcoscillators
発振周波数は一次巻線のインダクタンスL1と共振コンデンサC1との共振周波数で決まるので、電源電圧が変化しても発振周波数はあまり変化しない。発振周波数は低くても10kHz以上で、上は数百kHzのものまである。ただし、この回路のトランスの一次巻線に流れる励磁電流は電源電圧と自己インダクタンスL1とで一義的に決まるので、一次巻線には励磁電流が多く流れ、銅損が大変に多い。励磁電流を小さくするにはトランスの形状を大きくして一次巻線の自己インダクタンスを大きくする必要がある。
高周波インバータと言われるわりにはトランスが無駄に大きな回路であった。

●二次側回路の共振を利用するコレクター共振型回路
これ以降は冷陰極管用インバータ回路独自の発達史となる。
初代のコレクタ共振型回路では、トランスの形状を小さくしようとすると一次巻線のインダクタンスが小さくなり過ぎ、励磁電流が多く流れて発熱する。そのため、トランスの形状をあまり小さくできないという問題を抱えている。
この問題を解決するには二次側回路を共振させて、励磁電流を減らすという手法を用いる必要がある。これにより、昇圧トランスの劇的な小型化が実現できるようになったが、その、コレクタ共振型回路の発達史を辿ると、

1.二次側回路の共振を利用しないコレクター共振型回路(初代1990年頃)
コレクター共振型回路の標準的な回路として良く引き合いに出されるが、実際のころ、現在ではほとんど使われていない。たまにジャンク屋で見かけることがある程度である。
最近また自動車用アクセサリーの通称"イカリング"用のインバータとして出回っているようであるが、バッテリーの電圧が変動するとCCFLがちらつくのでこの回路はやめたほうがよい。
1990年初頭

2.二次側回路の共振周波数を一次側の発振周波数の3倍に設定した、いわゆる3倍共振型回路(リリースは1994年、普及は早かった)
冷陰極管用インバータ回路の世界的標準となる。
提供は日立メディアエレクトロニクス。(特開平7-211472号)
日立Meda3倍

液晶バックライト用インバータ回路の輝度効率を十数%以上改善した歴史に残る名作と言える。欠点は昇圧トランス二次巻線に高電圧がかかること。そのために、昇圧トランス二次巻線のレイヤ・ショートによる焼損が多く発生し、昇圧トランスの管理にコストがかかった。

3.二次側回路の共振周波数を一次側の発振周波数の1倍付近に設定した、いわゆる基本波共振型回路(リリースは1993年、普及は1996年以降)
我々開発のもの。普及はしたが、調整は職人芸的に難しいという問題がある。それは、液晶バックライトの寄生容量値が仕様書に載っていないためであり、設計が手探りになるところにある。一見して回路が簡単だから、作るのも簡単だろうと思って気軽に手を出し、どうにもならなくて我々に相談して来るケースが後を絶たなかった。一次側の共振回路と二次側の共振回路とが干渉するので、周波数を安定させながら力率改善効果を引き出すのが大変に難しい回路であった。
しかしながら上手に調整すると、変換効率が高く、小型で発熱が少なく大変に優秀なインバータ回路が出来上がる。また、昇圧トランス二次巻線にかかる電圧が低くなるというメリットは大きく、国内F社のノート型PC用のインバータ回路における故障発生率を1/50にしたという実績がある。これ以降、他励共振型、ゼロ電流スイッチ型回路に至る変遷において、冷陰極管用インバータ回路の昇圧トランスのレイヤ・ショート問題は全く影をひそめることになった。
レイヤ・ショート問題がいまだに起こり続けているとすれば古い方式のインバータ回路を使っているからである。CCFLに直列に接続された高圧コンデンサ(CbまたはCrb)を使っているインバータ回路を見つけたら、それはもう使ってはいけないと考えるべきである。
基本波共振 pencil2

このうちで、昇圧トランスの劇的な小型化を実現したのは3の基本波共振型である。一次巻線の励磁電流を減らし、銅損を劇的に減らすことのできる力率改善効果が大きな働きをしている。ただ、この回路は二次側回路の共振のQをあまり高くできないという欠点を持つ。効率改善のために二次側回路の共振のQを高くすると異常発振をする。その異常発振の直前に設定するのが職人技という回路である。
これ以降、液晶バックライト用インバータ回路の歴史は他励共振型回路、ゼロ電流スイッチング型回路へと道を辿り、最終的に(新-二次側)電流共振回路に行き着くことになる。

※追補
コレクタ共振型回路(プシュプルのコレクタ同調型発振回路)は電圧共振型自励発振回路に分類される。それは、帰還ループ内に共振電圧の発生回路を含むからである。
コレクタ共振型回路をSSTC(ソリッド・ステート・テスラ・コイル)に利用しようとしているテスラコイルマニアが多くいるようであるが、テスラコイルのように二次側回路に共振回路を有するような場合は電圧共振との相性が悪く、調整に苦労すると思うので薦められない。
テスラコイルの等価回路は直列共振回路であるが、電圧共振は直列共振の中心周波数を掴むどころか逃げようとして反発する。
ではどうすればいいかというと、発振回路を電流共振型自励発振回路にすれば解決する。電流共振型回路は直列共振と相性が良く、直列共振の中心周波数を自動的に掴もうとする性質がある。したがって、テスラコイルのもっともよい駆動方法である。その成果は機会があればまとめて発表する。

他励共振型回路解説(初のリリースは1993年頃に我々によって行われたが、本格的に普及するのは2000年になってからである)
コレクタ共振型から電流共振型回路へ→
ZCS(ゼロ電流スイッチング回路)基本回路公報→