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『十三人の刺客』(1963)東映京都作品 

実録タッチの作風による集団抗争時代劇のはしりとなった。
東映の工藤栄一監督による名作時代劇。

文春文庫ビジュアル版の
『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』では第1位に選ばれている。

江戸時代、明石藩の藩主、松平斉韶の暴君ぶりは
幕府にまで聞こえていた。
幕閣たちは将軍の弟であるため、
厳しい処置もできず、頭を悩ますが、
ついに暗殺することを決意する。
御目付役島田新左衛門に命が下り、
残り十一人の仲間を集めた。
暗殺の場は、参勤交代の途中である。
綿密に練られた計画であったが、
しかし、松平斉韶には切れ者の側用人が控えていた……。

かって昭和三十年前半にピークを迎えた
日本映画はテレビの普及などで下降線をたどり
邦画各社は赤字になるケースも出てきた。
(新東宝は昭和36年に倒産した)
東映も時代劇で黄金時代を築いたが、
徐々に人気に陰りが出始め客足も遠のいていた。

暗中模索の様だったが、新しいタイプの時代劇
として東映企画課長の渡辺達人氏の原案から
バトンタッチされたのは池上金男
監督の工藤栄一もネタ作りに参加して
池上金男が出した第一稿は何と原稿用紙で
六百枚もあった。
これをそのまま映画にすると4時間になる。
「電話帳かいな?」と言われたが
池上金男が詰めて361枚の決定稿が完成。
この出来上がった脚本が滅法面白い。
評判になって京撮企画部に監督や役者が
詰めかけたが、この脚本を読んだのが
片岡千恵蔵御大。
「俺がこの主役をやる!」と宣言してしまう。
本当は順番では市川右太衛門御大のはずだったが、
京都撮影所では誰も千恵蔵御大に逆らう者はいない。
片岡千恵蔵が主演となるとギャラも上がってしまう。
苦肉の策は本来はカラーで撮る予定だったが
予算が無くなったのでモノクロで撮られる事になった。
自衛隊の京都府長池演習所の中に作られたオープンセットが
クライマックスの落合宿に使われた。
元々このセットは「十三人の刺客」のために組まれた
物ではなく、松田定次の『地と砂の決斗』のために
巨費を費やされた組んだ物の残骸だが、
採算が取れなくて今回も使い回されていた。
題名の【十三】は素数を題名に入れるとヒットする
というジンクスがある。
黒澤明の『七人の侍』や『隠し砦の三悪人』が好例。
工藤栄一もこの後、昭和42年に
夏八木勲で『十一人の侍』を撮っている。

出演者は御大の他に、里見浩太朗、嵐寛寿郎、
西村晃、水島道太郎、丘さとみ、藤純子

山城新伍、月形龍之介、丹波哲郎など。
そして敵役は日活から来た内田良平
「馬鹿殿」役が有名な菅貫太郎
内田良平は日活アクションで馴らし
拳銃捌きは得意だが時代劇は初体験だった。
時代劇の言い回しとリアクションはかなり苦労したらしい。
また菅貫太郎はこの作品でインパクトのある
バカ殿の演技が絶賛されたが、同じような役が
後に付いてまわるはめになり腐っていたとか。
音楽は伊福部昭。タイトルバックの手鼓を使い
能や狂言のような掛け声もあるテーマ音楽も良い。
伊福部さんは東宝や大映、東映の作品も手掛けていたが
時代劇は東映と大映。ちょっと大映の仕事の
『眠狂四郎』に似たイントロかなと思ったりして。
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芥川隆行のナレーションから始まる冒頭
何やら武士が三宝に乗せた「上」と書かれた
訴状の前で腹を切って息絶えている。
「弘化元年九月五日、早朝。江戸城馬場先御門外
老中土井大炊頭様御屋敷前にて、
播州明石十万石松平佐兵衛督斉韶様家来、
江戸家老職間宮図書切腹せり」
明石藩の藩主・松平斉韶(なりつぐ)は将軍の弟君で
その異常な性格と暴虐ぶりが幕府の中でも問題となっていた。
だが彼の行状を知らない将軍はいずれ斉韶を老中にするつもりだと言う。
筆頭老中土井大炊頭(丹波哲郎)も加わった幕閣の席でも
この事が協議される。
土井は「上様はことをわけて穏便に図るようにと――」仰せられた。
幕閣の席は静まった。
斉韶様を明石松平家へご養子にいたしたのは時の老中幕閣のお手落ち
間宮図書の亡骸は土井大炊頭の屋敷に保管されている。
その間宮が書いた訴状を読む土井大炊頭。
そこに呼ばれたのは公儀大目付島田新左衛門(片岡千恵蔵)
時にその方、斉韶様をなんと」。
「はあ、由緒ある松平家の跡継ぎには相応しからぬお方かと存じます」
「その方、それを知りよるなら改めて申すことがある」
「この三日の間、旗本衆のなかより人を選び、ふるいにかけ、
その方と思いを定めて――」
「ご老中、人の命はなによりも重く、何よりも代え難きと心得ております。
斉韶様も人の子。それを仰せられる前にご公儀のご威光を
もってご隠居願われるか――」
「間宮が命に代えて願ったのはそれであった。だがそれが叶わぬのだ。」
「なぜでございます?」。
「明年、斉韶様には、江戸ご出府のみぎり老中職にご就任と、
すでに上様より仰せ出されておる」。
「では、あの殿にご正道を任せられると仰せられまするか」。

されば、そのご正道の歪みをいかに正すかが思案のしどころになのだ。
ときに新左、その方に引き合わせたいものを招いておる。会ってくれるか
島田新左衛門が茶室に入ると、尾張中納言家来木曽上松陣屋詰・
牧野靭負(月形龍之介)が鎮座している。
ここで牧野靭負が島田新左衛門に語ったのは・・・
参勤交代のおり、木曽上松陣屋へ立ち寄った松平斉韶に、
息子の嫁を手ごめにされ、そして息子は惨殺されてしまう。
嫁もその後を追って自害した。
仕える尾張中納言の面目をつぶされただけでなく、
立派な跡継ぎ夫婦までを殺された無念が募る――

再び土井の前に戻る島田
「どうだ新左!」
手前にはこうしている間にも間宮図書の声が聞こえる心地がいたします」
「されど天下のご正道を成す老中といえども叶うことと叶わぬことがある。
上様のお言葉に背き、上様のお支筋に非をうつ。老中のわしには出来ん。
だがやらねば、天下の政事は乱れ、災いは万民にも及ぶ。どうだ新左――」

侍としてよき死に場所」
「死んでくれるか」
「見事成し遂げてご覧入れます」

間宮の訴状を破り火にくべる土井大炊頭。
場面は変わって江戸の明石藩屋敷。軍師・鬼頭半兵衛(内田良平)が
何やら吠えている。
それは家来が間宮の家の者には手を掛けるなと厳命したのに反して
息子夫婦や孫にまで縄をかけて屋敷に中庭に引きずり出していたからだ。
家来は逆らえない斉韶の命令だと半兵衛にすがる。
ここでバカ殿の松平斉韶が登場。演ずるは菅貫太郎。まさに怪演である。
今回の件、間宮の家の者には一切無関係である事を老中土井大炊頭から
仰せられている事を訴える鬼頭半兵衛に扇子を投げ怒る斉韶。
たかが老中ひとりの申す世迷言、気に掛ける事は無い!」
この後、斉韶は間宮の者全員を自ら斬り殺してしまう。
こうなっては軍師・鬼頭半兵衛はいくらバカ殿でも藩主の命を守る事が
最大の使命。家来にこの数日間、老中土井大炊頭の屋敷に出入りした
者を全て洗うように命令を下す。そして翌朝、その家来が持って来た
名簿に目を通す半兵衛。その中に島田新左衛門と牧野靭負の名を
見つけて土井大炊頭が島田新左衛門に斉韶暗殺の命を下した事を悟る。
鬼頭半兵衛にとって島田新左衛門は旧知の中だった。
土井大炊頭が島田を選んだとすればお家にとっては
最も悪いくじを引き当てたようだ

島田新左衛門の屋敷、食客である浪人、
平山九十郎(西村晃)が居合の稽古をしている。
座敷には集められた徒目付組頭の倉永左平太(嵐寛寿郎)他五人が集まられている。
おぬしたち一同、わしに命を預けられる事は承知だろうな
ならば言おう、この度、御老中土井大炊頭様の御内領により
明石十万石、松平斉韶様のお命を頂戴する事に相成る
倉永左平太はここで計画を語る。来月の十月、参勤交代で斉韶が江戸から明石に
戻る。明石領内に入ってからでは暗殺は遂行出来ない故、参勤交代の道中の間に
襲撃して斉韶の命を奪わなければならないと。
ここで島田新左衛門の甥、島田新六郎(里見浩太朗)が登場。
新六郎は武芸も身に付けたが、今は芸者おえん(丘さとみ)の
家に居候している。今で言うヒモである。
刀より今は三味線だとうそぶくが、ふらっとおえんの家にやって来た
新左衛門が新六郎の愛用の三味線を奏でる。
三味線の腕さえも新左衛門に勝てないと悟った新六郎は刀で三味線の
弦を切り、おえんに別れを告げ新左衛門の元に出向く。
いつ帰ってくださるの?」とおえん
早ければひと月足らずだろう。
遅ければ盆に帰ってくる。迎え火を炊いて待っていてくれ
――」
浪人・佐原平蔵(水島道太郎)と九十郎の弟子小倉庄次郎も
加わり総勢十二人が集まった。
十月二十四日、斉韶の明石藩一同は播州明石に向けて江戸を発つ。
船着き場で新左衛門たちは襲撃しようと試みるが
半兵衛の取った策で屈強の警備を敷かれて手も足も出なかった。
計画を練り直して江戸に戻る事にする。
そして斉韶一行を迎え討つのは木曾落合宿と決める。
まず斉韶一行を尾張藩内を通せずとして尾張藩・牧野靭負に
協力を願い、行先を落合宿を通過させるようにする。
落合宿全体を買い取って要塞化して罠を仕掛けて
斉韶一行を襲撃する手筈を取った。
何の変哲のないこの宿場がいかに必殺の場に変わるかだ
そこに落合宿の庄屋の娘加代(藤純子)と惚れあっている
郷士の木賀小弥太(山城新伍)が加わり十三人となる。

十一月十七日、濃霧の中か馬蹄の音がして明石藩53騎が現れた。
これは亀岡の山中で撮影されたが、濃霧で有名な京都府亀岡だが
なかなか思う通の霧が出ずに撮影用のスモークを750本も
焚いてあの名場面が撮れたそうな。ただ当日、録音部を呼んでいなかった
らしくて蹄の音はアフレコで入れている。
時代劇映画史上最長とされた30分にわたる殺陣シーンが始まる。
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製作期間は50日を費やし、使われたフィルムも当初の予定を
遥かに上回る量を使い工藤監督は始末書を何枚も書いたそうだ。
結局完成した版は3時間を超えてこのままでは上映出来ないので
削りに削って2時間5分がファイナルカットとなった。
ダビングなどのぎりぎりの作業で完成したプリントの試写は
深夜になったが京都撮影所の試写室は超満員で大好評につき
上映後は試写室に撮影所の関係者の拍手が鳴り響いた

封切は昭和38年12月7日で併映は佐伯清監督の
わが恐喝の人生』(東映東京、千葉真一、梅宮辰夫主演)
だったが、翌週に倉田準二監督の『月影忍法帳 二十一の眼
(東映京都 松方弘樹   里見浩太郎 主演)に差し替わって
時代劇二本立てで上映された。興行成績は工藤監督に言わせると
損はしていないが、少し儲かった程度との事。

参考資料
「東映京都撮影所血風録 あかんやつら」
(春日太一著 文春文庫)

「映画監督 工藤栄一」
(工藤栄一、ダーティ工藤著 ワイズ出版)

「伝説日本チャンバラ狂」
(黒鉄ヒロシ、ペリー荻野著 集英社)

「十三人の刺客」(昭和38年)
(東映チャンネル 12月16日放送)

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こちらが昭和38年公開時のオリジナルポスター。
上から2番目は80年代に再公開された時のもの。
俳優の序列(ビリング)に違いがある。







監督: 工藤栄一 
企画: 玉木潤一郎 
    天尾完次 
脚本: 池上金男 
撮影: 鈴木重平 
美術: 井川徳道 
編集: 宮本信太郎 
音楽: 伊福部昭 
助監督: 田宮武

 片岡千恵蔵
 里見浩太郎
 内田良平
 丹波哲郎
 嵐寛寿郎
 西村晃
 月形龍之介
 丘さとみ
 三島ゆり子
 藤純子
 河原崎長一郎
 水島道太郎
 加賀邦男
 沢村精四郎 
 阿部九州男
 山城新伍 
 原田甲子郎
 春日俊二
 明石潮
 片岡栄二郎
 北龍二 
 香川良介
 菅貫太郎

東映京都撮影所作品
東映株式会社配給
モノクロ・35㍉
シネマスコープサイズ
11巻 3,438m 125分
映倫番号:13392

(C)東映

この記事をもって2018年の最後となります。
非常に少ない投稿数でしたが今年も
10万件以上の訪問者がありました。
どうか来年もよろしくお願いします。