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国から適格消費者団体の認定を受けているNPO法人「消費者支援機構関西」の事務所=大阪市中央区 賃貸不動産の敷金やレンタル着物のキャンセル料、結婚式会場の解約金など、誰にとっても身近な消費者問題。もし、運悪く悪質業者に引っかかっても、個人が裁判を起こすにはハードルが高い。そこで平成19年に設けられたのが、消費者団体が被害者に代わって訴訟を提起できる「消費者団体訴訟」制度だ。
しかし、消費者保護の切り札として期待されたものの利用は低迷。団体として認定された「適格消費者団体」が全国で10団体しかないためだ。被害にあった消費者の約36%が「泣き寝入り」したとの調査もあり、消費者保護へ向けた一層の態勢整備が求められる。(前田武)
 ■「切り札」もフトコロ寒く
 「『無料で絵の講評をする』と呼び出して勧誘しており、悪質だ」
 10月9日、適格消費者団体の認定を受けているNPO法人「消費者支援機構関西」(大阪市中央区)が、大手出版社「講談社」の完全子会社「講談社フェーマススクールズ」(東京都文京区)を相手取った消費者団体訴訟を、大阪地裁に起こした。
 訴えの趣旨は「通信教育を途中解約した際の清算金が高すぎて違法」などとするもの。特定商取引法や消費者契約法に違反するとして、同社に対し、清算金について定めた契約条項の使用を差し止めるよう求めている。
 消費者支援機構関西や訴状によると、同社は、イラストのコンテストを開催して作品を募集。応募者に対し、電話で「あなたには絵の才能がある」などと持ちかけ、美術の通信教育を勧誘していたという。通信教育の契約内容は、3年間で約160万円の学費を一括で支払った上で半年以内に解約した場合、半額程度しか返金されない仕組みになっていたとされる。
 提訴について、同社は「3年前くらいに消費者支援機構関西から問い合わせがあり、資料や教材を送るなどして通信教育の内容について説明してきたのに、訴訟になったのは残念だ」とコメント。「正当な事業だと確信しており、違法との指摘は承服できない。今後、こちらの主張を裁判で訴えたい」としている。
 今回の提訴は、制度が平成19年6月にスタートしてから、全国で26件目にあたる。消費者保護の切り札として導入されながら、あまりに少数にとどまっている背景には、団体側の金銭的負担が大きいという「台所事情」もあるようだ。
 ■東北、四国に存在せず
 国の認定を受けた適格団体は、東京や大阪などの大都市を中心に10団体のみ。東北や四国には存在せず、これらの地域では消費者団体訴訟を起こすことは事実上困難な状態にある。
 「活動すればするほど、お金が出ていく。会員から集める会費だけでは足りず、ボランティアや寄付に頼っている」
 こう話すのは、消費者支援機構関西の西島秀向理事。西島理事によると、全国の適格団体の中でも規模が大きいとされる「関西」でも、自前で常勤職員を雇う余力はなく、すべて日本生活協同組合連合会(生協)などの会員団体からの出向で、給与などは出向元に負担してもらっているという。業者側との交渉や訴訟の準備といった活動でも、無償で協力してくれる弁護士や専門相談員が頼りだ。
 各地で適格団体を発足させようという動きはあるものの、スタッフの確保や財政面での自立が難しいことなどから進展していないケースが多いという。
 西島理事は「適格団体の数が増えないのは財政的に成り立たないからだ」と指摘。「消費者の権利を守るため制度を活用したい」としながらも、実態はなかなか首が回らないというのが現状だ。
 ■相談しても仕方ない
 現行制度で適格団体が起こせる訴訟は、将来の被害を防ぐための「不当行為の差し止め請求」だけ。損害賠償を請求できるわけではなく、勝訴した場合でも、訴訟費用を被告の負担にすることはできても賠償金などは得られない。
 個々の被害者にとっては、自分のお金を取り戻すことが肝心要。「お金が戻ってこないなら意味がない」という被害者が多いのも当然で、こうした事情も訴訟が少ない一因とみられている。
 消費者庁が今年3月、全国の18歳以上を対象にインターネットを通じて実施した意識調査によると、購入した商品やサービスで消費者被害を受けた人の約36%が誰にも相談せず、泣き寝入りしていたことが判明した。
 調査によると、全体の約19%が過去に被害に遭ったと回答。被害の内訳は、エステや先物取引など「サービスに関するもの」が約53%で、学習用教材や健康食品といった「商品に関するもの」は約47%だった。
 一方、被害に遭った人のうち「消費者団体などに相談した」との回答は3・7%だった。誰にも相談しなかった理由は「相談しても仕方がないと思った」が最も多く約53%。「どこに相談すればよいか分からなかった」という回答も約9%あった。
 ■企業側は警戒心
 こうした状況を受け、消費者庁は、適格団体が勝訴した場合に被害者が簡単な手続きで賠償金を受け取れる「集団的消費者被害回復」制度の導入を検討している。しかし、具体的な実現の見通しは立っていない。西島理事は「被害者が賠償金を得られるようになれば、その一部を弁護士費用などに充てることも可能。新制度の導入を急いでほしい」と訴える。
 ただ、専門家によると、新しい制度の創設にも困難が待ち構えている。
 消費者問題に詳しい久留米大法科大学院の朝見行弘教授(民法・消費者法)は「新制度の設計に時間がかかっているのは、企業側の反発も影響しているのだろう」とみている。
 訴訟を起こされる立場の企業側は、もともと消費者団体訴訟の導入に慎重だった。
 日本経済団体連合会(経団連)は18年1月、企業恐喝まがいの裁判や和解目的の訴訟、ライバル企業による制度の悪用の可能性などを指摘した上で、「制度の乱用・悪用の懸念があり、健全な事業活動が阻害されるおそれがある」とのコメントを発表している。現在も基本的なスタンスは変わっていない。
 新制度についても、経団連の消費者法部会が昨年7月、「事業活動を萎縮させるような制度はあってはならず、拙速を避けた慎重で厳格な制度設計が必要」との見解を示している。
 「よく分からない団体が訴えてきたら大変だ」という経済界にとっては、慎重にならざるを得ない理由も理解できる面はある。
 しかし、これまでの消費者団体訴訟では、虚偽の説明で大学生らを勧誘していた語学学校に不当行為を認めさせたり、悪質な金融関連業者に未公開株の勧誘をやめさせるなどの成果を挙げている。
 朝見教授は「消費者団体訴訟は悪質業者への抑止力にもなっており、大変意義がある。いかに使い勝手の良い制度にしていくかが重要だ」としている。
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