こんなタイトルいただきました!

2010年10月20日

「タンバリン社会」第2話 ぶちょう

今日も、丹波首相の活躍ぶりを映し出す、
照美常(てれびじょん)。


それを見て、何か閃いたように
にやり ほくそえむ男の影。

その男こそ、「江戸で一番の詐欺師」とうたわれた、
「早樹 理頭夢」(はやき りずむ)であった。

幾多の詐欺によって、一財を築いた時期もあったが、
奉行所に目を付けられて以来、稼業が振るわず。

今は、売れない商品に囲まれながら
暮らす毎日であった。


そんな早樹がなぜ、丹波首相の丹馬鈴(※1)報道を見て、
ほくそえんだのか。

実は早樹、寺子屋時代に吹奏楽団に入っており、
「丹馬鈴の名手」を名を馳せた時代があったのだ。


 民の心を昂揚させ、最後には笑顔で躍らせてしまう。


詐欺にとって、これほど都合の良いものはないではないか。

- - - - - - - - - -

※1:西洋から伝来した鼓型の打楽器の事。
一方の手で取っ手を持ち、もう一方の手で鼓の部分を叩くと、
軽快な音が鳴る。現代で言う、タンバリン。
- - - - - - - - - -

次回は ただけんが、SFテイストでお届けします!

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2010年09月15日

「太陽に初着陸」第4話 ぶちょう

ハタと2人は気づいた。ここは、あの夢と同じ風景…太陽の表面だと。

間近で見る太陽は、恐ろしいほどの勢いで燃えさかっているのに、不思議と2人は熱さを感じない。その時、2人は聞きなれた声を聞いた。

「助けてくれー熱い!熱い!熱い!」

なんと、13年前、客船とともに海底に沈んでいった家族達だった。

 生きている?なぜ?

確かに彼らは暑がってはいるが、あの夢の映像とは違い、
体がまだ太陽から浮かんでいて、太陽の炎で黒コゲにされてはいない。

やはり彼らは海に沈んだのではなく、竜巻でこの太陽まで連れて来られたか?13年もの間、ここで苦しんでいたのか?


威夫も時子も、彼らを救おうと、空中を泳ぐかのようにして、彼らに近づいた。
だが、その時、恐ろしい映像が時子の脳裏に浮かび上がった!!


家族達が、威夫と時子をとりかこみ、いぶかしげな目で2人を見つめている。
威夫には彼らの心の内が容赦なく伝わる。

「そう言えば、あの娘、あの事故が起こる事を知っていたな…」
「あの男だけ、あの娘の話に、真剣に耳を貸していた」

「あの2人、なんだか気味が悪いぞ」
「あの2人は普通じゃない」

耐え切れなくなって、反射的に後ずさる時子!その時、威夫も時子も、あの事故の日まで、自分達がどんな風に生活していたかを思い出した。

2人とも、家族にさえも自分達の特殊能力をひた隠しにしていた。秘密がバレた瞬間、彼らがどんな反応を見せるかは、わかりきっていたから。

彼らを救えば、太陽の大爆発もまぬがれ、地球は救われるかもしれない。
だが、そうすれば自分達の生活は脅かされる事は必至だ。


見つめ合う2人。



次回、いよいよ佳境の第5話! ただけんが「り」からお届けします。

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2010年09月10日

「太陽に初着陸」第3話 しんのすけ

海流が渦巻くとき、近海では竜巻がおきる。
そう、ふたりのかつての生活をのみ込んだ、あの竜巻。

ふたりは毎日、海を眺めた。
海流が平穏を破るのを待ち望んで。


穏やかな海がひと月程、続いただろうか。
平穏はいつだって突然に破られる。

まるで停電が起きたかのように急に辺りが急激に暗くなったと同時に、
海から轟音が響いて来た。

ふたりは互いを結びつけたロープを確認すると、
音がする方角に向かって、粗末な筏で海に飛び出した。


威夫はその刹那恐怖する。
時子の感情が威夫をも支配する。
時子はどんな未来をみているのか。
時子はただ唇をぎゅっと噛み締め、力強く前を見据えている。
迷いのない時子の姿をみて、威夫は筏をこぐ力を込め直した。


そして−−−
どんっ!
という衝撃が走るのを感じる。
これがふたりがこの地球上で感じた最後の記憶だった。


威夫と時子が目をさましたとき、そこは---



※次回はぶちょうが「は」から第4話をお届けします。




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2010年08月28日

「耳せんを使うしかない!!」第5話 ぶちょう

確かに、玉は動いていた。意思を持っているかのように。

まるで玉に導かれるかのようにして、ヒロシは船の甲板に出た。

さらに数を増し、漁船に体をぶつけ、プレッシャーをかけてくるイルカ達。

目をそむけたくなる光景だったが、さきほどの2つの玉が光を増し、
ヒロシの耳へと入り込んだ。

すると、どうだろう。再びあのおばあちゃんの声が聞こえてくるではないか。

「ヒロシや。お前は賢い子だ。だからこそ、雑音に惑わされずに、
彼らの心に耳を傾ける事ができるはずだよ…」

次の瞬間、イルカ達の発する超音波が、スーッとヒロシの耳の中に入ってきた。


 私達にも、お前達と同様に、家族がある。故郷を愛する心がある…。
 水族館に携わっているお前だからこそ、私達は訴える。
 年に一度でいい。水族館にいるイルカ達を、海へ戻してくれないか?


そう、ヒロシの職業は、水族館の飼育員。イルカショーの担当になって、もう10年になる。
実は最近、イルカ達が疲弊してきているのを肌で感じてはいたが、
立場上、どうする事もできない自分に苛立っていたところだった。


しかも、イルカ達の中には、さっきまで人間だった者もいる。
自分の体だって、もう着々とイルカに近づきつつある。

そう思うと、彼らの訴えはやたらとリアルに感じられた。


そして、ヒロシの目の前の海面に、見覚えのあるモノが現れた。
彼の勤めている「シティキャッスル水族館」の屋上に設置された、
イルカショー専用の劇場「キャッスル・シアター」であった。

今回の沈没によって、海との境界線は、もうほとんどなくなっている。


次回、いよいよ最終回!
ただけんが「る」からお届けします。

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2010年08月18日

「耳せんを使うしかない!!」 第1話 ただけん

※前回に引き続き、公演でお客様よりいただいたタイトルより、ひとつの物語を作り上げていく「リレーストーリー」(こんなタイトルだっけ!?)。
第2弾のタイトルは「耳せんを使うしかない!!」です。

☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.

時は2012年。

誰かの予言が見事的中し、未曾有の天災が襲ってきた…。
が、ヒロシの知る限り、それは日本だけであった。

日本は、いつか映画で見たように、各地で大地震とともに沈没を始め、大パニックに陥っていたが、海の向こうの国々は全くの無傷であった。

そんな訳で、ヒロシは今、一人でたまたま訪れていた港町で避難する人々に押されるがままに乗り込んだマグロ漁船の船倉に横たわり、何処か海の向こうの国へ向かっているのであった。

船倉は、いつかニュースで見た難民船のように(事実、自分たちも国を追われた難民ではないか)、マグロに代わって日本人が隙間なく横たわっていた。

誰も彼もが、極度の疲労と何とか脱出できたという安堵で寝入っていたが、ヒロシだけは眠れずにいた…隣の男の寝言がうるさい。


◎次は、ぼーぼが「い」からお話を続けます。

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2010年08月16日

「あお」最終話 ぶちょう

プールサイドに横たわる、レッド、グリーン、ピンクの体。

3人は、指令官に扮した子ガニ星人にこの高級ホテルに招待され、
プールでさんざんはしゃいで油断している所、子ガニの手下達に撃退されてしまったのであった。

だが、子ガニ星人は1つミスを犯した。
ただ1人プールにはやって来ずに、このホテルのカレービュッフェコーナーに
すっ飛んでいったイエローを野放しにしたのだ。

「3人が敵に襲われちまった。場所を言うから、今すぐ来てくれ!」

ギャラクシーケータイで、ブルーと会話するイエロー。
普段はプライバシーを守るため、電源オフにしているブルーだが、
今日のエマージェンシー音には、胸騒ぎを感じたので、「バリサン」状態にしていたのだ!

光速で移動し、ホテルへ到着したブルー。
イエローと、アイコンタクト1つ交わすだけで、作戦会議は終了した!


まずは、イエローが奴らの前に姿を現し、腹踊りを始めた。
満腹感マックスのお腹はいつも以上によく動き、子ガニ星人、ビー、ウス、マロンの
笑いを誘った!


そして、彼らの背後にあるプールから忍び寄る、ブルーの影。
彼の青い体は保護色となって、誰も気づかない!

まずは、マロンにキックを食らわし、飛んでったマロンの熱い体に当たったビーに大火傷を負わせた。
次にブルーは、ウスにパンチを食らわし、マロンを倒れたウスの下敷きにさせた。
そして、子ガニ星人のハサミをつかんで、ウスの立派なボディを傷つけると、
プライドズタズタのウスは戦意喪失した。


「わわ…やめてくれ。もうあんた達には逆らわないからさ」

命乞いする子ガニ星人。
その約束が本気である事を確認したブルーは、
交換条件として、3人の仲間達の手当てをする事を子ガニ星人に命じた。

「子ガニバブルー!」

口からわけのわからない泡を放出する子ガニ星人。
だが、その効果はてきめんで、レッド、グリーン、ピンクは次々に目を覚ました。

ピンク「あれ、あたし達、どうしちゃったの…?」
イエロー「ブルーが助けてくれたんだよ!な?ブルー…」

ブルーはもうそこにはいなかった。
そこには置き手紙が。


「役目は終わった。今日はもう帰るぜ。

今後、少しずつお前達との距離を縮めていきたい。

仕事用じゃなくて、プライベートの電話番号を教える

03−××××ー××××」


ピンク「家電かよっ!」


 −完−

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2010年08月06日

ショートストーリー「あお」第1話・ぶちょう

あらためまして、こんばんは。Xpotの「ぶちょう」です。

こちらのブログでは最近、Xpot5人が日常で出会った出来事や思い出話などを専らつづって参りましたが、「今度はXpot5人で、ショートストーリーを作ってみたい!」と、私、突如思い立ちました。

それが下の文章です。今日は第1話。
これから数日間、Xpot5人のリレー形式でお届けします。

思いつきをすぐさま形にするのを大事にしたので、粗い所もあるかもしれませんが、お楽しみいただければ幸いです!

(※お客様から過去の公演でいただいたタイトルを、使わせていただきました!)

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ショートストーリー「あお」 第1話


俺の名は、ギャラクシー・ブルー。
言わずと知れた、正義の5人組「宇宙戦隊ギャラクシー・ファイブ」
の一員だ。

ブルーというその名の通り、俺はクールな性格で、
俺1人だけが、戦隊の他の4人と、プライベートで会ったりはしない。

いつもベッタリと一緒にいる事が友情だとは限らない。
ピンチの時に助け合えれば、それで十分だろう。

俺はそう思ってここまでやってきた。

この背中の傷にしたって、かつてカニカニ星人との戦いの最中、奴が放った「カニバサミ」がイエローに当たりそうになったその瞬間、俺が身を挺して防いだ時のもの。

ピンチの時に助け合えてこそ、真の仲間だ。

仲間たちも、そんな俺のクールな愛情表現をわかってくれていると思っていた。


だから、ピンクのあの一言は、かなりのショックだったんだ…。

- - - - - - - - - -

明日は、Xpotの知恵袋・ただけん が続きを書きます。
今日のブログの最後の文字「だ」からスタートです。

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2009年08月07日

「飛べ!!!ハイパーオバマ」いりおか

5f27a584.JPG先月いただいたタイトルから、こんな音楽を即興で作りました

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2009年07月09日

ブログインプロ「下まつげが目に刺さります」ぶちょう

私も、先月の公演で、お客様からいただいたタイトルを使わせていただきます。
本番では使われなかった、上記のタイトルから、インスパイアされたストーリーです!

- - - - - - - - - -
コンドウは、下まつげの異常に長い男だった。
若い頃は、それがチャームポイントとして、異性にウケた時もあった。
だが、最近、この下まつげが悩みの種となっていた。

その悩みとは、
フリーのカメラマンという、コンドウの職業に関わりがあった。
彼が扱う写真は、タレントのゴシップばかり。
密会や不倫現場などの写真を撮っては、女性週刊誌に売り込んで、生計を立てていた。

だが最近、おかしな事がよく起こっていた。
スクープの現場に居合わせ、シャッターを押そうとする瞬間に限って、下まつげが彼の目に刺さってくるのだ。
そのあまりの痛みにもんどりうっているうちに、決定的瞬間を逃してしまう事が、何度となく続いた。


今日も彼は、女優Aとお笑い芸人Bの密会現場を撮り損ねてしまった。
自宅に帰った彼は意を決して、下まつげを切ることにした。
彼がハサミをそっと向けたその瞬間であった!

どこからか、声がした。

 「…また繰り返すのかい?」

しわがれた老婆の声だった。

後ろを振り向いた、コンドウ。
だが、誰もいない。
空耳だったのだろうか。

だがすぐに、また同じ老婆の声がした。
「…何のために、あたしがあんたの目に刺さってると思ってるんだい?」
そして、下まつげが目に刺さってきたのだ。

「痛い痛い痛い痛い!!」
またもやもんどりうったコンドウ。
どういう事だ?下まつげが俺の意思と関係なく動いてる?
いや、まさか!

「そのまさか、だよ」

??? 

「声を出してるのは、あんたの下まつげさ」

受け入れるまでにしばらくかかったが、
彼は、やっと次の結論に辿り着いた。

 下まつげが、コンドウとは別の人格を持って、動いている、と。

「やっと理解したようだね」
そう言うと、下まつげ婆さんはゆっくりと話し始めた。壮大な話を。


コンドウは、なんと前世から、今と同じように、他人の弱みを握り、それを利用して生きていた。
ある国の大臣だった時は、ライバル達が王の悪口を言った現場を掴んでは、王に伝え自分の出世に利用し、
またある国の農民だった時には、貧困のあまり年貢の支払いをごまかすしかなかった仲間を告発し、自分の株を上げる、という卑怯な手段を取っていた。


今世こそは、コンドウに人の役に立つような仕事をさせるために、神様が下まつげに人格を持たせた…という事であった。


…にわかには信じがたい話のはずだったが、
彼はだんだんと下まつげ婆さんの話を信じ始めていた。
不思議な事だったが、婆さんの声が、亡くなった祖母の声にそっくりだった事にも心動かされていた。

祖母も生前、
「お金にならなくてもいいから、人のためになるような仕事をするんだよ…」とよく言っていた。


でも、どうすればいいんだ?俺には下世話な写真を撮る以外に能がない男だ!
コンドウは心の中でつぶやいた。

見透かすように下まつげ婆さんは言った。
「それは違う。お前は、写真を撮るしか能がない男だ。大違いだよ」


3日後…。
彼は、国会議事堂前にいた。
汚職事件に手を染めた疑いがかかっているC議員に、突撃取材をするためだ。
もちろん、このネタは、コンドウの専門外。
すでに集まっている他の記者達も、見慣れないコンドウに対し、あからさまに怪訝な表情。


一方、このC議員は、今までにも何度となく汚職事件の疑いをかけられながらも、
誰も決定的な証拠を掴めないでいた。
議員達も、大きな派閥に属し絶大な権力を持つ彼を恐れて、核心まで踏み込まない者も多かった。

政治部の記者達は、何とか彼に本当の事を言わせたい、と今日もマイクとカメラを彼に向けていた。
だが、そんな攻撃をかわす事に慣れきった彼は、笑顔さえ浮かべながら、車に乗ろうとした…とその時!


「そうは問屋がおろさないよ!」
コンドウにだけ聞こえる声で、下まつげ婆さんが叫んだ!
そして彼の目からどんどん下まつげが抜け、まつげ達はヒュンヒュン、とC議員の目に刺さっていった!

痛ああああああああああああ!!!!

C議員の、悲痛な叫び声!
「今だよ!本当の事こいつに言わせるんだ!」と、婆さんの声。

ハッとしたコンドウは、カメラを向けながら、無我夢中で質問していた。
「答えてください!あの汚職事件の噂は、本当なんでしょうか?」

「だから、私は無関係だと…痛ああああああああああああ!!!!!!」

「答えてください!本当の事言わないと、下まつげがもっと突き刺さりますよ!」

「貴様、何者だ!こんな事をしてただで済むと…アイタタタタタ痛ああああああああああああ!!!!
アアアアアア!!!!!!!!」

「なんと!驚いた事に、C議員の目に下まつげが刺さっている模様です!」
見慣れない光景に、何をレポートしていいかわからない記者達!
そして、下まつげ婆さんの攻撃は容赦なく続いた…!

「わかったぁ〜〜〜!あの噂は本当だ!私は、金をもらってる!あの会社から金をたらふくもらった!本当だ!だから、お願いだから…もうこの攻撃を止めてくれ…」

翌日…。
新聞の一面には、この出来事がデカデカと載った。
一番C議員の近くにいたコンドウの写真は、各社の新聞一面を飾り、多くの雑誌社も重宝がった。

彼にとって、自分の写真が価値を持った事ももちろん嬉しかったが、
街行く人々の「胸がスッとした!」という声と、すがすがしい表情が何よりもうれしかった。


長かった彼のまつげは、あの一件で抜け落ちた後、二度と生えてくる事はなかった。
もちろん、あの婆さんの声がする事も、二度とない。
それでも彼は、今日も、人々が本当に知りたがっている出来事を追いかけて、世界中をかけ回っている。

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2009年07月05日

ブログインプロ「フレンドシップ」しんのすけ

6月公演にていただいたタイトルより
インプロ的創作した物語をおとどけします。
今回のタイトルは

「フレンドシップ」



江戸は太平の世。
長き戦乱のときを超え

江戸の町は、平和と繁栄の最中にあった。

しかし
いつの世にも悪は絶えない。

江戸のあかりも薄暗くなる武蔵野の雑木林に
荒れた古寺がひとつ。

その古寺こそが
極悪非道凶悪無比四面楚歌な一匹狼集団
「不連道」一味
のアジトであった。


「不連道」は一匹狼の集団。
決して党員同士がつるむことはない。
標的を決めては
競うようにして
個々で盗みを働き、ひとを殺し、火を放つ。

競うように悪事を働くものであるから
「不連道」に目をつけられて標的は
ひとたまりもない。

「不連道」の仕事のあとには
草一本残らないと言う。


「不連道」に属す悪党・与吉は
産まれた刹那に、その大きな泣き声で母親を殺め
以来
鬼の子
として周囲から恐れられつつ育ったものであるから
「不連道」に入党したのは
必然であった。


成人となった与吉は
依然声が大きく、その音圧が悪党としての唯一無二の武器となっていた。
しかし
そのおかげで
いまだ与吉は
ひとと会話をたのしんだことがなかった。


ある日
「不連道」の親方から招集がかかる。

---次の標的は幕府の御金蔵だ!

重々しく告げた親方・兵十は、にやりと笑った。
古寺に集まる曲者たちの目が光る。

期日は次の満月と定められた。


与吉は、喜びにうち震えた。
現在のこの境遇は、すべて幕府がつくった世の中のせいだ、と逆恨みしていたからだ。
その日から与吉は、毎日、江戸城のまわりを歩いた。

そこへ---
姿美しい娘がひとり、アサリを売り歩いていた。
与吉は、ひとめみたその瞬間から、その娘に心奪われた。


声をかけようとした瞬間、、、与吉は声を飲み込んだ。

---鬼の子め!鬼の子め!

幼い頃の記憶が蘇る。
地面がまわる。
与吉は、投げつけられる石におびえて、思わず頭を抱えた。

---どうしたのですか?

立ちすくむ与吉に声をかけてきたのは
他でもない、その美しい娘だった。


与吉は、からだ中の血が沸騰するのを感じた。
鼓動がはやくなる。
とっさに懐からとりだした銭を娘に渡し
アサリをひっつかむと与吉は走って逃げた。

その日から与吉の眠れない夜が続く。

満月の三日前。
意を決して、市中に出る与吉。
懐には、花が一輪。

そこへアサリ売りの美しい声が聞こえてくる。


---あら、あんた。こないだはあんなにたくさんの金、こまりますわ。


無言のまま、花を差し出す、与吉。
女は、きょとんとしている。

そこへ。
人相の悪いゴロツキどもが群をなしてやってきた。

ゴロツキどもは
アサリの桶をひっくり返し
女の手首をひねり上げた。

---おうおう、ちょっとつきあってくんな。

ゴロツキに囲まれた女は
蛇ににらまれた蛙の如く、動けない。

---やめろう!

大声一閃、与吉はゴロツキどもに突進した。
大声に驚いたゴロツキども、
一瞬の隙をつかれて、腰がひけ、あっという間に散り散りに。

---おうおう、もう二度と顔出すんじゃねぇぞ!!

それはまぎれもなく親方・兵十の声だった。
ゴロツキどもが去った後には
十両の小判が。


与吉は
はじめてぬくもりを知った胸を
涙でかすかに濡らし
女の手をとった。

---お嬢さん、大丈夫ですかい。


その声は、大きく、しかし、やわらかく周囲を包んだのだった。

(完)

次回のNeXT IMPRO THEATREは
7月23日(木)19:30〜
@新宿プーク人形劇場にて!
あたらしいメンバーを迎えて、パワーアップしておくるNITをおたのしみに♪

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