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墓っ地・ざ・ろっく!

Post-Rock

deathcrash - Return

Artist deathcrash
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Album 『Return』
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Tracklist
01. Sundown
02. Unwind
03. Horses
04. American Metal
05. Matt's Song
06. Wrestle With Jimmy
07. Metro I
08. Slowday
09. Was Living
10. What To Do
11. Doomcrash
12. The Low Anthem

UKはロンドン出身のdeathcrashの1stアルバム『Return』が掘り出し物で凄い。いわゆる90年代のemo(イーモゥ)の影響下にある寂寥感むき出しのアルペジオ・リフと内省的という概念を超えた衰弱した小動物のように弱々しい倦怠感むき出しのボーカルが支配するウェットな雰囲気、一方でポストハードコアならではの感情的な側面、そしてポストロックならではのリリシズムを内包したセンチメンタルなスロウコアを展開しており、例えるならスコットランドのレジェンドMogwaiの名盤『Rock Action』あたりの作品に精通するハードコアmeetポストロックをスロウコアmeetエモ寄りに振り切ったようなイメージで、その90年代のオルタナ愛に溢れたサウンド・プロデュースは1stアルバムにして既に非凡な才能を開花させている。

モグワイ顔負けのポストロック~スロウコアラインのローテンポな気怠い雰囲気から、ギア転調を繰り返してエモ~ポストハードコアラインへとプログレスに場面を切り替えていく自己紹介がてらの#1“Sundown”を皮切りに、常にローテンションの陰キャが全力で腹から声出した結果みたいなUKバンドらしいエモいボーカルメロディをフィーチャーした#2“Unwind”、オルタナ志向の強い#3“Horses”、ゴリゴリのアメリカンメタルと見せかけてゴリゴリリカルなポストロックの#4“American Metal”、ローファイ宅録系アコギ男子みたいな#5“Matt's Song”、内側に溜まりに溜まった鬱屈した感情を外側に全て吐き出すかのようなハードコア然とした咆哮すらも存在感(影)の薄い#6“Wrestle With Jimmy”、Bennett Theissenなる人物のボイスを導入した#7“Metro I”も実にモグワイ的というか、あるいは後期のana_themaを彷彿とさせるし、これが本当のアメリカンメタルとばかりのポストメタル然としたヘヴィネスと静寂パートのコントラストに面舵いっぱい切った#9“Was Living”、2010年に自ら命を絶ったUSインディロック・バンドSparklehorseのマーク・リンカスの(自死の引き金となった“Gun”のワードを捉えた)肉声インタビューを収録した#10“What To Do”、彼の自死に対する孤独と哀しみに苛まれるセンチメンタルな序盤から一転、この終わりのない悪夢のような世界に絶望するドゥームメタル然としたヘヴィネスを叩き込む後半の流れは何とも示唆的で、それは同時に彼らの内に秘めた危うさをも浮き彫りにしている。

一見、陰キャのイギリス人男性ならではのヒョロガリ系オルタナサウンドとは裏腹に、それこそバンド名のdeathcrashや“American Metal”はもとより、#11の“Doomcrash”というタイトルが示す絶望感に苛まれた重厚感溢れるメタル然としたサウンドも陰キャを構成するアイデンティティの一つで、そのモグワイ的なノイズ/ハードコアネスおよびオルタナイズムの繊細かつ内向きな側面と、90年代に活躍し2020年に復活を遂げたUSオルタナのHum40 Watt Sunを連想させるドゥーム/ポストメタル的な破天荒かつ外向きな側面が表裏一体化した、そんな彼らなりの存在証明が記された傑作です。見方によってはHumの亜種として認識できなくもないし、同じく初期のドゥームメタルを経て新作でスロウコア化した40 Watt Sunと聴き比べたいタイムリーな逸品。間違いなく今年の年間BEST級。

40 Watt Sun - Perfect Light

Artist 40 Watt Sun
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Album 『Perfect Light』
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Tracklist
01. Reveal
02. Behind My Eyes
03. Until
04. Colours
05. The Spaces In Between
06. Raise Me Up
07. A Thousand Miles
08. Closure

90年代から00年代にかけて活躍したUKトラディショナル/ドゥーム・メタルバンド、Warningの中心人物であるパトリック・ウォーカーのソロプロジェクトとして始動した40 Watt Sun。彼らが2011年に発表した伝説のデビュー作『The Inside Room』といえば、古巣のWarningを基にした古典的なドゥームメタルの系譜にありながらも、USテキサスのTrue Widowを彷彿とさせるスロウコアやシューゲイザー的なノイズ要素、そして90年代に一斉を風靡したUKフューネラル/ドゥームメタル然とした内省的かつ叙情的な泣きのメロディをクロスさせた名盤で、その5年後には2ndアルバム『Wider Than The Sky』を発表すると、そこではドゥームメタルから足を洗い、俄然スロウコアの方向性に舵を切ったサウンドを展開していた。

パトリック以外のバンドメンバーが全員脱退し、名実ともに完全なるシンガーソングライターの立場から放たれる本作の3rdアルバム『Perfect Light』は、愛用のエレキギターを窓からぶん投げて、代わりにアコースティック・ギターを手にしたフォーク・ミュージックmeetスロウコアと称すべき作風となっており、音数を最小限に抑えたミニマルスティックな曲調と90年代にUKドゥーム御三家の一角として活躍した(Kscope時代の)ana_themaの影響下にある耽美的なポストロックが邂逅した、美しくも儚いメランコリックな天上の音楽を繰り広げている。まるで慈悲を乞うかのように、ただ繰り返されるだけの和音のアルペジオと優美なピアノが織りなす、聖水のごとし浄化作用を内包したアトモスフェリックなフォーク・ミュージックと、言わば“宅録系おっさんSSW”として震える声を絞り出すように歌い上げる、その中年くたびれ親父の背中から加齢臭と共に滲み出る情熱的なパッションとあゝ無情なエモーション、そんな中年オヤジの激シブな姿にただただ男泣きすること請け合い。

確かに、本作において鳴らしている音楽性にはドゥームメタルの片鱗も残されていないが、アイデンティティである初期のドゥームメタル時代に培った泣きメロの資質そのものは不変で、むしろ今回アコギを主軸とした事により一層その泣きメロにリソースを全振りしている印象。そもそも、伝説のデビュー作の時点でスロウコアをはじめとするミニマル・ミュージック寄りの気質を持ち合わせていた事を考えれば、今回のアコースティックなスタイルへの変化はごく自然で、あくまで流動的な変化でしかない。それこそ過去二作のアルバムジャケットが示すように、嵐の如く暗雲に覆われた荒涼感と死臭を醸し出すジャケの魑魅魍魎がクリーンに浄化されて徐々に光が差し込んでくる様は、まさに40 Watt Sunがこの10年の間に歩んできた音楽性の変遷を視覚的にメタしている。また、パトリックは今年のRoadburn FestivalにてロサンゼルスのSSWことEmma Ruth Rundleとのコラボを予定しており、メタルシーンのみならずオルタナ界隈からも高い支持を得ているのがわかる。

40 Watt Sunが1stアルバム→2ndアルバム→3rdアルバムで歩んできた音楽的変遷は、それこそドゥームメタル→オルタナ→ポストロックという風な音楽的変遷を辿ったana_themaを彷彿とさせ、中でもana_themaが過去作をアコースティック・アレンジで再構築した『Hindsight』のサウンド・スタイルが最もシックリくる。特にこの『Perfect Light』を象徴するかのような、ポストロック然としたアルペジオ・ギターと後期ana_themaに直結する耽美的なATMSフィールドがリリカルに、しかしドラマティックに広域展開する#2“Behind My Eyes”、ミニマリストを極め過ぎたギタリストが奏でる和音のアルペジオとアンビエント・ポップ的なピアノが至極シンプルに美しい#5“The Spaces In Between”、中期Anathema的なオルタナ味を感じる#7“A Thousand Miles”は本作のハイライトと言える。個人的に、この手の癒やし系アコギ作品と言えば、知る人ぞ知る伝説のフォークバンドことTrespassers Williamを要所々々でフラッシュバックさせる本作の凄みったらない。

The World Is A Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Die - Illusory Walls

Artist The World Is A Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Die
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Album 『Illusory Walls』
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Tracklist
1. Afraid To Die
4. Blank // Drone
5. We Saw Birds Through The Hole In The Ceiling
6. Died In The Prison Of The Holy Office
7. Your Brain Is A Rubbermaid
8. Blank // Worker
9. Trouble
10. Infinite Josh
11. Fewer Afraid

フィラデルフィアはペンシルバニアを拠点に活動する、コネチカットはウィリマンティック出身の5人組ことThe World Is A Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Dieは、それこそ90年代のエモシーンを象徴するMidwest emoを産み出した中西部生まれだけあって、そして西海岸サンフランシスコを代表するDeafheavenとレーベルメイトのエピタフ系ならではの伝統的なemo(イーモウ)/ポスト・ハードコアの精神性および「死」にまつわるリリックを軸に、ポストロックならではのリリカルでミニマルな叙情性とプログレ/オルタナならではのアトモスフェリックでドラマティックな楽曲構成、そしてボーカルのデヴィッドと紅一点ケイティからなるツインボーカルの絶妙な距離感が保たれた奇跡的なバンドで、そんな彼らの約4年ぶりとなる4thアルバム『Illusory Walls』は、これまで地域性に根付いた情緒豊かな音楽性を貫いてきた彼らが、ここにきてemo(イーモウ)というイチジャンルを超越したスケールのデカいバンドとして覚醒している。


それこそ幕開けを飾る世界は美しい、もう死ぬのは怖くないというバンド名を冠する#1“Afraid To Die”からして、中西部ネイティブらしいアルペジオ・ギターのメロディがAlcestの1stアルバムに通ずる映画『エコール』ばりに幻夢的なおとぎ話のロリータ世界に誘うと、一瞬暗転してダイナミックなバンドサウンドが合流して近年のBTBAM顔負けのプログレっぷりを垣間見せる。紅一点ケイティのケロケロボニトばりにバブルガムみのあるポップな歌声をフィーチャーした#2、Rolo Tomassiのエヴァみのあるケイティのボーカルとサイケ/アトモスフェリックなシンセを効かせたヘヴィ・プログレ志向の高い#3、バンドの持ち味の一つである優美なストリングスをフィーチャーしたインディ指数の高い#4、その流れを引き継いでストリングスを駆使したアトモスフェリックな静謐的空間を形成する前半から、SWソロみのあるヘヴィ・プログレ然としたギターリフを駆使しながら後半にかけて徐々に強度を上げていく、確実にdredgの正統後継者を襲名しにきてる#5、夜空に煌めくシンセとギターが織りなすポストロック然としたスペーシーな叙情性が織りなす冒頭から一転して、メロコア風に疾走したりヘヴィなギターを駆使したりと転調を効かせながらダイナミックに展開していく、もはや確実にBTBAMの正統後継者を襲名しにきてる#6、その喜劇的な流れを引き継いで壮麗なオーケストレーションとヘヴィなギターとケイティのフィメールボイスをフィーチャーした#7、フィラデルフィアを代表するThe War on Drugsリスペクトなインディロックの#8、本作で最もポスト・ハードコア気質の高い#9、そして本作のハイライトを飾る約16分におよぶ#10“Infinite Josh”と約20分におよぶ#11“Fewer Afraid”という二大超大作まで、バンド史上最長となるアルバムトータル70分超えに耐えうる作品としての強度のみならず、一曲の長さとしても最長を立て続けに更新するこの二つのポストロック大作は、まさに本作を司るコンセプチュアルなロリータ物語の解像度を著しく高める真珠の名曲と言える。物語が結末を迎える#11では、バンド名のThe World Is A Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Dieがメインコーラスの歌詞としてガッツリ引用している点も、冒頭の“Afraid To Die”で起こったこの物語の起承転結を暗示している。

なんだろう、アルバムと楽曲の尺までフルアーマープログレ仕様となった本作を例えるなら、メタル界で言うところのBTBAMがマクロな存在だとすると、このThe WIABP&IANLATDはemo(イーモウ)界におけるミクロなBTBAM的な存在というか。端的に言ってしまえば、完全にコッチ側の領域に足を踏み入れてきた作品であることは確か。それはメタル耳にも確実に刺さるギターの音作りやトリッキーなリフメイクを耳にすれば一瞬でセンスの塊と理解できるくらいに。リアルな話、『普通の堕落した人間の愛』あたりのDFHVNに影響を与えた張本人なんじゃねぇかって、そして昨今のトレンドとは真逆をゆく一時間超えの音源を久々に途中で飽きずに最後まで聴いた気がするほど、本作はとにかく楽曲の強度が尋常じゃなく高い。もはやBTBAMと一緒にツアー回っても全然おかしくないレベルだし、とにかく一昔前の洋楽ロックのステレオタイプみたいな雰囲気、あるいは初めて洋楽聴いた時の懐かしさだったりノスタルジーを誘うメランコリックなメロディが最高のバンドだから聴いて。とりあえずというかなんでもBTBAMが好きなら絶対に聴いて。

Parannoul - To See the Next Part of the Dream

Artist Parannoul
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Album 『To See the Next Part of the Dream』
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Tracklist
01. Beautiful World
02. Excuse
03. Analog Sentimentalism
04. White Ceiling
05. To See the Next Part of the Dream
06. Age of Fluctuation
07. Youth Rebellion
08. Extra Story
09. Chicken
10. I Can Feel My Heart Touching You

蒼井優「何聴いてんの?

市原隼人「リリイ・シュシュ

2021年、上半期のBandcamp界隈でバズった代表的な作品の一つが、Parannoulなる韓国出身の「彼」が発表した2ndアルバム『To See the Next Part of the Dream』だ。この作品の何が凄いって、まず一曲目の“Beautiful World”からして岩井俊二監督の伝説的青春映画『リリイ・シュシュのすべて』の劇中、電車内での主人公(市原隼人)とヒロイン(蒼井優)の会話のサンプリングで幕を開けると、まるで多感な思春期を迎えたティーンエイジャーの心の内に潜むトラウマや黒歴史の傷跡を爪を立ててガリガリとなぞるようなシューゲイザー然とした轟音ノイズ、耽美的なピアノとペシミスト然とした倦怠感むき出しのボーカル、そしてNothing顔負けの古谷実漫画の主人公ばりにヒ(ミ)ズんだギターのリフレインを垂れ流し始めた瞬間に、その手の好きものは慟哭しながらガッツポーズ不可避の案件が確定する。

曰く、本作には「彼」自身の思春期に影響を与えた映画『リリイ・シュシュのすべて』をはじめ、滝本竜彦の小説/アニメ『NHKにようこそ!』、浅野いにおの漫画『おやすみプンプン』『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズなどの日本のサブカルチャーを代表する作品からの引用の他→

    「妄想」  「劣等感」      「過去」   「不適応」 
  
           「逃避」        「妄想と幻滅」       「闘争」

    「最も平凡な存在」         「無気力」        「自殺」

・・・など、「彼」がこの三年間に感じたこれらの負の感情が込められている。

それはまるでリアル碇シンジ君、あるいは古谷実漫画に登場する主人公みたいな、内向的なマイナス思考や否定的な負の感情、ありとあらゆる身体的なコンプレックスにより醜く歪みきった人生を送る中二病の負け犬が紛れのない素直な気持ちをぶつけて完成した音楽が「彼」=Parannoulの音楽である。「彼」の言葉を要約すると、本作は巨大財閥に入社できなければチキン屋になるしかないケセッキ(犬野郎)同然の負け犬に対する応援歌でもなく、ましてや慰めの言葉でもないと。しかし、現代は「彼」と同じような人生の負け組でもインターネットという文明の利器によって生み出した音楽を通して外界に何かしらのメセージを発信することはできると。これまで否定的な感情で生きてきた「彼」は、唯一それについてだけは肯定的な考えを持っている。それが、それこそが「負け犬」ができる唯一の存在証明だと言わんばかりに。

上記の「彼」の思春期に影響を与えた作品の内容を知っている人はわかると思うけど、まず誰しもが知る負け犬界を代表するエヴァの碇シンジの迷言である逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目​だをはじめ、大学を中退した引きこもりの主人公を描いた『NHKにようこそ!』、「絵が可愛い古谷実漫画」こと浅野いにおの『おやすみプンプン』、これらほぼ全ての作品に共通しているのは主人公が思春期真っ只中のマイナス思考のペシミストで、そして全ての作品の検索結果のサジェスト上位に「鬱」が表示される、そんな世界中の人々のトラウマ作りに貢献した作品から強く影響された思春期を過ごした「彼」に「僕」をはじめシンパシーを感じる人多数。例えば、イジメられた暗い青春を過ごした人、誰もが羨む淡い青春を過ごした人、あるいは孤独の性春を過ごした人など、十人いれば十人十色の青春時代の思い出を持つ少年少女の心にトゲトゲの針がぶっ刺さること請け合い。それこそ、リアルに野球に飽きて大学中退した負け犬の「僕」のために用意された青春音楽だった。そして、何かにつけて「俺は悪くない!政治が悪い!」とネットで憂さ晴らししている負け犬人生のサウンド・トラックでもあると。

それらの「鬱アニメ」や「鬱映画」や「鬱漫画」の引用元を起因とする、内省的な感情を超越した先の暗黒面へと堕落した精神性はズシンと心に訴えかけるものがあるが、実は音楽的な部分にこそ「彼」の底しれぬ才能が詰まっていると言っても過言ではない。まず「彼」が生み出すサウンドの特徴の一つであるローファイな音作りは、それこそ古谷実漫画の代表作である『ヒミズ』や『ヒメアノ~ル』に登場する“何か”が“ぶっ壊れ”ちゃった人間の苦しみと痛みに傷ついた”心音”を表現し、その普通の人が聴いたら不快に感じそうなローファイな音の劣悪さはもとより、思春期から青春期へと移り変わる時期の少年少女の不安定な精神状態を描き出すシューゲイザー然としたノイズとアンダーグランド臭を内包した倦怠感丸出しのボーカルは、デビュー当時のAlcest=ネージュ氏を彷彿とさせた。また、日本のサブカルチャーのみならず、音楽的な面ではナンバーガールをはじめ、神聖かまってちゃんミドリをフェイバリットに挙げているのも「彼」の音楽に対する信頼の証としては十分過ぎる嗜好の持ち主と言える。

それこそ、日本のサブカルチャーの影響下にあるシューゲイザーといえばフランスのAlcestも代表的なバンドで、そのネージュ氏率いるAlcestが二次元のファンタジー(理想)を歌っているシューゲイズに対して、Parannoulの「彼」は三次元のリアリティ(現実)という名の鋭いナイフを喉元に突きつけてくるようなシューゲイズで、しかし本作を象徴する#1“Beautiful World”のゴス/ダークなポスト・パンク感は、Alcestというよりは盟友のLes Discretsをイメージさせなくもない。また、「彼」は“Beautiful World”の中盤から垣間見せるような“ハードコア”な精神性(闘争心)を兼ね備えたアーティストであり、ローファイなぶっ壊れメンタルを維持しつつ#2“Excuse”では90年代のポスト・ハードコアやマスロック気質に溢れたポスト・ヘヴィネスを繰り広げ、この手の初期Alcestに通じるシューゲイザーとオルタナティブなポスト・ヘヴィネスを奏でる韓国のアンダーグランド・ロックと聞いて思い出されるのは、他ならぬジャバンノリもとい韓国のインディーズ・シーンを代表するJAMBINAIであり、彼らも2019年に発表した最新作『ONDA』の中で、AlcestTOOLなどのオルタナ/ヘヴィ・ミュージックの血が通ったポスト・ゲイズを展開していた。

そんな「彼」の反骨心むき出しのハードコア精神を象徴するのが#4“White Ceiling”で、この曲では日本のシューゲイザー界を代表するFor Tracy Hydeとも共振する、未来という希望と光に満ち溢れた輝かしい青春を儚くも美しく照らし出すような、いわゆる「エモ」ではない90年代の伝統的なemo(イーモゥ)リスペクトなギターのリフレインとキーボードの甘味なメロディでミニマルスティックに展開する10分ジャストの曲で、中盤以降は徐々にギアチェンさせクライマックスではアニメ『NHKにようこそ!』の引きこもり主人公のあんたらにわかるわけねーよ!あ゛ァ゛ァ゛ァー!!あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ー!!あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ー!!という悲鳴や叫び声のサンプリングを起用し、まるでNHK(日本ひきこもり協会)からの攻撃を碇シンジばりのA.T.フィールドを展開して阻止するかのような、要するに主人公のサンプリングを一種の激情ハードコアの咆哮として応用するというあまりに斬新で天才的な発想を持った、「僕ら」=負け犬の心と脳みそをグワングワンと揺さぶってくる神曲で、そのジェットコースター級の感情の揺れ動きは最終的に「NHKをぶっ壊す!」の感情へと変わるw

「彼」の音楽的バックグランドはシューゲイザーやハードコアだけにとどまらず、再び映画『リリイ・シュシュのすべて』の劇中会話のサンプリングとともにフェードインしてくる表題曲の#5“To See the Next Part of the Dream”は、それこそ2010年代のAnathema(中でも『We're Here Because We're Here』)や日本のマスロックレジェンド=toeの影響下にあるポストロック然とした寂寥感溢れるリフレインのミニマルな「繰り返しの美学」から解き放たれる「エモ」ではなく本物のemo(イーモゥ)に咽び泣く。

かと思えば、最近ではemo(イーモゥ)とBlackgazeをクロスオーバーさせたブラジルのインディーズシーンで活躍するsonhos tomam contaが面白い存在として注目される中、それこそAlcestDeafheavenに象徴される往年のBlackgaze然とした、本作の中で最もヘヴィでメタリックな暗黒ノイズがフェードインしてくる#6“Age of Fluctuation”、このアルセ=デッへラインのブラゲ感マシマシの流れ以降は当然のようにデッへ化するのが恒例で、イーモゥ然とした#7“Youth Rebellion”と短尺の#8“Extra Story”を挟んで、その“デッへ化”を象徴するチキン屋マンセーな#9“Chicken”と#10“I Can Feel My Heart Touching You”では、Nothingとも共振する90年代のグランジやポスト・ハードコア風のリフは元より、それこそDeafheavenの4thアルバム『普通の堕落した人間の愛』並の90年代イーモゥ愛を垣間見せる、アキバ系ギタリストのケリー・マッコイと共鳴するリヴァーブかがった官能的なリフレインが、西海岸に位置するデスバレーの灼熱のアスファルトが放つ匂いを運んでくるかのよう。なんだろう、このように彼の音楽的ルーツは90年代ロックのみならず10年代以降の現代的な音楽にも深く精通している事がわかる。

個人的に最も驚きだったというか面白い共通点を語るとすれば、表題曲はもとより、#4や#6に象徴されるように、使徒(日本ひきこもり協会)のATフィールドという名の心の壁という名の次元を超えていくような、序盤からミニマルに溜めて溜めて溜めまくった鬱屈したひきこもりエネルギーを外界へとぶっ放さんとする、それこそ後期Anathemaと共鳴する超絶エピック精神と楽曲構成がとてつもないドラマ性を生み出している点で、まさか後期Anathemaの超絶激情メンタルが韓国のインディーズシーンに繋がってくるのは面白い話で(確かに、『Distant Satellites』のアートワークは韓国人のメディアクリエイターによるものだがw)、そういった意味でも「彼」の音楽はただもんじゃない説得力に溢れている。

「彼」曰く、驚くべきことに本作に収録されている全ての楽器はDTMのDAW(Virtual Studio Technologyプラグイン)によるもので、このような楽曲制作の工程の大半をPC内で済ませるイマドキの楽曲制作って、それこそ最近の日本だとYOASOBIAyaseが有名だけど、日本のみならず韓国の音楽シーンにもその流れが押し寄せているんだなって。しかし、これが「彼」の言うようにヒキコモリという名のアクティヴな負け犬でもできる音楽制作の例の一つとして、何かとヒキコモリが推奨される昨今のご時世も相まって、つまり河北彩花の復活作でシコって寝るだけの生活を繰り返している、パソコン/スマホの前の「君」と「僕」に対する「彼」からの「独りDTMゲイズのススメ」的メッセージだ。

今年の2月23日にリリースされた本作品、その後に奇しくも『NHKにようこそ!』の著者である滝本氏が20年ぶりの続編となる『新・NHKにようこそ!』の制作を発表、そして『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの完結となる『シン・エヴァンゲリオン』が劇場公開されたりと、本作は何かとタイムリーな作品であることは確か。しかし、そんな事よりも寝ても覚めても頭ん中でSEXのことしか考えてない古谷実漫画の主人公ばりの「僕」みたいな負け犬のために、そろそろ古谷実は新作漫画を描くべき案件でしょ。ってぐらい、実は「彼」が影響を公言しているどの作品よりも、「彼」の音楽は古谷実漫画のサントラとしてシックリき過ぎている。リアルな話、「古谷実×音楽」は結構面白くなると思うw

Devil Sold His Soul 『Loss』

Artist Devil Sold His Soul
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Album 『Loss』
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Tracklist
01. Ardour
02. Witness Marks
04. Tateishi
07. Signal Fire
08. Acrinomy
09. But Not Forgotten
10. Loss

BMTHBullet for My Valentine、そしてLostprophetsなどのエモ〜メタルコア系のUKバンドが新世代メタルの代名詞として祭り上げられていた、それら00年代を象徴する懐かしい3組のUKメインストリームロックの影に隠れて、一部のアンダーグランドシーンでポストハードコア界のレジェンドとして崇められ続けてきたバンドがロンドン出身のDevil Sold His Soulで、てっきり自分の中では既に解散したものだと思っていた伝説のバンドが奇跡の復活を遂げた。

初期のBMTHBFMV、そしてロリペドもといロスプロなどの主要なUKバンドの作品を抱えているイギリスのレーベルVisible NoiseからデビューEPを発表し、その後もかのHoly Roar RecordsやCentury Mediaから作品を発表してきた彼らが、2012年作の3rdアルバム『Empire Of Light』から約9年の時を経てドロップした復活作となる4thアルバム『Loss』は、まさかのメタル総本山であるNuclear Blastからリリースとのことで、その内容もNuclear Blastのイメージとは真逆のギャップ萌えに溢れた、長いブランクを微塵も感じさせないDSHSらしいハードコアを繰り広げている。

今や絶滅危惧種となった感のあるコテコテのエモエモのハイトーンボイスをはじめ、現在のBMTHBFMVが失くした“当時のコアさ”を現代に引き継いでいるのがこのDevil Sold His Soulという皮肉はさて置き、いわゆるポストロックやポストハードコアラインの王道を突き進んでいた過去作から一転して、流石にあのNuclear Blastが拾うだけあって本作の『Loss』は、00年代に流行った伝統的なUKエモ/ハードコアの“らしさ”と、(そのポストメタル然としたアートワークからもわかるように)IsisCult Of Lunaに代表されるポストメタルやアトモスラッジなどのメタリックな現代ヘヴィネスとも共振するアグレッシヴなメタルパートをふんだんに盛り込んでおり、いわゆるエモ系キッズが今にもシコりだしそうなナヨナヨした感じよりも、あくまで硬派なポストメタル然としたヘヴィネスを軸に、言ってしまえばゴリゴリのメタルとして聴けちゃう一枚となっている。

過去作との大きな違いを示す本作における“ヘヴィネス”、例えば#2“Witness Marks”や#3“Burdened”や#9“But Not Forgotten”のようなポストメタルの王道的なリフ/ヘヴィネスを耳にして何を思い出したかって、それこそ“10年周期で全く新しいヘヴィネスを更新し続ける系ヘヴィロックバンド”でお馴染みのDeftonesに他ならなくて、彼らは00年代のポストメタルとDevil Sold His Soulも影響を与えたPeripheryに代表されるDjentという10年代を象徴するヘヴィネス、その00年代と10年代のDecadeを象徴する2つのヘヴィネスを経由していながらも、しかし厳密に言えばどちらとも相反する“20年代のヘヴィネス”を更新してみせたのが2020年に発表したアルバム『Ohms』だった。

何を隠そう、今作の『Loss』における過度にモダンに寄せ過ぎない程よいモダンさを帯びたヘヴィネスは、なんだろう空白の9年の間に降り注いた雨のお陰で地固まるじゃないけど(UKバンドだけに)、それこそLoatheに代表されるUK新世代を真っ向から叩き潰す勢いの中ボスっぽい重厚なヘヴィネスは、まさしくDeftones『Ohms』の中でヘヴィ・ミュージック・シーンに示した“20年代のヘヴィネス”に肉薄するソレで、それは同時に本作が「そのレベルの領域にある作品」である事を意味している。つまり、彼らはBMTHBFMVロスプロなどの00年代のUKロックを象徴する“過去”の懐メロハードコアと同じことをやって当時のファンをノスタルジーに浸らせるためにわざわざ復活したわけではなく、むしろDeftones『Ohms』Hum『Inlet』に象徴される“20年代のヘヴィネス”の流れを着実に汲んだ、ノルタルジックな懐メロとは真逆の最先端のヘヴィ・ミュージックであるということ。

しかし、まさかこのDSHSが復活作でそんな事をやってくるなんて想像もしてなかったというか、でもそこに彼らが一部でレジェンドと称される所以が集約されてるんじゃないかって。かつてはレーベルメイトだった一角のBMTHが今やネット炎上芸人と化し、もう一角のBFMVが謎の筋肉お化けと化し、そして最後の一角となるロスプロが刑務所にブチ込まれている最中、唯一アンダーグラウンドの道を歩み続けてきたDSHSが最先端の現代ヘヴィネスと直結する展開は流石にエモ過ぎるでしょ・・・。しっかし、つい最近でもDVNEPUPIL SLICERなどの次世代を担うUKバンドの登場、その新世代と00年代のアングラシーンで活躍したレジェンドが復活して互いに高め合ってる感からも、今マジでUKがアツい・・・!

またしても俺たちのニュークリア・ブラストが最高の仕事をやってのけた」←正直この一言に尽きる。バンドのフロントマンであるエド・ギブスのエモエモしたハイトーンのボイスを、2013年に加入したポール・グリーンのプチエモいイケボで中和しているお陰でエモ特有のナヨナヨ感が大幅に低減、またポストハードコアの常套手段であるシンガロングパートも皆無となっているのもプラスに働いている。そのように、ニュークリア・ブラストに所属する他のメタルバンドのファン層にも理解が得られるような、ガチメタラーにも耳馴染みのいい要素の取捨選択が上手くいった結果の傑作だと思う。別に思い出のバンドの復活作だから贔屓しているのではなくて、シンプルに現代的なポストメタルとしてのトレンドを抑えた、音作り的な意味でもソングライティング的な意味でも過去最高を更新してきた問答無用の傑作です。改めて、これが“復活請負人”ことニュークリア・ブラストの真髄か・・・ありがとうニュークリアブラスト!フォーエバーニュークリアブラスト!
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