2012年10月09日

 10月9日付けの朝日新聞「声」欄に「被曝の被害を過小評価するな」と題した私の投書が掲載された。実はこの投書が掲載されるにあたっては、以下のような経緯があった。

 去る9月13日付け朝日新聞の16面「ドクタービジット」欄に「放射線 正しい知識が味方」という記事が掲載された。福島第一原発の事故で避難を余儀なくされている福島県飯舘村立飯舘中学校の生徒を対象に行われた、東大准教授中川恵一氏の講演の内容を伝えたものである。「飯舘中学校生徒の不安を取り除く」という目的で行われたものなので、全てを否定する訳ではないが、一般の人が読むと間違った認識を生む内容が多く含まれていると感じた。そこで問題点を指摘する投書を朝日新聞「声」欄に送ったのである。しばらく音沙汰がなかったのでボツになったと思っていたら、先日編集部より「掲載したいが字数制限が500字なので、当方でこのように短縮した」と連絡があり、文案をメールで送ってきた。元の文章は1300字近くの長文だったのだが、半分以下に短縮され内容がかなり薄められてしまったので、以下に元の私の文章を公開しておく。
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 9月13日付けの16面「ドクタービジット」欄で「放射線 正しい知識が味方」と題した中川恵一氏(東大准教授)の講演が掲載されたが、一人の理科教師として内容に何点か疑問を感じたので投稿させていただいた。

 この講演は、福島第一原発事故で避難を余儀なくされている飯舘村立飯舘中学校の生徒を対象に、「生徒の不安を払拭する」という特別の目的のために行われた講演なので、当該生徒達にとってはある意味で役に立つものであったのかもしれないが、これを読む一般の読者にとっては誤解を生む危険をはらんでいるように思う。

 まず第1に事故による放射線被曝を自然放射線や医療用放射線と比較していることだ。自然放射線は確かに避けることはできないが、自然放射線でも人工放射線でも体に及ぼす影響は同じで、事故による被曝は自然被曝の上に加算されて起こるものだ。また医療行為の放射線はリスクよりベネフィットが大きいことを前提にして成り立つもので、リスクしか伴わない事故による被曝と本来比較してはならないものだ。また外部被曝のみを対象として、測定の難しい内部被曝を無視しているのも問題である。

 第2に100mSv以下の放射線について健康に影響がないと言い切っていることだ。低線量被曝については諸説があって理論が確立していないが、主な考え方は二つある。ある線量以下では安全であるとする(しきい値が存在する)という考え方と、被曝線量と障害の発生する確率は最後まで比例する(しきい値は存在しない)という考え方である。今の段階ではデータが少なく、どちらが正しいか結論が出ていない。しかし放射線防護の観点からは「わかるまではより安全な立場で」という態度で臨むべきで、ICRP(国際放射線防護委員会)の立場もこの立場である。つまり「しきい値は存在しない=放射線にはできるだけ当たらないほうがよい」という見方が科学的見方といえるだろう。

 第3にチェルノブイリ原発事故の過小評価である。チェルノブイリ原発事故で増えたのは子供の甲状腺ガンだけだと言い切っているが、実際は事故直後の死者は31人だったが、現在までの種々のガンによる死者はWHOの推定で9000人を超え、今後の死者総数は数万人とも予想されている。また子供の甲状腺ガンもチェルノブイリでは5年目あたりから増え始めているので、ヨウ素剤も飲ませていない日本がまだ1年半しかたっていない現在、「日本人は海草を食べているから大丈夫」などと高を括っていていいのだろうか。

 第4に他の発ガン要因と放射線を同列に比較していることだ。確かにたばこによる発ガン率よりは低いかもしれないが、「ベネフィトがあると信じ、ガンを覚悟で吸っている」たばことリスクしかない原発事故の放射線とを同列に論じることはできない。

 このように見てくると、「飯舘の子どもたちを安心させる」という目的があったとはいえ、一般の読者に誤解を与える内容を多く含んでいる気がする。違う立場の科学者の意見もきちんと載せていただきたい。


H.NODAnhome at 21:50│コメント(0)トラックバック(0)ニュース・社会 │

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