January 27, 2008

"Because they are stupid."

フランスの大手銀行、ソシエテ・ジェネラルで、一トレーダの不正取引によって49億ユーロ(≒7,600億円)の損失があったそうである。

以下、同行の日本のサイトに掲載された、不正取引に関するプレスリリースからの抜粋である。
不正取引およびポジション隠蔽に伴う損失
ソシエテ ジェネラル グループ(以下「当グループ」)は、異例な規模および性質の不正取引を発見した。欧州株式市場の指数を対象とする比較的単純な先物を担当するトレーダー1名が、2007年および2008年に自己の権限を逸脱して大規模な不正な偏ったポジションをとっていた。当該トレーダーは、ミドル・オフィスでの業務経験から管理体制を熟知していたため、架空取引を巧妙に捏造してポジションを隠すことができた。
<中略>
当該トレーダーのポジションについて調査が実施され、また、彼の所属部門のポジションすべてについて徹底的な分析を行なった結果、当該不正取引は単発的かつ異例な性質のものであることが確認された。不正取引を認めた当該従業員は停職処分とされ、解雇手続きが進められている。当該従業員の監督責任を有する上司も当グループを退社することになる。
一従業員の不正取引によって損失を出した事例には、1995年に発覚した旧大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件での960億円や、同じく1995年の旧ベアリングス銀行巨額損失事件の約1,380億円という事件があったが、それらを遥かに超える損失だ。

しかし、損失を発生させることを可能にした背景は全く一緒だといえそうである。
今回の事件でトレーダはミドルオフィスの経験があったために、損失を隠すことが可能だったという。旧大和銀行事件の井口俊英も、旧ベアリングス事件のニック・リーソンも、自らの権限を大きく逸脱して取引を行った。そして井口もリーソンもバックもしくはミドルオフィスの経験を活かして、損失を隠し続けた。

それを可能にしたのは、管理体制の甘さである、と当人達は語っている。井口はその著書『告白』のなかで、本店の監査、大蔵の監査、NY連銀の監査と度重なる監査のたびに「見つかるのではないか」と恐怖を抱いたそうだが、監査担当者は事務処理が適切になされているかを監査するだけで、取引が適切に行われているかということは監査されなかったという。
リーソンはBBCのインタビューに対し、何度もあった監査では何も見つからなかったと語り、その理由を"Because they are stupid."と語り、管理側が管理する能力がなかったと断言していた。

大和の事件では、ディールを行う担当者が決済まで全て行っていることが、不正取引を可能にした。ベアリングスの事件では隠し口座にあからさまに損失を隠していたにも拘らず発見できないことが可能にした。いずれの事件も、管理体制が不十分であったことがその原因であったのだ。

報道によると今回のソシエテ・ジェネラルのケースでは、不正を働いたトレーダは同僚のパスワードなどを使って決済システムに入り、損失を隠したという。大和の事件と違い、ミドルやバックとディーラは分離されていたものの、パスワードの不正入手でその意味が全くなくなったわけである。本来は、決済システムには特定の端末からしか入れないようにするとか、IDカードによる認証を行うなどの対策を行うべきであったのだ。
組織そのものは不正を働かないように設計されていたものの、実質的には何の意味もなかったわけである。その点では、管理体制や組織分離の意味の実効性が不十分であり、大和やベアリングスの事件の背景とは何ら変わりがないといえる。

せっかくディーラになって高給を取っているのに、些細なミスでその職を失うかもしれない― 何をしてでも、何とかミスを取り戻したい、と思うのは人間として普通のことである。不正ができる環境であれば、不正が起きることはやむを得ない。従業員を信頼している、とかそういう問題ではなく、このような事件は人間が取引を行う限りおいては、起きるのである。

組織や規則がいかに不正を防ぐことを意図して作られていても、実効性が伴わなければ何の意味もないのだ。ソシエテ・ジェネラルは「当該不正取引は単発的かつ異例な性質のもの」と断言しているが、実行が可能だったということは、想定可能であり、反復する可能性もあったのだ。想像力をフルに働かせて、どんな不正が起きるのかを考え抜き、それをスパイクするような対策が必要なのだ。徹底的に厳しい不正防止システムができない限り、同じことは必ずまた起きる。

nicholas_k at 23:28│Comments(0)TrackBack(0)clip!ニュース 

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