蒼野さんから5話が届きました。



交差する幻想 Refrain 5話

霊夢たちが神社の外で激しい戦闘を繰り広げる中、俺は気を弛ませながら咲夜たちとのお茶を楽しんでいた。
とは言ってもお空と俺がお茶を飲んでいるだけで、萃香はお酒の入った瓢箪を傾け、咲夜はメイドだからと飲まないようだ。
しかし、中々に美味いお茶だ。こんなお茶は今まで飲んだ事が無い、同じお茶の葉を使ったとしても作れるかどうか疑問なくらいである。

「……美味い」

そして、隠す訳でもなく俺はそう洩らした。
口元が自然と弛むのを少しばかり感じる。
――多分、これが安心していると言う事なのかもしれない。
気を張り詰めたままにするのではなく、襲撃や喧嘩を売られるなんて事が無いと思えるからだ。
とは言え、油断は出来ないが。
しかし、そんな事を考えてるとは知らずに咲夜が小さく頭を下げて「有難う御座います」とだけ返した。
それに俺は何度か頷く。

「あぁ、美味い。多分メイドと言う本質を忠実に捉えている様な――
 そんな気がする」
「言っておきますけど、外の世界に存在する様な見かけだけで媚を売る様なメイドでは有りません。
 悪しからず」
「誰も咲夜がそうだとは言ってないだろ。けどそうだな、そんなのも存在したな」

冥土――いや、メイド喫茶か。
仲間に誘われて行った事があるが、金ばかり浪費して面白くとも何とも無かった。
ただそいつは滅茶苦茶楽しそうにし、ビンタされ、怒りながらも楽しんでいた。
――本来の楽しみはそんなものなのだろうか、俺には分からないが。

「――紅魔館に行ったとして、その後はどうしたものかな。
 何か良いアイディアでもないか?」
「――自分で決めないのですか?
 少なくとも、強制されては居ないでしょう。
 お嬢様がもしどうしてもと言うのであれば、私も貴方様を攫う事を止むを得ませんが」
「止むを得ろ、そこは。
まあ主従関係だから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないがな。
考えても見ろ、俺は三日前この世界に叩き落された得体の知れない人間だぞ。
しかも記憶が不明瞭、何があってここに来たのかすら覚えちゃいない。
霊夢が出て行けといわれたら俺は出て行かなくちゃならない、それはレミリアでもさとりでも一緒だ」
「あっはは~、あんたみたいな人間が地底でやっていけるわけ無いよ。
鬼だって居るし、熱いぞ~?」

そしてお空が楽しそうに言うが、それは脅しと言う奴じゃなかろうか。
けれども本人は床に寝転がりながら湯飲みを両手で傾け、足をパタパタと動かして能天気だ。
羨ましい限りである。
そして咲夜もまた小さく頷いた。

「まあ、それは仕方の無い事です。
 お嬢様が出て行けといったら、幾ら客として招かれた貴方でも出て行かなければならないでしょう。
 至極当然、当たり前の事です。それはこの神社でも同じ事ですが」
「なら、俺の居場所は無いだろうが。
 結局、お為ごかしや胡麻すりで延命しろって言うのか?
 冗談じゃない、俺は誰の下にも付かん。
 気まぐれで左右される様な運命なんてゴメン被る」

咲夜の言葉をバッサリと切り捨て、そして湯飲みを返した。
それを受け取った咲夜は、黙っておかわりを注いで俺へと返してくれた。
――やはり良い奴かもしれない、こいつは。
しかし、良い奴だと言ってもやはり得体の知れないのはどっちもどっちだ。
俺にとってこの世界は全てが得体の知れないモノで固められており、彼女たちからしてみれば俺個人が得体の知れない人物だと言う事になるのだから。
博麗? 聞いた事も無い神社だ。
鬼? そんなものは御伽噺で実在しない。
木だって、空だって、太陽だって――
全ては過去に埋もれた自然の産物だ。
そんな幻想は、認めない。

「とりあえず外界に送り返してもらうのも選択の内じゃないかと。
 過去にも何人か外来から来ている人物が居ます。
 その中で外界へとこの神社の巫女によって送り返してもらう事も出来ますので」
「それは無理――」

また言いかけて口を止める。だから何故俺はそんな事がいえるんだ?
冷静になれば答えが自ずと見えてくる。
人生上手く行く事なんて有り得ない、ユメもキボーも有りはしない。
だから不幸な出来事が必ず待っている、もうドン詰まりに居るような気がしてならないからだ。
それか、勘だ。
どうせ送り返してもらうなんて事が出来ないと感じ取っているのだろう。
肌が、直感が、経験が。
けれども頭を振って言葉を打ち消した。

「――何にせよ、回復するのが先決だ。
 それで行くとお前らの存在が俺の回復を阻害している事に他ならない。
 帰ってくれないのか」
「言ったでしょう。私はお嬢様の従者です、と。
 主人が行きたいといえば私は従うまで、だから私はここに居なければならない」
「私もさとり様に連れられて来た訳だし、勝手には帰れないよ。
 ――なんで来たんだっけ?」
「……そこの少年を貴方の主人が欲したからでしょう」
「あぁ、そうだったような――うん、そうだそうだ」

空はどうやら忘れっぽいらしい、フードのようなものに隠れた二つの漆黒の翼が何となくだが一つの言葉を思い出させる。
――鳥頭。
妖怪と言うのが本当に存在することが前提で考えるならば、この空は鳥関連の妖怪だと言う事になる。
だから鳥頭と言う事も引き継いでいるのかもしれない、レミリアが吸血鬼で太陽の下がダメだとか言ってたからな。
――って、夕方である事と木々が多いことで何とか大丈夫なのか。
今更だが咲夜もレミリアも迂闊すぎる。
それとも、ハンデなのかも知れないが。
しかし結界の外を見れば結構互角に三つ巴を作っている。
霊夢対さとり対レミリア。
挟撃を受けないように、そして結託されないように上手く位置を移動しながら攻撃をし合っている。どうにもこの戦いを弾幕ごっこと言うらしい、つまりは命を奪わないお遊びの決闘のようなものだ。これによって人間でも、強大な妖怪が力をセーブする事で対等に渡り合う事が出来るように考えてあるらしい。
つまりはゲームか。
だが見ている限りでは、結構威力の高い攻撃を仕掛けているような気がしてならない。
弾のようなものが複数こちらに飛んできては、結界に阻まれて振動をこちらへと伝える。
それに少しばかり呆れるしかない。

「――ただ、俺も選択はしよう。
 レミリアが言うには外来の人物が居ると言う、ならそいつらに話を聞いてみるのも悪くない。
 もしかすると……、分かる事があるかもしれないからな」

そう言うとほぼ同時、ズン! と言う大きな振動が神社に居る俺たちの方まで響いた。
それに俺は湯飲みを慌てずに飲む事で零れる事を防ぎ、空は顔面に湯飲みがぶつかっているのが見えた。
数秒後には悶えて転がり始める事だろう。
そして空を気にする事無く庭のほうを見ると、さとりとレミリアが仰向けやうつ伏せになって地面に臥しているのが見えた。
どうやら勝者は霊夢のようだ。

「くっ、太陽が出ている中で戦うなんて不利よ!
 ハンデをあげたんだからそこのところ勘違いしないで!」
「地底の外で戦うと、どうにも太陽が眩しいです。
 やはり地底の方が暗くて戦いやすいですね……」

しかし二人とも遊び疲れたとでも言わんばかりに身体を起こすと、こちらへと向かってくる霊夢に加わって戻ってくる。
その途中で霊夢が結界を張るのに使ったと思われる紙切れも回収していた。

「――これで多少は静かになるでしょ」
「そうか? むしろ……」
「あと少ししたら再戦よ、再戦!」
「日が沈んでからが私たちの本領が発揮できます、なので後でまた勝負です」

喧しくなっただけだと思う、それもかなり。
負けたほうは余力があっても潔く負けを認めるとは有るが、再戦を挑んではならないとは書いてない。
だからなのか、それとも回復できる程度の戦闘だったのか。
まあ、どうでも良いが――

「……空、とか言ったな」

顔面に湯飲みをぶつけて熱がっていた空に話しかける。
そんな彼女は虫の居所が悪いのか、俺に呼ばれたからか不機嫌そうな顔と声を向けてきた。

「なれなれしく呼ぶと消し炭にするよ?」
「したければすると良い、その代わり後でお前がさとりに叱られるのは必然だろうけどな」
「――何さ」

まあ、こちらも切るカードは切る。
さとりが俺を目的としている以上、俺に下手な事をすれば多少都合が悪くなるのは確かだろう。
その事を理解したのか、少しだけ黙ると何かと訊ねてくる。

「まあ、お前が良ければだが。
 その羽に触ってもいいか?」
「触って如何するのさ」
「どうもしない、羽根を引きちぎる訳でも引っこ抜く訳でも無い。
 ただ――触りたい、それだけだ」

そう言って羽根を見る。
何と綺麗な黒だろうか、光沢のある黒。
黒曜石を磨いたといいたくなるくらいに艶々としている、水を垂らせば即座に弾いてしまいそうなくらいだ。
――俺は動物を飼った事が無い。
精々が手の届かない位置に居るのを眺めるくらいだ。ペットショップの窓に3時間も張り付いていた事もある。
……何と言えば良いのか、多分動物が好きなのかもしれない。
俺の顔を見ながら如何すべきか悩む空だが、さとりがこちらの話を聞いていたようで許可を出す。

「お空、触らせるくらいなら問題ないでしょう?」
「そりゃ、まあ……そうですが」
「なら良いでしょう。香山さん、無体な事をしない限りは触っていただいて構いませんよ」
「……そうか」

床に寝転がる空へと近寄り、その立派な羽根を眺めた。
そして手をゆっくりと伸ばし、その羽根へと触れようとする。

「わっ!!」
「っ……」
「な~んて、ね」

しかし、触れるか触れないかの瞬間に空が声を張り上げた。
それに俺の手はびくりと反応して少しばかり遠ざかってしまう。
空はしてやったりといった表情で俺を見上げ、さとりは小さく溜息を吐いた。

「……驚かして如何するんですか」
「――けど何と言うか、さとり様みたいに顔が硬いんですよ。
 だから少し解そうかな、と」
「……余計なお世話です」

そんなやり取りを聞いてから、俺は再び手をゆっくりと近づけた。
そして指先が羽根へと触れた。……滑らかで、滑るような感触だ。細かな繊維のように、一本一本の筋がある。確か風を受けてくっ付いたり離れたりするんだったかな、それで飛ぶのだとか。最も、この空が羽根で飛ぶのかどうかは甚だ疑問ではあるが。
そしてそのまま手の平をゆっくりと乗せてゆく、まるで子供の頭を撫でるような温かさに一瞬だけ驚いてしまった。
けれども、そのままゆっくりと梳くように手を動かす。
逆らわないように、慎重に……慎重に。

「――無表情でやるから何だか怖いわね」
「そうでしょうか、かなり楽しんでいるように見えますが」
「あれが?」

霊夢とさとりが何か言っているが、俺はそれでも触れる事をやめない。
何と言うか、今のこの一瞬を大切にしたいととても思えたから。
訳の分からない世界に来て、死に掛けた事すらどうでも良くなる。
今こうやって動物(?)に触れる事が出来た、その事と天秤にかけたら安い代償だ。

「あふぅ……」

そして空がなにやら息を吐いている、そして頭が大きく揺れた。
それが何なのかは分からないが、孤児院の子供が眠たそうにしている動作に似ている様な気がしてならない。
周囲で何かが起きても多分気付かないかもしれない、それくらいに羽根を撫でる事へと集中していた。

「――ん、……山さん。香山さん!」
「――ん?」
「何時まで触っているつもりですか?
 既に一刻、2時間もお空の羽根に触れています。
 日は沈み、お空は眠ってしまい、霊夢さんは夕餉を作りに行ってしまいましたよ?」
「……おぉ」

さとりに肩を叩かれて気がつく、どうやら俺は余りにも集中しすぎていたようだ。
もう殆ど周囲が暗くなりかけている、そこまで俺は没頭していたとも言えるが。
空を見れば床に顔を押し付けて気持ち良さそうに眠っている、涎が畳みに染み込みまくっているが――それはまあ俺の責任ではない。
俺が使っていた布団をかけてやると、そのまま立ち上がる。

「……今日は一生忘れない日になるかもしれないな」
「そこまでですか」
「俺の住んでいたところには動物など野良ですら存在しない。
 金持ちの娯楽、愛玩ペットとして飼われているくらいで目にする事すら珍しいからな。
 だからこそ、妖怪とは言え動物に触れられたのは一生の思い出だ」

そして周囲を見ると、どうやらレミリアたちは居ないようだ。
と言うか縁側以外は襖で塞がれていて見えないだけだが。

「……そう言えばレミリア等はどうした?」
「あの人なら居間で夕餉をたかるつもりで待っています、メイドでしたら食事の準備を手伝いに。鬼なら先ほどふらりと屋根の方へと登っていきました」
「ふん……」

成る程な、と言う事で傍に置かれていた鞄を掴んで中身を取り出す。
――ノートパソコンが埋もれていたか、それは知らなかった。
取り出して開いてみるが、異常は無い様ですぐさまスタンバイ状態から復帰してくれた。

「――○月○日、意識が覚める。そして空という妖怪の持つ黒い羽根を存分に触った。
 とても気持ち良かった」

ワードを開き、そんな事を綴ってみる。
自分で書いておいてなんだが、やはり大事な出来事なので残しておくに越した事は無い。
更に幾許かの情報を書き添えると、そのままパタムと閉ざした。

「今のは何ですか?」
「ノートパソコン、持ち運びに便利なコンピューターだ」
「……たしか、どこかで聞いた事のある単語ですね。
 ですが、それは私たちにとっては未開の技術です」
「そうか」

ノートパソコンを鞄へとしまうと、そのまま空を眺めた。
――生意気では有ったが、こうしてみると中々に可愛いかもしれない。
殆どの人物が眠れば可愛いかもしれないが。

「――お空の事が気になりますか?
「……別に」

しかし、さとりに訊ねられて視線を外した。
気になるといえば気になる事はある、けれどもただの興味や好奇心でしかない。
なので別に、と答えるのが妥当だと思った。
けれどもさとりは俺の返答で何か思いついたようで、顎に手を当てると少しだけ思案するような表情を浮かべた。

「そうですか。
 そう言えば最近地霊殿にも動物がそれなりに集まってきているんですよ。
 妖怪ではなく、純粋な動物が。その中でお空のように妖怪化した猫で、お燐が居ますが――」
「――……、」
「いや、残念ですね。
 今日は連れて来てはいませんし、地霊殿に来る事があれば存分に戯れることも出来ると思いますが」
「――――…………、」

心が揺さぶられる、行動ルーチンが別の道へと行きそうになる。
其れほどまでに俺の中で色々な葛藤が生まれ、芽生えた。
紅魔館にいけば外来人と話が出来る、けれどもレミリアに色々と言われそうな事は目に見えている。
地霊殿に行けば情報は殆ど得られないが、動物と戯れる事が出来る。
其れこそ先ほど空の羽根で楽しんでいた程度の出来事が、様々な動物で楽しむ事が出来る。
娯楽や楽しみを先にとるか、現状打破の為に動くべきか悩む。
だが――

「……とりあえず、回復してから決めるとしよう」

そう言って俺の行動決定は先延ばしにされた。
どうせ回復するまでは霊夢が止めるだろうし、外に帰る事も候補に入れなければならない。
だからこそ、時間をかけたいのだ。

「ほら、ご飯が出来たから食べるわよ!」

そして勢いよく開かれる襖、そこにはレミリアと卓袱台に並んだ数々の料理が見えていた。
――どうやらレミリアもたかるつもりである、嘘偽り無く本当にたかる。
吸血鬼としてたかるのか、レミリアとしてたかるのか気になるところではある。
しかし、粥だけじゃ正直腹が持たないので空を揺さぶり起こすと、食事を取る為に移動した。





※ 動物好き
大地は好む好まざるに関わらず、不良に絡まれる生活を余儀なくされていた。
高校時代に入ってからは沈静化したものの、他者や人間に対してかなり冷えた考えしか持って居ない。
ただし、老人や子供に対してはそれなりに素直であり、動物を前にした反応は赤ん坊が動物を前にしたような感じになる。
好きな動物は特に決まっておらず、猫や犬、鳥などと関係ない。
椛、お空、お燐、文、鈴仙、てゐ、ミスティア等々が危ういと思われる。

※ 萃香とのお風呂
大地の頭の中では『男』と『女』と言うカテゴリーは存在するが、それらは子供の考えと殆ど変わらない。
そのために欲情と言うものは存在せず、異性と言う認識が殆ど無い。
なので人畜無害どころか据え膳を喰わないようなタイプである、しかも天然で気付かない様な。

※ ノートパソコン
大地の所有物で、太陽光でも充電が出来る為にバッテリーの心配は要らない。
かつては持っていなかったが、仲間の一人が新しく買った際にもう要らないとお古として大地に譲渡した。――お古とは言っても、半年もしない新品同様のものだが。
中には幼馴染がインストールした高等学校の教育に役立つ勉強用のプログラム、あとはゲームがいくらか入っている。携帯やカメラで撮った写真や、日記を一々つけているくらいか。