蒼野さんから8話が届きました。



あ交差する幻想 Refrain 8話

――?????――

「駄目だ、違う。これじゃない、こんな未来じゃない!」

そう男が叫び、目の前にあった机へと拳をたたきつけた。
そんな彼の近くには数名の人物が各々に立っていた。
腕を組んで彼を見つめる者、頭の後ろで手を組んで天井を見つめる者。
それぞれに部屋の中で詰め掛けていた。
一つの部屋、古臭い電球が一つぶら下がる部屋の中で彼らは一つの感情を――
負の感情を共有していた。
それは今しがた机を叩いた男が吐き出した言葉、それに引き摺られているのだ。
木造の建築物の窓から月夜が見え、静かな虫の鳴き声までもが飛び込んでくる。
しかし、それ以外にはまるで何者もが居ないかのような錯覚を覚えさせる。
そんな切り離されたかのような空間において、男は机に両手を叩きつけて歯軋りをしながら言葉を漏らす。

「そう、手を差し伸べるところは問題が無かった!
 そうしなければ駄目だった、けれどもそうしても駄目だった!
 結果だけが変わらない、過程しか変わらない!
 延命措置しか出来ない、どうしても望んだ結末へとたどり着けない!」
「何か、別の方法で試したら良いんじゃないか?」

腕を組んで彼を見ていた男がそう言う。
しかし、彼は頭を思い切り振って苦しげな表情をさらに苦痛へと歪めた。
すでに知っている、分かっている。けれどもそれがどうしても他の手段へと繋がらないと喚き立てる。

「それは分かってる、試してる!
 けど駄目なんだ、それが『助けになったか、ならなかったか』でしか運命が切り替わらない!」
「それって、0と1の様なものか?
 フラグが立つ、立たないと言っても良いけど」
「そうだ、そうなんだ。
 方法ややり方が認識されない、結果だけで話が進んでしまう!
 ――じゃんけんを二人でやったら、可能性は幾つあるか分かるか?」

男は自分の手を出し、左手をゆっくりとそれぞれの物へと変える。
そして、一つに変えるともう片方の手で同じように一つずつ出していった。

「……単純に、グーに三つ、チョキに三つ、パーに三つの九つじゃないか?」
「そう、9つは有るだろ?
 それが――勝ちか、負けか。これでしか判定されないのと同じだ。
 あいこは判定されず、再び計算されなおして勝ちか負けか――
 そのどちらかしか出ないようなものだ。
 ――考えるぞ、全ての分岐点は今までいくつも観測してきたはずだ。
 俺の知ってる事だけじゃない、皆の知ってる事柄からも何か考えられるはずだからな……」

近くの壁にあった黒板に男は白墨を持ち、今言った事を素早く書き込んでゆく。
その話が終わるまでに時間はかかり、夜は着実に更けて行く……
日が昇りきる前に彼らは建物からそれぞれに出て、思いを胸に抱えたまま散ってゆく。
――その日、世界は再び朝を迎えた。

~☆~

再びレミリアがやって来た、しかもさとりまで来ている。
いい加減疲れるし、どうにかして欲しいと思いながら頭を抑えた。

「いい加減にして、もうこっちに来るって決まったじゃない!」
「それは貴方が勝手に決めた事ではありませんか?
 勢いに飲まれ、意思とは関係無しに言ったと私は思いますが」
「あんたら、神社で暴れんなぁぁああああっ!!!!!」

そして再びのバトルである、ついてきたお空と咲夜も再び神社にてそれらを見る事しかしていない。
――ぶっちゃけ、掃き掃除をしたのが俺な為に散らかされてゆく境内を見て唖然とするほか無い。
木々に誰かが突っ込むたびに木の葉が舞い散る、そして綺麗にいた境内へと木の葉が積もって行く。
折れた枝が落ちるのを見て、どうやって処分すべきか頭を抱えて悩む。
顔を抑え、縁側で小さくため息を吐くしかなかった。
咲夜はそんな俺の背後で座ることなくしっかりとして立ち、逆にお空は神社をまるで遊び場のごとく好奇心に流されるがままにうろついていた。
萃香は天気が良いからと屋根の上で日向ぼっこをしている。

「――あら、そんな表情が出来たんですね」
「あ?」

咲夜が俺へと声をかけてきた、その事に俺は眉をしかめて首のみで咲夜を見た。
俺が咲夜のほうを見ると、咲夜は手を口元へと当てて小さく咳払いをする。

「いえ、この前会った時の貴方はただの人形も同然でしたから。
 叩けど鳴らず、響かず、動かずの空しさだけ。
 ――正直、見ているだけでイライラしましたから」
「そうかい……」

何たる言い草か、そう言われても俺の心がチクリと痛む程度だ。
――別に、それが事実であれば俺には何も言い返せないのだから。
無意識に腰へと手が回り、ぶら下げられた鞘へと手が落ち着いた。
いつの間にか俺が持っていた武器で、出せば錆びているような代物だ。
けれども軽い、なんにせよ扱いやすい。
長剣であるにも拘らず、片手で振り回しても十二分に勢いを出せる様な物だった。
――しかし、どういう訳か俺以外には抜き出す事すら儘ならず、抜き出したのを渡せば持てない始末だった。
しかし、萃香は何故か触りたがらなかった。
こういう時こそ「よし、鬼の力を見せてやる!」といって、腕をまくって頑張りそうな物を……
まあ、嫌がっている事をやらせるのもまずいだろう。
だから俺の所有物として今は持っているのだ。

「……手厳しいな」
「メイドですから。
 主人であるお嬢様が決めた事は、多分覆る事はないでしょう。
 なればこそ、私が気をつける事が無意味だとは思いませんが」
「確かにな」

誰かがそう言ったからそうである、そんな認識は著しく頭を、思考を止めさせてしまう。
この――咲夜とか言ったか――の主人が、今庭先で暴れている吸血鬼だ。
その主人である彼女が何かを決めてしまえば、メイドである彼女には表立って反対する事はできないのだから。
ではどうすれば良いか? 裏側で目を光らすほか無い。
俺と言うイレギュラーが、レミリアと言う少女に対して害となるか、否かを判別しなければならない。

「そうだな、よくよく考えたら主人に招かれると言うのは俺にとってのメリットでしかないわけか。
 デメリットは、お前のような忠実な奴が。主人を想う奴には目を付けられると言う事か」
「あら、よくお分かりのようで」
「馬鹿にするな、俺だって多少は頭を使う。
 少なくとも、レミリア『お嬢様』が俺を玩具にしたいのかどうかは知らないけど、招いても良いと思ってくれている事は確かだ。
 少なくとも――、お前が俺を警戒するように、お前は俺が警戒する事は考えてないんだろうな」

そう言って俺は頭をかいた。
嫌では有るが、心配事は尽きない。          ――心配なんてした事あったか?
自分で選んで未来に、悪い事が起きないかどうか。   ――何時も考え無しだった筈だ
何も起きなければ良い。          ――何が起きても、どうでも良かったはず
そう考えて踏み出すだけなんだから。     ――どうせ、何時死んでも良かったのに

「……なるほど、この前までの貴方とは違うようですね」
「――皆しておかしな事を言うな。俺は何も変わってないぞ?
 変わったとすれば、俺を取り巻く環境が変わっただけだ」

そう言って咲夜を見て、お空を見て、境内で戦う三人を見て、空を眺めた。
――素晴らしいほどの快晴だ、肌が今まで感じた事も無いような熱――陽光を浴びて温まってゆく。
何も考えずに縁側から降りそうになったが、縁側から降りれば彼女たちの争いに巻き込まれる事は必至だった。
あの『なんちゃらごっこ』とやらは俺には出来ない、だからこそ混ざれば即座に敗北の未来が確定している。

「――ただの学生が、いきなりこんな場所に送られたら戸惑う。
 怪我もしたし、今じゃ漸く慣れてきた感じがするだけさ。
 今じゃ、俺みたいに外から来た奴らにも会って見たいし、どんな世界が広がっているか楽しみで仕方が無い」

苦笑のような笑いがもれ、それを咲夜に見せてしまう。
けれども仕方が無い、なぜなら魔法とかがあるとされているのだから。
今この瞬間にも、レミリアの出した槍のようなものが空めがけて消えていった。
あれらが魔法だとすると、俺は好奇心が沸いて仕方が無かった。

「――俺は、抜け出したかったんだろうな。
 退屈で、停滞した陰気な世界から。
 だからさ、出来ればそう構えないでくれたら嬉しい。
 分からない事だって沢山ある、この世界ではどんな事が常識で、非常識が何なのかも分からない。
 警戒されても仕方が無いけど、少なくとも俺は――害意を持って何かをしたいとは思わないかな」

そこまで言って、俺は退屈を漏らすように欠伸をした。
目の前で起きている戦闘も、そろそろ飽きが来ていた。と言うか見ていてもそれなりにしか面白くない。
――ただ、着目すべきは弾の描くアートだろうかな。
色が付いていたり、別の色になったりと視覚的には飽きさせないようになっている。
霊夢は御札や何かの丸い弾、そして針を投げたりして戦っている。
それに対してレミリアはかなり素早い行動をしている。
一瞬意識をしなければ見えない加速をし、それで移動をして回避及び行動に繋げてくる。
それに対してさとりは相手の行動を抑制、規制するように弾を放っている。
レミリアは加速をしたら足を付くまで直線的な行動しか出来ないからか、その弾幕に対してはかなり苛立っているようではあるが。
――だが、見ている限りでは霊夢のほうが圧倒的優勢にしか見えない。

「……だとしても、吸血鬼にホイホイついてゆくというのが理解できませんが。
 貴方はただの人間でしょう? 人間じゃない生き物に恐怖を抱いたりは――」
「――人間、じゃねぇよ」

咲夜の『人間』と言う単語に、俺は胸中に渦巻く闇を吐き出すように。
意識しない重さを吐き出していた。
しかし、すぐに頭を振って息を吸う。

「俺は、人間として――認められてない。
 だから、俺は人間だけを相手にする必要も無い。
 話が出来るのなら、誰とだって仲良くなってやる。
 吸血鬼? 神? 死神? 妖怪? 妖精? 閻魔? 天狗?
 人間だから大丈夫で、人間じゃないから親しくなっちゃいけないだなんて俺は思わない。
 十六夜咲夜、まずはお前がその矛盾に引っかかる事を気にすべきじゃないか?」

人間として扱われない、そして彼らは人間ではない俺を異端視して攻撃してくる。
なら、人間の方に傾かなくても良い、俺が何者であるかを決めてくれる場所に属すればいいだけだ。
単独と言う名のヒト、それが今の俺だ……。
心臓が嫌に高鳴る、そして脳裏にはかつての自分が描かれる。
冷たい体育館の床の上、手を投げ出して真紅で鈍く光る液体を顔で感じていた。
今までは人間だった、けど人間が俺を人間と言う枠組みから追放した。
なら、もうどうでも良かった。
人間は、人間で無くなった俺を助けようとはしなかった。
人間は、人間でなくなった俺をまるで化け物のように扱った。
――止めよう、考えていたらきりが無い。

「……吸血鬼であろうと、害意が無く親しくなれるのならそれで構わない」
「なるほど、ね……」

俺の話を聞いて何を思ったのか、メイドとしての姿勢をほんの少しだけ彼女は解いた。
そして俺を見て少しだけ頷く。
その表情に仮面は無い、それどころか少しだけ先ほどまで感じていた敵意――まではいかないまでも、危険視するような感情はある程度抜け落ちていた。

「――とりあえず、監視だけはさせてもらうわ」
「……さよで」
「言われないよりは言われるほうが良いでしょう?
 一日でも早く監視が終わるように、せいぜい頑張る事」

そういって咲夜は俺へと綺麗な笑顔を向けて来た、その笑顔はやはり仮面などではない。
少なくとも、仕事とか愛想などで浮かべるようなものではなかった。
だからこそ、一瞬だけ何か――心が痛かった。
彼女も人間であり、人間全てを嫌っているような事を言ってしまった自分を恥じた。

「出来れば紅魔館に行きたいけど、それは許されるかな?」
「許すも何も、お嬢様が言っている事に反対はしませんから。
 ただ私たちの住まう紅魔館、メイドの質だけは良いと自負させていただきますわ」
「メイド……、他にも居るのか?」
「えぇ、それなりに」

そう言えばどこかでメイド長という単語が、今目の前に居る咲夜へと合致したような気がする。
何処で見たのか、もしかすると求聞史記に記されていたのかもしれない。
だからなるほどな、と独り納得しておく。

「しっかし、終わらないな……」

目の前で行われる戦い、この前に比べると中々に終わらない。
もうすでに30分以上こうやって戦っているように思える。
まるで人形劇、もしくは泥仕合を見せ付けられているような気がした。
このままじゃさらに30分ほど待っても終わるかどうかも分からない。
はっきり言って時間の浪費だった。

「……紅魔館に行きたいんだが」
「あら、もし決められたのであれば即座に送りますが、そうしましょうか?」
「ん?」

咲夜が俺を見て、少しだけ営業の入ったスマイルを向けてくる。
それに俺は首を僅かに傾げる外無く――
ただ咲夜の顔を見つめていた。

「私の能力は、すでに本を通してご存知では?」
「あ――あぁ、確か……時を止める、だったか?」

俺がそう言うと咲夜は営業ではない笑みを浮かべた、その笑い方からするとどうやら間違えたらしい。
そして、少しだけ笑うとすぐさま表情を戻し、小さく頭を下げるとこう補足する。

「時間、と言うところまでは正解です。
 けれども正しくいうなれば『時間を操る程度の能力』となります。
 時間を止める、だと。あまりにもできる事が限られますから」
「つまり?」
「加速させる事、減速させる事。結果として時を止める事も即ち可能なのです。
 例えばこうやって――っと」
「うぉっ!?」

咲夜、いきなりの蛮行。
卓袱台に乗っていた湯飲みを俺めがけて思いっきり中身をぶちまけた。
その瞬間に仰向けに倒れ、横に転がって回避するほか無い。
転がった先で腕を突っ張り、即座に足を床に突いて身構えるが――
お茶の零れる音すらしなかった。

「な、ぁ……」
「これが、能力です」

そういって咲夜は湯飲みを持ったままに此方へとやってくる。
そして俺の眼前で『ゆっくりと落下するお茶』を受け止め始めた。
空中に浮かぶお茶――いや、浮いてるんじゃない。
落下している、けれどもそれがあまりにも遅すぎる。
1秒を何倍にも、何十倍にも、何百倍にも遅くした速度で液体が零れてゆくのだ。
思わず手を伸ばし、その液体へと触れて見るが――
やはり液体である事に変わりは無く、お茶としての熱さもそのままだった。

「失礼、っと。
 これで私の能力がお分かり頂けたでしょうか?」
「あ、あぁ……。
 その湯飲みをくれ、飲みたい」
「どうぞ」

今空中に零されたお茶を再び入れなおした湯のみ、それを咲夜から受け取ると少しばかりぬるくなったお茶を飲んだ。
味は変わらない、熱さも温めのままである。
となると、時間をああつると言うのも何となくではあるが合点がいく。

「って事は、時間を加速させればそこにある物は何倍でも早く時間が経過する。
 このお茶であれば、熱いお茶がすぐに冷ませるようなものか?」
「たとえが少ししょっぱいですけど、そのようなものですね」
「逆に加速させると、こういう風になります」

空になった湯飲みを俺から受けとる咲夜、そのまま湯飲みを縁側の外へと向けて放り投げた。
――そのまま落下すれば、湯飲みは儚くも砕け散るだけだ。
けれども、俺は湯飲みが意識の中でゆっくりと縁側の外へと落下して消えてゆくのを見届けた。
しかし、割れたり落下したりする音は聞こえなかった。

「はい、如何でしょうか?」

そして、咲夜に声をかけられてそちらを見れば湯飲みがある。
今投げた湯のみだ、縁側の外を見れども湯飲みらしきものも、湯のみだったものも存在しない。

「今のは私の時間を加速させて見ました。
 投げてから素早く湯飲みを回収してここに戻る、その行動を加速させたのです」

そういって咲夜が俺に湯飲みを渡す、中には先ほど飲み干したと思える液体の張り付きが見えた。
しかし――

「……いや、もしかすると世界全てを減速させたと言う可能性もあるんじゃないか?
 全てが遅くなった世界で、咲夜はただただ歩いて湯飲みを掴んだだけかもしれないだろ?」

俺はそう考えた。
確かに咲夜が加速して湯飲みを掴んだと言う可能性も否定できなくは無い。
けれども、逆に俺たち世界全てを減速させた中で自分だけは等速の中で行動したかもしれない。
そんな考えが浮かんだ。
咲夜が言った事を鵜呑みにするのも良いだろう、けれども疑う事を忘れたら後で困るのは俺だ。
だからこそ、今こうして疑いを表にしたのだ。
それに咲夜は少しだけ苦笑する。

「なるほど、そういう考え方もあるでしょうね。
 では、今度は今言ったやり方をして見ましょうか。
 世界の全てを私の望む姿にして、同じように湯飲みを回収して見せます」

再び湯飲みが宙を舞った、そして同じように縁側の外へと落下してゆく。
それを咲夜は少しだけ得意げな表情で――頬まで高潮させ――湯飲みを回収するつもりで居る。
それを俺は見ていたのだが――

パリン……

咲夜が一歩目を踏み出した瞬間、そんな音が縁側の外から聞こえてきた。
その一瞬、俺と咲夜は互いにビクリと身体を跳ねさせて硬直させた。
ゆっくりと振り返るよりも先に、俺は身の毛がよだつ感覚。
そして、咲夜がすぐさまスカートの裾を掴んで身体を翻していた。

――それが全てだった。

~???~

日が昇った、なんともつまらない朝だ。
先日、殺人事件が二つあったわけだが。
そのどちらも、オレにとってはどうでもいい事だ。
あの死体が何なのか? オレにとっては興味も無い。
ただ興味があるとすれば、オレ――というよりも、『あいつ』を狙った二人の男にある。
あの時、オレは残念ながら寝ていた。
優雅気ままに眠りこけ、あとはただ死ぬのを待つだけだった。
けれども、どうやら世界はオレを安楽死させるつもりは無いらしい。
仕方が無いかね、それくらいの罪をオレは背負ってきたわけだし?
それにしても、この森は結構退屈なものだ。
昨日の夜は果実を切り落として食らったが、茸が余りにも多すぎて食べる気が失せた。
今も林檎が有ったから落として食ってはいるが、出来れば野菜が食いたいものだな。
もしくは肉だ。人肉だろうが獣の肉だろうが構わない。女性の肉であるならば幾分柔らかくて食べ心地が良いが。

「しっかし、なるほどなるほど。
 こりゃあ確かに知る人ぞ知る、知らぬ人は知らぬ世界とでも言えようか。
 『アイツ』の記憶にも知識の中にもこんな場所は存在しない。
 となると、ま~た別世界にでも来たかねぇ……」

林檎をしゃくりと噛み、それを飲み下す。
余り面白くも無い作業だが、食わなければ死んでしまう。
それに、何が起きるかわからないもの。だからこそ食える内に食うのが良となるか。
――だが、知らない場所では有るが林檎は林檎そのものか。
場所は違えど、そして空気でさえも違っても林檎は林檎だった。

「……言語は似通っている、だとすれば問題は無いか」

林檎を三つも食えば飽きる、そろそろ蜜柑が食いたくもなってくる。
蜜柑と言えばケーキも食いたいものだ。
さて、ケーキがまずこの付近で食えるかどうかが心配だね、どうも。
血が染みる背中、汗がどうしても気持ち悪い。
こうなったら風呂を使うべく脅迫でもするしかないかね?

「あ――」

そう考えていると、どうやら都合よく正面に人が現れ――

「――……、」

いや、撤回しようか?
人じゃない、あれは――魔だ。
人に見えたとしても、人在らざるモノ。
人間に仇成す犬畜生のような魔の気配。
血が、何百年と続いた家の血が叫ぶ。
殺せ、ころせ、コロセと。
魔を狩れ、人間に仇なす輩を消せ、この世から抹消してしまえと心臓が高鳴る。
しかし――

「さて、動かないで貰おうかな?」

オレはそんな、古臭いお家の事情なんか知ったこっちゃ無い。
オレはオレらしく。感じるまま、考えるままに生きる。
だからこそ、血の勢いに任せて何かを殺すだなんて事は面白く無い。
黄色い髪の少女にオレは背後から首筋へとナイフを押し付ける、それに少女は驚いて身動きが取れない様だ。
そのまま片腕を上げさせ、一度だけナイフを外してから腕を固定させてナイフを宛がう。
両腕が自由だと厄介だ、だから片腕だけでも自由から不自由へとする必要がある。
――さて、ここまでやったなら後は必要事項を言うだけだ。

「貴方、は――」
「質問は許さない。
 今主導権を握っているはどちらか、一々理解させられなきゃいけないほど愚鈍で頭の巡りが悪いなら――身体に教え込んでも良いんだが」

そういってオレは胸元にあるリボン、そして服をナイフで開く。
――まあ、なんだ。
日に当たった事が余り無いのだろう、陶磁のように薄っすらとした肌が見えた。
少しばかり女性である事を示す谷間、そして乳房を包む下着もそこにあった。
それに彼女は小さく悲鳴を上げ、唾を飲み込むのを聞いた。

「よ、用件は何よ!」
「何、簡単な事だ。
 風呂と食事、そして寝床と情報をくれたら嬉しいかな?
 未開の地に紛れ込んだようでね、流石に精根尽き果てる思いさ」

とは言え、無理をしない範囲ではあるけどな。
無理をするにはまだまだぜんぜん余裕だ、半年ほどじっとして獲物を狩る狩人のように過ごしても耐えられる。
食べ物も飲み物も最低限、その状態で察知されないように実も息も潜めるのと比べる間も無く余裕だ。
しかし少女は、何故か一息吐くと空いている手でナイフを握る手を掴んだ。

「……迷ったなら言いなさいよ」
「さて、迷ったとは言ってないが?」
「そうだとしても、今の貴方には何も分からないでしょう?
 それが迷っていると言わずに何と言うのよ。
 まったく、驚かされた分損したじゃない」
「驚いてくれて至極恐悦、とでも言っておけばいいかな?」

拘束から解き放ち、ナイフを分かりやすく仕舞う。
両手を挙げて此方は何もしないと意思表示した上でナイフを仕舞う、これで多少は大丈夫だろう。
そして手持ち無沙汰なので両手をポケットに突っ込み、服を直している彼女を暫く見ていた。

「……切らずにナイフだけで服を開くなんて器用な事するわね」
「女子供を好き好んで傷つけたいとは思ってないからね。
 女子供は国の宝さ、野郎は戦で身を張って死ぬのが仕事」

とは言え、敵なら女子供でも容赦なく殺すけどな。
それがまずオレの罪、と。
被るつもりも背負うつもりも更々無いがな。
オレは英雄なんかじゃない、殺した数の分だけ背負って生きようだなんて思っちゃ居ない。
――英雄なんかとは、違う。

「それで、さっき言ってたので全部?」
「さてね。もしかするとそれを口実にお前の家に着いたとたん押し倒し、欲情の限り暴虐を働くかもしれないぞ?
 そうだな――、くく……雌奴隷みたいにされるとかどうだ?」

まあ、興味が無いとは言わない。
オレとて男さ、欲情や劣情だって申し分無くある。
性欲の捌け口を求めたくもなるし、それが女性によって行われるのであればずいぶん助かるだろうね。
そしてアリスは当然のように胸元を押さえながら身を引いた。

「帰っ――」
「冗談だ女。オレとて時と場所と場合を弁える。
 それに、自分を好かぬ相手を落とす事。反抗的な女でもないのに色欲で落とすのは面白みもへったくれも無い。
 今のはただ、余りにもお前がナイフを突きつけた相手に対してすんなりとし過ぎているから、逆に適当な事を言ってみただけさ。
 脅しておいてなんだが、此方も疑いを抱かなけりゃ拙いんでね。
 それに――、周囲に何か無機質な奴集めてるな?」
「っ――」

細めた目で周囲を眺めると、木々に隠れて沢山の“それ”が見えた。
人間ではない、むしろ赤ん坊よりもさらに小さな存在。
――人形だな、それもかなり精巧だ。
見るからに魔導人形に似ている、ただし姿を模したりするタイプではなさそうだが。

「――まあオレにとっては寸秒ですら惜しい状況なんでね。
もしお前さんが本気で『これらを倒す事ができたら条件を飲むわ』な~んて言うのなら、面白愉快なオブジェの残骸を山にしてやろうかと思うけど……どうかな?」

自分で言っていて馬鹿みたいなことを言っているとほとほと思うね。
けれども、それを成すのは簡単な事だ。
全て殺す、全て壊す、世界全てを無に返す。
――そう、あやふやな世界の上に立っているオレだからこそ出来る事だ。
全てを壊し、全てを作る。神にも近い所業をやらかすのだ。

「さて、どうする?
 こっちは別にオマエじゃなくてもいい。
別にオマエが今居る世界の中で最後のヒトと言う訳でもないだろうに。
 風呂と寝床、情報――それらをオレに与えてお前が損するかどうか。
 ……少なくとも、オマエのお気に入りが全て壊されるよりは得だよな?」

人質に取っているのは人形と彼女自身、そしてオレがベットするのはこれからの生活だ。
情報がもらえるというのが一番で、寝床と風呂は二の次だ。
あの後、結局は眠らずに周囲の確認をしていたから眠くて仕方が無い。
さて、どうする?
そういってオレはポケットに手を突っ込んだままに彼女をまっすぐに見つめた。
他には何も視界に入れない、入らない。
けれども、笑みは深々と絶やさない。
そのままに、俺はゆっくりと片手を目の前の少女へと向ける。

「……背後だからと、隙がつけると思ったら大間違いでもあるがな」

何も持っていなかったはずの右手、けれどもそこには一体の人形が有った。
少女からはポケットから人形を取り出したかのように見えただろう。
しかし、違うんだよな。これが。
残像と言って分かるかどうかは知らないが、脳がオレという存在が移動した事を知覚するよりも先に移動して人形を掴み、元の場所に戻ってきただけの話だ。
普通じゃない? 当たり前だろう、普通であったら困るがね。

「な――上海!?」
「ほう、こいつは上海とか言うのか。
 人形に名前をつけるとは大層な事だねぇ……
 さて、こいつが人質ならぬ物質になった訳だが――
 どうする? オレには別にこんな動く人形に対して愛着も執念も無いからな。
 こうやって力を――」

ほんの少し力を、首を掴んでいる手に力をこめた。小さく軋む音が聴こえる。
その瞬間に彼女は「やめて!」と大きく叫んだ。
――まあ良いけどね、別に好き好んで壊そうとは思っていない。
むしろ名前をつけたくらいだ、これで話が通ってくれるならありがたいことだ。
彼女は悔しそうな表情でオレを見つめ、出来るならオレに一矢報いたさそうな表情で睨み付けて来た。

「もしそれ以上にその子に何かして見なさい。
 その瞬間から私は貴方を許してなんかやらない、近い未来から遠い未来。
 必ず今日という日に貴方がした事を――生きていた事を後悔させてやる!」

そう叫ぶ彼女を見て――
余りにも純粋な殺気、それと決意に惚れ酔いそうになる。
いやぁ、なんとも綺麗な悪意か。
受けていて心地が良いと言えるがね。
だがオレは人形を彼女めがけて緩やかに放ってやった。
その人形を彼女は両手でしっかりと受け止める。

「上海――」
「――……!」

人形はしゃべらない、けれどもまるで生きた人のように彼女へと何かを語りかけているかのように見える。
それをオレは笑みを浮かべたままにただただ見ていた、見守っていた。
そして暫く彼女達が時間を使うのを、オレはただ見守る。

「さて、オレは何時までこうしていれば良いのかな?
 まだ周囲に巡らされた人形を一体残らず引きずり出せば良いのか?」

肩を竦めて彼女を見ると、彼女はオレを半ば睨む様な表情を見せるが、片手を振るって周囲に巡らせている人形をオレから遠ざけた。

「――約束だけはしてもらうわよ、じゃなきゃ何も与えない」
「約定の内容によるね」
「――ひとつ、私を含めて人形たちに乱暴や狼藉を働かない事」
「そっちが手を出さないなら、それは守るさ」

別にこっちとて敵を好き好んで作りたいとは思ってない訳だしね。
むしろ、オレほどに平和や平穏を願っている奴も居ないだろうさ。
問題は無いわけだから肩を軽く竦めて肯定だけでもしておく。

「――ひとつ、貴方について話せる範囲で話すこと」
「へぇ……」
「まさか、名前も素性も知らない何処から来たのかも分からない人を家に上げられる訳無いでしょう?
 まあ、私も名乗ってないからお相子だと思えば良いでしょ」
「違いない」

そう言えばオレもコイツの名前を知らない、取りあえず分かっているのは人形が上海だということくらいか。
それ以外には何も分かってなど居ない。
今が何時なのか、何処なのか、そしてどんな場所なのかすら分かっていない。

「――オレが望むのはここの情報だ。
 いの一番に」
「なら、貴方が守る限り――
 貴方を認められる限り、手伝ってあげると言う事で。
 こっちよ」
「先導よろしく頼むよ」

どうやら話は付いたようだ、後は何も無い限りは大人しくするのが吉だろう。
多少余裕が出来ると言うものだ、常に余裕を持って行動するがね。
しかし、思ったよりもこの女の家は近かったようだ。
森林を抜けた先に見えてきたのは一軒家だ。
それにしても余りにも小奇麗過ぎる家だ、それに――
先ほどのとは別の人形がやはり沢山居る。
どうやら窓を拭いて磨いているようだが――

「なるほどねぇ、人形はてっきり使い捨てかと思ってたがね。
 中々どうして、しっかりとしてるじゃあないか」
「馬鹿にしないで。
 人形たちは私の大事なものよ?
 間違っても私の身代わりに使うつもりで作ったわけじゃないわ」
「へぇ、そうかい。
 だが残念ながら、オレの知る場所では人形なんて裏じゃ幾らでも使い道が有ったというな。
 暗殺、身代わり、変わり身、使い捨て――
 逆に今のオマエの様な使い方をしている奴の方が稀だっただけの話さ」
「……家に入っても勝手な事はしない事」
「おいおい、先ほどの約定の中には入ってなかったじゃないか」
「私は色々と実験とかしてるのよ、それを弄くられたりしたらたまらないわ」
「なるほどね」

そういってオレ達は家へと入る。
マーガトロイド……、それがコイツの名だろうか?
まあ何でも良い、覚えとくに限るだろうな。
取りあえず家に入る事は出来た、マーガトロイドに招かれるがままにオレはとある一室へと招かれた。
――さて、何処だろうかねぇ?
少なくとも、朝昼晩とよく使いそうな場所ではあるが――

「取りあえず腰掛けていなさい、今紅茶でも淹れるから」
「そりゃどうも」

椅子を引き、ゆっくりと腰掛ける。
そしてマーガトロイドが何やら水を薬缶へといれ、火にかける。
――その傍ら、数対の人形が班を組んで家の奥へと消えてゆく。
どうやら自立行動でもしているのかもしれない、となると少しばかり厄介かもしれない。
人形の人格や性格を知らない。製作したのがマーガトロイドであれば……、隙を窺うようなやり方を好むに違いない。
一体でも逃げ隠れし、全てが終わったような安心感を突いて終了――
それが想像しやすい流れか。

「それじゃ、貴方から名乗って」
「まあ、良いだろうさ。
 オレは――死神だ」

そう言った時のマーガトロイドの表情ったら無かったね。
驚きと呆然が入り混じったような顔をしてオレを見ている、なんとも愉快で仕方が無い。
なのでひとつ、注釈をしておく。

「あぁ、オレは幼い時に家を追い出された口なんでね。
 黒髪とでも、死神とでも呼んでくれりゃあ良いさ」
「何で死神なのよ」
「――家が暗殺、殺人、殺しの家系だから……、と言って理解できるかどうかはオマエさんに任せようか」

まあ、別に名前が無いわけじゃないがね。
それでも名乗るのは好かん、だから無い事にしておく。
それに対してマーガトロイドは沈黙し、それからオレの事をゆっくりと見つめてきた。

「――なんだ、実は解体されるのが好みだったか?
 すまんなぁ、気付いてやれなくて」
「馬鹿、そんな訳ないでしょうが!?
 ただ――約束したからには手を出したりしないわよね?
 いきなり後ろからグサリ! とか、堪んないから……」
「はは、安心しろよ。オレは必要性を感じなければヒトは殺さないさ。
 ただ、時々疼く事はあるかねぇ。ヒトをバラす感触、舞い散る血飛沫、まるで紐解くように間接を縫って身体を切り離す。
 血の味、血の臭い、ヒトの肉、内臓の味、そして臭くて堪らないモノが癖になるっちゃあなる。
 勿論、オレの知っている妖(あやかし)の様に、無差別にやろうものなら今頃死んでるさ」

そんな事はせんよ、そう言いながら手のひらを振る。
オレは敵対しない奴を無意味に殺したりはしない、それは依頼を受けずに私怨で他者を葬り去るのと同じ。
敵と言う障害にならなければ、殺さない。殺してなんかやらない。
精々この現実と言う生の檻の中、無様にもがき苦しんで光り輝け。
オレはその光を闇から遠巻きに眺めるだけだ、侵食しないようにな。
マーガトロイドは出来たのだろうお茶を此方へと運んでくる。
それを差し出すのかと思いきや机の上に置いた、其処から先は人形の本分だったようだ。
見ている傍で人形どもがコップへとティーポットを傾け、紅茶を注いでゆく。
――ふむ、良い匂いだ。ある種の趣味嗜好でもあるのか、良いお茶の葉を選定しているような香りだ。
出されたティーカップを一瞥する事無く、其処に差し出されたという事実を受け入れてからカップへと手を伸ばす。

「――兎に角、オレは名乗った。
 次はオマエの番だ、マーガトロイド」
「なんで……。あ、あぁ。そういえば名前をかけて有ったわね、迂闊だったわ……。
私の名前はアリス・マーガトロイド。ここでは魔法使いとして生きてるわね。
――私は魔法使いだけど、人間じゃない方の魔法使いだから」
「……医者を呼ぶか? 何なら精神病の医者も探してきてやるぞ」

何を言ってるのかわからず、一瞬アリスの額に手を当てた。
席を立ち、わざわざ机をはさんで対面するアリスの元に向かってだ。
そんなオレに気付いたアリス、いつの間にかオレが額に手を当てている事に気が付いて、驚きと共に顔を赤くする。

「べ、別にそういう類の事じゃないわよ!
 魔法使いと言う“働きが出来る”んじゃ無くて、種族が魔法使いなのよ!」
「ほぉ……?」
「――細かくは確か……、ちょっと待ってて。配布された資料みたいなのが有ったはずだから」

そう言って彼女は席を立って奥へと引っ込んでゆく。
その間する事も無いので、ただただ目の前に出されたお茶を飲み込む作業を続けた。
机の上には先ほど軋ませた人形が居る。確か上海だったかね?

「――自分を殺す(コワす)かもしれなかった相手に対して無用心だね。
 それとも人形には自我が無いのかな?」
「――……、」
「……いや、怒ったなら許せ。
 オマエに理解できるかはさて置いて、話を一番進めやすい『オレ流』とやらがアレだったんでな。
 無論、必要とあればオマエ。それと見せしめとして何体かがぶっ飛んだオブジェになったかも知れない事は否定はしない。
 ん? おかしな話だ。強者が強くてその事を弱者に対して謝るというのも。
 ああご苦労さん、オマエさんの小さな献身に感謝しよう」

空にしたカップへと人形が紅茶を再び注ぐ。
そんな人形を見つめ、周囲の気配状況を確認するとだんまり手をソイツへと伸ばす。
――ふむ、人形と言うには余り硬い材質ではないようだ。
かと言って人間のようではないが、人間に近づけようとしたのだろうかね。
髪の材質も人形らしいというよりも、其れこそ本物のヒトのモノのようだ。
羅生門だったかね、老婆が死者から髪を採っていたのは。
まさかだがあのマーガトロイドとやらも端麗の様を化けの皮として、ヒトの死体漁りでもしているのだろうか?
まあいい、其れはさて置いて次はこの眼球だが――

「あったあった、この本――
 何してるの?」
「別に何もしてないさ。むしろ暇で仕方が無かったくらいだ、何故茶菓子が出ん」

少し夢中になりすぎたようで、ギリギリだった。
まあ、見られても構わないがな。その時はその時で何とでも言える。
マーガトロイドが持ってきた本の表紙を眺め、其れが何なのか知るが――

「で、其れがさっき言っていた資料とやらか?」
「とは言っても少し旧いけどね。
 新しい資料も出る予定だけど、延期されたから」
「はん、資料なんて物は出来る限り最新の鮮度を保つのが常識だろうに。
 もしそれが足元を掬う羽目になったらどうするおつもりで?」
「足元を掬うほどの事は書かれて無いけど。
 さて、この本を読ませるに当たって一つだけ要求するけど構わないかしら?」
「言ってみろ」

聞くだけならタダだからな。聞いた上で「だが、断る」とでも「ならば良し」とでも言える。
紅茶を飲みながら何を要求するか聞いていたが――

「風呂入れ」

そう言われてはにべも無し、空になったティーカップを黙っておいたのがマーガトロイドには受諾、肯定だと思えたようだ。
仕方が無いだろう、そもそも背中にはナイフの刺さった痕がある訳だし。
血みどろ、泥まみれ、草葉で青臭い事この上ないだろう。





※ 殺人衝動
先祖返りによって幼くからして根付いた欲求である。
かつては暗殺等をしていた遺伝子がそのまま積み重なって、幼くとも彼を一流の暗殺者として仕立て上げた。
吸血鬼が血を欲する程度に強い欲求だが、これに関しては代替可能なので別の物事で発散することが可能である。
ただし一番の発散方法が他者との交わりである以上、効率的では無い事は確かである。

――因みに二位として運動、三位に食事が有る。五位に創作活動と入り込んでいるあたり、元来人殺しに向いていないとも言える。

※ 人間じゃない
種族としては当然『人間』として生まれた(少なくとも戸籍上でもそうである)。
けれども『人間』に拒絶された、だから大地は自分を『人間ではない』と言う。
人間扱いされないのであれば人間じゃないのが普通である。
更には人形だの機械だのと言われてきたために其れに拍車がかかり、自分の中で他者に対する考え方や価値観が変わった。
だから相手が何者だろうと関係なく付き合えるという状態になっている。


――因みに何処かでの話し、相手が国王だろうと自分の住まう都市を支配している統括理事長が相手でも、必要だと思わなければ口調ですら変わらない。
権威や権力、地位に対する態度はやや反発、反骨的。