蒼野さんから9話が届きました。



交差する幻想 Refrain 9話

咲夜が湯飲みを放り投げ、縁側に落とした事で一つ割れてしまった。
本人は速攻で逃げ、取り残された俺は悪くないと言い張るしかない。
――結果として俺はその日の昼ご飯を全員分料理する羽目になった。
頭の中にはレシピが沢山あるが、博麗神社にある物と照らし合わせて作れるだろう料理をくみ上げてゆく。
献立を立案し、其れを人数分作った場合の材料が足りるかどうかも計算。
じゃあ作るとした場合、順番をどうすべきかも考える。
前菜を出してからメインを出す。其れは手堅い。
其れと同じ要領で考えながら作る。

「――……、」

ガッシガッシと鍋を振るう。とりあえず考えたのは中華だった。
ありがたい事に埃を被った中華鍋が転がっていたので、それを使わせてもらう。
油ふんだん、振るう俺の腕もふんだんに。
素振りや筋トレの方がまだ疲れないだろうなと思いながら、眼の前で昼間の明りですら塗り替える火力を前に鍋を振るってチャーハンを作り上げてゆく。
既に野菜炒めとチンジャオロースを出させてもらった、出来ればシュウマイや春巻きも出したかったが、出せないモノは出せないので野菜と少量の肉で我慢してもらう。
――大量の汗が出る。仕方が無くYシャツを脱いで、バンダナキャップのように頭へと巻きつけた。コレで汗や髪の毛が零れないように配慮する。

……眼の前で轟々と燃える炎が、この前見た幻覚の様に激しい。
国が一つ滅びていた、其れが俺のせいだという。
けれども其れを成すのも、防ぐのも俺だとか。ふざけた事を言う。
たかが一人の、一介の高校生に何が出来るって言うんだ?
滅ぼしたのが俺なのか、それとも力量足りずに滅びたのか。どちらにせよありえない話だ。
滅ぼされた側だったとしても、其れが俺の責任になるだなんてありえない。

「っと、チャーハン出来上がり」

中華鍋に盛り込まれた大量のご飯を大きな器へと移す。まあるく、見栄え良く。
コレを出して、更にあと一つ。マーボーナスを作って出せば仕舞いだ。
とりあえず出来たこいつは出すに限る。
食卓を囲っている霊夢、萃香、さとり、お空、レミリア、咲夜が持ち運ばれた品に喜びや驚きを見せる。
――正直、俺だって出された側なら少し驚く。
何でこんなにも頑張って大量に作っているのだと。
俺だってバカだろうな、適当に作って適当に出せば良いのに。
けど――

食べ物を粗末にするな!

そう教えられた、だから食材を出来る限り良く使って消費したいじゃないか。
それに俺だって美味しいものが好きだ、その為だったら出来る限り力を尽くしたい。
再び材料を入れて中華鍋が思い切り振るわれる。

――あとでコッソリと覗き見をしたレミリアと咲夜が、「物凄く無邪気で楽しそうな笑顔浮かべながら料理してた」と言うが、其れはまた別のお話。

~☆~

昼ご飯を料理が終わって食べ終えると、今度は其れを持って洗い物をする羽目になる。
別に大きな文句は無いが、これはこれで結構楽しい。
例えばさっき使った中華鍋や、食事を持った皿。
これらは油や目に見える汚れがついているわけだ。けれどもそれを綺麗にするのもまた面白い。
料理を作る時に味わった暑さとは別に、今度は水の冷たさが手を襲う。
この時代にはガスによって温められたお湯を使うことで洗い物をするという、ある種の贅沢なことが出来ないようだ。
――残念だ、暖かければより効果的に洗い物が出来たというのに。
けれども無いものは仕方が無い、強請った所で出てくる訳がないので大人しく洗い物をする。


「……料理好きなのかしら?」
「かも知れませんね。けど洗い物まで好きとなると――」
「家事が好き?」
「だと思います」

洗い物をする大地の傍、再び覗きをしているレミリアと咲夜はそんな事をのたまっていた。

~☆~

荷物を纏める俺を見ながら、萃香は瓢箪で酒を飲んでいる。
あの酒をこの前少しばかり飲んだが、アレは毒なんじゃないかと思えるくらいに度数の濃いものだった。
だが飲んでいると癖になるような味わいで、コップで三杯も飲めば夢見心地にまで落ち込むことが出来る。
勿論視界の隅に映るナノマシンからの警告は『泥酔状態』、それでも視界が少し揺らいで頭が重くて、理性があるから恐ろしい。
重度の酔いが回ると勝手に酔いを醒ます成分が分泌される。人類はそういう処置を受けて死亡する可能性を低めなければならないほどに人口が危うい状況なのだ。

「そっか~、もう行っちゃうんだ」
「ああ。ここに居て気絶してばっかりだったような気がするけど、良い時間が過ごせたと思う」
「最初は珍しいものを拾ったかなって思う程度だったけど、後半からは拾って面白かったと思えたよ。
 大地がコレからどうするかは分からないけどさ。成長、期待してもいいんだよね?」
「任せとけって。今度会うときは力だけじゃない総合力で萃香を驚かせてやるからな、その時は覚悟しとけよ?」

鞄を手にし、置いてあった鞘を萃香に向けながら俺は少しばかり笑った。
別に何かがおかしかった訳でも、自分に酔ってそんな言葉を吐いた訳でもない。
ただただ言葉にしたことで、そうしなきゃいけないんだと言う覚悟が出来た。
そして萃香に認められるにはどれほどの努力をしなきゃいけないのか――、つまりはどれぐらい稽古をして勉強をしなきゃいけないのか考えて楽しくなった。
――下らないと笑えば良い。何故かは知らないけれども、この鞘と指輪を手に入れるまではそんな事さえ思い浮かばなかったのだ。
毎日が停滞していたのは世界が凍っていたからじゃない、俺が自分の中で全ての時を止めてしまっていただけなのだ。
さっき昼食で皆が美味しいと言って絶賛してくれた料理も、それだけで更に驚かせてやりたいと思うようになった。
今度ここに来る時までには新しくレシピや技術、調理法を覚えて帰ってくる事になるだろう。その時に萃香が驚いて喜び、霊夢が唸るようなものを作ればいい。
考えれば考えるほどに、沢山のやるべき事が思い浮かんできた。

「おっ、良い顔するじゃないか。
 やっぱりアンタは生粋の人間だよ、人間。
 未開の地、知りえぬ世界へと踏み出す冒険者が昂揚するような表情してる。
 ――よし、なら一つ面白い賭けをしようじゃないか」
「おう、賭け?」
「ああ。これに関しては大地から賭けるモノは何も無くていい。
 其れに私は鬼さ、嘘をつかないよ。――反故にすることは極稀にあるけど」

あるのか、保護にする事が極稀に。
けれども面白い、賭け事なんかゲームの『はい・いいえ』以外でやった事はない。
ブラックジャック程度ならした事があるが、他の遊びに興味が無いと言ったら嘘なのだから。
鞄を担ぎ、鞘をぶら下げながら立ち上がると萃香をじっと見る。

「――どんな賭け事だ?」
「なあに、簡単さ。
 もしアンタが私に勝って、認めさせるような事ができたなら――だ。
 私をあげても良い」
「へ~」

萃香をあげるってどう言う事だろうか。
言葉通りに考えるなら両脇に手を突っ込んで高い高いをすればいいのだろう。
それは多分外見からして萃香にとっての一番の屈辱だという事だろうか?
つまり、勝つ事が出来たら表立って萃香を子ども扱いできるという事だろう。
――脳裏に浮かぶ萃香を高い高いする映像、その映像の中で萃香は「こっ、子供扱いするな!」と叫んでいる。やはり子ども扱いは嫌なのだろう。
成る程なと幾度と無く頷き、それから俺は面白そうだと笑みを浮かべた。

「ようし、その賭けに乗った!」
「無理だとは思うけどね~。けど、楽しめるはずだと信じて待ってるよ。
 はは。無理だとは思うけど、コレくらいの餌をぶら下げといた方がやる気も出るだろうしね。
 頑張るんだよ? 同じ字を持つヒト、同じ鬼を抱くヒト、そして全てを萃めるヒトよ」

そう言うと萃香はにんまり笑った。どうやらとても面白そうにしている。
俺を使って楽しむつもりなのだろうが、そうは問屋が卸さない。
萃香を悔しがらせ、勝つためにはより一層頭を働かさなければならないだろう。
――萃香をあげる権利か……。もしそれを貰ったなら肩車をして歩いてみたいものだ。

「それじゃあ、またな」
「おうさ、またな!」

萃香との挨拶を済ませて俺は博麗神社から出る。
スニーカーを履き、ならしてから玄関から出ると鳥居の下に結構な人数が揃っている。
霊夢、レミリア、咲夜、さとり、お空。
今挨拶した萃香を除いて全員がそこに居た。

「――そうですか。地霊殿には、こないのですね……」
「……悪いな。けどさ、外来人が沢山居るらしいからそこで話をしたいんだ。
 其れから行動を決めていこうと思う」
「……自分の意志で決めたのなら文句は言いません。
 けど、欲を言うのなら早めに来て欲しいですね。妹に会ってほしいから」
「ああ、悪――」

悪い。
そう言おうとした瞬間に頭が全部掻き出されたかのように真っ白になった。
そして何故だか分からないけれども浮かぶのは誰かの映像。
泣きじゃくり、嗚咽を洩らしながら顔を擦る一人の女性。
誰だか分からないけど――

「――ち」

誰かが抜け殻の俺の身体を揺さぶる、けれども今は目の前に見えている映像が全てだった。
まるで眼の前にあるかのようにその映像は鮮明で、けれども手を伸ばせば其処には何も無い。
それどころか、俺の伸ばした手でさえも見えない、視界に映らない。

「っと、だ――」

涙がぽろぽろ零れて行く少女に、俺のではない誰かの手が、俺から伸びて彼女の頭へと触れた。
その瞬間、彼女は顔を擦るのをやめて顔を上げる。
顔は可愛いのだろう、髪は多分長いのだろう、そして――
眼の片方はどうして紅いのだろう?

「――っ!」
「づっ!?」

乾いた音が響く、そして俺の顔へと軽い衝撃が走った。
映像は全て書き消え、今眼の前に有るのは霊夢が俺をひっぱたく為に振りぬいた腕と、そんな俺を見る十二の眼だった。
頬に感じる痛みが遅れてやってくる。頬を擦ってみるけれども、ちゃんと自分で擦っているのか自信も持てない。

「……まだ疲れてるんじゃない?
 そんなに慌てなくても、時間は逃げないわよ。
 寿命は縮むけど」
「だい、じょうぶ――。
 ちょっとばっかな、立眩み起こしただけだ……」

精気を奪われたかのような脱力感、一気に躁ですら鬱へと落ち込んでしまいそうな気分の変化に吐き気がする。
顔を抑え、頭を振っても拭えない気持ち悪さ。
視界隅に警告と供に現れる『幻視:速やかに医者へと見てもらう事をお勧めします』と書かれている。
鞄にすぐさま手を突っ込み、最早半ばしかない錠剤を見つめるも直ぐに口へと放り込んで噛み砕いた。
まるでお菓子のようにバリボリと砕けてゆく錠剤、そして苦味を伴って唾液と供に喉を滑り落ちてゆく。
――この薬がなくなった場合、俺はどうしたら良いのだろうか?
確かだが、八意永琳と言う人物が医者だと聞くが……

「――多分、コレで落ち着くはずだ」
「……お嬢様、これでも連れてゆきますか?
 少なくとも、落ち着くまで休むという意味ではこの神社は大きく貢献していると思われますが」
「おいコラ、私の神社は宿場でも療養施設でもないんだけど」
「いや、本当に大丈夫だから。
 ――けど、移動にかかる時間と距離は大まかに知っておきたい。
 もし本当に長いのなら残念だけど数日延ばすかもしれないけど」
「大丈夫大丈夫、咲夜の力が有れば一瞬――」

レミリアがそういった瞬間、咲夜が「すみませんがお嬢様」と頭を下げた。
言葉を遮られたレミリアはその開けた口を閉ざし、「んも~、何~?」と咲夜の方を向く。

「多分、そちらの方を運ぶのは無理かと」
「え? 何でよ」
「――時間を操る能力が効きませんでした。
 ですからどう足掻いても歩きでしかお連れする事が出来ません」
「……それ、本当?」

レミリアが睨むように俺を見てきた、其れに俺は少しばかりたじろいで肩を竦める。

「お、俺には何も分からない。
 けど、咲夜がそういうならそうなんじゃないか?」
「ええ、事情は割愛させていただきますが、確かに時間を操っても何故か効果が及びませんでした。
 ですからもしお嬢様が時間を止めて彼を運ぶという事をお望みでしたら、其れは無理だと言わせていただきます」

咲夜の言葉にレミリアは「う~……」と、唸りを上げる。
其れを見てさとりは少しばかり首を傾げるが――

「では地底に――」
「はあ? 貴方の地底までどうやってこの――に、んげ――ん……。
 兎に角、コイツを運ぶ気?
 神社裏の間欠泉から運ぼうものなら、たちまちの内に体調でも崩しそうだけど」
「おや、知らないのですか?
 最近では山の神社傍から地底まで下りられる、エレベーターのようなものがあるのですよ?
 其れを使えばただのヒトでも安全かつ苦労せず下りてくる事ができます」
「あはは、それはそれは愉快な意見ね。
 けれども其れを山の神が許すかしら?」
「少なくとも、お空が協力しているのですからその主である私にも使用許可ぐらい下りるでしょう。
 其れに、今使っている薬が先ほどの事柄と絡むのであれば必要なのは精神的な治療――
 そうじゃありませんか?」

そういわれて俺は少しばかり黙る。
確かに、この薬は精神的なものだが――其れで治療を要するといわれた事はコレまでにない。
だが、今のちょっとした消耗具合から出来れば遠出はしたくないなと言う思いがある。
それにレミリアの態度だ。このままだと紅魔館とやらにたどり着いた所で俺に休まる時間は無いに等しいと思う。
うげはぁ……、むっじいの。
けど、今更やっぱりもう一日待ってくれと言うのもだっさいので選択する。

「――えっと、紅魔館行くわ。
 地底行ってもなんだか大きくは変わらないだろうし、じゃあ紅魔館から地底へと行く方がいいかな」

~☆~

「予想してねぇ、絶対こんなのは予想してねぇ!!!」
「口は閉じてなさいな、舌噛むわよ?」

博麗神社を後にした俺は、レミリアにしがみ付きながら高速で地表を移動している。
どうにも咲夜が時間を操っても効かないのなら、最高速で館にまで向かう! とか言ってレミリアが息巻いているのだ。
その結果がコレで、一歩地面を蹴るたびに緩やかな弧を描いて地面に着地する、そして再び地面を蹴って加速すると弧を描いては着地する。
その繰り返しで背後の方では地面が面白いくらい土を巻き上げている。
俺はレミリアの胴にしがみ付いている、身長差から考えれば俺の膝がどうやっても地面に着くだろうとは思ったのだが――
考えが甘かった。
速度が早すぎて俺の身体は宙に浮きっぱなしだ。

「咲夜っ! 咲夜さん!!! お願いだから助け――」
「――御自信の力でどうにかされてはいかがですか?
 『英雄さん』」
「何だそれ、何だよ其れ! 何が英雄だようぉ~い!!!」
「ちょっと、ちゃんと日傘構えててよね。
 痛いんだから」
「その前にもう風圧で傘ふっと――
 あ゛~っ!?」

傘が風圧で飛ばされそうになる。
片腕をレミリアに回しているとしても、傘だけは死守しなければならない訳じゃない。
俺も死にたくない!
けど傘もさしてないとレミリアが灰になるから大事で――
どう考えても力量不足以外の何物でもなかった。
ふわりと浮いた傘を腕力と手首の力で何とか押し戻そうとするが、それでもどうにかなる訳でもなく……
傘が、完全に、浮いた。

「あ~、やっべ――」
「はい、とうちゃ~く」

傘に気をとられた、その瞬間に俺の体へと物凄い負荷がかかった。
一コマ目、レミリアの後ろへと靡いていた筈の俺の体が前へと押し出された。
二コマ目、レミリアへとまわしていた腕がそのままするりと抜けて完全に宙へと投げ出される。
三コマ目、吹っ飛ばされた先には大きな建物と門が見えた。其処には赤い女性が居る。

「うわぁぁああああぁぁぁああっ!!!!!?
 ――やべやべやべやべぇ!」

手にしていた傘の角度を変える、自分の体勢を整える、そのまま二十mも下に見える地面へと着地した後の倒置法で衝撃を殺そうと考える。
しかし面白い事がおきる。
このまま普通に考えれば高所から落下して、そのまま足から地面へと着地。その勢いを殺すように地面へと転がる筈だった。
けれども手にしている傘がボフンと大きな音を立て、そのまま空気を大きく抱きしめて落下の勢いを殺してくれたのだ。
高校時代、仲間の啓介が同じような事をしたが傘がぶっ壊れたというのに。

「――お~い、早く傘返して」
「待てよ、せめてあと少し高度下げさせ――っと」

十mほどゆっくりと降りた俺は、今も視界の仲でさらさらと黒い煙を上げるレミリアのためにも傘を閉ざした。
当然落下速度は上昇し、そのまま地面へといん――せき? いん――力?
まあ何でもいい、地面に縛り付けられる力によって堕ちてゆく。
其れを足で着地し、そのまま倒れる事無く膝と全身を屈むように前倒しにして着地する。
あんまり衝撃を感じなかった。

「あいよ、日傘」
「そこは貴方がさしてくれる場面じゃない?
 咲夜、日傘」
「分かってますよ、お嬢様」

放り投げた傘をレミリアが受け取るが、開く事もせずに咲夜へと渡す。
咲夜も少し遅れてレミリアへと追いつくが、遅れてきたのには理由がある。


『――時間を止める事も遅くする事も出来ないので、私は少し遅れます』
『え? 何でよ』
『憶測ですが。私が時を止めたとしても、其処の大地には効かないでしょう。
 つまり時を止める度に静止と動作にはさまれるわけですが――
 もし今夜の夕餉をお肉にしたいのでしたらお止めしませんが』


という事で、咲夜はレミリアの後をついてくる形で追って来ていた。
咲夜に言わせると「主人の傍をこんな形で離れるなんて」との事らしいが、別段気にした風でもないのが面白い。
咲夜の言いたい事は難しくて分かり辛かったが、つまりは箱に何か入れてシェイクするように俺へと負荷がかかるって事なんだろうと理解しておく。
咲夜がレミリアに寄り添い、俺は肩から提げた鞄と腰に帯びた鞘を押さえながら傍に有る大きな館と門へと目をやった。

「……ここが紅魔館か」

そう言ってから鞘へと伸ばしている手を見て、一度だけ剣を半ばばかり出し、そしてしまった。
――別に其処まで剣呑たる雰囲気や、そんな予感や予感を感じ取っている訳じゃない。
けれども新しい未知の場所へと踏み込むのだから少しは得物があるという意味で安心したかっただけだ。

「あら、緊張してる?」
「緊張はしてない。ただこれからどうなるか分からないからな。
 少しばかり気を引き締めていただけだ。
 で、入ってもいいんだよな?」
「まあね。と言うか、そうやって弄って楽しむのは後でにするわ」

後でって何だ、後でって。
と言う事はやはり早計だっただろうか?
後でやっぱり地底の方が良かったかも知れないと愚痴を洩らす羽目になるのだろうか。
そうならない事を祈るだけだ。

「お帰りなさいレミリアお嬢様。
 その方が、ここ数日話題にしていたヒトでしょうか?」

門の内側から誰かが出てきた。
あ~っと、確か本で目にした覚えがある。
確か紅美鈴、中華妖怪だったか? 中華娘だったか――確かそんな感じだったはずだ。
本と殆ど似た外見をしている、資料はそれなりに旧いらしいが其処まで変わらないのは人間じゃないからだろうかね。

「あ~、っと。初めまして、かな。だよな?」
「あはは、始めましてですよ?
 ――私は紅美鈴。言っておきますと『中国』という呼称は正式なものじゃないので、出来れば名前で読んでくださいね」
「何言ってるんだか、中国が」
「門を護ってくれるなら何でも良いわ」

美鈴の発言の後に続く咲夜とレミリアの鋭い発言。
美鈴が困ったような笑顔を浮かべる、その眼の端には薄らと光るものが見えたような気がした。

――『師匠になにするかぁぁぁあああああ!!!!!』――
――『香山さん、僕と勝負です! 覚悟してください!』――
――『な!? この前のは、お遊びですらなかったという事ですか……!』――

「なあ、ここは他にも門番って居るのか?」
「いえ、私だけですが」
「……そうか」

脳裏に誰かが一緒に居たような映像が流れる。
シルエットはかなりいい加減だが、確か男だったような気がする……
しかし、居ないのならばいない。それ以前に居たとしたら何でそんな事を俺が知っているという事になる。
残念ながら虫の知らせ、勘の様なモノは――今の所何も俺に教えてはくれなかった。

「コレから数日――」
「え? 数日で済む訳ないでしょ、何言ってんの」
「――じゃなく、暫く厄介になるかもしれないから。よろしく頼む」

どうやら数日ではすまないらしい。
レミリアの発言に少しばかり嘆息しながらも頭を掻き、それから手を差し出した。
握手だ、少なくとも挨拶になるだろう。

「あはは、了解しました」

そして美鈴も手を出してくる。
俺の手と美鈴の手が重なり――

「――っ」

一瞬ピクリと、美鈴の表情と手が強張った。
俺も一瞬それに反応して手を引っ込めてしまう。
拒絶されたような感じで、少しばかり心臓が痛む。
そんな俺に気が付いたのか、美鈴は慌てて首を振った。

「あ、すみません。
 手が余りにも冷たかったのでビックリして……」
「――さっきまで高速で中空を舞ってたしな、体が冷えてても仕方が無いよな」
「では、改めてもう一度……」

そう言って今度は美鈴が先に手を差し伸べる。
それに俺が手を再び伸ばして美鈴の手へと重ね、しっかりと握った。
今度は驚かれる事も無く、しっかりと腕を動かす所までする。

「それじゃ咲夜、大地を部屋に案内してあげて」
「分かりました。けどその後はいかがしましょうか」
「適当でいいでしょ。
 何か思いついたら呼び出すから、それ以外の時はフリーって事で」

――レミリアさんや、其れは招いておいて言うべきセリフじゃないような気がするんだが気のせいか?
普通は用があるから呼ぶのであって、呼んでから要件を考えるだなんておかしい。
しかし今更文句を言ったところで始まらないので肩を竦めるだけに止めておく。

「それじゃあ、はいりましょう」
「了解。
 それじゃ、またな」

美鈴と別れ、レミリアたちについて紅魔館へと入ってゆく。
――ここでの生活はどのようなものになるだろうか?
少なくとも、和食がメインでは無さそうだ……



大地が去った後、美鈴は握手した手を見つめていた。
そしてその手を握り締めては開く、その行為を幾度と繰り返す。

「……あの気は、何ですか?」

美鈴の手には未だに大地の手から伝わった冷たさが残っている、その冷たさは体温だけではなく目に見えないものとして美鈴を冷やしていた。
『気を使う程度の能力』、其れが彼女の持つ力だ。
それが大地に握手で触れた瞬間に彼の気を察知したのだ。
気に関しては暖かいヒトも居れば冷たいヒトも居る。別に冷たいからどう、温かいからどうと言うわけでは無いのだが――
美鈴が触れたときに感じ取ったのは、全てを凍て付かせるほどの『無』だった。
空虚、空っぽ、何も感じることが出来ない。にも拘らず恐ろしいほどまでに、本能が恐怖によって忌避したがるほどの無を感じたのだ。
深淵を覗き見て、その奥深く底の見えない闇の谷底へと怯えるような嫌悪感。
そして氷で作ったような楔が、彼女を蝕んでいるかのように手を冷やし続けた。
それも暫くして徐々に戻るのだが。

「……悲しい気ですね」

美鈴は、大地から感じ取った気をそう断じた。
何も無いほどに空虚な気をもたらした彼に、そんな気を放っている事が哀れだと、可哀想だと言う。
手に残った僅かな感触、其れを美鈴は握り締めて潰した。
もう冷たさも無も記憶の中にしか残っていない。
少なくとも、今は。

~☆~

「此処が貴方の寝泊りする場所になります。
 今後この部屋を使って生活してください、急用があれば傍にある呼び鈴を鳴らせばいっしゅ――いえ、直ぐに来ます」

レミリアは何処かへと去り、俺は咲夜に案内されて此処を使ってくれといわれた。
担いできた鞄も、腰に提げた鞘も傍に有る大きなベッドへと放る。
多分ダブルベッドと言うヤツだろう、ダブルだから二人分眠る事が出来るんだと思う。
じゃあ三人眠れるならトリプルベッドなのだろうか? だとしたら今ここにあるベッドはトリプルベッドなのだろう。
真ん中と左右に一人ずつ、三人も眠れるとは中々やるな。

「――ベッドを見つめてどうかしましたか?」
「いや、こいつも結構頑張ったんだなと思って」
「……?」
「とりあえず有難う。
 今の所用事は無いけど、簡単なこの館についての説明とか見取り図でも有れば嬉しいかね。
 暇じゃないだろうし、一人でプラプラ歩いてみようかなと思う」

何の予備知識すらないこの館。
散歩でも出来そうなくらいに広いのだと俺は感じた。
ならば一人で何の当てもなく歩いたとしても面白いだろう。

「その手に持っている毛玉は?」
「迷いそうな時はこいつの出番さ。
 何処かに括りつけて、そのまま探索する。
 んで帰りたい時は糸を手繰って行けばいい、簡単だろ?」

名案だといわんばかりの毛玉を弄んでいると、咲夜は頭に手を当てて大きく溜め息を吐いた。
その行為がどういった意味を持つのか俺には分からないが、正か負で言うのならば負なのだろう。

「……まあ、メイド妖精も居る事ですし。滅多な事は無いでしょう。
 何か有れば彼女たちに話しかけてみてください、多少は役に立つでしょう」
「成る程。大よそ身内とか同僚に対して言うようなセリフじゃあないな。
 一体全体何を考えてる?」
「――はあ。メイド妖精とは其処までメイドとして質が高いものではないのですよ。
 なので仕事も未だこなす事で精一杯です、そのようなメイドが果たして役に立つとでも?」

咲夜の物言いに、首筋がチリと焼けるような痛みを伴った。
無意識で其処を押さえ、痒みが有ったかのように少しばかり掻く。
そしてフツリと、何かが滾る様な感じがした。
まるで水が沸騰するかのように、胸中から何かがこみ上げてくる。
其れが何なのかは分からないが、かみ締めた奥歯と供に眉も少しばかり険しく寄せられた。

「――怖い顔をしないでくださいます?
 別に侮蔑や嘲るような物言いで彼女たちを冒涜した訳じゃありません。
 元々妖精の気質から、其処まで仕事に向いて居ないと言うだけですわ。
 ですからその寄せられた眉をはなして下さいまし」
「別に俺は――」
「そのお顔で怖い顔をしてないだなんて仰られても信じられません。
 はい、鏡をどうぞ」
「――……、」

傍の机に置かれていた鏡を渡される。
其れを手にし、俺の顔を移すが――数cmほど眉が下がって寄せられていた。
何故? どうして?
何故かは分からないが、とても不愉快だった。
眉の間を指で解しながら鏡を返す。

「……とりあえず出歩いても問題は無いってことだな?」
「ええ、一応は。
 ですがもし必要だというのであれば、その毛玉をお使いになられたら宜しいかと」

言われずともそのつもりだった。
咲夜と供に部屋を出て、ドアノブに結び付けてから床を転がして行く。
そのまま何処に向かうのかは俺にも分からなかった。

――???――

毛玉を蹴り転がした俺は、そのまま毛玉が堕ちていった地下の方へと向かった。
地上の階層よりも空気がひんやりとしている。
それどころか明りは壁に灯された燭台や蝋燭だけだ。
暗い――筈なのに、何故かその暗さに眼は慣れていた。

「……ふ~ん、此処がそうだって言うのか」

壮大な独り言、頭の悪そうなセリフを吐いてみる。
ただ毛玉が転がった先に扉があって行き止まり、廊下の突き当りといった所なのかもしれない。
もうそろそろ毛玉もつきそうなので、ここに入って何の部屋か確認して戻ろう。
そう考えた俺は扉へと手をかける。
手が触れた瞬間、硝子が砕けるような音が何故か聴こえたが――どうやら何も無いようだ。
そのままノブをひねり、中へと入る。

「……懐かしい」

懐かしい? 何が。
不意に口を突いて出た言葉に自分でビックリする。
その言葉がどういう意味や意図を持って吐き出されたのか俺には分からないが、吐き出した理由は何と無く肌で感じていた。

一歩足を進める/路地裏のような汚さを感じる
暗さが何とも言えない雰囲気を醸し出している/光と言うものから縁遠い場所、汚らしい場所
空気が澱んでいる/腐臭を感じた
足が何かを引っ掛ける/まるでゴミが散乱しているかのようだ

――ああ、懐かしいというのは間違いではなかった。
路地裏、入り組んだ都市の魔宮のような感じがするのだ。
建物の内部ではない、外部だけで構成される迷路。
其処からふと上を見上げれば空へと向かうのを拒むような鉄パイプや電線、外付けの機械やらがゴテゴテと空を侵食している。
見上げた空ですら殆ど灰色だ、青空なんて生まれてから死ぬまで見る事も出来ないようなものだ。
そしてその路地裏には汚いものが集う。
ゴミ――其れは廃棄物と言う意味でも、生き物と言う意味でも取れる。
辞書で調べて出てくる『スラム』という単語が似合う場所だ。
能力者が警察のような働きをする『風紀委員』、そして『警備隊』などもその複雑な構成に手を出せずに居るような一種の安全地帯。
その世界に入ると、喧嘩や不良グループのたむろも当たり前。
それ以上の事は知らないが、拓郎が言うにはあそこには居ない方が良いと言われるくらいだ。
足を動かせばゴミを蹴る、何かを踏み潰すのが当たり前で――
今も、俺は紅魔館の地下で何かをパキリと踏み砕いた。

「?」

地上の階層に比べて此処は使ってないのだろうか?
誰も踏み入らないから倉庫代わりにしているのかもしれない。
この部屋は何故だか蝋燭や燭台ですら無いので、扉から入ってくる明りでも既に薄暗くて何も見えなかった。
じゃあどうすべきか。
そこまで考えて俺はポケットに入っている携帯電話を手にした、連絡しても電波が繋がらないので写真や動画を取ったり見たりすることしか出来ない、役立たずの箱。
待ち受け画面が白に近いので、その光量は携帯でもそれなりに明るくなることだろう。
そうやって俺が踏み潰したものを見ると――

「何だこりゃ」

白い棒になにやら赤黒いものがこびり付いている、黄土色をどす黒くしたような何かがくっ付いているが其れが何なのか分からない。
けれども部屋にこびり付くような空気と同一のものらしく、部屋の匂いの一因はこいつが担っているようだった。
けれどもそのサイズは小指程度だ、部屋の空気を丸ごと穢すには全然足りないくらいだ。
立ち上がって周囲を見るが、どうやら木箱やら樽やら棚やらが置かれているくらいで何かが見つかる感じではなかった。

「――……、」

探しても仕方が無いので、手にしたその何かを捨てようとした。
けれどもあろう事か間違えて携帯電話を手にしていた手を背後へと放ってしまう、ゴミのような何かを手にしたまま明りだけが部屋を乱雑に照らしながらどこかへと消えていった。
そしてゴンと言う大きな音、それに俺は驚いて背後を見た。
携帯電話が使われていない棚へと乗っていた、どうやら棚へとぶつかったようだが――
今の音を聞いて、ただ棚へとぶつかっただけではないように思えた。
今度こそ手にしていたものを放り捨て、携帯電話を胸ポケットに差し込むと棚へと両手を宛がう。
そして思い切り動かすと、その後ろに僅かながら隙間が見えた。

「宝でもあるってか?」

その隙間が気になり、俺は思い切って棚を動かした。
扉が一つ設置できるくらいの道がある、その先はやはり真っ暗だ。
背後を見て、何の気配も感じない事を知るとそのままその空間へと入り込んだ。
歩く、歩く、歩く。
胸ポケットに入っている携帯電話が先を照らしてくれるのだが、直ぐに扉を見つけた。
迷う事無く開き、その部屋へと入って――

「……なんだ、これ?」

呆れた。ただただ呆れた。
扉の先に有ったのは小さな部屋、そして鉄格子だ。
鉄格子はまるで何かを飼うような、何かを閉じ込めるようなものだった。
携帯電話を手にしてそちらへと明りをやると、その中には沢山のガラクタが転がっている。
――いや、ガラクタなんかじゃない。ガラクタなんかじゃあ、無かった。

子供の遊び道具として人気なサッカーボール。
絵本に使うようなクレヨンや色鉛筆。
ちゃんばらごっこをするような木の棒。
ぬいぐるみの着せ替えに使うような服。

一瞬で俺がそうだと認めたモノは、光を当てて良く見れば一瞬で違うものへと変わってゆく。
ボールは頭骨だ、真新しいだろうソレから白く腐り堕ちる小さな玉が二つ程見えている。
クレヨンや色鉛筆だと思ったモノは、大小さまざまな指、そして骨。
ちゃんばらごっこに使えそうな木の棒は、多分脚の骨だ。
そしてぬいぐるみの着せ替えに使う服だと思ったモノは、たぶんそれらが着ていたであろう服の残骸だ。
夥しい屍の山、新旧揃って鉄格子の中で腐りはてている。
先ほどから懐かしいと思っていた空気は、この部屋へと入ったことでそのおどろおどろしさを十倍以上に高め上げていた。
扉から一歩踏み出せば石造りの床は赤と垢、そして黒によって支配されている。
その黒は血や内臓だけじゃない、生者『だった』彼らの髪の毛までこびり付いている。
この部屋だけでも既に死が満ちている。

「お、ぐぇっ!」

死、シ、し。
其れを認識した瞬間に言いえぬものが胸をこみ上げ、そして思い切り床へと履き散らかした。
まだ昼の博麗神社で食べた食べ物が消化しきる事無く床に叩きつけられるが、その消化されきっていない食べ物を見て更に吐き出す。

「あら、見てしまったのですか」
「!?」
「封印してまで隠していたのに――」

誰かが背後に居る、部屋の入り口で蹲る俺の後ろに誰かが居る。
其れが誰なのかを認識するよりも早く、俺の意識は綺麗に刈り取られていた。



「咲夜、大地は?」
「さあ、存じ上げませんが」

レミリアが大地を呼ぼうとしたが、その大地が見つからない。
荷物だけ置き去りにしたまま、綺麗さっぱり消えてしまったのだ。
レミリアは苛立ち、咲夜も探したのだが数日で諦めた。
どうやら消えてしまったのだと。

「あ~あ、せっかく良い遊び相手を見つけたと思ったのに」
「遊び相手と言う認識で招かれるのもどうかと思いますが」
「もう良いわ。見つけたらタダじゃおかないんだから……
 それで、そろそろお腹がすいたけどご飯は何?」
「ええ、今日もお嬢様が好きな血を混ぜておきました。
 多分これで幾らか気が晴れるかと」
「でも、B型じゃないわよねあれ」
「ええ。O型の血液ですね」
「何時までその血を使うの?」
「在庫がなくなるまで、でしょうか」




――現在(イマ)――

「……やっぱやめとこうぜ相棒。
 その部屋はなんだか嫌な予感がする」

毛玉がぶつかって止まっている部屋を前に、俺は言いえぬ嫌悪感と空寒い空気を感じ取った。
其れが何なのかは分からないが、確実にいえるのは俺の能力「勘が鋭くなる」と言うものが何か危険を察知したのだろう。
何の危険があるのか分からないが、今まで俺の危機を救ってきてくれたのだから信じるに値する。
よって地面に転がる毛玉を手にして扉から背を向けた。

「さ、ってと。
 それじゃ何処に行こうかね……」

糸を巻いて玉を膨らませながら道を戻ってゆく。
少しばかり張られた糸は、未だに切れる事無く宛がわれた部屋までの道を確保してくれていることだろう。
さて――

「巻いて、巻いて――」
「回って、回るぅ~」

――グルグルと糸を巻いている途中、背後から俺の知らぬ第三者の声が聞こえた。
幼いような可愛らしい声。
誰なのだろうと気になってゆっくりと振り返ると、姿が見えるよりも先に宝石が見えた。
――宝石? 七色の飾りが良く映えるものだが。
更に振り返ってゆくと、そこに居たのは幾分小さな女だった。
黄色い髪の毛、赤い服、そして何か――木の枝のようなモノが宝石をぶら下げている。

「……誰だ?」
「そういう時は自分が名乗るものだよ」

叱られてしまった。
しょうがないので「大地。香山大地」と名乗ると小さな女は「へ~」などと言う。
何が「へ~」なのか聞きたいものだ。
そして俺が名乗るのを聞き入れた彼女は笑顔のままに名乗る。

「私はフランって言うんだ!」
「『フランドール・スカーレット』だろ?
 知ってる」
「え、何で知ってるの!?」
「本で読んだ」

そう言ってこの前呼んだ求聞史紀の内容を思い出す。
白黒だったし、読んだとしても一字一句覚えていられるほど賢い訳じゃないので宝石のようなものについては完全になんだコレ状態だった。
しかし見てみれば似ている、色を付ければこうなるだろうと理解できる。
手帖をズボンのポケットから取り出してさらさら眺めるが、どうやらコイツがフランドールで間違いないようだ。
そして、レミリアの妹だとか。

「初めましてだよね?」
「初めまして、だな」
「外から来たの?」
「幻想郷の外から来た」
「鼠 牛 虎 兎」
「竜 蛇 馬 羊」
「あっぱれ」
「あっぱれ」
「褒めて遣わす」
「ありがたき幸せ」

矢継ぎ早に色々といわれ、少し面倒だなと思いながらも答えてゆく。
――糸の張りが無くなった。
どうやら何処かの誰かが糸を切ってしまったようだ。
小さく悟られぬように溜め息を吐いて、そのままフランドールを見る。

「んで、ここで何をしてる?」
「お兄さんこそ何してるの?
 ここ暗いのに」
「今日来たばかりだから、館の中がどんな感じなのか分からなくて。
 調べるついでに探検」

俺の頭にではなく、視界で光る画面が情報を得てくれている。
俺が経験したり、視界に入れたり、感じた事で勝手に館の見取り図を作ってくれているのだ。
まあ残念な事に、この見取り図は個人の完成とか感覚で大きく出来が変わる事も有るので共有できるかと言われたら難しい。
しかもこの機能は本来解放されていない。
なので違法ハックとして処罰される可能性もあるが、今じゃ其れを取り締まる相手もいないので大丈夫だろう。
背後で弛んだ糸が道を教えてくれている。
それを見てどうしようかと悩んだが、その悩みは一瞬で吹き飛んだ。

「じゃあさ、私が案内してあげるね!」









※ 私をあげてもいい
萃香としては「良いメリットが有るから精々頑張れ」と言う意味で言った。
別に恋慕の情を大地に抱いている訳ではない。

※ 料理好き
両親が居なかった為に自炊が必須とされていた。
そして幼い頃に面倒を見てくれた「さや姉」の教育の下、家事に対して行う時は決して手を抜かず真剣にすべしと賜った。
料理に関しては一般家庭とお店で出す料理を足して割った程度のものだが、料理店でバイトをした時に余りにも客が増えてしまったために辞めた事があり、店長が大地の料理に関して色々口出しした為である。

※ 誰かが泣いてる
大地の見た事も無い人物で、聞いた事も無い声。
髪は白銀、眼の片方は紅かった。
女性なのだが、何故かTシャツとYシャツを着ていたとか。

※ 『師匠になにをするんだぁぁぁあああああ!!!!!』
大地は知らない人物。

――と言う事はさて置き、本家ニコニコ幻想郷の管理人だったUさんのキャラクター『スイ』である。

※ 違法ハック
ナノマシンで本来民間人が出来る事は皆無で、機能は全て封じられた状態で注入される。
しかし大地は仲間の一人啓介の発案でナノマシンをハック、機能を解放している。
出来る事は『自分の状態を確認する事』『チャット(相手の視界に文字を飛ばす)』『通話(言葉を相手に飛ばす)』『データの閲覧(マップ、電話帳など)』。
ナノマシンは管理されている訳ではなく、定期健診の時に機械によってエラーが無いか状態などを確認される。
本来であれば改竄されている事がばれて警察沙汰になるのだが、それに関しては大地の知りえぬ所で色々な思惑が絡んでいる故に見逃されているだけに過ぎない。

※ 風紀委員
能力を開発する事で青少年の能力を使った犯罪が増える中、それらに対抗するグループとして作られた。
全ての学校に存在し、自分の所属する学校だけではなく他の学校や警備隊とも連携して治安維持にあたっている。
大地が時々懲罰としてここでの活動を行っている。
成績は良くないが解決率だけは良い、ついでに負傷率も高い。
ちなみに懲罰なので手当ては出ない、お手伝いとしてのお小遣いはもらえる。

※ 警備隊
風紀委員が学生で構成されているのに対して、此方は大人が所属している。
正式の隊員と志願したボランティアの隊員が居る。
能力が無いという点では圧倒的に劣るが、その代わり装備においては能力者を取り押さえる為にも強力なものを持てる。
風紀委員に任せない危険な仕事を行う、場合によっては風紀委員と脚を並べたりもするが、逆に風紀委員に手を引かせて事件を引き継ぐこともある。
何度か大地は保護及び指導を受けた経験があり。