エルムさんから63話が届きました。



これを見て何を思う?
これより前を見て何を思う?
これより先を見て何を思う?

ただただ一本の線しかない
それは不変にして当たり前、所謂常識と言う名がそれにはある
それに沿えばこの物語は語る必要などなかった
それを守ればこの物語が問題作になることもなかった

線はとても細く感じる
たとえ誰もが居心地のいいものだと思おうとも
だからズラした
物語は一変した

貴方にはこの物語が真面に見えますか?
貴女にはこの物語が理解できていますか?
あなた方にこの物語は面白く映っていますか?




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一方的だったわけではない。
それでもいずれ、負けるであろうと予想はつく。
目の前に迫る土塊が服を裂き、皮膚を削る。
隣に立つ仲間は息が上がって少しばかりふら付いている。
何度庇って手傷を負ったか、数えるのも忘れてしまった。
目の前の巨体が再び迫った。
あぁ、いつまでこちらにとって無駄な戦いは続くのだろうか。
そんな泣き言も、ため息も飲み込み応戦する。

「慧音!しっかり前見ろ!来るぞ!」

声を張り上げると同時にふら付いていた仲間の身体が横薙ぎされた土塊に吹っ飛ばされた。
辛うじて防御したようだが受け止めた武器が虚しい音を立てて地面を転がっていく。
手首を押さえた仲間の目の前に立つ巨体。
見るからに不気味なその姿は化け物と呼ぶに相応しい風貌で。
鉤爪のようなその腕が振り下ろされるよりも先に未だ動けないでいた慧音を突き飛ばす。
咄嗟に腕を交差して構えたところに掛かる超重量の衝撃。

「妹紅!?」

悲鳴のような声で名を呼ぶくらいならこの状況を打破する知恵でも絞ってほしい。
再生するこの身体に限界はないものの態々痛い思いをしたいわけではないのだから。
とはいえここから先ジリ貧以外の展開が思いつかないのだが。



目の前の怪物、拓真は強かった。
こうこうこうだから強い、なんて付随する言葉をつけるとすればとても簡単なものになる。
こちらの攻撃が全く当たらない、だから強い。
表現するとすればそれだけだ。
それだけの表現でどれだけ脅威に感じるかは戦っている私たち自身が一番よくわかる。
何とか保ってはいるものの長引く、と言うよりいつまでも続く戦闘に慧音も私自身も疲弊しきっていた。
自分たちだけが傷を負うなど最早戦闘とすら呼べないかもしれないが。
土に身を包んだ拓真は巨大な体躯そのままに腕を振り回す。
最初はそれを避けることなど容易く、また攻撃を行う隙もあった。
しかしこちらの攻撃が通ることはなく、疲れから防御した怪物の一撃に精神的余裕など吹き飛んでしまった。
焦りだしたこちらを狙ったかのように攻撃の手を早めた拓真に徐々に追い込まれていくのに時間はさほど掛からなかった。
それから先は危ない攻撃を最小限の動きで避け続ける、ある意味作業的な動きを繰り返していた。
何度かこの場から離脱しようかと試みたが、動きを見せた途端に拓真の視線は人里へと向いた。
ここで逃げれば人里を襲う、確信めいたその考え故に逃げることも叶わずにこの場に拘束され続けている。
けれどそろそろ体力的にキツイ、慧音も限界が近いだろう。
せめて攻撃さえ通すことができればまだ希望があるのだが。
そうやって色々と考えているうちに拓真がこちらへと迫ってきた。
鉤爪を振り上げる姿を視認し回避行動に移る。
そこで何かが引っ掛かった。
服は破れてるし、防御した時の痛みは本物。
こちらの攻撃は当たらないが拓真が攻撃してきた時、私は確かに拓真に触れている。

(少し試してみるか……)

拓真の攻撃を避け、先程慧音が防御した時転がっていった剣を拾う。
慧音の能力により具現化した神剣だが手から離れ私が触れた後も未だにその存在を保っていた。
それだけあの巨犬に、拓真に恐れを抱き力を込めたということなのか。
しかし伝説の神剣も当たらないのでは意味がない。
名ばかりで無用の長物でしかないそれ、だがこの方法ならあるいは…。



慧音が横合いから攻撃したことで拓真の意識が私から逸れた。
その隙に何度か試した後ろからの攻撃を再び行う。
大きく振りかぶり右上からの袈裟切り。
その斬撃は土塊に届くことなく、磁石の同極を近付けたかのように逸れていく。
攻撃に気付いた拓真は攻撃を続ける慧音にも構わずこちらへと振り返った。
敵がいながら後ろを振り向くなど攻撃が当たらないことへの絶対の自信の成せる行為だ。
拓真が先程同様爪を振り上げる。
慧音はまだ攻撃を続けながら避けろと叫ぶがそれはできない。
再び腕で叩き付けられる爪を防御する、ただし今度は片腕だけだ。
尋常でない重量感が骨を軋ませ体の至る所へと痛苦を撒き散らす。
この瞬間私は拓真に触れていた。

ズンッ

防御した私の腕越しに神剣を拓真の爪に突き刺す、微かに肉を裂く感触を感じた。
泥の塊を貫通した神剣に拓真はかなり動揺しているようだ。
今まで当たることがなかった攻撃が突然届いた、その事実は奴を大いに焦らせたことだろう。
例え攻撃が届かなくとも相手側の攻撃は届く。
ならば触れたところを直接攻撃してやればいい。
どうやら私の考えは当たっていたようだ。
怪我を負ってもある程度大丈夫な私ならではの攻略法。
この方法なら上手くいく、自然笑みが漏れた。
その笑みを見て爪を離そうと縦横無尽に私の身体を振り回す土塊、けれど神剣に縫い付けられた私の腕はそれを許さない。

「覚悟しろよ……化け物!」

神剣の柄を握り締めた私は一気に体を燃え上がらせた。
その姿は化け物に組み敷く火の鳥のように見えるのだろう。
神剣から伝う炎と熱で突き刺した部分が焦げ、中身を焼いていく。
炎が浸透する表面からも乾いた土がぼろぼろと零れ落ちていく。

【『放せぇ!』】

おそらく能力を行使したのだろう、私の手は極自然に神剣の柄から離れていた。
けれどそんなの関係ない、私の身体は神剣によって拓真に縫いとめられている。
手を放したところで纏う炎は消えやしないし、神剣を通して奴の身体に熱を送り続ける。
猛火に焼かれながら苦しむ拓真は正気を失ったかのように暴れ始める。
神剣の突き刺さる腕を我武者羅に振り回し続けていた奴はただ暴れても無駄であるとようやく気付いたようだ。
熱と痛みに耐えながら顔をこちらへと向けて爪を振り被る。
直接攻撃して払い落そうというのか。
痛くはあるものの死にはしない私にとってそれは別段怖いことではない。
しかし今私が引き剥がされてしまうと拓真の攻略手段が消えてしまう。
神剣で縫い付けるという捨て身の手段でようやく当たる攻撃。
今距離を取ってしまえば拓真には二度と触れられない気がする。
ここで放れてしまってはダメだ。
そう決意して剣の突き刺さった腕に力を込める。
己の筋肉が剣に切断されていくと同時に引き締め掴む。

【放、れろおぉ!】

(っ!)







腕は振り下ろされたはずだ。
けれど腕以外に痛みを感じない。
何時まで経っても拓真が振りかぶった爪は届かない。
爪は、青い透明な板に阻まれ静止していた。
これは……

「霊夢、やって!」

「神霊「夢想封印」!」

七色の光が私達へと殺到し視界を埋める。
博麗の巫女が来たのか、とどこか呆ける自分。
自分たちの敵を攻撃しているのだから味方と判断してもいいのだろうが。
諸共に攻撃するのは如何なものか。
しかも拓真には攻撃が届かない、あれこれ私しかダメージなくない?
一瞬のうちに攻撃した巫女に対して恨みめいた感情を募らせると共に私は拓真と共に吹き飛んだ。
自分の名前を叫ぶ慧音の声が聞こえる。
一応無事ではあるが事と次第によっては巫女ども絶対に許さん。
……待て、何で拓真まで攻撃を受けているんだ?

【お前は……ノラシャか!】

「悪いけどあんたのズレ、正させてもらうわ」

【くそ!】

どうやら拓真に攻撃が届くようになったらしい、ということは。
私が一番攻撃できる位置にいるということ。
楔として自分の腕に突き刺さした神剣を引き抜く。
異物が抜ける感触にゾワリとしながら取って返して拓真の腹に突き刺した。

「攻撃が届くなら、もう単なる雑魚だよなぁ!」

このまま一気に決める、と思った瞬間後頭部に強烈な衝撃が走る。
がっ、と呻き声をあげると共に身体は地面に投げ出された。
一体何が……。









「妹紅!?」

目の前で、妹紅が倒れる。
理解が追い付かない。


拓真が妹紅に爪を振り下ろす少し前、いきなり真横に裂け目が出来たと思ったらそこから霊夢が二人、そして自分の生徒が飛び出してきた。
赤いドレスを纏った霊夢が拓真の方へと手をかざして、もう片方の霊夢が妹紅の方へ結界を滑らせながらスペカ宣言。
今まで散々攻撃して届かなかった私たちの苦労を一蹴するように彼女の攻撃は妹紅を巻き添えにして拓真に直撃。
何故、どうしてと疑問は尽かないがその時点で思考は介入者よりも敵を倒せるということに切り替わっていた。
妹紅も同じらしく、自分で突き刺した剣を引き抜くと拓真へ向ける。
ヤレル
そう思った視界の隅で霊夢が何かを振り被っていたのを私は見逃していた。
拓真の胸を剣が貫く、と同時に妹紅の後頭部に陰陽玉がぶち当たる。
転がっていく妹紅の体を尻目に霊夢達は拓真の方へと駆け寄っていく。
何が何だかわからなくて私は膝をついた。











「拓真!」

邪魔者を吹き飛ばして異形の姿と化した拓真へと霊夢が駆けていく。
その後を私と共に少年が付いていく。
呆然としている慧音の方をちらちらと盗み見しながら小走りする少年。
どこか後ろめたさを感じさせるその表情を見て私は彼に大丈夫だよ、と告げる。
ビクンと体を揺らした彼はおどおどとした表情でこちらを見上げた。

「大丈夫、君は悪くないから。安心して」

彼はただ、獣たちを救いたかっただけ。
例えそれが人里にとって都合の悪いものであったとしても。
誰かのために立ち上がったその勇気は褒めるべきだし、私は尊敬する。
それもあってか私は自分よりも小さな少年が無性に羨ましくなった。
彼は、明生は私と、私たちとは違う。
拓真ともクゥともノラシャとも違う。
私たちは我儘だ、いつも自分の事しか考えていない。
他人のことを思っているようでその実自分の事しか頭にない。
その考えの犠牲者の一人が目の前で拓真を心配する人物なのだけど、さて……。

「拓真!返事して!拓真!」

何度も何度も彼の名前を呼びかける霊夢。
拓真は黙ってる、お腹に剣が突き刺さったまま。
そんな彼の心中は……想像したくない。
この場にいた少女二人の疲弊ぶりを見る限り、怒っているなんて表現は生易しいくらいだろう。
それに私までいる、次好き勝手したら殺されるって前言われてたし。
まぁ既に結構好き勝手しているんだけれども。
彼のズレを吸い取り、彼の絶対防御を崩し霊夢に攻撃させた。
下手したらこっちに攻撃してくるかもしれない。
ただ霊夢なら、彼の居場所でもある彼女なら何とか許してくれるんじゃないかな、とどこか期待もする。
そうして拓真が大人しくしてくれているうちに私が彼の狂気であるズレを吸い取り一般人の思考を呼び戻す。
だからできれば霊夢には静かにしててほしい、動かないのならそれはそれでこちらとしては助かるから。
流石に今の彼女の焦燥ぶりを見てはそこまで酷なことは言えないけれど。
今はただ、彼女の呼び掛けによって覚醒しないでくれ、と心の中で唱え続けるのみ。
そんな私の願いも空しく拓真はその土塊の身体を揺らした。
霊夢の表情に喜色が混じる。
まだ生きているという希望が見えたからだろう、腹に剣刺さってるけど。
こちらとしてはとても喜んでいられない、彼の狂気はまるで底が見えてこないのだから。

「拓真?わかる?私のこと、わかる?」

意識があるか、それを確認するため霊夢が声を掛けた。
だけど拓真の声は、とても冷たかった。

【何で邪魔したの】

「え……?」

【妹紅は、自分で引き剥がせた。むしろお前たちのせいで……】

そう言って腹部に刺さる剣を見た。
まるで生きてるかのように剣の表面を彼の赤黒い血がうねってる。

「だって、いくら妹紅が死なないからってあんなことしたら」

【いいじゃない、別に】

殺すつもりだったんだから。
そうサラリと言った。

「ッ……駄目よ!」

【何で?】

それがどうしてか本当に分かってない。
わかりきってたことなんだけどな、こんなこと。
だけど霊夢はわかってない、私たちと言う存在がどういう風に考えるのか。

「当たり前じゃない!妹紅は顔見知りよ!そんな、殺すなんて」

【だから何?】

「だから何って……拓真、あんた本気で言ってんの……」

【当たり前じゃない、むしろ霊夢の方がどうかしてる】

立ち上がった拓真は霊夢を見下ろす、威圧感がすごい。
それに、怖い。
今にも襲ってきそう。

【霊夢は僕の味方じゃないの?】

拓真が霊夢に向かって言葉をかける。
素朴な質問だった、けれど霊夢は言いよどむ。
はたから聞けばそれは確認だけど、拓真からしたらある意味押しつけだから。
彼女は拓真の居場所、拓真の能力で無理矢理作った歪な関係。
だから霊夢は拓真の味方、拓真はそう思っている。
けれど彼の味方であっても霊夢にとって妹紅は顔見知り。
殺したくはないって思うのは当然。
矛盾する気持ちに霊夢は顔を曇らせる。
拓真は答えを待つように沈黙している、空気が重い。

「私は、あんたの味方よ……でも、だからって妹紅たちを攻撃するのを黙って見ているわけにもいかない」

【……】

「確かに慧音たちがあんたの知ってる妖獣に手を掛けたのは許せないことかもしれない。でもね拓真、妖獣は妖獣なの。あんた達外来人にはわからないかもしれないけど妖怪も妖精も鬼も、人間じゃない、人間とは相容れないモノなのよ」

【紫たちも……】

「そうよ、今は外来人のおかげでスペルカードルール制定時よりも人間と化生の距離がぐっと狭まった。けど、慧音たちのしたことが……これが本来の形なのよ」

【だから、殺しても良かったって?妖獣になってない動物たちまで】

「いずれ妖獣がその子たちを率いていたかもしれない、そう考えることもできた」

【そんなの人間の言い分じゃない】

「えぇそうよ、わたし達人間の、あんたを含めた人間の言い分よ!」

あ、今地雷踏んだ。
二人の流れるような言葉の掛け合いを聞き入っている場合じゃなかった。
止めるべきだった。
霊夢は私たちの、拓真の思考回路がわかってない。
わたし達は……

【人間……くっ、ははは……あは、ははははははははははははははははははは」

「え?」

笑い声が、鮮明になっていく。
血に濡れた土の塊が水分を失ってさらさらと崩れていく。
乾いた砂が地面へと零れ落ちる。
そして核となっていたモノが姿を現した。
その腹に剣を突き刺され、腕から未だに血を滴らせるそれはただ笑い続けた。
その姿形はある種滑稽で、だから逆に不気味だった。
霊夢は動揺する、笑うほど面白い発言などしていない。
そんなの傍から見ていた私たちだってわかる。
でも私はわかってしまう、彼が、拓真が笑っている理由が。

「はははははははははははははははは……ねぇ、霊夢」

「っ……何?」

笑うのを止めて拓真が霊夢を見る。
拓真に見つめられ戸惑う霊夢、当然かもしれない。
その瞳は黒い、何もかも吸い込みそうな穴の様に。
何度か見たことがあるんだろうそれは彼の感情が昂っている証拠。
感情が狂気に直結して隠しきれてない所為。

「ふざけるな!!!」

「ッ!?」

叫びに霊夢の肩が揺れる。
怒りだなんて生易しい、今にも吹き飛ばされそうなほどの迫力に霊夢の後ろにいた私たちは後退りさえしてしまう。

「人間?腹にこんなのぶっ刺されて、平気でいられるのが人間か!?これだけ血を流して生きているのが人間だっていうのか!こんな……っ!」

激昂した拓真はどうやらまったく痛みを感じていないようだ。
狂気による賜物か、彼は傷付いても全く動揺していない。
それどころか自分の腹部に収まった剣をいとも容易く抜き放つ。
彼の血で汚れた剣は刀身をグネグネと捩じらせる、まるで生き物のように。
単なる狂気だけでは説明できない、それとも狂神と呼ばれる彼の狂気だからこそなのか。
彼はその剣を傷付いた自分の腕に振り下ろす。
隣にいた少年の目を覆うとしたけど間に合わなかった。
ボトリと腕が落ちる。

「あ……な、何やってんのよあんた!腕、自分の腕を……斬り、落としちゃって、どうするつもりよ!?」

狼狽する霊夢、いや、この場面で狼狽しなければそれこそ異常だ。
彼から生まれた私ですらこれは引く。
私が生まれた満月の日の虐殺で経験しているはずなのに、目の前の“腕が落ちた”という光景に吐き気を覚えた。
片腕から大量の血を流す拓真。
彼の表情に痛苦の様子は見られない。
まるで、腕が落ちたという事実が嘘のように。

『血』『腕』『繋がれ』

三言。
彼は口にしただけ。
それだけでこの世の常識なんてものは異質へと上書きされる。

「血が……」

隣に立つ少年が呟く。
彼の言うとおり、血だ。
拓真から流れ出る血がまるで触手のように練り動く。
それは落ちた腕を拾い上げるとその先を腕の断面へと押し付けた。
まるで血管が通っているようだった。
動きを確かめるように指を鳴らしながら腕はするすると拓真へと接着された。

「切れたって繋げればいい。さて、……これが、霊夢の言う人間なの?」

腕が千切れて飛ぶ光景は、満月の夜に何度か見た。
そして命令で繋ぐ瞬間も。
けれど目の前で行われたそれのおぞましいこと。
所詮能力だ、この幻想郷にはただの人ですら能力を持っている。
なのに頭で拒否してもどうしても本能が警鐘を鳴らしてしまう。
目の前に映るそれは狂神。
正真正銘の化物だと。

「僕は何なの。僕は何でこんなことになってるの!僕は人間なのに疎まれた…。けど妖怪にもなり切れない。どちらでもない僕は、化け物でしかない!!」

「そん、なこと……」

ない、と霊夢は言い切れなかった。
体が震えてる、怖いんだろう。
無論私もだ、怖くない、なんてどれだけ頑張ったって言えない。
膝が震えてるもの……。

「ないと言い切れるの?僕の姿を見て怖気付いてる霊夢が」

拓真も僕たちの様子はわかりきっているようだ。
若干見下しながら、或いは失望した様子で吐き捨てる。

「でも、私は……」

「無駄だよ霊夢。拓真は君の言うどんな理由でも聞いてくれない、このままじゃ慧音たちを殺すまで、人里を滅ぼすまで止まらない」

もう、霊夢じゃ無理だ。
たぶんこの場にいて拓真を止められるのは、明生くらいしかいない。
ただこの綺麗な少年に拓真の穢れが受け止められるとは思えない。
今の目の前の光景ですでに頭はパンク状態だろう。
私でも……止めるのは、無理。
だから、今この時を先延ばしする。

「でも拓真、ここでのんびりしててもいいの?」

「……何?」

眉をひそめる拓真、今はとにかく言葉を連ねるしかない。
話を聞いてくれるうちに言えるだけ言わないと。

「もしかしたら、逃げた動物たちはまだ生きてるかもしれない」

「そんなはずない、追ったの光真だから……逃げ切れるわけない」

「本当に?」

「……」

まだ付け入る隙はある。
私たちが介入したことで彼は一時的に戦闘を中断した。
こちらの言葉に耳を傾けてくれている。
だから少しだけ揺らしてやればいい。
起こった事実を許すことは出来ないだろうけど、頭を冷やす時間を作ることならできるはず。

「もしかしたら逃げ延びた子たちがいるかもしれない。もしかしたら、今行けば助けられる子たちがいるかもしれない」

「仮定だ、そんなの」

「でも絶望的状況が確定したわけでもない、そうでしょ?」

「……お前の考えはわかってる」

「だとしても、暴れて少しは溜飲が下がったあんたはここを離れるはずだよ。もしかしたらと言う希望が残っている限り」

拓真が押し黙る
そうして少しだけ、私の後ろを、たぶん明生を見たんだろう。
彼が小さく拓真の名前を呼ぶ。
拓真は口を開けては閉めを繰り返し、そうして命じた。



『接続』『生きている』『居場所』



拓真が腕を振るう、その先に無理矢理こじ開けられたスキマが現れた。
一つだけ。
一か所に集まっているのか、それとももう一個体しか生きていないせいか。
最後に命じたそれは個体名でも地名でもない、だけど彼の中での固有名詞。
それは獣たちのことを指している。
何て残酷なことをするのだろう。
目の前に、自分が縛り付けたそれがいるというのに。
もしもそれが“彼女たち”のことを指すのであれば、そんなことにはならない。
少なくとも3つ4つスキマが出来なければおかしい。
つまり彼は自身の中で破棄したんだ。
目の前にいる霊夢を含んだ、命令で無理矢理作った偽の居場所との関係を。

「え……拓真……えっ……?」

どうやら霊夢も気付いたらしい。
日頃から居場所居場所と言われていれば当然かな。
だけど言葉を掛けれる程余裕はないや。
今は拓真の事だけで手一杯だから。

「救えたらいいね」

「…………」

彼は一度明生の方を向く。
明生の方を見て、少し悲しそうな顔をした。
そうして彼はスキマへと身を投じる。
私たちはそれが閉じるまで彼の後姿を見守った。
スキマの向こうに見えた紅い紅い色が目に焼き付いて
背けることが出来なかった、のかもしれない。

「ここからが大変、なんだよね。さて、まずはどうしよう」

ひとまずこんなことになったってことを知らせなきゃいけない。
永琳とか…他に偉い人なんてわからないけど、クゥが何とかしてくれるはず。
あぁでも気が重い、何て伝えればいいんだろう。
拓真が
いや狂神が、怒り狂って暴れた挙句行方をくらませました、なんて……。






あとがき
お久しぶりでございます
前回投稿が去年の10月を過ぎたころ
既に半年ほどでようやく続きを投稿できました
本当、何やってんでしょうねぇ
何時になったら終われるんだか
まぁ、気長に待っててもらえたらいいなぁ
実は書き方を大幅に変えたものだから書くのに四苦八苦して放置しちゃったとかry

次回

絶望の底なんて更に掘り下げれば幾らでも、けれどその先に光明も得たり

幻想狂神記64 リミット

お楽しみに