書名 :『競馬の快楽』
著者 :植島啓司
出版社:講談社
出版年:1994年2月20日
定価:583円(税別)
植島先生による競馬エッセイである。植島先生については以前『賭ける魂』という本をご紹介した際に述べた。この人は文化人類学を研究する大学の先生なのだが、競馬やギャンブルが大好きで、たまにこういう本を書くという方である。いろいろと本は書いている人なのだが競馬に関する本は本書と『賭ける魂』の2冊しかない。先に書かれたのが本書なので本来であれば『賭ける魂』より先に紹介しておくべきだったのだが、あとになってしまって申し訳ない。一応、講談社現代新書から出ているのだが内容的には競馬・ギャンブルエッセイといった風情で学術的な要素はあまりないので、研究目的で購入しないようにだけご注意いただきたい。
◆賭ければパラダイス
植島先生の特徴として、色恋沙汰や酒、ギャンブルなど、世間一般では「のめりこみすぎると危ないよ」とされているものを賛美する傾向にある。本書もそんな感じだ。賛美とまではいかないが、いかに人生において賭けるという行為が刺激と楽しみを与えてくれるか、というトーンで書かれている。荷桁自身もアルコールとギャンブルにはかなり依存しているほうだと思うが、ここまで肯定している本を読んでしまうと逆に自分が心配になってこないわけでもない。ただ、競馬をたしなむ方であればそれなりに楽しく読めるくだりが多い。特に好きな部分は引用の引用なので恐縮だが<食事をゆっくり楽しみ、飲んで愉快になり、宝クジで夢を見る。そのために仕方なく働くのが、人間というものよ」>というスペイン人女性が言ったという一言。ギャンブルをやらない人間にとっても生き方を考えさせられる一言だ。
◆旅打ち要素も
発行が1994年なので、既に古い記述が多いとは思うが、旅打ち的な内容も多数収録されている。マカオ、タイ、そして植島氏が長く滞在していたアメリカの競馬がけっこう細やかに紹介されている。旅打ちを前提とした書ではないので、あくまで内容はそのときの馬券談義に終始しているのだが、場外馬券売り場をはじめ、当時の雰囲気などを知るには貴重な証言が多い。当時日本には単複枠連しかなかったので、アメリカの夢のある馬券に対してかなりの憧れがあったようなのだが、WIN5までが日本でできるようになって、いやはや日本も追いつきつつあるんだなと実感する。
◆血だらけになるような快感が欲しい方は是非
通して、読みやすく面白い本なのだが、真骨頂は実はあとがき。ギャンブルは「負けた時どう振る舞うべきか」を教えてくれる、からはじまり、ギャンブルは人間の深層心理を学ぶにはもっともおあつらえ向きなんだと続き、自分がいったい何者なのかということがお金をちょっと賭けてみただけで次第に見えてくると来ており、ここまで来ると「さすがに言い過ぎw」と思ってしまうが、植島氏らしくていい。さらに氏はこう続ける。<血だらけになるような快感が欲しい。「遊びは身を滅ぼす」って?それこそこちらの望んだとおり!>・・・もう好きにしてください!!でも何だかんだ言って、わたくし自身けっこう影響を受けた本の一冊です。絶版なのでネットや古書店で見つけたら是非。
満足度:★★★★☆
旅打度:★★★☆☆
破滅度:★★★★★
勉強度:★★★☆☆
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