母親は実家と縁を切り家を出てから私を産んだので、母方の親戚に会ったことはなかった。

初めて彼らと会ったのはまだ十歳にならない頃、祖父がもう長くないと診断された時。
母さんは「ごめんね、でも一応私の両親なの」と謝りつつも私を連れて行った。
ボロアパートの一階で私達を出迎えたのは痩せこけた母親の姉(叔母さん)と、知能障害を持ったその息子さん(従兄、年齢は中学生ほど)。
見た目からしてそれと分かるんだがとにかく何故か喋らない動かない表情変えない。
失礼ながらも不気味に思いつつ祖父母のいる寝室に手を引かれて向かう。
寝室に居たのは、床に伏せって目も虚ろな祖父とその隣に座る祖母。
祖父は痴呆症のようで正しい介護を受けているようには見えず、部屋は妙な異臭がした。
変な仏壇や壷、仏像なんかも見えたけど、それは子供心に見ないことに。

で、いきなり祖母は言い出した、
「私達がこうなったのはあんたらのせいだ」と。
どうやら妙な宗教に傾倒している祖母は私達に信仰がないせいで祖父はこうなり、そして従兄もああなってしまったと。そ
して始まった非難と宗教の勧誘。
気の強い母とヒステリックな祖母は直ぐに激しい口論になり、途中で母親が「外で待ってて」と私一人を玄関から出した。

暇だった私はアパートの周りをブラブラと散歩し、アパートの裏側に座り込み休憩。
暫くその状態で涼んでいたら何故か急に体が震えるほどのひどい寒気がして、反射的に立ち上がったら後ろからガシャン、と音がした。

なんだ? と振り返ったらさっきまで座ってた場所に粉々になった植木鉢。
恐る恐る上を向いたら、アパートの屋上から無表情の従兄が覗いてた。
外したのを知ると、どっから持ってきたか知らんが瓦?だの石だのを私に向かって投げてくる。
これどこのゲームだよと思いつつ(やけに冷静だった)死に物狂いで避けながら逃げたよ。

それだけなら別に怖くもなんともないんだけどさ、
確かに見ちまったんだよね。
無表情の従兄の横、こっちをきっと睨みつけてた、彼のお母さんの姿をさ。

「お母さん、お母さん!」と叫ぶと母親が部屋から飛び出てきて、何も言わず私を車に押し込んで出発した。
十数分走ってから道端に車を駐車し、私がぽつぽつと事情を説明すると、「ごめんね、ごめんね」と何度も呟いて、 私をぎゅっと抱きしめながら…
どの位かな、三十分は泣いていたかな。

気の強い母親が何故家を出たのかはなんとなく分かったけれど、痴呆の父親を介護しながら宗教に狂った母親の面倒を見て、自分は女手一つで障害持ちの息子を育てなけりゃならなかったその叔母さんのことを考えると、ああやっぱり自分は家族は持てないやと今でも思う。
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