2021年10月18日 00:54

★食欲の秋★

 ゾンビ映画みたいなタイトルですが、さにあらず。「庇を貸して母屋を乗っ取られる系」のサスペンスです。


 ひき逃げで妻を亡くした建築家の書振(金武烈)は、幼い娘・藝娜(朴敏夏)を連れて実家に戻り、足の不自由な母(芮秀貞)、父(崔尚勳)と共に暮らし始めます。書振には妹がいましたが、25年前に一緒に遊園地に出かけた際行方不明になっていました。父母の無言の非難を感じ取っていた書振は何となく実家を敬遠していましたが、妻を亡くしたショックで神経を病んでいる上藝娜を抱えていてはどうすることもできません。

 そんな中、民間のNPOから成人した妹・宥珍(宋智孝)が見つかったという連絡が入ります。
 再会した書振は直観的に違和感を感じますが、看護婦をしていたという宥珍の気配りと優しさに父母は感激し、人見知りする藝娜までもが「叔母さん」と呼んで彼女を慕っては何ともしようがありません。

 不安を感じた書振はせめてが藝娜に接触する機会を減らそうと、家政婦(蘇熙靜)にそれとなく監視を頼みます。
 ある日、宥珍と家政婦は藝娜が通うバレエ教室へ送迎に出かけますが、その途中、見知らぬ男(李海雲)が宥珍に気付くや否や血相を変えて追いかけてくるのに遭遇します。宥珍は全く身に覚えがないと言い張りますが、帰り際、その男は地下駐車場で殴り殺されているのが発見されます。
 その日を境に家政婦が失踪。書振は捜索願を出そうとしますが、宥珍が家政婦は男と逃げたと証言したためウヤムヤになってしまいます。

 家には宥珍が連れてきた聾唖の理学療法士(崔英佑)や、その恋人と名乗るメイド(金承菲)らが住み込むようになりますが、それと同時に父母の体力が極端に弱くなり、ついには痴呆一歩手前の状態になってしまいます。

 宥珍の身辺を調査した書振は、彼女を発見したNPOが存在しない幽霊会社であること、病院で紹介された後輩看護婦(張星允)がモデル斡旋所のタレントであることを掴み愕然とします。
 ところが宥珍は偽看護婦であることは認めたものの、妹であることは断固主張。普段は痴呆状態の父母も、こと宥珍のことになるとムキになって擁護し始め、藝娜までもがこれに同調します。

 自宅に戻った書振は、風呂場で家政婦の死体を発見、驚いているところを突然何者かに襲撃されます。相手はNPOの代表と名乗った男(李濟延)で、しかもかつて妻をひき逃げした相手じゃありませんか。
 彼等は胡散臭いカルト宗教の信者で、宥珍と名乗っている女はその最高幹部でした。
 無垢な少女をご神体と崇める彼らは、「素材」のいる家族を洗脳しては子供たちを誘拐しており、地下駐車場で殺された男も被害者の一人でした。
 書振の妻も信者でしたが、教団のヤバさに気付いて脱会を決意したため消されてしまったのでした。

 犯人をKOした書振は急いで帰宅しますが、実は信者だった精神科の主治医(徐賢宇)によってメンヘラ児童虐待野郎の濡れ衣を着せられ、逮捕されてしまいます。

 脱出した書振は、山奥にある教団施設に急行、宥珍と激闘の末、藝娜を取り戻すのでした。



 ウォルポールの短編小説『銀の仮面』でお馴染み、遺産狙いの乗っ取り系ネタと思いきや、二転三転するストーリーの面白さがまず良。宋智孝演じる自称「宥珍」の真の目的を最後まで隠しているため、結末に至るまで飽きることなく見ることができます。家政婦の死体発見からひき逃げ犯人の出現、カルト教団の登場に至って怒涛のように押し寄せる「伏線の回収」には思わず前のめり状態です。

 教団一味が洗脳に使用するのは胡散臭い薬物。食事に混ぜたりアロマテラピーよろしく室内に噴霧したりと、あの手この手で家族をヘロヘロにしていきます。その上で嘘八百を耳元で囁くと、それをコロリと信じ込むという次第。ここではターゲット=書振の心を折る方法として、家族に罵らせるという手法がエグさ満点。幼い頃に妹の手を一瞬離してしまったことがトラウマとなっている書振は、母親から「お前が手を離したせいでこんなことになった」と面と向かって罵倒され、クラッシュ寸前に追い込まれます。娘に拒絶されるシーンも辛かったけど、一番痛々しかったのはここでしたね。

 過去の書振は仕事中毒のあまり家庭を顧みなかった訳ですが、その負い目に付け込んで「妻の死はお前の責任だ」と追い込んでくるのがこの手の商売のヤバいところ。実際こういった自己責任の押し付けはどこの世界でもありますよね。

 書振は初対面から宥珍を疑っていましたが、最後まで「もしかしたらホンモノでは?」という疑念を消しきれていません。
 劇中でも彼女が本物だったのかニセモノだったのかは最後まで明らかにされず、ラストに届いたDNA鑑定の結果を、書振が中身を見ずにシュレッダーにかけるところで終幕となります。
 クライマックスで崖下に転落しそうになった宥珍は、手を掴む書振に向かって「あの時のように手を離すのか」と詰め寄りますが、書振は「たとえホンモノでもお前は妹ではない」と言い放ちます。風船の色が違っていたことが書振の決断の後押しをしますが、これは本当に宥珍の記憶違いということも考えられます。
 もしかしたら彼女は本当に宥珍その人で、最初に持参した血液鑑定書も真実だったのかもしれません。しかしたとえホンモノであっても、血を分けた姪をカルト教団の生贄にするような女は、書振にとって妹ではないのでしょう。

 悪役に徹したヒロイン・宋智孝は、『コードネーム:ジャッカル』や『新しき世界』など、コメディからシリアスまでなんでもこなせる上手い人。そういえばこの人もデビューは学園ホラー映画でしたね。

 組織の巨大さの割りに宥珍以外の敵がショボい気もしますが、、ラスト直前に至るまでの主人公の追いつめられっぷりも半端なく、家族の犠牲者がゼロという後味の良さも含めて、まずは楽しめる作品でした。

(原題:表示できませぬ 2020年公開 韓国映画)

  —スタッフ—

監督 : 孫元平  
製作 : 張元錫
脚本 : 孫元平
撮影 : 白允錫
美術 : 李内京
録音 : 金基南
編集 : 金昌柱 
特殊効果 : 李政浩

  —キャスト—

宥珍 : 宋智孝
 
書振 : 金武烈 

母・允熙 : 芮秀貞 
父・聖哲 : 崔尚勳 
娘・藝娜  : 朴敏夏  
朱刑事  : 許俊碩 
家政婦・正林 : 蘇熙靜 

英春 : 崔英佑 
熙秀 : 金承菲 
範錫 : 李濟延
朴尚久 : 李海雲  
尚文 : 崔 源 
妍珠 : 張星允 

書振の子供時代 : 金秀賢
若い頃の允熙 : 申慧京 
ハヨン : 李佳賢 
幼稚園の先生 : 鄭藝真 
建築会社の社員 : 申熙哲 
機械室の警備員 : 池成根 
医師 : 李耀成
看護師 : 韓慧芝
不動産屋 : 朴慶贊  
アナウンサー : 裴琉璃
喫茶店の客 : 李昌元  
瑞妍 : 尹瑞珍 
信者 : 金珍玉

韓医師 : 徐賢宇 

(敬称略)

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