書き逃げ旅団

兵は詭道なり

■対戦ロスター■
Tank Duel (GMT Games)
Wild Blue Yonder (GMT Games)

雑記

2023年の総括

まあ今年も、日常生活に支障が出るほどいろいろプレイしました。
デジタルアナログひっくるめまして、お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

という次第で、今年プレイして印象に残った作品をシェアしていきたいと思います。


まずはデジタルから。

シージの面白い部分をつまんで、エイリアンと戦うPvEシューターに作り替えた傑作。
任務のバリエーションとオペレーター能力のシナジーが面白くて、なんかひたすらプレイしていた。

DEATHLOOP
偏執的なまでに作り込まれたマップと、シューターとして気持ちのいい動作感。最高の吹き替え。これは良かった。

ミステリ系は、投げっぱなし犯罪捜査シミュレーターの『The Painscreek Killings』、音だけで事件を解明していくアイディアが秀逸な『Unheard ー罪の代弁ー』と当たりが多かったが、これはやはり別格。
シナリオの完成度がほかとは一味違う。

職業系シミュレーターなら、これが今年のベストかしら。『ハウスフリッパー』もそうだけど、いったん破壊してから再構築していくプロセスが面白い。


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この程度はヒヨッコである。



そしてアナログ

Pacific War (GMT Games) 
いろいろ誤解していた部分もありますが、シナリオは十分にプレイアブルだし、ちゃんと面白い。
フルキャンペーンもやってみたいけど、ライフタイムイベントって感じですね。

1812! (Compass Games) 
米英戦争をフルマップ2枚で? という意外性からの想像以上の面白さでした。

Seas of Thunder (GMT Games) 
大胆なデフォルメで、WWIIにおける海洋での戦いを再現した野心的なタイトル。万人にはオススメできないけど、とにかく個人的には最高でした。

D&Dスターターセット (WotC) 
1〜3レベルまでのキャンペーンと必要なルールをセットにした、現代版の赤箱。
値段の安さに「とにかく1人でも多く沼に突き落とす」という執念を感じる。

Downfall: Conquest of the Third Reich (GMT Games) 
ユーロゲーム仕込みのタイムトラックを採用した、たいそうアバンギャルドなETOゲーム。大変に面白いけど、どえらい時間がかかるので、これまた人にはすすめにくい。

上記タイトルは、来年も引き続きプレイしていきたいですね。

ルールブックの不思議な世界

本エントリーは「War-Gamers Advent Calendar 2023」参加企画となります。


ご存じの通り、ウォーゲームのメカニズムそのものは日進月歩ですが、ルールブックに関しては大きく変化することなく、過去からのスタイルが踏襲されている印象を受けます。
19世紀ドイツの原型はともかく、少なくとも戦中のウォーゲームのルールブックを見る限り、すでに現代に近いものが完成していたと言えるのではないでしょうか。

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こちらは1940年に出版された、西部戦線をテーマにしたゲームですが、すでに章番号の記載が見られます。

ちなみに、40年にこんなものをイギリスで出版しているのは余裕というか物凄いヤセ我慢に思えますが、ルールブックに関して言うならば、いまでもこういうスタイルのものはよく見ますよね。

ルールブックの進化におけるエポックメイキングといえば、(おそらくは)『Tactics II』の発売に前後する、複数レベルの章番号を活用した階層的な文章管理手法の登場ですが、文章を「章」や「節」で分割していくのは論文のテクニックなので、そちらからの流用なのでしょう。

ルールブックの参照、検討、議論においても、論文と同様に章番号が有効であるという気付きが、どこかであったわけですね。

章番号の起源をもっとさかのぼると聖書になってしまう気もしますが、このあたりは本論ではないのでおいておくことにします。

でもまあ、ルールブックの体裁というものが、ここ60年ばかり劇的には変わっていないという点に関しては、同意いただけるのではないかと思います。


ところがここ数年、大きな変化ではありませんが、ちょっと新しい表現手法を採用したルールブックを見るようになりました。
というわけで今回は、読んでいて印象に残ったルールブックをいくつかご紹介したいと思います。


英文88ページと、とんでもない物量を誇るマニュアルなのに、実際に読むと意外な軽さに驚きます。
普通の作品では省略するような定義や手順を丁寧に、厳密に記述しているがゆえにこの物量になっているのであって、圧縮して表現できることをあえて圧縮していない感じ。

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各章の頭に「ベテラン向けサマリー」というものがあり、「ベテランはここを読み飛ばしてもいいよ」とか書いてあるのが斬新です。
とにかくあらゆることが明快に書いてあるので、非常に迷いにくい。

コンサバなスタイルのルールブックの完成形じゃないでしょうか。
本作は、慣れればチャート1枚参照するだけですべてのプレイが可能なシンプルな作品なのに(口頭インストも1時間程度)、なんと50ページ弱のルールが付属しています。
全部ひっくるめると、タウンページのごとき厚みになりますね。

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ルールブックなのでルールを記載するのはもちろんなのですが、そのコンセプトや実際の適用を豊富な図版で事細かに説明しており、図版の割合が半分近くを占めています。
また1ページで1項目を説明するのが原則となっており、同じページに複数の項目が詰め込まれていないのが大きな特徴になっています。

こういうレイアウトの冊子は、はじめにキッチリ台割を作り込んで、どのページにどの項目を落とし込むか設計しておかないとできないですよね。
多くのルールブックのように、まずは必要な記述を流し込み、あとは折丁に合わせてデザインノートをつけるみたいな作り方はしていないはず。

見出しの立て方にも特徴があり、単なるルールの要約ではなく、記憶すべき重要なフレーズになっているのがミソかと。
キャッチを疑問形で立てているのも上手いですね。

しつこいほどの図版、テーマ性の強い見出し、そしてカラフルでデカい字。
読んでいる感覚としては、一昔前に流行ったワードやエクセルの入門書に近いものがあるんじゃないでしょうか。

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目次のレイアウトにも個性が強い。

機会があってSKの世界に入門してみましたが、初見の印象としては読みにくい。とにかく読みにくい。
ASLを含めたファミリー全体では、世界でもっとも査読されアップデートされているルールのはずなのに、初出の用語で用語を説明するといった、初見殺しの箇所が目に付きます。

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三段組で、冒頭からみっちり書かれる用語の洗礼。
慈悲も図版もない。

ところが実際にプレイしてみると、リファレンスとして非常に優秀であることに気づきます。
要はリファレンス機能に重点を置いているわけです。

そのため、ルールのコンセプトに関しては別途チュートリアルが出ており、そちらを読むことが推奨されています。
こういう思い切りの良さも、ルールブックには必要な要素かと思います。
『The Last Hundred Yards』シリーズも同じようなルール構造なので、やはりLOSとか地形とか、複雑であるがゆえの宿命なのでしょうか。

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LHYシリーズの教科書ガイドことBasic Training。オススメです。

ちなみにルールブックとしての読みやすさと、リファレンスとしての機能を上手く両立させることを狙い、基本的なルールの流れを説明する「ルールブック」+細則について個別に記載した「リファレンスブック」という構成にしている例も見ますが、必要な情報が分散しているため、あまり読みやすくはありませんでした。

複雑なウォーゲームの場合、プレイ中にルールブックを参照することが多いため、いかに必要な情報を素早く探し出せるかが重要ということを痛感させられます。

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なんと冒頭に小説というか、イメージストーリーのようなものが書いてあります。
こういうイントロは・・・アリですな!

ユーロではたまに見るけど、ウォーゲームでははじめて見ました。
小説とまではいかなくても、マニュアルポエムは大好物なので、積極的にどんどん増やしていただきたいと思います。



ついでなので、具体的な名前は挙げられないのですが、ダメな意味で記憶に残ったものをいくつか。

4人がフルに知恵を絞っても、正しいシークエンスはおろかセットアップすらわからなかった作品A。
おそらくデザイナーさんの頭の中にはきちんと機能するルールがあるのでしょうけど、それを文章化することに、致命的なまでに失敗しています。
誰もルール査読しなかったの? という意味で、ものすごくびっくりしました。

「まったく同じことが3回書いてある! しかも違う章に!」と読んだ全員に言わしめた伝説の作品B。
まったく同じことが3回も書いてあるんですよ、しかも違う章に。
おかげで80ページ超あるけど、半分は無理でも60ページには圧縮できると思う。
なにせまったく同じことが3回も書いて・・・もうやめよう。
(↑冗談抜きで、こんな感じの構成です)

ゲーム中の特殊なコマや機能を表す用語として、普通にラテン語が用いられている作品C。
相当な教養がないと、意味が分からないどころか正しい読み方すら分かりません。
正しい読み方や意味を理解をさせることより、歴史的な正確性や雰囲気を重視しているのだと思いますが、とにかくルールが頭に入りにくいので困ったところ。

この手の作品は意外と多くて、たとえばGMT Gamesの『The Barracks Emperors』のカードタイトルには、がっつりラテン語が使われています。
まあ同作の場合、カードタイトルを読む必要がないので、プレイアビリティには影響ないですけど・・・。

初出の用語で初出の用語が説明されおり、あまつさえ循環参照になった作品D。
ルールブックさん「10.6 リットについて: オフチョベット[12.1]したテフ[14.2]をマブガッド[8.3]してリットにします」
僕「うーん、オフチョベットの説明がないから、リットの意味がいまいちピンとこないな。[12.1]を参照してみるか」
ルールさん「オフチョベットは、テフをリット[10.6]したものです」
僕「おい!」

タイムマシンでやってきた未来の自分に、タイムマシンの作り方を聞くような話でございました。


最後に、ヤバいマニュアルを見たときに口を突いて出るさしすせそ。

 索引がついてないじゃないですか!
 シナリオブックにもエラッタあるんですか?
 すごく分かりやすいけど、大事なことは書いてない!
 セットアップの説明からしてダメ。
 その疑問に対するルールは存在しない。

ではまた来年

No Retreat!: The North African Front (GMT Games) 「III号戦車とマゼラアタック」

『No Retreat!: The North African Front』ってすごい不思議なシステムだよね・・・と言い続けてはや10年ですが、いったいどこが変わっているのか、日本語版がアナウンスされたこの機会に簡単にご説明しておきたいと思います。


ゲームには5枚のマップが付属する
なるほど。

ちなみにマップ3のみがハーフマップ相当、残りはクオーターマップ相当のサイズです。
まあ、ここまでは普通の話ですね。

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1〜5までのマップで、トリポリからアレキサンドリアまでの海岸線を再現します。


ターンごとに使用するマップは1枚のみ
えっ!?

それぞれのゲームターンでは、最前線となるマップのみ使用します。
つまり本ゲームにおいて、同時に2枚以上のマップを使用することはありません。

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よくよく見ると、マップ同士の連結もありません。

「要は北アフリカの戦いって、一次元の綱引きじゃろ? だったら最前線だけフォーカスすればいいんじゃね?」と喝破したパラディス先生が強い。

各ゲームターンにおいてマップの支配を確立した陣営は、次のゲームターンでは1つ先のマップ(連合軍ならトリポリに向かって、枢軸軍ならアレキサンドリアに向かって)を戦場として選択することができます。
新しいゲームターンが開始されたら、前のターンの戦場マップからすべてのユニットをフォースプールに戻し、改めて新しい戦場マップへと配置していくわけです。

かくして、アメリカンフットボールもかくやの、セットプレー式ウォーゲームが爆誕したのでありました。
これね、プレイを途中中断して再開するときは本当に楽なんですよ。
攻撃権(つまりイニシアティブ)の有無が重要なのも、実にアメフトという感じですね。

ちなみに、攻勢に失敗してマップの支配を奪取できなかったときは(競合状態となった場合)どうなるのか。
この場合、攻撃権だけが相手陣営に移動して、同じゲームターンをそのまま繰り返します。

まあこれ、イニシアティブを持っている陣営がやる気のない攻勢を仕掛けることで、時間稼ぎすることを防ぐルールなんですけど、同じゲームターンを複数回繰り返すゲームというのは、ちょっと前代未聞じゃないでしょうか。
個人的には、マゼラトップでマップ侵入して敵の侵攻を防ぐテクニックを思い出しました(わかる人にはわかる・・・といいな)。

2022の暁星たち

新作に限らず、今年プレイして印象に残った作品をいくつか。

まずはデジタルから。

とりあえず、M4シャーマン先生に「足回りがダサいってバカにしてて、すいませんでした」と謝りたい。あれは最高だ。
航空機用のエンジンに関してはどうしようもないと思いますが、生産性最優先という、ある意味合理性の産物と考えれば納得。

ちなみに、この作品以降もいくつかメカニックシミュレーターを買いましたが、ことごとく石でした。
中でも廃船の艤装をバラしまくるという『Ship Graveyard Simulator』は悪い意味でインパクトが強かったのですが、Steamのレビューでサムズダウンしたらパブリッシャーから「ごめんね。でも開発元をクビにしたから、新作は面白いと思うよ」というコメントがついて、なんかいろいろどうしていいのかわからない。


いまさらのド定番。
個人的には『Factorio』より好み。マップが物理的に広いので壮大な感じがするし、原生動物の妨害や資源の枯渇を気にしないで、のんびりやれるのも良いところかと思います。

RTSとタワーディフェンスのハイブリットみたいな作品。
想像以上に戦術性が高くて良かった。
アニメ版の設定を受けていると思うのですが、ロボが出ますね。ロボが。


次、アナログ。

円安のせいで新規購入ペースが落ち、その分、リバイバル上映がメインになったのが今年の個人的な傾向でした。

良くも悪くもとんでもなかったのがコレ。
ビッグゲームじゃないのに1日1ターンというのは前代未聞ですね。
面白いけど、今後やれる気がしない!


旧版の印象があまり良くなかったのですが、再版で化けた子。
ただしルールに不明瞭な点が多く、最後まで泣かされました。
ViEのときもそうだったのですが、細かいアップデートでシステムの根幹に関わる部分をいじってくるので、なかなかに難儀。

ダルグリーシュ先生がBGGでコミュニケーションを取ってくれれば、万事解決すると思うのですが。

マニュアルにはまだまだ改善の余地があると思いますが、GMTを代表する人気作品のひとつに成長しつつある印象を受けました。
しかし東部戦線をすっ飛ばして空挺モジュール出してきた理由は、未だによくわからないです。

あと、イギリスは今のところ車両しかないので、イタリアと抱き合わせてアフリカモジュールが欲しいところ。


フランスからの刺客。
正直なところ南北戦争というのはフレーバーで、綱引きメカニズムのユーロゲームなんですが、基本がとても面白いしフレーバーも最高にマッチしていると思います。

ちなみにナッツ君は、およそ3年遅れのスケジュールで回している『SAIGON 75』をよろしくお願いしますね。
2023年にも中国には旧正月がありますよ!



ではまた来年。

さすがですよクリスティーさん

本記事はWar-Gamers Advent Calendar 2022に投稿されたものです。
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ここ最近はアナログだけじゃなくてPCのゲームで遊んでる時間も多いのですが、中でも周期的にハマっているのがメカニックシミュレーター。
まあ要はエンジニアになって、いろんな機械をバラしたり組み立てたり操作したり破壊したりする職業体験系のやつです。

僕が、ある日突然マーリンエンジンの話しかしなくなったり、戦車のサスペンションの話しかしなくなることがあるのもその流れなんですが、まあPCゲームの話は本筋ではないので、コチラでもご覧ください。


で、今年のテーマなんですが、数十台の戦車の足回りをバラしたり組み立てたりしているうちにひとつ気になったことがあったので、この機会に考えてみたいと思います。

「クリスティー式サスペンションって何?」

いろんなゲームやっていると、名前だけはよく聞くサスペンション形式。
ただしいろんな資料を見ても、言ってることがみんなバラバラなんですよね。
結局のところ、クリスティー式サスペンションとやらの定義は何なの? という話になります。

Christie M1931やその直系の子孫であるソ連のBTシリーズ、イギリスの巡航戦車あたりを見ると、リターンローラーのない大径転輪の採用が目に付きます。
これこそが、クリスティー式サスペンションの要件なのでしょうか?
うーん。どうでしょう。

BT_-_7M
BT-7の足回りはこんな感じ

ちなみにクリスティーの特許公報(Suspension for vehicles)は、今でもこちらで見ることができます。

ええ、さっぱり読めませんね・・・。

でも僕の解釈が間違ってないなら、この特許は大きく3つの要素から構成されているように見えます。
すなわち、

1) 履帯を外してホイール走行できるよう、スプロケット(駆動輪)からロードホイールに動力を伝達する機構
2) 独立懸架の採用
3) 上下のストロークを大きく取るための工夫

というあたり。

コンパーチブル機構を実現しようと思うと必然的に大径転輪になるのですが、履帯による走行しかできない形式も想定しているように読めますから、絶対的な条件というワケではなさそうです。

独立懸架に関してはルノー FT-17あたりをバラしてみたいところですが、それまでなかったアイディアなの? という驚きはあります。

しかしWWII期の戦車に限るならば、 3) がもっとも重要なポイントじゃないでしょうか。
これが具体的にどういう機構かと言えば、こういうこと

僕自身は、「ロードホイールをアームで保持することで、長いスプリングを置かなくてもテコの原理で大きなストロークを確保できる」ことが特許の要点だと解釈しましたが、本当に合っているかどうかはよく分かりません。

現行の戦車を見る限り、トーションバー方式がサスペンションの最適解であるのは間違いなさそうですが、WWII大戦初期に関していえばクリスティー式が先進的に見えます。


KF51パンター(下半分はレオパルト2)もABRAMS-Xも、結局はトーションバー方式でコンサバな感じ

もちろんクリスティー式にも欠点はあって、よく言われるのが、
1) ロードホイールの重量が大きいことによるスプリングへの負担増
2) 設置圧を減らすための対策が必要であること
3) 履帯の上部にテンションがかかりにくいので、履帯が脱落しやすい
4) ロードホイールに隠れる形でスプリングが配置されることが多く、整備性が悪い
といったあたり。

いやちょっと待てよ、そもそもスプリングにかかる車体重量を考えると、ロードホイールの重量なんて誤差の範囲に思えます。
むしろスプリングの本数に関わってくる話なんじゃないんですかね。

ポーパシング(前後への揺れ)が発生しやすいという話もありますが、これはちょっと分かりません。
まあ、現行メルカバがコイルスプリングを採用してるくらいなので、利点が上回るのでしょう。
ちなみにM4が採用したVVSS(そしてHVSS)は2つのホイールを連結させることで、設置圧の分散とポーパシングの低減を実現していますね。

履帯のテンションに関しては、リターンローラーを廃止することで整備性を向上させるというメリットもあるので、表裏一体でしょう。
泥濘地を前提にしたソ連のT-34が泥詰まりを避けるためリターンローラーをつけたくない意図は分かるし、アメリカのM4が脱落しにくい履帯を追求するのも分かります。


同じくリターンローラーを廃止したティーガー。
前輪駆動のせいか、意外と履帯がバタついているのが見えます。


ちょっと話がズレてきましたが、改めて定義の話に戻ると、狭義のクリスティー式サスペンションは「ホイール走行が可能なもの」になるんでしょうけど、広義だと前出のメルカバをひっくるめて「転輪ごとに独立したコイルスプリングを備えたもの」であれば、かなりの数が該当する気がします。
やっぱり難しいですね。

ところで「クリスティー式サスペンションは高速走行に適している」と書かれているのを良く見ますが、これも根拠がよく分かりません。
転輪が大きいことでクロスカントリー性能が優位になることはあっても、なぜに速度が?

結局はスプロケットを何回転で回すことが出来るかであって、スペック上の最高速度に関してはエンジンと車重、変速機の性能だけに依存する気がするのですが・・・。
BT-7が速いのは、15トンない車体を450馬力のエンジンで動かしてるからですよね?

まだ分からないことは多いのです。


最後にオマケ「ハーフトラックの謎」(再掲)

これは別のところでも書いたネタなんですが、ハーフトラックつまり半装軌車両についての話です。

そもそも、WWII期間になんでハーフトラックみたいな中途半端なオフロード性能しか持たない車両が重宝されたのか、物凄く疑問だったんですけど、これも変速機をバラしてみたらすぐに分かりました。

完全な装軌車両はレバーで左右の履帯を独立して操作し、曲がるときには左右の回転数を変える必要があります。
そのためどうしても変速機が複雑になるし、操作も難しくなってしまうのですが、ハーフトラックならば前輪のハンドル操作で曲がることができるんですね。

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エンジンからの動力は、ドライブシャフトで左右の履帯に均等に伝わる。

ハーフトラックは装軌車両と比較して明らかに操縦や整備が容易ですし、乗員の育成も楽だったんじゃないでしょうか。

ちなみに、ドイツのハーフトラックやケッテンクラートには、ハンドルを切ると内側の履帯にブレーキがかかる機構が採用されており、ケッテンクラートなんかは前輪を外した状態でも曲がることができたようです。



まさしく、戦車バラし道は奥が深いのであります。
それで結局何が言いたいのかという話なんですが、GMTのセールで勢い余って『Tank Duel: Expansion #1 – North Africa』まで買ったので、こんどやりましょ!
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