2009年02月03日

「チャンスの女神の髪型は、前髪しかない・・・プッ!変な髪形・・・。」菱沼康介(映画家)



よく言われる言葉に、「幸運の女神には前髪しかない」「幸運の女神の前髪をつかめ」というのがあります。
「前髪しかない」=「後ろ髪がない」。
後ろ髪がないから、背後からはつかめない。
そう、この言葉は、「チャンスをつかまえる好機は、それが近づいてきたときであり、過ぎ去ってから気づいても、もう手遅れである」ということなんですな。
でも、前髪しかない女神って・・・。
そんな酔狂な髪型って・・・。
女神と前髪で、韻をふんでるだけの発想なのかしら?
で、女神関係といえば、ギリシア神話ではなかろうか、と調べてみた。

ありました。
どうやら、元は、幸運の女神ではなく、好機の男神カイロス。
☆“カイロス”(Kayos)は、ギリシア語で「切断する」という動詞に由来するギリシア神話に登場する神で、チャンス、好機を司る男性神。ゼウスの末子。前髪は長いが、後頭部は禿げた美少年の彫刻で表されており、両足には翼が付いているとも言われている。★
(☆〜★の文は、【ウィキペディア】からの引用)
では、なぜ男神から女神に?

どうやら、女神とは女神テュケのことらしく、kairos(opportunity=好機)と tyche (chance=好機)という単語の意味の類似からの混同で、無名な男神カイロスから有名な女神テュケへのすり替えが起こっただけみたい。
でも、男神より、女神の方が、チャンスがつかみにくいものだってのを表しているよね。
だって、後頭部つるっぱげで、前髪だけ長髪の美少年が近づいてきたら、そりゃ、びっくりして、見送るし、それが美女だったら、なおさらですもの。
でもさ、いくらチャンスとはいえ、“女性の髪をつかむ”という発想はなかなか出てこないよね・・・。
そういう意味でも、チャンスは、つかみにくいものだということを示しているのかもしれぬ。
実は、チャンスは、けっこうあったりするのに、つかめないのだと。

まさに、それはおいらの経験からも言える。
一回目は、前長髪後ハゲの変な髪形の美女が走ってきて、ぷっと吹き出して笑って手を出すどころじゃなかったのさ。
それなりの映画賞を獲得したってのに、そのチャンスを活かせずじまい。
そう、女神の前髪をつかみ損ねたわけだ。
で、次に出会ったときは、笑いながら、その髪に手を伸ばしたんだ。
でも、まさか、その髪が油でつるつるだとは知らなかった。
だから、つかんだはいいが、にゅるりっと離れてしまった。
プロデューサーしながら、監督するチャンスをするチャンスを他人に与えるばかりで、自分で監督するチャンスを手放したんだ。

そして、去年、ようやく三度目の正直、再再々チャンスの女神が走ってきた。
今度は、笑いもせず、両手をしっかと伸ばしたよ。
それがデビュー作『はじめての家出』。
女神の前髪をつかむ、という荒々しさと、両手で、がっちりという慎重さをもってして。
経験てのは、やはり、それなりに役に立つものだ。
しかも、三度目の経験で得たのは、両手でがっちりでも、女神の前髪はつかみづらいってこと。
どうやら、彼女の方から抱きしめてもらわない、と簡単に逃してしまう。
だから、必要なのは、チャンスの女神に抱きしめてもらう準備をしておくってこと。
磨ける部分は歯ばかりではないってこと。

そして、磨き続けていなければ、ならないってこと。
だって、抱きしめてくれていた女神の気の変わりようの早さは、携帯電話のサービスや新機種もかくやだぜ。
で、結局のところ、何が言いたいかっていうと、『はじめての家出』を見逃すなってことさ。
こういう日ごろのささやかなチャンスを逃さないことで、チャンスの女神の前髪をつかむ練習をしとけってこと。
少なくとも、前髪だけの男神カイロスぐらいのもの珍しさは備えた映画に仕上がったと自負しているのよ。

ちょっとだけ、映画の話。
『はじめての家出』が目指したのは、北欧の子供映画の系譜。
なぜか北欧には、子供映画の伝統が息づいているのよ。
『ロッタちゃん』シリーズや『点々ちゃんとアントンくん』とか聞いたことないかい?
そうそう、ラッセ・ハルストレムの『ライフ・アズ・ア・ドッグ』も、その一本。
他にも『やかまし村の子供たち』なんてのもある。
子供たちに、ただお行儀がいいだけの物語じゃなくて、彼らが自分たちの物語だと思える映画群がそこにはある。
もちろん、アメリカにだって、ある。

大人が少し眉をひそめつつ、懐かしみ、子供に楽しい映画たち。
おいらが、今回目指したのは、そういう映画。
かつて、彼らだったおいらが、まだまだつたない手ぶり口ぶりをフルに使って語り、彼らに送る映画。
そこに、今まで味わってきた映画のエッセンスをちりばめて、味付け。
だって、おいらは何より映画に恩返しがしたいんよ。
子供の頃から、今まで楽しませ、救ってくれた映画そのものに。
『はじめての家出』は、その恩返しのひとつ。

だから、発想の基本は、暗闇の中、スクリーンで見る映画。
届かぬところは、多々あれど。
月に届いたロケットも、はじめは、アメリカのマサチューセッツ州の田舎でR・H・ゴダート博士が打ち上げた2メトールのおもちゃみたいなロケットだったわけだしね。
1926年の出来事だ。
飛んだ高さは、26メートル。
地球から月までの距離38万km。
およそ、1000万分の一の成果。
でも、すべてはその26メートルから始まったんだ。

おいらのロケット『はじめての家出』号は、すでに何度目かの打ち上げの成果だ。
月までとは言わないが、だいぶ高く飛び始めた。
どこまで飛んだか?
これは、その目で見るチャンスだと思うんだよ。

(日本映画学校 映像科9期生)


『はじめての家出』
2009年2月14日(土)〜20日(金)、渋谷シアターTSUTAYAにてレイトショー公開
2009年3月21日よりテアトル梅田にて限定公開
>> 公式サイト


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