2010年05月25日

「何しにきたんだこんなとこまで?」 前嶌健治(映像編集)

前嶌健治DSC00157

芸術の都パリ。雨のモンマルトル。映画監督フランソワ・トリュフォーの墓前に僕は立っていた。
一見、優雅と思われるかもしれない光景だが、状況はどん底だった。
トリュフォーから「何しにきたんだこんなとこまで?」
と言われているような気がした。

映画学校を卒業して十年近く続けてきた編集のアシスタント。多くの映画に、尊敬する編集技師に就かせていただいた。
しかし月日が流れても自分への技師の話は一つもなく、どんどん後輩に追い抜かれる始末。
情けないことに仕事も荒れた。元々低い収入も更に下がった。
ある技師さんが「あいつ、もうやる気無いだろう」と言ったらしい。某撮影所勤めのカミサンからそれを伝え聞き、恥ずかしくなった。
もう辞めよう、そうなったら先延ばしにしてきた新婚旅行に行ってやれ! パリだ! ということで冒頭に戻る訳だ。
三十路初頭の真冬のことである。

そこで僕は親愛なる監督の霊から深淵なメッセージを、映画の神聖さを受け取り……ということはまるでなく、ただ旅を楽しんだ。
こういうセンチメンタルな行為は逃避以外の何ものでもない。
その後も粛々と助手の仕事を続けるしかなかった。
やがてカミサンが妊娠したころお世話になった技師さんの紹介で、ある特撮テレビシリーズの編集技師としてようやくデビューできた。
現在はドラマもテレビもドキュメンタリーもなんでも編集し、糊口をしのいでいる。
もちろん順風満帆とはほど遠く、某撮影所配給作品の編集を任されるが、クランクアップ後、原因不明のまま解雇されたりもした。

6月公開の映画『結び目』は人には言えないくらいの低予算。
編集室を借りられるわけもなく、自宅での作業だった。
別の仕事と平行しながら、深夜帰宅後コツコツ編集した。
「すべての処女作は深夜キッチンで書かれる」
とはよく言ったもんだ。別に処女作じゃないけどさ。

『結び目』の監督、小沼も脚本の港も映画学校の同期。だが別段在学中に親しんだ間柄ではない。
気がついたらこの映画で集うことになった。
この世界に残った同期は両手に少し余るくらい。
それぞれ順調とは言いがたい、映画、映像人生を送ってきた。
いや今でも送っている。 好きな映画にこんな台詞がある。
「イキがったらあかん、ネチョネチョ生きるこっちゃ」
そう、好きなことをネチョネチョ続けてればなんとかなるよ。
自分に言えるのはそれくらい。 とりあえず、とりあえず。 ほんとかよ。

自分が編集を担当した小沼雄一監督作の映画『結び目』が6月26日からシアターイメージフォーラムで公開されます。
ぜひご覧下さい。http://musubime.amumo.jp/

(日本映画学校 映像科7期生)


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