2006年08月28日

「ばりあふりーな映画」神吉良輔(『もっこす元気な愛』プロデューサー)

神吉良輔

「目が見えなくても映画館で映画を観たい」
視覚に障害のある方からその言葉を聞いたとき、正直、その気持ちがよく分かりませんでした。大きなスクリーンに映し出される映像を見ることができない視覚障害者が、どうして映画館で映画を観たいのか。
話を聞いてみると「場面状況を解説する音声情報が付いてあれば、それをもとに想像ができるし、何よりも、話題の映画や友達と一緒に観た映画についてあれこれ話すことが楽しい」と言うのです。考えてみると当たり前のことですよね。映画が嫌いじゃない限り、観ることができる条件さえ整えば、障害があってもなくてもその辺はみんな同じなんだと思います。

今はそう思える私でも『もっこす元気な愛』(http://www.2942.jp/)という映画の製作をはじめるまでは、そんなことを具体的に考えたことはありませんでした。
『もっこす元気な愛』は、脳性まひのために両腕に障害がある男性と交際を母親に反対されながらも彼を愛しつづける健常者の女性との結婚にいたるまでを記録したドキュメンタリー映画です。ふたりのラブストーリーを軸に障害者に対する差別や偏見を見つめたこの作品、製作中からとにかくいろんな人に観てほしいと思っていました。そのいろんな人というのは、もちろん障害を持つ人も入ります。ただ、いろんな人に観てもらうには、いろんなことをしなくてはなりませんでした。

上映する映画館は車椅子が入れるところでないといけないし、視覚障害者向けには音声解説を付け、聴覚障害者向けには日本語字幕を付ける必要があります。監督や出演者の舞台挨拶では、手話通訳者が必要ですし、手話が分からない方もいらっしゃるので、文字をスクリーンに映し出すための機材や要約筆記者をお願いしなくてはいけません。更に、チラシの点字版を作ったり、ホームページからは音声が出るようにするなど配慮が必要でした。
映画館をはじめ、多くのひとたちの協力によってバリアフリー上映の準備を整えることができましたが、その中でもSDS(http://www.swcc.co.jp/sdt/purpose/purpose_m4.html)という赤外線補聴システムを販売している会社には本当にお世話になりました。

耳の聞こえる健常者にとって音声解説は余計な情報となる場合があります。その音声情報を劇場のスピーカーから流すのではなく、赤外線で飛ばしてヘッドフォンから流す。そんなシステムを各地での上映期間中、無償で貸し出ししてくれました。そのおかげで、視覚障害者がどの回に来ても観られるようになり、付き添いや友人など一緒に来た方も負担なしに楽しむことができるようになりました。

日本では、バリアフリー上映の時間を限定的に決めて行っている映画館はあっても、今回の作品のように長期的に上映をしてくれるところは本当に珍しいそうです。
映画館というひとつの空間の中で文字通り“様々な人たち”が一緒に笑ったり、泣いたり、静まり返ったり、そして、映画館を出た後もその映画について話をしているのを見ると、もっともっと多くの映画が当たり前のようにバリアフリーになればいいなと思います。


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