二階大臣側への違法な政治資金パーティー券事件の不起訴処分に対して検察審査会に審査申立てをしたことは、すでに紹介しました。
記者会見したのでマスコミも報じました

36名の申立人のうち研究者29名の申立人が連名で、昨日、検察審査会に追加意見書を提出しました。
以下、記録に残すために紹介しておきます。

東京第三検察審査会 御中
(平成21年(申立)第4号審査事件)

          追 加 意 見 書

                        2009年6月12日

                 申立人 別紙記載の大学教授等29名
                 代 表  上  脇  博  之
              (神戸学院大学大学院 実務法学研究科 教授)

はじめに

私たち研究者は、今年4月30日付けで東京地検特捜部に刑事告発しました。東京地検は、その告発のうち、西松建設が二階俊博大臣・衆議院議員の派閥の政治団体「新しい波」の政治資金パーティー券をダミーの政治団体名義で購入し、同政治団体が政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたという政治資金規正法違反容疑事件の分について、6月1日に不起訴処分としました。そこで、私たちは、同月4日付で貴審査会に審査の申立てを行いましたが、さらに下記のとおり意見を追加いたします。


1.公訴時効の間近な容疑を先に審査し結論を出してください。

  私たちの審査申立てには、他人名義での政治資金パーティー券購入容疑のように公訴時効を今月20日に迎える容疑のものから、政治資金収支報告書虚偽記載容疑のように公訴時効まで今しばらく期間のあるものまであります。
  貴審査会がこれらすべての容疑を一括して審査し同時に結論を出すことになれば、審査に多くの時間を費やすことになり、公訴時効を迎えてしまうでしょう。
  そこで、公訴時効が間近に迫っている容疑と公訴時効までだいぶ期間のある容疑とを分け、前者を先に審査し、後者を後で審査し、前者につき大至急「起訴相当」の議決をしていただきたいのです。時効逃れにしてしまわないよう、是非ともお願いします。


2.西松建設の違法献金は悪質です。

  そもそも政治資金規正法は、何のためにあるのかといえば、政治資金が政治や選挙に与える影響が大きいので、その流れを透明にし、主権者である国民がそれを見て政治的判断をできるようにするために存在している法律です。言い換えれば、ウソの報告がなされれば主権者国民は適切な政治的判断ができなくなるわけですから、その法律に基づく政治資金の収支報告制度は、民主主義国家が健全に存続するために不可欠な制度です。
  ですから、企業が他人名義で寄付をし、あるいは他人名義で政治資金パーティー券を購入し、それを受けた政党や政治団体などが他人名義のまま収支報告することは、民主主義にとって悪質な犯罪なのです。その金額が多額であれば、尚更です。
  西松建設は、社内に内部調査委員会を設置し、同委員会は調査を行い、その調査結果を5月15日付けで同社のホームページに公表しました(西松建設内部調査委員会「調査報告書及び外部諮問委員会所見について」2009年5月15日http://www.nishimatsu.co.jp/press/2009/20090515_2.pdf)。それによりますと、約10年前から多額の裏金をつくったことだけではなく、ダミーの政治団体をつくって、その「政治団体からの献金を装って政治家個人の政治団体等に献金することを画策した」こと、また、西松建設は「一部の社員に対して特別賞与の名目で金銭を交付し、その代わりに当該社員から年に2 回、政治団体への寄附をさせていた」ことも、認めたうえで、これらの「行為は、巧妙に仕組まれた脱法行為であって、他に類を見ず、極めて悪質との評価を受けるものと思える。」と結論づけています。
  つまり、西松建設は、他人名義で、与野党を問わず国会議員側に寄付をし、あるいは政治資金パーティー券を購入したこと(違法な資金提供をしたこと)を、「自白」して認めたのです。


3.西松建設の小沢一郎・前民主党代表側への違法な資金提供が起訴できるなら二階俊博・大臣側への違法な資金提供も起訴できるはずです。

  東京地検特捜部は、西松建設が上記のカラクリで違法な資金提供をしたとして前社長の国沢幹雄氏を逮捕・起訴し、また、その違法な資金提供を受け政治資金収支報告書に虚偽記載したとして小沢一郎・前民主党代表の公設秘書を逮捕・起訴しました。同特捜部は、「違法献金をシステム化しており、悪質性が高い」と判断したからこそ、逮捕・起訴したと報じられています(「西松事件は『違法献金システム化、悪質性高い』検察側」読売新聞5月12日7時8分配信)。
  そうであれば、西松建設が基本的に同じカラクリで二階俊博大臣側に違法に資金提供したことも、「違法献金をシステム化しており、悪質性が高い」と評しえるはずです。
にもかかわらず、東京地検特捜部は、二階大臣の側につき、家宅捜査も逮捕・起訴も行っていません。私たちの刑事告発に対しては不起訴にしました。
しかし、これは、あまりにも不公平です。与党であれ野党であれ、同じカラクリで違法な政治資金の提供がなされ、それが受け取られたのですから、違法行為は公平に厳正な処分が行われるべきです。
漆間巌官房副長官は、オフレコで、「自民党議員に波及する可能性はないと思う」と発言しましたが、これは、検察行政と与党の不当な結びつきを国民に想起させることになりました。野党第一党の党首(当時)の側は、家宅捜査・逮捕・起訴したのに、与党議員である大臣の側は、家宅捜査・逮捕・起訴しないというのは、東京地検特捜部が国会議員らの政治資金規正法違反容疑の事件において恣意的な立件をしているのではないか、と国民の疑念はますます増幅していることでしょう。


4.西松建設前社長・国沢容疑者は即座に起訴すべきです。

  とりわけ国民にとっての最大の疑念は、私たちの刑事告発に対して、東京地検特捜部が西松建設前社長・国沢容疑者を「起訴猶予」として不起訴にしたことです。
  「起訴猶予」ということは、同特捜部は前社長の政治資金規正法違反容疑につき十分な嫌疑があり、起訴できると判断したにもかかわらず、起訴しないということです。言い換えれば、十分な証拠等に基づき「違法献金をシステム化しており、悪質性が高い」と判断したにもかかわらず、東京地検特捜部は起訴しなかったのです。
この判断は、全く理解できません。
  マスコミ報道によると、特捜部は、記者会見で、“前社長の国沢容疑者は、すでに小沢氏側との関係において政治資金規正法違反の容疑で起訴されているから、同じ容疑で起訴する必要はない、と判断した”旨説明したようです。
  この理由も、全く理解できません。
  「違法献金をシステム化しており、悪質性が高い」として小沢氏側への違法献金を起訴したのであれば、二階大臣側へのそれも同様に起訴すべきです。なぜ、「違法献金をシステム化しており、悪質性が高い」のに、起訴しないか、全く不可解です。「違法献金をシステム化しており、悪質性が高い」犯罪が闇に葬られてしまうことに、国民の多くが納得できないどころか、特捜部が政治的に不公平な処分をしているとしか思わないでしょう。このままでは、国民の検察不信、政治不信は解消されないままです。
  前社長を不起訴にしたという問題は、事実関係が争点なのではなく、また、法律の解釈の是非が争点なのではありません。起訴猶予にした判断が適切であったかが問われるのです。ですから、私たちは、貴審査会に、「起訴相当」の議決が即座になされることを強く期待しています。


5.前社長・国沢容疑者を起訴しなかった真の理由は二階大臣の秘書を起訴しないためではないでしょうか。

  マスコミ報道によると、東京地検特捜部は、私たちの刑事告発を不起訴にした6月1日の記者会見で、派閥の政治資金パーティー券を西松建設に持ち込んだのが二階大臣の秘書であったと説明したようです(「二階派団体側を不起訴 パー券購入問題で東京地検」共同通信2009/06/01 20:26、「自民二階派:「パー券」は不起訴 東京地検『嫌疑不十分』」毎日新聞(2009年6月1日20時25分)、「西松献金、自民・二階派政治団体は不起訴…東京地検特捜部」読売新聞(2009年6月1日17時32分)、「二階派パー券 不起訴 西松購入『団体側、認識ない』」東京新聞(2009年6月2日)朝刊)。
  この説明は極めて重要です。まず、二階大臣の秘書が「派閥の資金集め」のためにも活動していたことになります。また、同秘書が政治資金パーティー券を持ち込んだ先が、ダミーの政治団体ではなく「西松建設」であったということは、二階大臣側、少なくとも二階大臣の当該秘書は政治資金パーティー券の真の代金支払い者がダミーの政治団体ではなく西松建設であることを知っていたことになります。ダミーの政治団体をつくったのは、西松建設が資金提供していることを国民の目から隠すためですが、資金提供先である二階大臣側(少なくとも二階大臣の秘書)には、違法な資金提供が無駄にならないようカラクリを説明し、真の政治資金提供者が同社であることを伝えているはずだからです。
前述の同社の内部調査は「政治団体からの献金を装って政治家個人の政治団体等に献金することを画策した」と認めていますし、特捜部は前社長・国沢容疑者を嫌疑が十分成立することを前提に「起訴猶予」にしています。
ということは、前社長・国沢容疑者を起訴できるのに起訴しなかった真の理由は、起訴してしまうと二階大臣側、少なくとも二階大臣の秘書にまで逮捕・起訴が波及してしまうから、それを回避しようとしたからではないでしょうか。そのような疑念が生じます。そうであれば、特捜部は明らかに政治的配慮をしたことになります。こんなことを許すことはできません。検察は与党のためにあるのではありませんし、検察をそのようなものにしてはなりません。


結び

 西松建設の政治家側への違法な政治資金の提供は、与野党を問わず行われています。その意味で大規模です。主権者国民にとっては、どのような目的でそれが行われたのか等その真相解明が必要です。それなのに、小沢氏との関係だけが刑事裁判になっても、真相解明には程遠いでしょう。違法な資金提供の一部だけしか公開の法廷で明らかにならないからです。悪質で違法な資金提供をこのまま闇に葬ってはなりません。
 国民の政治不信を解消するためには、真の政治改革が行われなければなりませんが、そのためには、政治腐敗の実態が正しく把握されなければなりません。どのような病気にかかっているのか明らかにならなければ、どのような治療をすれば良いのか、どのような処方箋を書けば良いのか、決められないのと同じだからです。
東京地検特捜部の不起訴処分は、あまりにも不公平です。特に前社長・国沢容疑者を起訴しなったことは、二階大臣側、少なくとも二階大臣の秘書を見逃すためではないかとも危惧されます。こんなことでは、政治不信や検察不信が解消しないどころか、むしろ増幅することでしょう。
金権腐敗政治を止めさせ、健全な民主主義を回復するためには、違法な資金提供事件を闇に葬らせてはなりません。それが、今、社会正義として求められていますし、それこそが、理性ある主権者国民の切なる願いです。
貴審査会には、是非とも、市民の正義感に基づき「起訴相当」の議決をしていただきたいのです。英断を願っています。

以上