(1)昨日は、衆議院議員総選挙の公示日であった。

有権者の数は、1億423万人余ということだ。
300の小選挙区のうち、有権者が最も多いのは千葉4区の48万8639人で、逆に最も少ないのは高知3区の21万1890人であり、いわゆる「1票の格差」は、最大で2.31倍であるという。
NHK08月18日 19時02分
国内有権者 1億423万人余

総務省のまとめによりますと、今回の衆議院選挙の国内の有権者数は17日現在で、男性が5040万7096人、女性が5382万8622人のあわせて1億423万5718人で、前回・平成17年の選挙の時より96万人余り増えました。

都道府県別でみてみますと、▽有権者が最も多いのは東京都で1063万6092人、次いで▽神奈川県の729万83人、▽大阪府の710万6566人などとなっています。
逆に、▽有権者が最も少ないのは鳥取県で48万8266人、次いで▽島根県の59万7187人、▽高知県の64万4750人などとなっています。
また、300の小選挙区のうち、有権者が最も多いのは▽千葉4区の48万8639人、▽逆に最も少ないのは高知3区の21万1890人で、いわゆる「1票の格差」は、最大で2.31倍となっています。
 一方、海外での投票に必要な「在外選挙人名簿」に登録している人は、前回より2万5000人余り多い10万8447人で、今回の衆議院選挙から、比例代表だけでなく、小選挙区も投票できるようになります。

(2)議員定数不均衡問題では(も)、最高裁はなかなか当てにならない。
そこで、あえて私見を記しておこう。

(3)国民主権主義を採用している日本国憲法は、選挙において普通選挙を要請している。
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 ・・・。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 ・・・。

(4)加えて、選挙においては、平等選挙が要請されている。
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 ・・・。
3 ・・・。

第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

平等選挙の原則は、等級選挙などを否定している。
また、一人一票制だけではなく、「投票価値の平等」も要請されることになる。
一人一票制が実現していても、、「投票価値の平等」が実現していなければ、平等選挙とはいえない。
それゆえ、いわゆる議員定数の不均衡、すなわちは「1票の格差」許されない。

(5)もっとも、議員数は正数なので、「不均衡」・「格差」は生じてしまう。
しかし、「1票の格差」が2倍以上であれば、「2票分の投票」ができることになるから、詳細な検討をするまでもなく、その格差自体で違憲である、と解する立場が妥当である。

それゆえ、衆議院議員の選挙における「1票の格差」が最大2.31倍という現状は違憲状態ということになるから、総選挙後、国会は、格差是正のために法律改正すべきである。

(ブログなので、ここで終わろうと思ったが、少し踏み込んで、さらに私見を書いておこう。)

(6)なお、この立場によると、問題になるは最大格差が2倍未満の場合である。

本来、限りなく1対1に近づけることが求められるので、最大格差2倍未満であれば当然に合憲になるというわけではない、と解する立場が妥当である。

言い換えれば、最大格差2倍未満であっても違憲になる場合があるということになる。

(7)ところで、議員定数不均衡の状態を判断する際に重要なことは、投票前においては、一人一票の原則の点から、選挙権を有する者の数である「有権者数」が基準にされるべきである、ということである。
言い換えれば、人口数を基準にすることは、厳密には許されない。
最高裁(1976年4月14日最高裁判所大法廷判決『最高裁判所民事判例集』30巻3号223頁)も、厳密にはそう考えている。
厳密には選挙人数を基準とすべきものと考えるけれども、選挙人数と人口数とはおおむね比例するとみてよいから、人口数を基準とすることも許されるというべきである。

それゆえ、選挙権を有しない者を含めた「人口数」が基準になることは、理論的には間違いである。

(8)もっと重要なことは、「投票価値の平等」は投票前だけではなく投票時・投票後にも保障されていなければならない、ということである。

例えば、選挙前に全く平等な選挙区があったとしても、一方が投票率90%で他方が45%であれば格差は2倍になってしまうからである。

そうなると、投票が強制されない自由選挙の原則の下では一般に投票率は各選挙区で全く同じになることはないから、基準になるのは「有権者数」ではなく、実際に投票した者の数である「投票者数」でなければならない、ということになる。

(9)そうすると、選挙区を設ける場合でも事前に「定数」を定めるという、これまでの方法は、選挙時・選挙後の「投票価値の平等」まで保障するものではないから、憲法上許容され得ないということになる。

小選挙区制の場合には尚更のこと許されないだろう。

(10)このように考えて行くと、選挙制度は、全国一区の選挙区(例えば、かつての参議院全国区)にするか、あるいは、複数の選挙区あるいは複数のブロック制を採用する場合であっても、その各定数は、ドイツのように投票後に各選挙区・ブロックの投票数に応じて決定されるものでなければならないことになる。

後者が比例代表制と結びつくと、「定数自動決定式比例代表制」が採用されることになる。これは、政治学者の小林良彰教授によって理想の選挙制度として提唱されてもいる制度である。

(11)私はこれまで民意の正確・公正な反映という憲法上の要請から、小選挙区制の廃止と、比例代表制の採用を主張してきた。
この主張は、以上のように「投票価値の平等」という要請からも説明できることになる(さらに踏み込んで私見を知りたい方は、拙著『政党国家論と国民代表論の憲法問題』日本評論社・2005年を参照してください)。

(12)総選挙後には、小選挙区制を廃止し、比例代表制を採用する法律改正を行うべきである。
もちろん、立候補の自由が保障されなければならないので、政党以外の政治団体や無所属の立候補も認めなければなりません。