はじめに

(1)民主党の小沢一郎幹事長は、来年通常国会で、公職選挙法と政治資金規正法などを改正することを目指すようだ。

企業・団体献金を全面的に禁止し、選挙運動を原則自由に改めることを目指すのであれば、歓迎する。

だが、イギリスをモデルにすることや、マニフェスト選挙を仕掛けて財界政治を推進させてきた「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)に諮問したことについては、真の政治改革になるのか、疑問だし、危惧する点もあるので、私見を書いておこう。

なお、国会法改正論議については、別の機会に取り上げることにする。

読売新聞10月17日6時10分配信
小沢幹事長、企業献金廃止など検討に着手

 民主党の小沢幹事長は16日、選挙運動や政治資金のあり方を抜本的に見直すため、来年の通常国会で、公職選挙法と政治資金規正法の全面的な改正を目指す方針を固めた。
 同党が衆院選の政権公約(マニフェスト)に掲げた企業・団体献金の全面禁止や、戸別訪問の解禁など選挙運動の自由化が念頭にあるとみられる。与野党に呼びかけて議員立法で成立を図る考えだ。
 小沢氏は16日、学者や経済人らでつくる「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)の佐々木毅共同代表(学習院大教授)と都内のホテルで会い、〈1〉国会審議の活性化〈2〉公職選挙法〈3〉政治資金規制――の3分野について、改革の具体案を作るよう要請した。佐々木氏も受け入れた。
 民主党はマニフェストで、政治資金規正法を改正し、その3年後から、企業・団体献金とパーティー券購入を禁止することを打ち出した。企業・団体献金への依存度の高い自民党にとって、より打撃の大きい内容だ。
 小沢氏の16日の要請はこれを踏まえ、企業・団体献金のあり方や、政治資金の透明性確保の方法、インターネット利用などによる個人献金の拡大を検討するよう求めたものだ。
 また、公選法改正は、インターネット利用や戸別訪問の解禁など選挙活動の自由化が柱だ。英国をモデルにした選挙運動資金の規制強化や、地方自治体の選挙管理委員会を改革し、選挙運動の監視権限を与えることなどを検討する。
 ただ、企業・団体献金の全面禁止には、自民党のほか、民主党内でも「政治活動への影響が大きく、慎重に検討すべきだ」との声があり、具体案をめぐっては調整が難航する可能性もある。
 一方、国会審議の活性化は、官僚の答弁を禁じることなどが柱で、26日召集予定の臨時国会に国会法改正案を提出する予定。官僚答弁の禁止に伴い、官僚や有識者、各種団体の意見を聴取するための新たな枠組みを国会組織に設けることなどを検討する。
 公職選挙法や国会法など国会議員の身分に直結する法律の処理は、議員立法で行うことが通例だ。

TBS(19日20:17)
企業団体献金禁止など、法改正目指す

 民主党の小沢幹事長は、企業・団体献金の禁止や候補者の戸別訪問を可能とするため、来年の通常国会で「政治資金規正法」と「公職選挙法」の改正を目指す考えを明らかにしました。
 「(Q.政治資金規正法と公職選挙法は来年の通常国会での成立を目指すのか)できればそうしたいということです」(民主党 小沢一郎幹事長)
 小沢氏は先週、政治改革の提言を行う民間団体「21世紀臨調」に、「政治資金規正法」や「公職選挙法」の改正案の具体案作りを要請していて、これを基に法案作りを急ぐ考えです。
 民主党は先の衆院選のマニフェストで、「企業・団体献金の3年後の廃止」を盛り込んでいますが、来年の通常国会での成立を目指すことで、改革姿勢をアピールする狙いもあるとみられます。

(2)政治資金規正法と公職選挙法の各改正については、まだ法案が国会に提出されてはいない。
それゆえ、現時点では、両法の抜本的改正が行われるとはいっても、正確な検討はできないので、民主党がこれまで提出した法律案やマニフェストを頼りに私見を書くしかない。

また、「民主党英国政治実務調査団報告」が公表されている。
http://www.dpj.or.jp/news/files/eikoku0909.pdf
それゆえ、これも参考にして、私見を書くことにする。

1.政治資金規正法抜本改正について

(1)まず、企業・団体が政治献金することや政治資金パーティー券を購入することを全面的に禁止する政治資金規正法の抜本改正を、民主党が本当に目指すのであれば、一応歓迎できる。

(2)気がかりなのは、何故、今月末(10月26日)召集の臨時国会に政治資金規正法の抜本改正案を提出して、その早期実現を目指さないのか、ということである。

民主党はすでに今年6月に改正案を国会に提出していたし、私たちは先月(9月)末に政治資金規正法改正案を政府と民主党などに送付している。
それなのに、何故、臨時国会に法案を提出せず、財界が中心となっている「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)に諮問する必要があったのであろうか?
全く不可解である。

(3)そもそも企業献金は法的に許されないから、政治資金規正法で即刻禁止すべきである。
日本経団連は2004年から毎年行ってきた、自民党と民主党の各政策に対する評価を、今年は見送るようだが、傘下企業は各自の判断で政治献金を行うようだから、来年1月1日から企業・団体献金が行えないようにする必要がある。

そのためには、臨時国会で企業・団体献金を全面的に禁止する法案を成立させる必要があるが、民主党はそれを断念したことになる。

(4)また、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)に諮問したことで、政治式規正法の改正案は、企業・団体献金の全面禁止、企業・団体の政治資金パーティー券購入の全面禁止が盛り込まれない可能性もないとはいえない。
「国内の登録会社」「国内の労働組合」の寄付を許容しているイギリス(前掲「民主党英国政治実務調査団報告」を参照)をモデルにすると、尚更である。

前者の全面禁止は盛り込んでも後者の全面禁止を盛り込まない可能性もないとはいえない。

さらに、たとえそれらが盛り込まれても政党助成の増額というオマケが追加される可能性もないとはいえない。

(5)もっとも、私たちは先月(9月)中旬、日本経団連に「企業献金の廃止を求める要望書」を送付したし、民主党はマニフェストに企業・団体献金の全面禁止などを盛り込んだのであるから、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)がそれらを無視することはないのかもしれない。
私もそうあって欲しいと強く願っている。

(6)とはいえ、それでも懸念がないとはいえない。

それは、企業・団体献金の全面禁止がいつから実現されるのかである。

来年1月1日から実現しないことはすでに批判した。
来年通常国会で成立させる場合でも、再来年・2011年から全面禁止すべきである。

民主党が3年間の移行期間を設ける場合でも、月末からの臨時国会で成立すれば2013年から全面禁止になるが、来年の通常国会で成立すると2014年からになってしまう。
そうなると、来年の参議院議員総選挙だけではなく、次の衆議院議員総選挙も、企業・団体献金が存続する中で行われることになる。

来年の通常国会で成立させる場合でも、せめて、8月末の総選挙から概ね3年後ということで、2013年1月1日から全面禁止すべきである。

2.公職選挙法抜本改正について

(1)事前運動の禁止問題、あるいは戸別訪問の禁止問題を例に、日本の公職選挙法が「べからず選挙法」であるから、これらを改め選挙運動を原則自由化すべきだと指摘しておいた。

(2)前掲「民主党英国政治実務調査団報告」も、イギリスの「選挙運動のあり方」について次のようにまとめている。
・・・選挙運動の手段や方法は、原則自由であり、政治資金の規制により規律している。選挙運動期間についても規制がなく、立候補の正式な表明とともに選挙運動を開始できる。
 英国の選挙運動の自由な手法である電話・戸別訪問により有権者に特定の候補者に対しての投票を呼びかける行為に規制がない。文書頒布・掲示、候補者討論会、テレビの討論番組、さらには最近活発化しているインターネット利用についても基本的に制限がない。2003年、日本の選挙運動に導入されたマニフェストにも、もちろん規制がない。

そして、英国の現状を高く評価し、「選挙運動は自由かつ活発に行われるべきである」と結論づけている。

それゆえ、民主党が選挙運動の原則自由化を実現するために公職選挙法の改正を目指すのであれば、大いに歓迎できる。

選挙運動の原則自由はイギリスに限定されないし、多くの先進国が原則自由であるのだから、日本でも選挙運動を原則自由にし、政治的自由主義の国家に変わるべきである。

(3)ところが、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)に諮問したことで、衆議院の選挙制度が、財界の求める完全小選挙区制になるのではないかと危惧される。

今回の諮問に対する答申で、そのように提案されるのか、それとも、その提案は来年の参議院議員通常選挙の後になるのかは分からないが、民主党は衆議院の比例代表選挙の議員定数の80削減を主張しているだけに、どうしても警戒したくなる。

(4)民主党は、財界政治を推進してきたが、小沢一郎氏は政権奪取のために「生活第一」を掲げて2007年参議院議員通常選挙と今年の衆議院議員総選挙で勝利した。
これは、護憲の革新政党が比例代表選挙で議席を獲得しているからであろう。

もし、比例代表選挙の議員定数を削減したり、完全小選挙区制にすれば、有権者は事実上二大保守政党のいずれかに投票を強いられるので、民主党は「生活第一」を後退させるだろう。
護憲の革新政党が大躍進することはないと判断できるからだ。

となると、財界政治が再び復活する恐れがある。
それゆえ、議会制民主主義を肯定する国民は、比例代表選挙の議員定数を削減させることも完全小選挙区制にさせることも、ともに許さず、阻止する必要がある。

(5)選挙運動を原則自由にするのであれば、むしろ選挙制度も、民意を歪曲する小選挙区選挙を廃止し、民主的な比例代表制一本に改めるべきである