(1)NHKは国営放送ではなく、公共放送である。
それゆえ、NHKも、民放と同様、国家から自由に放送・報道できる放送・報道機関である。

(2)ところが、総務大臣は、NHKに対して、当初は放送命令を、その後は放送要請を、それぞれ行ってきた。
これは、憲法が保障する放送・報道の自由を侵害するものだ。

現行の改正放送法第33条第1項は以下のように定めている。
(国際放送の実施の要請等)
第33条  総務大臣は、協会に対し、放送区域、放送事項(邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項、国の重要な政策に係る事項、国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項その他の国の重要事項に係るものに限る。以下この項における委託放送事項について同じ。)その他必要な事項を指定して国際放送を行うことを要請し、又は委託して放送をさせる区域、委託放送事項その他必要な事項を指定して委託協会国際放送業務を行うことを要請することができる。

総務大臣の放送要請は以下の通りであった。
1 放送事項
(1) 放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
ア 邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項
イ 国の重要な政策に係る事項
ウ 国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項
エ その他国の重要事項
(2) 上記事項の放送に当たっては、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること。
(以下略)

これについて私たちはNHKの報道の自由を守るために訴訟を提起してきた。

今年3月末に大阪地裁は放送要請も放送命令と同じであるとしたものの、司法判断を回避した判決を出したことは、すでに紹介した。

すでに控訴している

(3)8月30日の衆議院議員総選挙の結果、自民党・公明党は下野し、民主党中心の連立政権が誕生した。

国民が政権が交代したという実感を抱くことができるためには、これまでの自公政権と同じ事をしていてはならない。
もちろん、憲法が要請している政策、一般庶民のためになる政策は継承すればよいが、憲法が禁止している政策などは、止めるべきである。

(4)改悪された放送法を改正し、放送要請の規定を削除すべきである。

ちなみに、民主党は総選挙の「政策集INDEX」に「通信・放送委員会(日本版FCC)の設置」を掲げていた。
通信・放送委員会(日本版FCC)の設置

通信・放送行政を総務省から切り離し、独立性の高い独立行政委員会として通信・放送委員会(日本版FCC)を設置し、通信・放送行政を移します。これにより、国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消するとともに、放送に対する国の恣意的な介入を排除します。
また、技術の進展を阻害しないよう通信・放送分野の規制部門を同じ独立行政委員会に移し、事前規制から事後規制への転換を図ります。
さらに、通信・放送の融合や連携サービスの発展による国民の利益の向上、そしてわが国の情報通信技術(ICT)産業の国際展開を図るため、現行の情報通信にかかる法体系や規制のあり方などを抜本的に見直していきます。

この構想は、「国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消する」という表現からも明らかなように、放送の自由を確保するために主張されたものである。
その構想の内容の妥当性については、ここでは論じないが、少なくとも、この表向きの発想からすれば、放送法における放送要請の規定は削除されるはずである。

しかし、そのような改正案は国会に提出されていないようだ。

(5)では、民主党の原口一博総務大臣は、来年4月に、これまでの自民党の総務大臣と同じように放送要請を行うのだろうか?

阪口徳雄弁護士も紹介しているように、NHK市民の会はNHKに今まで通り権力を行使したい総務省官僚に原口総務大臣が押し切られそうになれば、「来年4月1日付でNHKに国の重要な政策などの放送要請をしてはならない」という差止行政訴訟を提訴すると決定した。

(6)鳩山新政権は、行政刷新会議を設け、いわゆる事業仕分けを行っている。
すでに前半が終わり、今日から後半に入ったようだ。

その全体評価については、別の機会に行いたいので、ここでは言及しないが、どうもすべての事業が仕分けの対象になるのではなさそうだ。
つまり、事業仕分けの前に事業仕分けが行われているのではなかろうか。

例えば、私が情報公開訴訟を提起している内閣官房報償費(機密費)だけではなく、これまた私が訴訟してきたNHKへの放送要請のための交付金の予算も、仕分けの対象にはならないのではないかと予想される。

(7)このまま仕分けの対象にならなければ、原口総務大臣は、総務省官僚に押し切られて、来年4月には放送要請を行うのかもしれない。

NHK市民の会としては、それを見極めるために、今事業仕分けを注視している。